狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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胸でか供養


再選再戦

 防具は小手とブーツのセットが一つずつ。胸当ては合うサイズがないとクラリスが吐き捨てるように言っていた。実際の所こいつのスタイルは良いの部類に入るので仕方ないが、私怨が籠り過ぎではなかろうか。

 武器に関しては結局リゴレーヌの好みも分からないのでとりあえずサーベルとナイフを買ってやった。

 一応自身の装備なので袋に入れて持たせているが、歩く度にがちゃがちゃと音を立てているのは大丈夫だろうか。良いものなのだからもう少し丁寧に扱ってもらいたい。

 

「剣術武芸、鍔迫り合い。演舞に演武も苦手にあらずのあららずあらず」

「鍔迫り合いは止めておけ。お前の腕じゃ押し切られる」

「でしょうか? なればやめましょう、舞って踊って旋風のごとし。しかとて風は鳴りやまず? いえ鳴らすのです!」

 

 相変わらず訳が分からん。

 ギルドの方へ向かって歩いていると、ふらふらと付いてきていた足が唐突に立ち止まった。

 それに気が付き向いている方を見ても雑多な市場しかない。特に気になるようなものはないと思うが。

 

「やっ、ほっ、うーん……」

「金で遊ぶな。どうした一体」

「いえいえですね、いえですね。そこな雑貨な露天にお一つ売ってましての三角帽。二つ三つのカラフルお山」

「……よく見えたな」

 

 銅貨でジャグリングをしながらつま先で指した方を見れば、確かにリゴレーヌの言った通り道化師の被っていそうな帽子が売られていた。

 

「買うのか?」

「いえいえそんな、足りません。これが全財産。弟子は薄給、日銭もしくしく」

 

 投げられた銅貨が手のひらに落ち、縦に12枚重なった。

 平たいテーブルの上で数枚重ねるだけでも凄いのに、片足立ちで器用なやつだ。

 

「……ん? 12枚?」

「ほにゃらら疑問発生学!」

「10枚は昨日渡したし、もう1枚は最初に会った頃に渡した覚えがある。1枚多くないか?」

 

 空いているもう片方の手のひらで上からタワーを崩して、次に開いた時には両手の指の間に銅貨が均等に挟まっている。

 

「んー? おひねりですよ? この前です。道化師最高と歓声受けて投げられました。やりましたねリゴレーヌ! ええ! ぱちぱち」

「……もの好きもいたもんだな」

「公演ではありませぬでしたがなかな。そこは残念、芸で褒めて欲しかった。まだまだ弟子では情けない」

「怪しい金じゃなきゃ文句はいわんさ」

「やりましたねありがと御師様感謝の極み? 感謝忘れず!」

 

 はいはい。

 別にこいつがこいつの金でこいつの為に買うのなら俺は文句も言わん。

 

「足りないならば公演せねば!」

「つか、よく見えるな」

「見えてますよ、いつでもどこでもお見通し。顔を覚えて幕後の挨拶! さようならは忘れません」

 

 最初の戦闘でオークを見つけて倒したのはこの目があってこそか。

 本当に能力高いな。

 俺と接する内に落ち着いてくれるだろうか?

 元からこんなではないとは思っているけど、これが恒久的なものになっていないだろうか。

 

「心配ですか? リゴレーヌ。それはされとて心配不要。永遠不滅の有限なりて、天井有っての無窮なり。つまりは渺茫(びょうぼう)運動演者。けれども幕が降りれば道化も人です。カーテンコールはいつですか? それは全く分かりません」

 

 いつにも増して全くわからない言い回しだな。

 

「理解はせずに流れるままのリズムを楽しむが良しし。それが道化を見る基本。頭からっぽで腹から笑うのです。さぁ! ワハハー!」

 

 銅貨を仕舞いくるりと背を向け、大降りな動作で本来の目的地であったギルド方面へ歩いていく。

 何となくだが、その横顔が寂しげに見えた。

 

「お前そんなに帽子が気になるのか?」

 

 横にならんで聞いてみると、いつもの何を考えているのかわからない、にへらと笑った顔を傾けながらこちらへ向ける。

 

「いえいえいえ? なんでもございませんよ。ただーし、道化に衣装は付き物です。目立つものは象徴となりて。顔は化粧で塗りましょう? 技術は身体で見せましょう? でも記憶とは頭に覚えるものです! 頭とは? 道化の帽子!」

「……道化師としての拘りか」

「冒険者は何を誇りに? 剣でしょうか、それとも紋章? なんでも構わぬ関係ない! それは例えで例えです。やあ!」

 

 拘りというか誇りというか、いわゆる魂的なものというか。

 だが、リゴレーヌの珍しいわがままだ。

 ちょっとくらい……。

 

 ……いやいや、駄目だ。

 そういうものは買わないって約束しただろう。

 

「あまれままれあ。駄目でしょう? 仕方あるまし貯金の我慢。おひねり狙いの公演開始。さぁさぁさぁ!」

「残念だが今日はこれから魔物退治だ」

「むーん、あまり道化の本職ならぬが稼ぎの効率もっとも良きかな。さればハリキリごごーごー」

 

 無茶をしないといいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドで適当な討伐依頼を受けてさっそく赴こうとした矢先、扉を開けたところでいつしかの少年と出くわした。

 あの弟子志願でリゴレーヌに勝負を挑んで惨敗した少年だ。

 

「ま、待ってください!」

 

 声をかけられたくないから早歩きで去ろうとしたんだが、回り込まれる。

 というか、リゴレーヌがこの少年を客と捉えて立ち止まっているのでそんなにしなくても声をかけられただけで俺は止まらざる得ないんだが。

 

「ボクはあなたの弟子になりたくて、ずっと剣を握ってきたのです! 先日は確かにナイフ投げで負けましたが、得意な獲物はこの剣です!」

「つまり?」

「勝負をさせてください!」

 

 良くある返しとして「俺の利益は」と言いたかったが、いつの間にか囲んでいた野次馬達が逃がしてくれそうもない。

 ため息。

 少年への応援ではなく、単純にからかいや話題の為だろう。魔王が云々と言われているのに呑気な連中だ。

 

「良いだろう」

 

 断られると思っていたのか少年は目を見開き、野次馬もどよめいた。

 初手で否定の言葉を言えばブーイングをするだろうよ。大げさな。

 

「制限時間内に勝てなければお前の負けだ」

「……望むところです」

 

 仮にも師匠にしたい相手へ向ける言葉じゃないよなそれ。一応目上だぞ。

 まあいいや、リゴレーヌ。

 

「公演です! 公演ですね!? 公演!」

 

 落ち着け。

 

「まぁなんだ、模擬戦というかお前の戦いが見たい」

「演武です? 項目は!」

「流れに身を任せるのは得意だろう? 避けて弾いて観客を盛り上がらせてやれ」

「はい!」

「それと防具は傷付けるものだからいいが、場が冷める失敗はするな」

「それは承知のちの承知。大袈裟に転びとも怪我はなく」

 

 少年が気が付いてるかわからないが、時間内に勝つという勝利条件は引き分けも負けになるということ。 

 公演と張り切るリゴレーヌに一太刀浴びせるのは至難だと思う。

 当てたと思ったら人形に変わってた、なんて芸もやれそうだし。

 

 ギルドの裏手にある練習場の一角を借りての模擬戦。武器には2人に同じ木剣を渡した。不公平と言われても困る。

 防具に関してはそれぞれの戦闘スタイルもあるのでお任せだ。

 リゴレーヌは今日買ったばかりの小手とブーツを装備し、少年は俺の真似なのかレザーアーマーとバックラーを身に付けている。孤児だという話だし、寄付された誰かのお下がりだろう。微妙にサイズが合っていない。

 

「決闘ではなく模擬戦なので、当ててもいいがなるべく抑えること」

「はい!」「良いですよ、舞いましょう!」

「切っ先を差し向けて勝利アピールは無効だ。実戦寄りで基準を付ける」

「わかりました!」「ふへ、ふへへへ」

 

 その堅苦しいのが嫌で弟子を断ってるというのに……。

 一方のリゴレーヌは真逆もいいところだが。

 まともな弟子はいないのか?

 いや、世間的には少年みたいな態度のやつがまともに当たるんだろうけど。

 

「構え」

 

 相手が例え誰であっても礼節を忘れず、少年が頭を下げる。

 それを見てリゴレーヌもやけに綺麗な姿勢でぺこりとお辞儀をした。

 変なところで真面目なやつだ。

 

「では、始め」

 

 抜剣した少年が盾を前面に出し、果敢に斬りかかることなく動きの読めない相手に様子を伺っている。

 じりじりと近づきつつ、時折牽制として軽く剣を見せるのも良い。

 一方のリゴレーヌはそんな少年を気にせず剣を軽く宙に放る。

 手元に武器がないのが確実になった瞬間、少年が小柄な割に素早い踏み込みで胴を捉えようとした!

 

「なっ」

 

 少年の驚く声。

 リゴレーヌは胴に迫った剣先を身を逸らして避け、そのままくるりと後方回転しつつ少年の剣を蹴飛ばし、空中にあった自分の剣を手に取ると逆に胴を斬り返し戦いを終わらせた。

 

「あれま?」

 

 実践でなら少年の方が安定して戦えるだろう。

 しかし、この場はリゴレーヌの勝ちだ。

 

「あ、あの! もう一度、今のは不意を突かれて……!」

 

 納得していないらしい。

 それもそうだろうな、打ち合いもなく綺麗に返されて負けたのだから。

 悪いが、ルールはルールだ。自信があるとか不意とか関係なく負けは認めて……。

 

「演武はまだまだ序盤も序盤! さぁさ!」

 

 ……あいつまだやる気なのか。

 蹴り飛ばした木剣を少年へ返却すると再び構えた。

 先程の動きを見ていた野次馬達は想像以上のリゴレーヌの動きに盛り上がり、もっとやれと煽る。

 盛り上がった原因たる想像以上の動きというのが、リゴレーヌ自体というよりその一部箇所な気がしてならない。

 というかヒソヒソと聞こえるし。クラリスがいたら憤慨しそうだ。

 

「つ、次は勝てます!」

「でしょうか演武はまだまだこれから! お客さんも大盛況! ぱんぱかぱんぱー!」

 

 リゴレーヌは盛り上がってさえいればいいのか、注目の視線に手を降って応えている。

 しばらくすると始まりの気配を察したのか、声援も静まり沈黙がまた訪れた。

 

「んじゃ、始め」

 

 またも初動は変わらず、盾を前に出す少年。

 それを見てリゴレーヌも頷き、剣をまた宙にやった。

 

「二度は釣られんか」

 

 先程は隙有りと見て手痛い反撃を食らったため、誘いに乗らず見逃す。

 折角わかっている動作なのに、反撃を恐れて動かないのは経験を捨てていることになる。

 返ってきた自身の剣を携えたリゴレーヌを見て、どう攻めようか悩んでいるらしい。

 もうここからは未知の領域となり一度目の戦いの経験は生かせない。せめて、予想外の動きをしてくる程度なもの。

 

 そして、その予想外の動きという選択肢の多さが足を止める原因になり戦いにならない。

 リゴレーヌは打ち込んでくるの(ネタふり)を待っているらしいが、それが少年にとってもプレッシャーだろう。

 

「そこまで」

 

 結局、制限時間を越しても少年は動けずだったので終わらせた。

 

「終わりですか? まだなにもしてない。緊張はお届けその後はまだです!」

「模擬戦だと言ったろう。本番じゃないし相手も見習いだ」

「まっはなは。なれば仕方あるまし。ありがとうございました」

「……」

 

 余裕な態度でにへらと笑い、煽るように喋るリゴレーヌに悪態をつく間もなく少年は足早に去っていく。

 これで俺に執着する事もなくなって別の生き方をしてくれればいいが、なんというか少し気分の良いものじゃない。

 

「あいつ、有力株だったんだがな……」

 

 いつの間にか顔を出していたギルマスがため息をついて、俺の横に並んだ。

 

「勉強はしてるし手堅い動きは評価できる。二戦目が動けなかったのは安定的な行動を取ってたからだろ?」

 

 一つしかない命を安定的な行動で守るのが信条だが、たまにはあえて釣りに乗って危険に飛び込む必要もある。

 この辺りの踏ん切りは実戦と勘で学ぶしかないから、今回はしょうがないが。

 

「ああ、そうだ。マックスに憧れててよく話をしてやったもんさ」

「下手に希望を持たせると失望も大きい。ギルマスも知ってるだろ」

「だがな、あいつはな……」

「後で謝っといてくれ。リゴレーヌ、行くぞ」

「次なる公演? さすれば再び合間見えん! 不完全燃焼? そう、まだ演武はまだ!」

 

 ギルマスが何か続けて喋ろうとしたみたいだが、そろそろリゴレーヌが限界らしくふらふら動き出したのでこの場を去る。

 少年に何か事情があるだろうにしろ、もう関わらないし関係ないだろう。

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