「お洋服です衣装です、ふむふむ道化は派手が基本。このこの道化のお目に敵うか?」
「俺がお前に買うのは普段着だ」
「あれま」
買う、といっても古着で流れてくるものだ。
金はあるし新品でもリゴレーヌの欲しがってる道化の服でも用意できるが、弟子には新品を与えないというのがルールらしい。理由は知らん。
「うむむ。派手でなければ色もない。弟子であるゆえ事は言えぬが、これを着まわせリゴレーヌ?」
「替えの服と下着がありゃ大丈夫だろ。必需品とかは買ってやるから、他になんか欲しい物は自分の金で買え」
「そうですでした、弟子でした。仕方あるまし小遣い稼ぎ? しまったチケットどこにもない。もぎりと公演同時に進行うむむむむ」
「いや普通に冒険者としての依頼料から小遣いは出すぞ。タダ働きはさせられないからな」
リゴレーヌ相手には無いと思うが、金が原因で裏切られたなんて話もあるくらいだし。
「そうでした、今は道化で冒険者。笑顔の敵を蹴散らして、稼いで見せようリゴレーヌ」
所でどうして今日のこいつはリズムに乗せて喋ってるんだ?
喋り方が独特なのは前からだが、やけに耳につく。
「御師様は道化に詳しくないご様子。道化師とは芸をするだけが道化にあらず、歌や踊りも得意なのです。歌ってみましょう? 噴水前での公演は好評でした。ありゃ、あれは酷評? 石が当たるととても痛い」
「ご機嫌とかじゃなくて歌の練習ね。……つか、石ぶつけられたのか」
「繋げましょうジャグリング。お歌と合わせて2つを一つ、続けて続けて記録は何十? うーん、何個でしょう」
「投げられた石を技に繋げたのか」
「流石に限界ありますか? いやはや修行不足」
リゴレーヌはやけに気にしてない風だが、絶対にそれは盛り上げる為の追加で投げられたものじゃないと思う。
邪魔だったのかうるさかったのか、ともかく止める為に投げられた石の筈だ。
本題である衣類から外れた頃、露天商の集まる一角へ辿り着いた。
いつ来ても熱気にあふれたこの市場は見ていて飽きない。
「あちらのピンは投げるに良さそう。おお、あれは東のチャンバラ! 珍しい? いえ珍しい!」
「色々知ってんだな」
「生まれ故郷は知らずとも、旅の一座はあっちにこちらによっこらせっせと歩きます。ふむふむ色々覚えてる」
「余計なものは買わんぞ」
「そりゃままいらないものですし」
猫を模した木彫りの置物に興味を引かれたのか止まりかけるが、声をかけると素直に着いてくる。
反発もしなければ不気味な程従順な訳でもないリゴレーヌの距離感は、下手な奴を弟子に取るよりマシだと時折思わせてくれる。
……まぁ、言葉も行動も意味不明な事が多いが。
「おっさん、こいつに合うサイズで一式揃えてくれ」
「ん? ……なんだマックス、弟子ってのはその女の子の話だったのか」
「なんか悪いか?」
「いや。思ったよりべっぴんだって思ってな」
「そりゃどーも。じゃ値引いといてくれ」
「相変わらず雑な交渉だ」
奥の部屋に連れて行った古着屋の店主の言う通り、リゴレーヌは普通に美人の部類には入る。
裏路地にいてよく拉致に合わなかったものだ。
もしかしたら合っていたのだろうけど、賊から逃げ出せるリゴレーヌだしな……。
最初に会った時は情けをかけられたと適当に考えていたが、こうも普段の行動というか奇術を見ていると自力で脱出したんじゃないかと思えてきた。
縄に縛られても抜け出せそうだし、牢屋に入れても視界から外せば違うところにいたり。
「……道化師っていうよりか、手品師だな」
「失礼な! リゴレーヌは誇り高き道化の一人、そこは絶対譲れぬ所。御師様といえど容赦はします? いえしません」
「悪かったよ」
戻ってきたリゴレーヌに呟きを聞かれて怒られた。こだわりがあるらしい。
「分かればよいよい道化道。我が心は水たまりのように深く広いのです」
「浅すぎ」
「あと先ほどの店主様、御師様にまた来て欲しいとおっしゃってたような? また来ます? またどうぞ!」
「それで、おっさんはどこ行ったよ」
「さぁさ? 怒られてました。うむむ、職人も弟子は大変だ」
顔も良くて胸もあるのに無防備なリゴレーヌ相手に何かやらかしたんだろう。
奥さんが怒ってくれるなら俺としてはこれ以上することは無いが、もうこの店にリゴレーヌを連れてくることはない。
うちの弟子はやらん。
「おっさん、代金は置いとくぞ」
カウンターへ適当に銀貨数枚を放ると奥から半泣きで返事が来た。結構ガチ目に怒られてるらしい。
外へ出て歩いていると、くいくいと袖を引っ張られた。
「銀貨です? いや銀貨! 結構お高い一式お古」
「お前の価値観は知らんが、こんなもんだぞ」
「ちなみにリゴレーヌのお賃金は? 昨日も戦いナイフを投げた」
「そうだったな」
正確には依頼で赴いてはいないが、戦ったのは事実だ。それに戦えばお金が貰えると認識させておきたい。
いくらくらいがいいだろうか。初回にあまり多く渡してもな。
「昨日倒したのはオーク一匹にスケルトン一体。依頼抜きの遭遇戦だからまぁ、合わせて銅貨10枚って所か」
「おぉー! 初めて稼ぎが生まれた。お金を持ったのは初めて? そう、今までない」
銅貨を放ってやると嬉しそうにジャグリングを始め、指先に10枚重ねて着地させる。
最初にあった時に銅貨は投げてやったと思うが、となれば一座にいた時代の話だろう。
「今まで金を貰った事なかったのか?」
「笑わせたら食事が出るのですよ。故に道化は笑わせる、お賃金? 上納です」
「……お前……」
一座にいた時のこいつがどんな境遇だったのかは分からないが、少なくてもお金が貰えない立場にいたわけではないはずだ。
性格を良いように扱われ、ただの見世物にされていたのか?
弔いという訳ではないが賊にお礼参りでもしたい所であったが、その気も失せた。
「おっと勘違いなさらぬよう。リゴレーヌはおかげで毎日が楽しいのですよ? 心から笑わぬ者は人を笑わせられぬ。顔も心も笑って道化、さあ!」
「……ふ、それもまた幸せかもな」
いつこいつが自身の不幸さに気が付くか。
それは分からないが、少なくても今は不幸せな訳ではないと思う。
というか、俺はそうはさせない。弟子がそうなっては寝心地が悪いからな。