狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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弟子になりたいニコル。

「──色々言いたいことはあるが」

「なんぞと問われまして? リゴレーヌには難しい」

 

 少年と盗賊についての情報をギルドに引き渡したあと、最低限の依頼をこなした俺達は食の為にいつもの食堂を訪れた。

 そこで今回の件の礼としてリゴレーヌへ何か欲しい物でも買ってやろうかと話を持ち掛けた所、ではと言って少年を連れてきたのだ。

 俺もそうだが少年の方も状況が飲み込めず、最初にリゴレーヌをここへ連れてきた時のようにきょろきょろとしている。

 

「欲しがってた道化師の帽子を買う口実というか、フリだったんだがな」

「それもそれとてそれもそれ。仲間意識は食卓囲んで同じ飯、故に道化は? いえいえどの場もこれは一緒でしょう! 目につく寂し()()になりまして」

「あの、これ以上迷惑をかける訳には……」

 

 席を立とうとする少年を手で制する。ここで帰ってもリゴレーヌは納得しないだろう。

 あの帽子がどれほどの値段だったのかはしっかりと確認していないので分からないが、一食分には及ばないと考えれば安上がりだ。

 別に、金に困ってはいないが。

 何かの祝いで大々的に酒場を盛り上げる訳でもなければ、安定した戦いを心掛けている為装備の消耗も少ない。故に金は余っている。

 

 近くを通った店員に三人分の食事を注文して待つ。

 

 ……会話が一切ない。

 

 リゴレーヌは相変わらずにへらと笑いながらゆらゆら揺れているし、少年も何を話せばいいのか分からず口ごもっている。

 呼ばれたにも関わらず沈黙というのも居辛いだろし俺から切り出そう。

 普通は食事に誘ったリゴレーヌが取り仕切りるものじゃないのかと思うが、そこはリゴレーヌなので諦める。

 

「お前の名前、聞いてなかったな」

「えっ」

 

 聞けば少年は驚いた顔をして、リゴレーヌは身体ごと首を傾げながらそちらを向いた。

 

「ニコルです」

「わお! かわいらしきかやニコル! お似合いですよ、ニコルです!」

「……ニコルねぇ……」

 

 あまりいい思い出の無い名前だ。昔を思い出す。

 

「で、ニコルはなぜ俺に拘るんだ?」

「憧れだからです」

「……憧れねぇ」

「言いたいことは分かります。でも、それでも、マックスさんの下にいたいんです」

「あのな、食事に誘っただけで面談じゃないぞ」

「ままま御師様気を立たせずせたせたせ。ニコルは必死で真面目です」

 

 真剣であれば相手にするとかではなくて、人間関係が一番面倒なんだが。

 特に、ニコルのように訳も分からず変な希望を持ってくる奴は。

 

「仲間にならずと弟子仲間。道化にあらずと仲間です!」

「リゴレーヌが個人で関りを持つというのなら止めはしないさ」

「あの、リゴレーヌさん、これ以上は大丈夫です……」

「んむぅ。真なる笑顔は心の底、浮かばれず? 夢破れ? むむむむ見捨てず見捨てられず」

 

 運ばれてきた食事が並んだので手を付ける。

 マナーなんぞ分からないが、戦い方だけではなくしっかり勉強もしているのかニコルの食べ方は上品だ。

 

 その横にいるリゴレーヌは……まずは食べ物で遊ぶなと言いたい。

 それとせめてナイフで肉を切ってくれ。塊のまま口に運ぶな。

 

「細かい動作は遠目に分からじ。故に大げさな動作は癖なりて」

「言い訳してるところ悪いが絶対分かってないだろ。ナイフで切れとは言ったが武器のナイフを出すな」

「まあ!」

 

 大げさに両手を挙げて、ちらりとニコルを見る。

 恐らく道化師的なお笑いポイントだったのだろうが伝わってないぞ。

 

「リゴレーヌさん、フォークの持ち方は分かりますか?」

「フォーク? とはこれ!」

「それは骨です……」

 

 だから、ネタだと伝わってないっての。

 

「こっちがフォークで……ああ、持ち方が……」

「今度は逆手持ちか。何歳だお前」

 

 前に見たときにちゃんと持ててたのは偶々か。

 

 そういえばリゴレーヌっていくつだ? 

 背はまだ小柄な少年のニコルより少し高く、俺より低いがスタイルは良い。

 顔だけ見れば10代前半にも見えるがわからん。

 

「道化の素性は隠すもの。お気になるなら楽屋にてお答えいたしましょう」

「別にそこまでしないでもいい」

 

 なんにせよ子供じみているというか、子供であることに違いはない。

 冒険者の最低年齢が14歳からなのでそれ以上なのは間違いない……。

 あ、申請って俺がやったのか。万が一まさかと思うがそれ以下だったらまずいな。

 大丈夫だとは思うが少し不安になってしまった。

 

「リゴレーヌさんの能力が高いのは分かりますが、やはりなんというか」

「椅子に座って飯を食うだけまだマシだぞ。最初はいきなり消えたりしてた」

「消え……?」

 

 今日も披露していた奇術らしい。

 リゴレーヌがどう現れてどう盗賊を処理したのか気になるが、その辺はニコルから見てどうだったんだ? 

 

「えーっと、急に近くの樽の中から出てきて、布で視界を塞がれたと思ったら盗賊の2人が樽の中に収められてて……」

「……そっちでも視界から消えた隙にか」

「大脱出の応用ですよ、よすででおうおうおうヨウヨウ! ババンと登場ささっと退場、得意奇術の大脱出!」

 

 席を立って歩き、近くのカーテンに包まる。

 くぐもった声でカウントする声がして、0になると同時に跳んで唯一出ていた足を仕舞うと消えていた。

 抑える力の失われたカーテンがパサリと舞う。

 

「自慢したいのはわかるが、静かに飯くらい食えないのかあいつは……」

「え? え? ど、どこに」

 

 リゴレーヌが足元に置いていた荷物の中から、開かれて一枚布となった袋だったものを取り出し、それを先ほどまで道化師様の座っていた椅子に被せる。

 

「はい、すりーとぅーわん」

 

 ばっと一気に布を剥がせば、当たり前のように両手を広げたリゴレーヌが登場していた。

 俺は見慣れたものだが、明らかに何かおかしい奇術を目の当たりにしてニコルは驚きのあまり手に持っていた食器を落とす。

 

「大成功ですよ、これぞ奇術の瞬間移動! 御師様お手間を取らせまして」

「いいか、飯が食い終わるまでは用もなく席を立つな」

「あれままれまれダメでした? 得意で得意な特技でしたのに」

「時と場所をわきまえろと言ってるんだ。そんなんじゃ驚かせるだけで笑わせもできないぞ」

「笑わせられない!? それは駄目ダメ死活問題! 反省なりてよリゴレーヌ!」

「あと飯の時は静かにしろ」

 

 瞬間移動なら出現するまでの間はどこにいたのやら。

 原理を考えるのはもうやめたので俺は溜息しかないが、ニコルの方はぶつぶつと魔法がどうのとかなんだとか考えている。

 当たり前のように物理的に存在するナイフを増やせると聞いたら倒れるんじゃなかろうか。

 真面目過ぎるのも毒だな。

 

「諦めろ。リゴレーヌはこういう奴だ」

「ボクがいくら努力したところで、敵わないというのは分かりました……」

「いや俺でも無理だぞ。剣士なら剣士らしい戦いをすればいい」

「あれあれあれま!? 暗い暗いのなぜなにくらくら!」

「だから静かにしろっての」

 

 今日だけで何回静かにしろと注意しただろうか。

 これももう諦めるか? 

 いや流石に弟子って事だし最低限は職務を果たさないと駄目か……。

 

「マックスさん、今からでも代わりにボクを」

「いや商魂たくましいなお前」

「ふふ、リゴレーヌさんとの関り方を見ていると、こういう冗談も好きだと思って」

「勘弁してくれ……」

「ニコルも道化にご興味を? んふふふ同期の道化は大歓迎です」

「道化師はあれですけど、リゴレーヌさんの魔法……いや、“技”を教えて欲しいですね」

「んふひひ良き良き感謝なり!」

 

 ああ、面倒なのが増えた……。

 

「ボクが食事の作法を教える代わりにどうですか?」

「おやま交渉事となりててなりて。御師様どうですどうしましょう」

「いいんじゃね?」

 

 適当に答える。

 別に大丈夫だろ。ニコルにリゴレーヌのような言動が伝播する訳でもないし……。

 ──いやさっきもう俺に冗談飛ばす位には影響受けてたな。

 まさか手遅れか?

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