狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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アイーダさんを探せ!


作戦会議

 いつ攻めてくるかも分からない相手を前に止まっている暇はない。

 早速町の地図を広げて作戦会議だ。

 

「……相手が嫌味な奴なら、まず脅してくるだろうな」

「もう十分脅してるだろうて」

「魔物を操れるという証明と、町へ攻め込むという意思表示」

 

 どう来るのは分からないが一つ言えるのは、恐らく小突いて来るという事。

 だがだからと言って防衛陣を作ろうと回れば、交渉の余地なしとして町を滅ぼしにかかってこられる可能性もある。

 町に被害が出ないための最善としてはヘンリエッタを突き出す他ないのが腹立たしい。

 

「しかし件のヘンリエッタさんは行方不明、と」

「きついなぁ」

 

 疑問なのは、あの男はそんな立ち回りをして大丈夫なのかという事。

 娘に嫉妬して国を追い出しただけに留まらず、わざわざ探し追ってくる必要はあるか? 

 自身の地位が大事ならばそこまで執着する必要もない、あったにしても自分から動く必要はあっただろうか。

 いや、相手の考察はどうでもいい。今は、この町が優先だ。

 

「かしらかしら、ご存じかしら?」

 

 どうするかと思案していると部屋の扉が開き、隙間から覗く光が二つの三角と長い足の影を作った。

 誰かと言うまでもない。リゴレーヌだ。

 こっちが何の話をしてるかも分かってるだろうし入れと促す。

 

 わざわざ扉を開けた事には感動するが、それどころじゃない。

 リゴレーヌの一番嫌いな人物の引き起こす騒動関連となれば、それもこの町を巻き込むのであれば容赦しないと言っていた。何をしでかすか分からない。

 できる事なら例の現実改変で町に何も起きなかったとしてくれば楽だが、そこまでしてくれるのか……。

 

「御師様。聞いた、ですよ? は、もしや、()我ら一座の一枚噛み噛み」

「お前の一座……壊滅したあの?」

「多分ですでし。しですですでしたぶた!」

 

 リゴレーヌの一座が崩壊したのは確かに何者かに操られた魔物の集団だ。

 それを操っていたのがあの男ならば、その時からすでにリゴレーヌを狙っていたのか。

 なんとも執念深いというか……。

 

「には考察ですよ? の、お声! お客さん! 吾は実際詳細どうだか知りません」

 

 例の見えないお客さんから教えてもらったのか。

 

「どうするんだマックス。お相手は相当頭にキてるらしい。そのヘンリエッタは何をしでかしたんだ?」

「俺が知るかよ。……ともかく、やりたくはないがその男を抹殺する必要も出そうだな」

「おっと不穏な」

「運のいい事にこっちにはそういう裏方ごとに手慣れてるやつが……」

 

 ……。

 …………。

 

 ……あれ、そういえばアイーダはどこに行った? 

 ニコルの舞台が始まる前、最初に男と会った直後くらいまではいたと思うが、それを最後に見てないぞ? 

 せっかく暗殺者の出だと思えるような言動をしてるし頼もうかと思ったのに。

 

「描写なければ姿なきに代わりなくですよ? アイーダ姉ねは不確定存在なりて。てりな!」

「私達の存在とは文字によって成り立ち全て左右されます。……おや、見えておりますか?」

「故にゆえゆえ。ふ、ふふふ……。んゅ? 謎の改行?」

「リゴレーヌも知らないか」

 

 となればどこへ行ったんだ? 

 もうすでに事を済ませてる、とは考えにくい。だったら戻ってくるはずだ。

 

「ま、ともかくいないなら仕方ないか」

「結局どうするんだ?」

「打つ手なし」

「おいおい」

 

 だって、なぁ? 

 当時戦ってた一座のメンバーがどれほどの強さは結局はっきりしないが、相手がリゴレーヌを狙ったのなら有象無象の雑兵だらけではないだろう。

 というか雑音だらけで分が悪かったとはいえアイーダすら抵抗せず逃げた相手だ。

 

 そんなの相手に後手に回った時点で町へ被害を出さないなんてことは難しい。

 ならば。

 

「リゴレーヌを差し出すか」

「この嬢ちゃんを?」

「……」

「あ、すまん。お前を見捨てるって訳じゃないぞ?」

「いえいえ。えいえい。いぇいいぇい」

 

 不敵な笑みを浮かべてゆらゆら揺れているが、大丈夫だろうか。

 主に何をしでかすのか分からないという意味で。

 

「このリゴレーヌの全霊を持って好きに道化舞台舞い踊ロンドでしなれば、ふふ、ふふふ」

「……嬢ちゃん、平気か?」

「やばいかもな」

 

 正直、この道化師が全力で事に当たって相手を容赦なく打ち砕けるのならそれでもいい。

 だいたいおとりにする作戦も、相手とリゴレーヌを会わせただけでそこからどうするのかはまだ考えてないし、地味に最大戦力である道化師が戦ってくれるで済むのならと考えている。

 

「ボクは反対です!」

「うおっ、いたのかお前」

 

 あと一人称戻したのか。

 いつの間にか部屋に入ってきていたベリテットの語る内容によると、リゴレーヌ探しの男は以前から孤児院の周辺で目撃されていた不審者らしい。

 周辺地形は把握済みとこちらに伝える意図を持ち、子供達を人質に抵抗するなと言っているのであれば……と、そこまで一気に話して息をついて席に座る。

 俺よりも付き合いの長い家族達を人質に取られればこうも焦るだろう。リゴレーヌに言って水を用意させてやるが、しかし状況はより悪くなったな。

 リゴレーヌとて周囲を顧みない訳ではない。知った事かと人質を無視する訳がないだろう。

 

「ここまで色々手が回されてる上、時間の指定も無いのは怖いな。そこまで入念なんだ。手紙を持ったギルマスがここに走った事すら把握されてるかもな」

「迂闊だったか」

「いや、早かれ遅かれだ」

 

 しかしどうするか。

 リゴレーヌを向かわせる作戦は、リゴレーヌの危険が最大級に大きくなることが確定した。なんせ無力化されるのだから。

 

「……」

「……」

「……ふん。ゅいー」

「……」

「さて、どう動きますか?」

 

 沈黙。

 せめて最初に相手が孤児院を狙ってくるというのが分かった所で防ぎようも……? 

 

「……相手が孤児院に最初のターゲットを絞っているのなら、そうか。リゴレーヌ」

「いはな?」

「孤児院の子供達は全員覚えているか?」

「一度見聞きし物事忘れず。全員言えます言ってみましょう? 樹付きエルフのエンリカに──」

 

 よし。おーけーおーけー。全員読み上げ始めたらキリがないから言わなくていいぞ。

 

「ベリテット。リゴレーヌに部屋割りを教えてやってくれ」

「いいですけど、何をするんですか?」

「マジックショー」

「はい?」

 

 ギルマスはスタンピートに備えた緊急招集用のサインがあるだろう。あれですぐ孤児院に人が集まれるようにしてくれ。

 ベリテットは孤児院で待機。

 

「何を……?」

「何って、リゴレーヌを向かわせて俺と一緒にショーをするだけさ」

「お前さんもその嬢ちゃんに毒されたか? ショーだなんて」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

「マックス。それでいいなら俺は先に戻って準備してるぞ」

「おう。頼んだぞ」

「あの、ねえ! ちょっ!」

 

 ええい。うるさいぞベリテット。

 

「見捨てるって言うんですか!?」

「いい機会だろ。改築とか」

「そんな!」

 

 立ち上がって掴みかかろうとした手が留まって、ふらりと倒れそうになった。

 それをすかさずリゴレーヌがバレエのように抱き留める。

 

「冗談だ冗談。何も子供らを犠牲にするって訳じゃない。ちゃんと脱出してもらうさ」

「……脱出って、今からじゃ間に合いっこないですよ……」

「だろうな」

「父さん!」

「まあまあ聞け」

 

 避難経路も限られる密室からの脱出なんて、普通は不可能だろう。

 まして周囲は危険な魔物に取り囲まれているんだ。防衛に戦ってる人たちだって、時間稼ぎが良い所で完全に防ぎきれるとは思わない。

 つまり絶対絶命のピンチ。ここから全員生還するなんて誰も思えない。

 だが、だからこそそれをひっくり返せば盛り上がる。

 この場で盛り上げるためならば幾らでも無茶苦茶をするのは?

 

「……あっ」

 

 ようやく悟ってくれたらしい。

 なら俺らもすぐに動くべきだ。

 

「リゴレーヌ。大変だと思うが」

「いえいえいえいえ。吾が全霊を持って事に当たろう。なぜならこれは終幕最後の大仕事」

「そろそろ私も待機しますか」

「道化舞台第一部。その終幕事件。……ふふ、ふふふふふふ……折角ならればド派手に回って舞って……」

 

 今回やることは単純で、リゴレーヌの大得意な脱出奇術をやってもらうだけ。

 一番危険なのは何も知らない孤児院防衛隊だが、そこは頑張ってもらうしかない。

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