狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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ひと段落

 舞台へ続く花道のように客が避け、俺とニコル……いや、ベリテットの間には誰もなくなった。

 リゴレーヌがその脇で恭しく頭を下げて、こちらへどうぞと舞台を手のひらを向ける。

 最初からこれを狙って俺に見に来て欲しいと言っていたのか。

 そして素人の劇だというのに客が多かったのも、まさかこの瞬間に立ち会いたかったのか。

 野次馬……にしては、やけに顔見知りが多い。そして拍手をしている。

 

 

「――おつかれさまでした」

 

 促されるまま壇上へ立った俺がその言葉に、なんて返したのかは正直よく覚えていない。

 殆ど気が抜けていたというか、呆然していたというか……。

 

 なんにせよ肩の荷が降りたというには違いない。

 たった一言、そういって労ってくれたそれだけで、救われたというのなら俺も単純な男だ。

 

 

 

 

 

 

 

「んふふふふ、んぅー。さてのらりてやたてててのさささ!

 いぇす! そう! 花道おんすてーじ!」

 

 相変わらず意味不明な事を叫びながら、庭ではリゴレーヌがナイフを投げてジャグリングをしつつ途中途中で果物を投げて空中で切っていく。

 日も暮れて夜。

 ニコルもといベリテットは孤児院の打ち上げに参加せず、そのままの足で俺の家までついて来た。

 今日の朝まで赤の他人だったというのに、一瞬で身内になってしまうとは。

 孤児院での生活も悪くないというか手伝いは引き続きしたいとの事で、引っ越したいとまでは言わなかった。もし仮についでにこちらへ来るとなったとしても、残念ながらこの家は妻と暮らしていた頃とは別の家だし子供部屋は用意していない。リゴレーヌの使ってる部屋は元々物置にしていたのを無理やりどけて作ったものだし。

 

「前の家はどうしたんですか? ボク……わたしの実家」

「売ってはないが、最近あまり手入れもできてないからなぁ」

 

 リゴレーヌが来てから掃除にも行けていない。

 そろそろ換気程度はしないとな。

 

「御師様独楽の舞倒れ、これにて一件落着道化の終わりの終わり。吾を拾いて始まりし物語これにて終わる! とはまた新たな始まりにてまりまり!」

 

 どこからか降り注ぐ光に照らされながら庭で道化師が舞い踊る。

 最初からリゴレーヌがここまでの和解を狙っていたのかは知らないが、道化師らしい仲介だったとは思う。

 

「……俺の所に弟子として来ようとした時、どうしてニコルと名乗ってたんだ?」

 

 今更ながら聞くと、照れながら教えてくれた。

 

「今の名前、ベリテット・ニコルってなってるんです。でも最初からベリテットって言ったらびっくりさせちゃうから、気を見計らってネタバラし……ってする予定だったんですけど」

 

 そういって庭を見る。

 視線に気が付いたリゴレーヌは手を振りながら投げていた物を帽子に消して宙返りを繰り返し、ふと俺達の視線から消えると背後に瞬間移動してベリテットに乗った。

 この道化師がいなければこんな回りくどい事もせず、もう少しスムーズに済んだだろうに。

 リゴレーヌは肩車をされながらベリテットの短い髪をもさもさと乱暴に撫で、気が済んだのか顎を乗せた。色々とリゴレーヌの方が大きいのでベリテットも重いだろうに、鍛えられてるのか耐えてる。

 

「その実その時申し訳なく? いえはやその時気が付かず!」

「手伝ってくれたから、いいですけどぉ」

「ほむむふふ」

「ちょ、くすぐったいですって、てか、重い……!」

 

 色々言いたいことはあるがもういいか。

 妻を守れず俺を恨んでいた……のは勝手な妄想で、実際の娘は恨みどころか父の剣を継ぎたいとまで言ってくれているのだ。

 いつまでも腐ってられない。

  

「ふふっふー。ニコニコベリテテかわいい、と、お声あり!」

「なんですかそれぇ!」

 

 いい加減降りてやれ。首根っこを持って肩から降ろす。

 

「にしてもご機嫌だなこの道化師様は」

「元の時間を取り戻し、故にてのたたたらった!」

「たらたった?」

「お前の舞台の準備が遅いって少し不機嫌だったんだよ」

「あぁー」

「ではなく! なぜか時間が遅くなり!」

 

 だから舞台の準備がだろ?

 

「ののの!」

 

 わけわからん。

 リゴレーヌがわけわからんのは今更だが。

 

「ベリテットはこれからどうするんだ?」

「どうするって」

「今のままじゃ弟子でも何でもない」

「あっ」

 

 冒険者マックスの背中を追う理由も分かったし、隠してた秘密も分かった。

 弟子入りを拒む理由もない。

 

「リゴレーヌさんからそこを奪う訳にもいきませんよ」

「剣はどうする」

「えと、弟子ではなく子として同行をさせてもらって……」

「やっぱりちゃっかりしてんなお前」

 

 まあいい。

 

「とりあえず飯にするか」

「ですね」

 

 いつの間にか俺の首に手を回して背中にぶら下がってる道化師はさておき居間へ戻ると、いつの間にか誰かが食事を用意してくれていた。

 充分に豪華な品々。誰か、と聞くよりテーブルの上に乗ったままの帽子と皿に盛られた果物がその答えだが。

 ずっと庭で踊っていたと思ったのにカットした果物だけでなく料理まで用意できるとは器用なやつだ。

 さてはまた分身したか。

 

「そういやリゴレーヌの分身ってあれ原理も何もないよな。増えてるよなやっぱ」

「でも、片方は幻影というか触れませんでしたよ?」

「試したのか」

「気になって」

「ふむぅ?」

 

 背中にぶら下がったままのリゴレーヌを肩越しに触ると少し癖のある柔らかい髪に触れた。

 これは本物か。

 

「偽物は触ると霧みたいになるんですよ。高密度の霧に色を付けた、みたいな」

「……魔法だと思うか?」

「恐らく」

 

 正直な話、リゴレーヌの能力と魔法の分け目が分からない。あと技術も。

 行き過ぎた技術は魔法ともいわれ、それも誉め言葉だとはかつて本人が言っていた事だが、やっぱりよくわからん。

 料理は……本物だな。

 いつ材料とかも合わせて用意したんだか。

 もしくは庭にいたリゴレーヌ自体がすでに偽物だったか。

 

 席について全員で手を合わせていただく。

 普通に“おいしい”と言える味だがなんだかリゴレーヌ相手だと負けた気になって言いたくない。子供か。

 

「マックスさんはこれからどうするですか?」

「どうするって?」

「こう、昔みたいに大冒険、とか」

 

 もう若くない。そんな事できる歳でもない。

 大冒険は若者の特権だ。そしてそれを見送るのはおっさんの特権。

 ベリテットもいつかこの町だけでなく、見聞を広げるとかだけでなくなんやかんやの理由で外へ行くことにもなるだろう。

 そうした時に困らないようにするのが今の仕事だ。

 

「そっか。そしたらしばらく一緒ですね」

「そうなるな」

「リゴレーヌさんは?」

「んぬなちゅるにりぃ?」

 

 リゴレーヌに関しては……何がしたいのかよくわからん。そもそも拾った理由もそのままにしておけなかっただけだし。

 一応俺の弟子となるが、弟子は成長すれば師から離れるもの。リゴレーヌは俺から離れたらどこへ行くのだろう。

 ベリテットにふらふらとついていくか、あるいはアイーダの元へ行くか。

 なんなら新たに一座の立ち上げでもするだろうか?

 

「この物語が終わりし時の話を申す?」

「そのあとはどうすんだ?」

「どうしましょ? しましょうど?」

 

 あまり考えてないらしい。こいつはそういう奴だった。

 

 一家(と道化師一名)の団欒と相成っていたところ、夜中にも関わらず玄関が乱暴に叩かれた。

 この力加減の分からない叩き方をするのはギルマスしかいない。

 重いし痛い腰を上げて玄関へ向かうと、少し焦った様子のギルマスがいた。

 

「何かあったのか?」

「中で話そう」

 

 ギルマス自身が走ってくるなんてよほどだ。

 居間ではなく俺の部屋に通す。

 

「で、どうした」

「先日森の中で見つかった魔物の群れ、それが綺麗に消えた」

「何?」

 

 理由もなく魔物が消える訳がない。

 移動したではなく消えた、というのは異常だ。

 

「ああ。移動ではなく消滅の消えた、だ。そしてもう一つ嫌な話がある」

「嫌な話?」

「現地の調査中、痕跡を探していたらこの町へ宛てた手紙が見つかった。そしてそこには“ここに住む我が娘ヘンリエッタを渡せば良い”と書かれていたんだが……」

 

 意味が分からない、とは言わなかった。

 

「この町にはヘンリエッタという名前の人物は存在しない。だが一人、俺はそうじゃないかと疑える人物がいる」

 

 旅の一座に所属していて、その名簿から戸籍を作ったリゴレーヌ。

 しかしその名前は偽名でありどこの国にもその名の籍はない。

 国へ申請を出す際に登録に一役噛んでいるギルマスも、どこにもリゴレーヌという名が見つからずそれが偽名であることは勘付いているだろう。

 消去法的にヘンリエッタがリゴレーヌであることは察せられる。

 

 ギルマスが深刻な顔をしてわざわざリゴレーヌじゃないのかと聞くのは分かる。

 大量の魔物を操れる相手が、娘を渡せと脅しつけているのだ。

 

「どうなんだ?」

「今日の昼、ヘンリエッタという子を探している男には会った」

「ぼかしたな」

 

 リゴレーヌ=ヘンリエッタ、は推察でしかない。誰も同一人物だとははっきり言っていないのだから。

 

「それで、その男は?」

「残念ながら俺も手が読めん。娘を殺すことに執着してる事は確かだが、もしかするとその目的一つの為なら周囲を顧みないかも知れんな」

 

 この時期に町へ来て歴史を知らないわけがない。これは脅しだ。

 スタンピートを再び起こすぞと。

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