「弟子とはいつも不憫です? いえいえ最初はこんなもの。才はいつ頃分かりましょう? それは誰にも分からじなりて」
「ん?」
「御師様お少し時間をよろしく? 手間は取らせずずせららととはま」
これから街を出てというところで、リゴレーヌが突然しゃがみ込みいつもの通り変な言い回しを披露した。
「先ほどお弟子が泣きましましての駆けまして、そこら泥んこ足跡ありまし心配なります」
「足跡であいつだって分かるのか?」
「ずうっと続いて一直線」
そのずっととは、まさかギルドからの話じゃないだろうな。
雑多な道通りも歩いたし追うのは不可能だと思うぞ。
「分かりましてよ? 靴の大きさ歩幅、一緒です。あらま匂いは分かりません。それだけ無念」
「まるで探偵だな。……俺が原因で死なれても目覚めが悪い。少しくらいはいいぞ」
「よし! お仲間仲間、弟子仲間! 道化の同期は助け合い!」
「一応言うが、あいつは弟子でもなければ道化でもないぞ」
空回りしているのをそういう役とでも思ってるのか?
両手を振り大股で歩くリゴレーヌの背中を追いつつ気配が無いか確認していくが、今のところは問題ない。
普段であれば寄り道なんてことはしないが、事情が事情だ。
リゴレーヌの空振りだとしても、受けている討伐依頼も簡単なものだし取り返しはつく。
事件だったら依頼失敗だとしても訳ありで不問だ。
「冒険者のジョブに道化師はありましてと話を聞きまして。あの見習いは道化にあらず?」
「俺と同じ装備なら、普通に剣士じゃないか?」
「御師様は剣士! 剣武は専門あらずもリゴレーヌ、要望とあれば舞ってみましょう!」
そもそもそのジョブというのも申告制で、ギルドカードやパーティー募集の際に「自分はこういう事ができる」と伝える物だ。
あの少年が道化師と申告していなければ道化師ではない。
ちなみにジョブの道化師は攪乱や状態異常付与に長けているされている。
冒険者的な意味で言うとリゴレーヌは見習いどころか道化師失格だが、それを本人に伝えたら何をしでかすか分からないな。
「で、どこまで行くんだ?」
軽く一時間は歩いただろうか。
見晴らしのいい草原へ辿り着き一見平和そうに見えるが、この辺りは地下に遺跡がありそこを拠点にした盗賊がいる。
小賢しい人間という厄介な相手なので、もしここで少年を保護したとなると守りながら撤退するのは少し厳しいかも知れない。
冒険者ランクAとはいえ俺も人間。無理なこともある。
「足跡雑多に増えてごった煮。これは斬撃抜け毛の獣臭? いえいえ死んだ毛皮の持ち主です」
「最悪だな」
「でござりますでしょうか?」
「捕まったとなれば救助もきついと思ってな。念のため戦闘準備しとけ」
「はい!」
返事をすると同時に自分のナイフを取り出し、当たり前のように増やしてジャグリング。
もう突っ込まないぞ。
「まだ追えるか?」
「にゅーん、同期の足跡痕跡一切無きに無し。雑多な意味ではありません。では何か? ぱったり途切れて追いあらず!」
「代わりの足跡があるだろう」
「追いましょう数他の別件!」
8つのナイフを回しながら、大股でずんずん進んでいくリゴレーヌを追う。
この場が草原であるにも関わらず、よく足元を注視せず痕跡を追えるものだ。
目が良いという以上に別の能力があるようにしか思えない。
「みっちり手順を詰め込みてもアドリブとは要求されてましたよ? 故に道化は対応が為、視野は広く保つのです」
「ああ、そう」
後ろ歩きになったリゴレーヌの背中の向こう、草むらに見えた盗賊の男にナイフを投げてやる。
一撃で眉間に突き刺さり監視役は息絶えた。
「お、お客さんが! 事故です! お、御師様!?」
相手が人間であったことに気が付き、リゴレーヌが投げていたがナイフを取り落とし慌てた。
「こいつは盗賊という魔物だ。魔物に身を落としたかわいそうな奴だよ」
「でもでもでもでも、お客さん!」
「リゴレーヌ。こいつは人の笑顔を奪う悪人だ」
言い方は俺が悪人みたいだけどな。
「悪人ですか、笑わせない? そうですでした、笑顔を奪う奴。魔物ですか? なれば容赦なしも納得なるや、我ら一座の怨敵なりて……」
どうやら悪人と分かれば大丈夫らしい。
一座を壊滅させた連中の事を思い出したのだろう。
リゴレーヌにとっては家族である一座の仇。殺人を強要したい訳ではないが、今この場は抵抗がなければこれ以上言うことはない。
「監視がいるって事は、入り口もこの辺に……」
「タネは仕込みの癖も分かりて。道化は手品はお嫌い? いえいえ手の内にあります勉強してます」
しゃがみ込んだリゴレーヌが近くの芝をめくり、その下にあった扉を指さす。
俺も探すのは得意なつもりだったんだが先を越された。
「中は狭い。剣に変えとけ」
「はい! 貰いましたサーベル使って剣武を披露。悪人成敗リゴレーヌ!」
「あと大きな声を出すな」
遺跡内の石積みの通路は魔法で照らされてはいるがほの暗く、見通しは悪い。
「リゴレーヌに前は歩かせたくないし、どうするか」
「なれば合図! 示し合わせはお得意道化のアドリブ道!」
「だから静かにしろって」
「はい」
「で、どう合図するんだ?」
リゴレーヌに一任するのは色々怖いので確かめてみると、通路の暗闇へナイフを投げた。
さく、と刺さる音したがまさか石の地面に刺したんじゃないだろうな。
「ふ、ふふふ。お忘れ忘れ? お忘れですか? 百発百中ナイフ投げ」
敵の気配もしないので疑いつつ進むと、しばらく歩いた先の地面にナイフが刺さっていた。
別に石を割って刺さっていたわけじゃない。石畳の隙間に挟まっている。
暗くて見えない先の、それも不規則に並ぶ石の隙間を狙って投げたらしい。
なんなんだこいつ。
「音は立てずが好ましいと聞きましての合図にございましましたが」
……まあ、できるのならいいか。
「敵がいたら肩でも叩いて教えてくれ」
「はいっ」
相手は魔物ではなく連携の取れる人間。それも、所詮盗賊と油断していると腕利きも混じっている事もある。
人命救助とはいえ、情報もなくこうして進むのはとても危険だ。
「……」
数回と後ろから無言でナイフを投げられ、しばらく進み大分奥まったところまでついた。
そこには今までの通路にはない、大きな扉がありその向こうからは人の気配が感じられる。
リゴレーヌを見ると、扉にぴったりと耳をつけてよっつ指を立てた。
「一人は少年か?」
「囲むようにでしょう」
「どうするかな……」
俺もリゴレーヌに習ってというわけではないが、聞き耳を立ててみると少年に何かを聞き出しているのか、ぼそぼそと喋る声は聞こえる。
しばらくはその場を離れそうにないし、強襲するにしても不安が残る。
少しでも成功率の大きい作戦を立てたいが……。
「なればこの場は奇術で勝負。御師様はリゴレーヌの特技をお忘れ? いえいえ道化の手本は見せてません」
「なにか解決できるものがあるのか」
「今この場、道化の奇術をご覧に入れましょう」
具体案が全く提示されず分からないが、何か手はあるらしい。
自分の装備を入れていた袋を取り出した。
「少し失礼。小道具がいりまして」
サーベルで丁寧に開き、大きな一枚の布にしてしまった。
それをどうするというのか。
両手で左右の端を持って、俺の視線からリゴレーヌの姿が隠れる。
なんだか嫌な予感がしてきたぞ。
前の食事の時、視界から外れた一瞬で消えたことがあったよな……。
「すりー、とぅー、わんっ!」
ぱっと指を放し、ひらりと落ちた布の後ろからはリゴレーヌの姿が消えていた。
「あいつまさか……!」
扉に飛び付き耳をつけると、中から驚きの声と争う音がしている。
どうやったとか考えてる場合じゃない。扉を蹴り開け、近くにいた盗賊の男の首を剣の柄で殴り気絶させ一気に少年の横に立つ。
「じゃんじゃかじゃーん! 大成功!」
「じゃねぇよ! 先に何するか言え!」
「あらま怒られてしまい申した」
俺の目の前でリゴレーヌは深々とお辞儀をしているが、普通にこういう行為はやめて欲しい。
それと残り2人の盗賊は……。
何をされたのか壁際の樽に収められていた。
本当に何をされたんだ?
「今はいいか。おい、無事か?」
「マックスさん……」
所々に怪我はしているが、まあ大丈夫と言った所か。
「ご、ごめんなさい……」
「まずは街まで戻るぞ。話はその後だ」
樽詰めにされた2人はまだ気絶していないので、帰る前に少し聞いておこう。
剣を首に添え、にっこりと顔を作って話しかけてやる。
「見張りのひとりとこの場以外に仲間は?」
「い、いねぇよ! 俺等だって最近ここに来たんだよ!」
「残ってんのは俺達だけで、親分も……」
知りたい情報は人数だけなのでこいつらの事情は知らん。
剣を引き鞘に納める。
「後は専門職に任せよう。帰るぞ」
「お帰りですか? 帰りましょう! 道化にあらずの同期のお弟子、へこむことはないです。えと、見習いとは失敗はつきものですので迷惑かけるのが若手の務め! リゴレーヌも迷惑ばかりで情けない」
「……ありがとう、ございます」
分かりやすい言葉を選びつつ、リゴレーヌが頑張って少年を励ましている。
思考は飛んでいるが、元がそういう性格なのか面倒見はいいらしい。
今回の件は少年の動向を察して動いたのはこいつだ。言われなければ俺はそのまま少年が行方不明となるのを「弟子になるのを諦めたか」程度で済ませようとしていた。
「リゴレーヌ」
「何でございましょう?」
「礼は言っておく」
「人のお役に立てて道化道! 人の笑顔を守る為なら道化はいつでも舞い踊ろう!」
善人質か。
……安定を取るあまり、幾度も大を取って小を切り捨てた俺とは大違いだ。