ハルは意識を取り戻した。
いつの間にか、あの大木の前で倒れていた。
すぐ傍にはハルのことを心配そうに覗き込んでいる親友ユイ。
明後日の花火が良く見える場所を探すために2人で山に登ってきたのだと思い出す。
ハルはユイと共に場所探しをし、明日の遊ぶ約束をしてお別れした。

しかし、翌日・・迎えに来てくれるはずのユイがいつまで経っても迎えに来ない。
不思議に思ったハルの脳裏に突如よぎる嫌な光景。
ユイが大木のところで首を吊ろうとしている?
慌てて家を飛び出すハルだったが、間に合わなかった。
親友を失ったハル。
そんな時、突然意識が遠のき・・・。

意識を取り戻すと、再び大木の前で倒れていた。
そして、そんなハルを心配そうに覗き込むユイの姿があった・・・。

ユイが死ぬ度に時間が戻る?

「私は・・・ユイの死を既に経験している?」

「この声には・・・聞き覚えが・・・」

不思議なループ世界でハルは徐々に大事なことを思い出していく。

果たして、ハルはユイを救えるのか。


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※初投稿なので、変なことになっていたらすみません。

※原作のゲームをプレイしている前提で書いています。
 ネタバレ要素もありますし、
 何よりも、EDを見た後の何ともやるせない感情を爆発させて書いたので、
 ゲーム内容を思い出してから読んでもらえると感情移入しやすいかも、です。

※ハルとユイ以外はほとんど喋りません。
 夜の町の怪異との闘い(逃亡?)の様子は描きません。
 基本、ハルの語りで進行します。

※話の結末を言うわけにはいきませんが、一言だけ。
 私は、この2人が大好きです。



君のために私は廻る

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ん・・・・・・ここは・・・・・・?」

 

わたしは 目をあける。

何だか ぼんやりと しているけど、明るいことだけは 分かる。

せなかから 少しだけ やわらかい かんじがする・・・でも ひんやりする。

土の上・・・なのかな。

体ぜんたいに やさしい風を かんじる。

セミの 声に まじって、木の はっぱと はっぱが こすれ合う サラサラという 音が きこえる。

目の前を ハッキリさせようと、がんばって 目を ひらく。

目の前に ドンと立つ 大きな木。

えだとは 思えないくらい 太くて りっぱな えだが、たくさん 広がっている。

でも、まわりの 木が みんな 緑なのに、この 大きな木には 緑が ない。

ただ、1本の えだにだけ いくつかの 白い きれいな 花が さいている。

 

「ねぇ!きこえてる?どうしたの?だいじょうぶ なの?」

 

その声に ハッとして 声が する方を むく。

ううん、べつに そっちを むかなくても だいじょうぶだった。

その子は たおれている わたしを しんぱいして しゃがんで のぞきこんで きたから。

目の前に あらわれたのは・・・赤くて 大きな リボンを 頭に 付けた 小学3年生の 女の子。

何でか 分からないけど、頭には ほうたいを まいて、ほほにも ばんそうこうが ある。

 

「ねぇってば!へんじ してよ!ハル!」

 

ぜんぜん へんじを しない わたしを しんぱいして、今度は ねぼすけを 起こすように ゆさぶってきた。

そこでやっと、この子が わたしの へんじを 待っていることに 気づいた。

あわてて 体を おこして 女の子に へんじを する。

 

「あ、うん、だいじょうぶ だよ、ユイ」

 

そして、せなかに ついた 土を パンパンと はらいながら 立ち上がる。

 

「・・・・・・もうっ!だいじょうぶ なら すぐ へんじ してよ!しんぱい した じゃない!」

 

女の子、わたしの おさななじみの ユイは ほほを プクーっと ふくらませた。

 

「ごめんなさい・・・。なんか よく分かんなく なっちゃって・・・。何で わたしたち ここに いるんだっけ?」

 

「え?・・・・・・本当に・・・だいじょうぶ?・・・明後日の 花火の ために、よく見える ばしょを さがしに 来たんでしょ?」

 

「花火・・・・・・ばしょ・・・・・・ああっ!そっか、そっか!そうだったね!何で わすれちゃってたんだろ」

 

本当に 何で わすれていたのか ふしぎで しかたない。

明後日の 花火を 2人で 見ようって ことになって、山から なら よく見えるんじゃないかって ばしょ さがしに 来たんだった。

・・・・・・これが・・・2人で 見られる さいごの 花火だから・・・・・・。

わたしは・・・この夏が 終わったら・・・ひっこし しちゃうんだ・・・。

だから・・・・・・この花火は・・・さいごの 大きな 思い出なんだ・・・。

 

「本当に 何でなの?・・・・・・今日は もう 家に かえる?」

 

「えっ!やだやだっ!ユイと 2人で きれいな 花火 見るんだもん!ちゃんと ばしょ 見つけなきゃ!」

 

「うーん・・・・・・・・・うんっ!だいじょうぶ みたい だね。じゃ、行こっか。こっちより むこうの方が よさそうだよ」

 

しばらく わたしを かんさつした ユイは、もう だいじょうぶ だと 思ってくれた みたい。

ばしょ さがしは 続けられそう。

 

「ほら、転ばないように 手を つないで あげる。行こう」

 

「うんっ!」

 

わたしが 出した 左手を ユイが 右手で にぎって くれた。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

2人で 色んな おしゃべりを しながらの 場所さがし。

 

 

 

楽しい時間・・・

 

 

 

ずっと続けば いいのにな・・・

 

 

 

でも、神様は いじわるで・・・

 

 

 

楽しい時間は すぐに 終わらせちゃう・・・

 

 

 

気付いたら もう 夕方で、カラスの 声がする。

いい ばしょは 見つかったし、くらくなると あぶないから 山を 下りる。

山から 下りると、ユイの 家の方が ちかい。

でも、ユイは わたしを 家まで 送ってくれた。

少しでも 長く いっしょに いられるから、わたしも うれしかった。

げんかんで 明日は ワンちゃんたちと あそぶ やくそくをして バイバイした。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

つぎの日。

 

 

きのうの やくそくでは、ユイが 家まで むかえに 来てくれることに なっている。

お父さんと お母さんは 早くに しごとに 出かけた。

今、わたしは 1人で ユイが 来るのを 待っている。

何度も 何度も とけいと にらめっこ しながら。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・来ない。

どうしたんだろう?

いつも、こういう時、ユイは すごく 早く来る。

朝、ピンポンの 音で おこされることも あったくらいに。

そんな ユイが お昼前に なっても 来ないなんて おかしい。

その時だった。

 

    オイデオイデ・・・コッチヘオイデ・・・

 

「うっ・・・・・・な・・・何・・・・・・?」

 

へんな声が きこえてくる・・・。

それに・・・頭に 何か けしきが うかんでくる・・・。

ここは・・・・・・きのうの 大きな 木の ところだ・・・・・・。

そこに ユイが むかってる。

きのうは なかったはずの 四角い木の はこ。

それを サイコロを 転がすように 動かしていく ユイ。

木の下まで 転がすと、その上に のって 木を 見上げる。

そして・・・・・・犬用の リードを 木に 引っかけて・・・・・・。

 

「え・・・・・・ユイ・・・・・・?」

 

    カワイソウカワイソウ・・・イッショニキテアゲテ・・・

 

頭に うかぶのは そこまで だった。

きこえてくる 声も そこで 止まった・・・。

何だか よばれた 気がした わたしは、1人で 山に 行くことにした。

ユイと おそろいで お気に入りの ウサギさんリュックも 持たず、せいいっぱいの 速さで 走っていく。

 

 

・・・・・・・・

 

 

山の とちゅう、きのうは なかった はずの 小さな おはか みたいなものが あった。

ずっと前に しんじゃった キンギョさんを、おにわに うめた時と おなじかたちを していた。

あの時は すごく かなしくて、ユイと 2人で なきながら 作ったんだ。

この おはかを 作った子も、すごく かなしかった と思う・・・。

わたしは、ここで ちょっとだけ 休んで また 走りだした。

 

 

・・・・・・・・

 

 

「ユ・・・イ・・・?・・・・・・ユイぃーーーーー!!」

その すがたが 見えた しゅんかん、わたしは 今までで いちばん 速く走った。

いきを きらせながら ユイの すぐ そばまで 来た。

来たけど・・・・・・どうすれば・・・・・・。

ユイは・・・首に リードを 引っかけて 木から ぶらさがっている・・・。

テレビの ドラマでは 何度も 見たことが ある・・・。

これは・・・『首つり』っていって、人が 死ぬために することだ・・・。

じゃあ・・・ユイは・・・・・・死んじゃった・・・・・・の?

何で・・・?・・・・・・もう 会えないの・・・?

・・・・・・ううん、まだ まに合うかも。

すぐに ユイを 下ろせば・・・もしかしたら・・・。

 

「んしょっ・・・んしょっ・・・」

 

頭に うかんだ ユイの まねを して、はこを ユイの すぐ 下まで 転がす。

その上に のって、ユイの 首に 引っかかった リードを 取ろうとした。

でも、リードは しっかりと ユイの 首に 引っかかってて 外れない。

そうだ、ユイを 持ち上げれば いいんだ。

 

「んんぅっ!」

 

せいいっぱいの 力で ユイの 体を 持ち上げて、ユイの 足を はこに のせた。

首の 引っかかりが よわくなった ところで、リードを 外す。

どうかな・・・これで ユイは いきかえるのかな・・・。

しんじゃうと お水みたいに 冷たくなる ってきいた・・・。

ユイの体は・・・いつもより ちょっとだけ 冷たい 気がする けど・・・。

でも・・・お水より ずっと あったかいし・・・だいじょうぶ だよね・・・?

 

「あっ!ととっ!・・・・・・うわあっ!」

 

はこが グラグラして わたしは ユイを かかえたまま せなかから 土の上に たおれちゃった。

 

 

目の前が ぼんやりする・・・・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

目の前が ハッキリしてくる。

また せなかから 土の上に たおれて 空を 見上げている。

目の前には 大きな 木の 1本だけ 花が さいた えだが 見える。

ユイが ぶら下がっていた えだだ・・・。

そうだ、ユイは・・・どうなったの?

わたしは あわてて 体を おこした。

 

「わわわっ!・・・ビックリしたぁ・・・もーぅ!おどかさないでよぉ!」

 

「ごめん!・・・あ・・・・・・ユイ!ユイだ!」

 

目の前には 元気そうな ユイが しりもちを ついている。

わたしが いきなり おき上がったから、おどろいてしまったらしい。

でも、今の わたしには そんなの かんけいない。

わたしは ユイに とびついて ほおずりを する。

 

「よかった!生きてる!助かったんだね、ユイ!よかったぁ!」

 

「えっ、ちょ、ちょっと!なになに?どうしたの?助かったって 何が?」

 

ユイに 引きはがされた わたしは、それでも ちかい きょりで ユイの目を 見ながら 答える。

 

「え?だって・・・さっき・・・ユイは・・・そこで 首つりを・・・」

 

「・・・・・・へ?・・・わたしが・・・・・・首つり?」

 

「うん・・・」

 

「いやいや、そんなわけ ないじゃない。さっきも何も、ここまで いっしょに 来たでしょ」

 

「ど、どういうこと?」

 

「だからぁ、今日は 明後日の 花火が よく見える ばしょを さがしに 来たんでしょ」

 

「ユイこそ 何言ってるの?花火の ばしょは もう・・・・・・あれ?明後日?明日じゃなくて?」

 

「明後日だよ?・・・ハルぅ、どうしちゃったの?だいじょうぶ?」

 

これは どういうこと なんだろう・・・。

ぜったい、ユイは 首つりを してた・・・。

いや、してない方が いいんだけど!

花火は 明後日だっていうし・・・これは・・・。

 

「ゆめ・・・・・・だったのかなぁ」

 

「ゆめ?ゆめの中で、わたし 首つり したの?」

 

「うん・・・」

 

「はぁ・・・・・・もう、人のこと かってに ころさないで ほしいなぁ」

 

「ごめん・・・」

 

「まぁ、ゆめは どうにもできないけどね。・・・さぁ、ばしょ さがしに 行こ。ここは あんまり 見えないよ」

 

「あ、それだったら・・・わたし 知ってるかも・・・」

 

「どういうこと?」

 

「これもね、ゆめの中で 見たんだけど」

 

「また ゆめかぁ。でも、おもしろいね。ハルが 見た ばしょ、つれてってよ」

 

「うんっ」

 

ユイが 右手を 出す。

その手を わたしが 左手で にぎる。

今度は わたしが ユイを つれて あるいた。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

あの後、ゆめの とおりに あるいたら、ちゃんと 花火が 見える ばしょに ついた。

 

 

 

あの ゆめは・・・いったい 何だったんだろう・・・

 

 

 

早く ばしょが 見つかったから 時間は あまったんだけど・・・

 

 

 

何となく・・・ユイを あの ばしょから はなれさせたくて・・・

 

 

 

わたしは 山を下りよう と言って ユイの 手を引いて・・・

 

 

 

のこりの 時間は、わたしの家で お絵かきして あそんだ。

 

 

 

今回も げんかんで 明日は ワンちゃんたちと あそぶ やくそくをして バイバイした。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

つぎの日。

 

 

今日は ユイが むかえに 来てくれるはず。

ゆめの 時と おなじような 朝だけど・・・今度は だいじょうぶ。

だって、あれは ゆめ なんだもん。

ユイが 本当に 死んじゃうわけ ないんだもん。

 

 

・・・・・・・・

 

 

「ユイ・・・・・・まだかな・・・・・・」

 

どんどん お昼に ちかく なっていく。

むねが ドキドキして 止まらない・・・。

しんじたくない・・・あれは ゆめなんだ・・・。

あんなこと・・・本当に おこるわけが ないんだ・・・。

そう思ったけど・・・神様は いじわるだ・・・。

 

    オイデオイデ・・・コッチニオイデ・・・

 

「・・・・・・あ・・・・・・また・・・・・・」

 

まただ・・・また あの 声と けしきが 頭に・・・。

 

    カワイソウカワイソウ・・・イッショニキテアゲテ・・・

 

あの時と おなじ・・・・・・。

何で なの・・・・・・このままじゃ ユイは・・・また・・・。

いそがなきゃ・・・。

山に・・・行かなきゃ・・・。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

「ユ、ユイ・・・・・・っ!」

わたしは あの時と同じように 木箱を動かす。

あの時よりも 早く体を 動かす。

どうすればいいかは 分かってる。

あのリードが 首に引っかかってる 時間が長いと ユイは死んじゃうんだ。

早く しないと・・・。

木箱の上に 乗って、ユイの体を 持ち上げて 足を木箱に 乗せる。

それから リードを外して・・・。

 

「おっと!」

 

ユイの体が 前に 倒れそうになる。

木箱もグラグラするが、何とか持ちこたえる。

ユイの体は年相応の小柄な体だけど、今はこちらも子供の体だから支えるのが難しい。

いくら力の弱い私だって、高校生の体ならこれくらいは余裕で・・・・・・。

 

「・・・・・・え?・・・高校生?」

 

何故、突然そんな言葉が出た?

私は小学3年生で・・・・・・いや・・・高校・・・・・・1年生?

 

「わわわっ!?」

 

しまった!

変なことを考えていたせいでバランスを崩した。

夢と同じようにユイを抱えたまま後ろ向きに倒れ込んでしまった。

また・・・意識が遠のく・・・・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

そうだ・・・私は高校生だ。

 

 

 

1人で高校に通う自分の姿が思い出される。

 

 

 

そう、1人だった。

 

 

 

ずっと・・・ずっと1人。

 

 

 

周りには誰もいない。

 

 

 

ユイは・・・私が引っ越したから一緒に居られなくて・・・・・・

 

 

 

いや、違う・・・・・・ユイが居ない理由は・・・そうじゃない・・・。

 

 

 

私は・・・・・・ユイの死を・・・・・・既に経験している?

 

 

 

何故だか思い出せないけど・・・ユイは私が引っ越す直前の夏に・・・死んだ。

 

 

 

「ちょっと!!ハル!!だいじょうぶ!?」

 

その懐かしい声に起こされるように目を開ける。

私は今までと同じように、数輪の花を咲かせる大木のそばに仰向けで倒れていた。

そして、そんな私を心配そうに覗き込む小学生のユイ。

ちらりと自分の体を見たが、やはり小学生の体だ。

高校生の私が小学生になるだなんて有り得ない。

だからきっと、これは夢なのだろう。

ユイを失った悲しみが癒えず、こんな夢を見ているんだ。

ここまで意識が覚醒しているならば、もう目覚めは近いのかもしれない。

でも、せめてもう少しだけ・・・せめて夢の中だけでも・・・親友と一緒に居たい。

私は、優しく微笑みかけながら親友へ返事をする。

 

「えへへ、ごめんね、ユイ。私は大丈夫だよ。心配してくれて有難う」

 

「・・・・・・そっか。うんっ、それなら いいんだ。さ、立てる?」

 

ユイが私に右手を差し伸べる。

自分で立てるけど、ここはお言葉に甘えて左手を差し出す。

ユイは私の手を握ると『よいしょっ』と立たせてくれた。

自然とお互いに笑顔を向ける。

何年経っても忘れない眩しい笑顔だ。

 

「花火が見える場所を探すんだったよね?」

 

「そうだよ。日が くれちゃう 前に さがしたいね」

 

「それなら、私、場所知ってるかも」

 

「え!本当!?」

 

「多分ね。夢で見たから」

 

「えー、何それー。でも、おもしろそう だね。ゆめの とおりに 行ってみよっ」

 

「うんっ」

 

私はさっきの場面と同じようにユイの手を引いて歩いた。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

あれからすぐに例の場所は見つかって、ユイも大満足。

 

 

 

残りの時間は、ユイと子犬のクロ、そしてチャコと一緒に町を散策することにした。

 

 

 

というのも、この夢はユイに対して優しくない気がする。

 

 

 

今までと同じ行動をとると、同じ結末が待っている気がしたんだ。

 

 

 

いくら夢とはいえ、これ以上ユイを死なせたくはない。

 

 

 

明日は私が迎えに行くから、と伝えて今日はお別れした。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

翌日。

 

 

「いってきまーすっ!」

 

私は日の出よりも早起きをすると、ガチャガチャと慌ただしく準備をした。

丁度起きてきたお父さんとお母さんに挨拶をして家を飛び出した。

いつもユイの後ろをついて行っていた私が、朝早く1人で飛び出したことに、

お父さんもお母さんも驚いていたけど、そんなの気にしていられない。

ユイを1人で外に出させるのは危険だ。

山に向かって首を吊ってしまう。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

はぁっ・・・はぁっ・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

息が切れる・・・。

仕方がないことだ。

子供の頃の私は、とにかく運動が苦手でスタミナが無い。

・・・・・・高校生になっても大して変わらないけど。

こんなに全力で走っても、ユイの軽いジョギングに負けるかもしれない。

運動神経も行動力も抜群なユイが行動を開始したら、私は追い付けない。

ならば、先を見越して早め早めに行動するしかない。

 

 

 

でも・・・・・・こんな『先』は・・・・・・見越せないよ・・・・・・。

 

 

 

私がユイの家の前に着いた時・・・

 

 

 

救急車とパトカーが停まっていて・・・

 

 

 

日が昇ったばかりだというのに人集りが出来ていた・・・。

 

 

 

場所はユイの家の玄関付近・・・

 

 

 

嫌な予感しかしない・・・。

 

 

 

私は・・・ゆっくりと・・・人集りの中へ入っていく・・・。

 

 

 

丁度・・・誰かが担架で救急車に運び込まれるところだった・・・。

 

 

 

『誰か』だなんて・・・何言ってるんだろ・・・・・・。

 

 

 

どこからどう見てもアレは・・・・・・

 

 

 

頭から体から真っ赤な血を流しているアレは・・・・・・。

 

 

 

私がどれだけ『見間違いだ』と暗示しても・・・アレは・・・。

 

 

 

そうやって私が必死に無駄な否定をし続けていると、家の中からもう1人女性が出てきた。

今度は救急隊員ではなく、警察官2人に連れられてパトカーの方へ歩かされている。

乗りたくないらしく、必死に抵抗しているが、警察官2人には敵わない。

パトカーに乗る直前、最後の足掻きとばかりに叫びながら大暴れし始めた。

 

「あの子が悪いのよっ!!あの子がっ!!私をっ!!あんな目でっ!!見るからっ!!」

 

「アイツとっ!!同じ目でっ!!私を騙したっ!!アイツとっ!!」

 

「私のことっ!!『分かるから』なんてっ!!」

 

「私のことなんかっ!!何も分からないくせにぃっ!!」

 

必死の抵抗も、警察官の本気の抑え込みで一気に決着がついた。

パトカーの後部座席に押し込まれた女は、もう抵抗する気は無いようだった。

 

 

 

その女は・・・ユイの母親なのだろう。

 

 

 

今の叫びや、野次馬の中から聞こえる情報によると、

 

 

 

ユイは・・・まだ日が昇る前に母親から理不尽な暴力を振るわれ・・・

 

 

 

『助けて』と叫びながら外へ逃げようとして・・・

 

 

 

それを聞きつけた近隣の住人が飛び出してきて・・・

 

 

 

住人達が、玄関から出たすぐの路上で倒れているユイを発見したようだ。

 

 

 

勿論、通報したのは住人達で・・・

 

 

 

母親は、人に見つかりもう逃げ場は無いと思ったのか、家に閉じ籠ったようだ。

 

 

 

確かに、すぐそこの路上には・・・真っ赤な血溜まりがある・・・。

 

 

 

あれだけの出血・・・・・・一体どれほどの暴力を・・・?

 

 

 

素手で殴って、あんな量の出血をするか・・・?

 

 

 

ユイが・・・何をしたっていうんだ・・・。

 

 

 

ユイは・・・絶対に何も悪いことはしていない・・・。

 

 

    オイデオイデ・・・コッチニオイデ・・・

 

「っ!?」

 

この声・・・また頭の中に・・・。

 

 

 

何なの・・・この声は・・・。

 

    カワイソウカワイソウ・・・コッチニキテアゲテ・・・

 

どうして・・・こんなに苦しくて・・・悲しくなるの・・・。

 

 

 

この声を聞くと・・・この声に従うと・・・楽になれる気がしてくる・・・。

 

 

 

でも・・・ダメ・・・だ・・・。

 

 

 

声に従っちゃいけないって・・・私の本能が・・・そう言ってる・・・。

 

 

 

ただの夢のはずなのに・・・どうして・・・こんなに苦しまなきゃいけないの・・・。

 

 

 

私は・・・ただ・・・夢の中でいいから・・・親友と笑っていたかっただけなのに・・・。

 

 

 

夢でさえ・・・こんな結末になっちゃうの・・・?

 

 

 

左腕まで失って・・・1人で頑張って生きてきたのに・・・・・・。

 

 

 

・・・・・・左腕?

 

 

 

そうだ、私は左腕を失った・・・。

 

 

 

何故だったか・・・はっきり思い出せないけど・・・。

 

 

 

ユイの死と関係があって・・・・・・この嫌な声とも関係が・・・あって・・・・・・。

 

 

 

一体・・・どんな・・・関係が・・・・・・。

 

 

 

ダメだ・・・意識が遠くなる・・・・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

私は目を開けた。

やっぱりというかなんというか・・・今までと同じ場所で倒れていた。

これはもう・・・夢なんかじゃない・・・。

夢みたいな話だけど・・・ユイの死の1回1回が全てリアルに伝わってくる・・・。

この1回1回を現実と思うしかない・・・。

でも・・・何故毎回ユイが死ぬとここからやり直しになるの・・・?

いや、ユイが死んだまま時間が過ぎるよりは・・・ずっといいけど・・・。

 

「っ!?」

 

ふと、大木の枝を見て、私は息を呑んだ。

この大木は夏でも葉が茂ることはなく、一見すると既に枯れているように見える。

でも、1本だけ花が咲く枝があって・・・頑張って生きていることを主張している。

私が今見ている枝にも、花は咲いている・・・咲いているけど・・・。

 

 

 

何だか・・・・・・減ってる・・・ような・・・・・・。

 

 

 

今、その枝には花が5輪咲いている。

でも、最初の記憶では、もう少し多かった気がしてならない。

まさかとは思うけど・・・・・・。

 

「ハルっ!!ハルってば!!きいてるっ!?だいじょうぶなのっ!?」

 

生き返ったユイに体を揺さぶられて、私の嫌な考えは一先ず保留とした。

今回、ちゃんとユイを守り切りさえすれば、私の嫌な予想は無意味なんだから。

 

「あー、ごめん。ちょっと考え事しちゃってて・・・」

 

「かんがえごとぉー?」

 

「う、うん・・・」

 

「・・・もうっ!とつぜん たおれて かんがえごと だなんて きいたこと ないよっ!めいわく すぎっ!」

 

ユイはご立腹の様子で、頬を膨らませる。

 

「ごめん・・・」

 

「・・・・・・ふぅっ。・・・本当に だいじょうぶ なんだね?ぐあい わるい わけじゃ ないんだね?」

 

そんな怒った表情も一瞬だけ。

ユイは自分自身の都合で怒ることはなくて、怒っている時は決まって私のことを思っている時だ。

そして、思い遣りから生まれた怒りの表情はすぐに消え去る。

まだ心配そうに声を掛けてくれるユイに、笑顔で返事をする。

 

「うん、平気だよ」

 

「それなら よしっ!ほら、立てる?」

 

ユイも笑顔になり、私に右手を差し伸べてくれる。

その手を私が左手で握る。

起き上がった私の背中を、ユイがパンパンとはたいてくれた。

そして、もう一度手を握って、歩き始める・・・が。

 

「ほら、花火 見える ばしょ さがすよー。早く しないと 日が くれちゃう。・・・ん?どうしたの?」

 

私は顔を少し俯かせて足を動かさない。

そんな私を不思議に思ったユイが立ち止まる。

俯く私の顔を見上げるように覗き込む。

ユイと目が合った私は、顔を上げ、意を決して言葉を発する。

 

「ねぇ、ユイ・・・」

 

「ん?」

 

「今日はここまでにしてさ・・・私の家に来ない?」

 

「ハルの家?いいけど・・・花火の ばしょは いいの?」

 

「うん・・・。場所は・・・きっと何処からでもよく見えるよ」

 

「まぁ・・・そうかもしれないけど。ん、分かった。じゃ、行こっか」

 

「そ、それでね、ユイ!出来れば・・・その・・・・・・泊まってって欲しいんだけど・・・」

 

「えっ!おとまりっ?・・・あぁー・・・うちね・・・お母さんがね・・・うるさくてさ・・・そのー・・・」

 

それは知っている。

いや、さっき思い出した。

ユイの家は1年くらい前から母子家庭になっている。

何故かは知らないけど、父親は家を出たっきり帰ってこないらしい。

そして、父親が帰ってこない日々が続き、母親がおかしくなってしまった。

今まで優しかった母親が急変し、ユイに暴力を振るうようになった。

そうかと思えば、突然ユイに泣いて謝ったり、といったこともあったらしい。

ユイの額の包帯や、頬の絆創膏は全てそれが原因なのだろう。

そして、心優しいユイは、そんな母親を放っておけず、毎晩家に帰るのだろう。

これは全て、この変なループ世界に突入する前の世界で私の両親に聞いたことだ。

家庭の事情を理解出来る年齢になったと認められて。

私に伝えるか散々迷ったらしいけど、ユイに関することは全て伝えようと決めたらしい。

それは私にとって凄く有難いことだった。

もう新たにユイのことを知れない私が、そんな内容とはいえユイについて知れたのだから。

それにしても・・・当時の私は何を見ていたのだろう。

日々増えていく包帯に絆創膏・・・。

どう考えても『転んじゃったの』で説明がつくものじゃないのに。

ましてや、運動神経抜群のユイが、だ。

 

「あの・・・ハル?きいてる?・・・だからね・・・ちょっと・・・おとまりはー・・・・・・」

 

ちょっと考え事が過ぎた。

ユイは申し訳なさそうに私の返事を待っている。

こんな顔を見ると、こっちが謝りたくなる。

一刻も早く笑顔に戻したくなる。

でも、その結果は・・・さっき見た。

最悪の・・・何の救いも無い結果だった。

だから・・・退くわけにはいかない。

 

「そこを何とか!お願い!ほらっ・・・ユイとの思い出を出来るだけ作りたくてっ!」

 

まったくもって、嘘ではない。

自分の心に正直な言葉の1つだ。

 

「ハル・・・・・・。そうだね・・・ハルは・・・もうすぐ ひっこし しちゃうんだもんね・・・」

 

ユイは悩んでいる。

母親と私と・・・どっちを取るのか。

こんな残酷な天秤・・・出来れば持たせたくないけど・・・。

お願い・・・ユイ・・・そっちは死に繋がってるんだ・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

まだ悩み続けるユイ。

こうなったら最終手段だ。

ユイを騙すようで心苦しいけど・・・。

私は、少し俯いてユイの今までの死に様を思い出してみた。

勿論、胸が苦しくなって、悲しくなってくる。

泣きそうになってくる・・・涙が浮かんでくる・・・。

そう、これでいい。

充分に涙が浮かんだタイミングで、ユイを見据えて一言。

 

「ユイぃ・・・・・・」

 

「ハルっ!?」

 

この一言でユイは陥落する・・・絶対に。

案の定、ユイの悩みは吹き飛んだようだ。

慌てて両手で私の両肩を抱き締める。

 

「ハルっ!?なかないでっ!ねっ?分かったからっ!わたし、今日、おとまり するねっ?」

 

ぐすっ・・・・・・うんっ・・・・・・」

 

・・・・・・我ながら卑怯だと思う。

でも、ユイを守る為だから・・・許してくれるよね?

 

「じゃあ・・・・・・ちょっと 家に よって、きがえとか 持ってくるね」

 

「あっ、私もついて行くから!」

 

こうして私達は、花火の場所探しをやめて山を下りることになった。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

あれから、私達はユイの家に寄った。

 

 

 

私はユイの家には上がらなかった。

 

 

 

私の方から『外で待ってるね』って言った。

 

 

 

そんな私に、ユイは『ごめんね』って。

 

 

 

想像でしかないけど、家の中は・・・ソレを想像させ得る状態の可能性が高い。

 

 

 

勿論、ユイは私にそんな惨状を見られたくはないだろう。

 

 

 

・・・もし事情を知らなかったら、ユイを困らせていたのかな。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

私の家に着いて、日が暮れるまで遊んでいるとお母さんが帰ってきた。

お母さんに『ユイと一緒にお泊りしたい』と言ったら快諾してくれた。

ユイは家にメモを残してきたらしいけど、お母さんが改めて電話してくれた。

お母さんもお父さんも、ユイの家庭の事情を知っている。

だから、私は最初から断られるはずがないと確信していたのだった。

お母さんに『ご飯出来るまでお風呂入ってきたら』と言われた。

私は『一緒に入ろ』と言いかけたけど、ユイが緊張しているのを察した。

裸を見せるのが女の子として恥ずかしい、というものではないだろう。

きっと、あの服に隠された部分にも無数にあるんだ・・・痣が・・・。

そしてユイならば、それを私に見せまいとするはず。

そこで私は、言葉を変えて『どっちから入る?』と聞いた。

ユイは安心した様子で、『ハルからどうぞ』って。

よく考えたら、お母さんも『一緒に入ったら』とは言わなかったな。

 

 

・・・・・・・・

 

 

お風呂から上がった頃に、お父さんも帰ってきた。

『何日でも泊まっていきなさい』だって。

私達は当たり前のように一緒に食卓を囲んだ。

チラリと横に座るユイを見ると、涙を拭うような動作をしていた。

ユイ・・・・・・本当に・・・ずっと居ても・・・いいんだよ・・・?

このまま・・・引っ越し先にまで連れて行きたい・・・。

そんなことを思うと、私までユイと同じ動作をすることになった。

 

 

・・・・・・・・

 

 

普段は寝るような時間になっても、私達はなかなか寝なかった。

 

 

 

居間のテレビも普段より遅くまで見ていたし、部屋に戻ってからもお話が止まらない。

 

 

 

そして、そんな私達をお父さんもお母さんも何も注意しなかった。

 

 

 

寧ろ、凄くニコニコしてて、『元気付けてあげてね』って言われているようだった。

 

 

 

それでも、さすがに日が変わる頃には眠気の限界が来る。

 

 

 

私達は同じベッドで枕を並べて寝た。

 

 

 

『ちょっと暑いね』なんて笑いながら。

 

 

・・・・・・・・

 

 

夜中。

 

 

私は、何だか胸騒ぎがして目を覚ました。

私の左側が温かい。

良かった、ちゃんと居る。

胸騒ぎは気のせいだったんだろう。

そう思ってもう一度寝ようとした時だった。

 

グラグラグラグラッ!!

 

じ、地震だ!!

それも、かなり大きい!!

いや、『かなり』なんてものじゃない!!

家がミシミシと悲鳴を上げる。

ど、どうしたらいい!?

突然のことに、体が硬直して動かない!!

 

バキィッ!!

 

「危ないっ!!」

 

突然、私は右側に吹っ飛ばされ、床に体を打ち付けられた。

残った勢いで床をゴロゴロと転がる。

何が起きたのか分からない。

揺れが突然ピタリと収まる。

自分に起こったことを確認しようと、ベッドを見た。

・・・・・・私は・・・・・・絶句した・・・・・・。

 

 

 

「あ・・・・・・あ・・・・・・え?・・・・・・な・・・・・・んで・・・・・・」

 

 

 

最後の・・・あの大きな音・・・

 

 

 

あれは・・・天井板が割れた音だったらしい・・・。

 

 

 

そして・・・割れた板は・・・鋭利な刃となって・・・私達の上に・・・

 

 

 

いや、正確な位置をいえば・・・私の上に・・・

 

 

 

でも、そこには私は居なくて・・・

 

 

 

代わりに・・・・・・代わりに・・・・・・

 

 

 

「ユ・・・・・・イ・・・・・・?」

 

 

 

親友からの返事は無い・・・。

 

 

 

体を真っ二つにする勢いでお腹を貫かれて・・・

 

 

 

返事出来ないのは・・・当然だった・・・・・・。

 

 

 

ベッドが真っ赤に染まっている・・・・・・。

 

 

 

今の今まで・・・私の左側を温めてくれていたもの・・・・・・。

 

 

 

『ちょっと暑いね』って思うくらいに暖かかったもの・・・・・・。

 

 

 

それが・・・親友の体から・・・全部流れ出ていく・・・・・・。

 

 

 

「あ・・・・・・あぁ・・・・・・」

 

 

 

私が身動き出来ずにいると、お父さんとお母さんが部屋に飛び込んできた。

2人は私を挟み込むように両側に移動し、膝をついて肩を抱き寄せた。

そして、私と同じものを見て絶句した・・・。

私のせいで・・・・・・ユイは・・・・・・。

 

    ハル・・・サムイヨ・・・ハル・・・ハル・・・

 

ユイの声が・・・聞こえる・・・・・・。

 

    サミシイヨ・・・ハル・・・イッショニ・・・キテヨ・・・ハル・・・

 

ユイが・・・呼んでる・・・・・・。

 

    ハル・・・ハル・・・イッショニ・・・イコウ・・・ヤマヘ・・・イコウ・・・

 

山に・・・行く・・・・・・行かなきゃ・・・・・・。

 

 

 

「ユイ・・・・・・今・・・・・・行く・・・から・・・・・・」

 

 

 

私は・・・ゆっくりと・・・ふらふらと・・・外に向かって・・・。

 

パシンッ!

 

その時、私は初めてお父さんに頬を引っ叩かれた。

 

 

 

記憶の限りでは、生まれて初めてだった。

 

 

 

とても痛かった。

 

 

 

その後、すぐにお父さんとお母さんに抱き締められた。

 

 

 

とても暖かった。

 

 

 

お父さんもお母さんも泣いていた。

 

 

 

いつの間にか、ユイの声は聞こえなくなっていた。

 

 

 

気が遠くなっていく・・・・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

私は思い出していた・・・。

 

 

 

あの時のユイの呼び声・・・

 

 

 

あれにも聞き覚えがある・・・。

 

 

 

ユイが死んで・・・それでも会いに行って・・・。

 

 

 

さっきと同じように『一緒に来て』と言っていたユイ。

 

 

 

私は・・・どうした?

 

 

 

私は・・・断ち切った・・・ユイとの繋がりを・・・左腕ごと・・・。

 

 

 

その時の・・・ユイの断末魔・・・。

 

 

 

私は・・・ユイの願いを・・・断ち切ったんだ・・・・・・。

 

 

 

そして・・・私にはもう・・・幽霊となったユイすら・・・見えなくなった・・・。

 

 

 

縁を・・・断ち切ったから・・・・・・。

 

 

 

それでも・・・居ると信じて・・・

 

 

 

ユイが首を吊ったと思われるこの大木をお墓と見立てて・・・

 

 

 

引っ越しの当日まで毎日お参りをした。

 

 

 

ユイが居ると思って・・・話し掛けた。

 

 

 

どんなことを話したっけ・・・。

 

 

 

「ハルっ!起きてっ!ハルってば!」

 

そうだ、起きなきゃ。

私は目を開けた。

 

「良かった、起きた。突然倒れちゃうからビックリしたよ」

 

ユイは一安心といった感じで微笑む。

私はそんなユイよりも気になるものがあって目を移す。

 

 

 

・・・・・・4輪しかない。

 

 

 

私が即座に確認したのは大木の枝に咲く花の数。

前回は5輪だった。

その前はもっと多かった記憶がある。

そして、今は4輪・・・。

これは意味するところは・・・1つだ。

 

 

 

ユイが死ぬ度に・・・時間が巻き戻る度に・・・花が1輪ずつ減るんだ・・・。

 

 

 

じゃあ・・・花がゼロになったら・・・ユイはどうなるの・・・?

 

 

 

「どうしたの?怖い顔しちゃって。ハルらしくないよ?」

 

ユイが私を覗き込んで視界を塞ぐ。

今度は・・・この子を守れるんだろうか・・・。

いや、『守れるかどうか』じゃない!

『守る』!それしかない!

その為には何か策を考えないと・・・。

家に泊めるだけじゃ足りないんだ。

相手はこの町に巣食う怪異なんだから。

そんな簡単な手は通用しない。

 

「・・・・・・怪異、か・・・」

 

「ん?何か言った?」

 

そうだ、怪異には怪異なりの対応が必要だ。

確か、隣町には怪異に詳しい女の子が居たはず。

夜な夜な夜廻りをしているみたいだから、歩き回れば出会えるだろう。

ムカデ神社によく居た気がするし。

現時点では面識は無いだろうけど、話してみる価値はある。

そうと決まれば、今回も早々行動を起こさないと。

 

「あのー・・・・・・さっきから無視されてて寂しいなー」

 

「あっ、ごめん!」

 

そういえば全然ユイの相手をしていなかった。

 

「どうしたの?考え事?」

 

「あー・・・うん、ちょっと・・・隣町に行こうかなってね」

 

「隣町に行きたいの?じゃあ、行く?花火が見える場所は・・・また明日でもいいし」

 

「いいの?」

 

「うんっ。ハルの行きたい所に行こう。私は、ハルと一緒なら何処だっていいよっ」

 

私と一緒なら何処だって、か・・・。

私がユイと一緒に居たいって思うように、ユイも同じことを思ってくれているんだ。

離れ離れになって寂しいのは、ユイも一緒なんだ。

あの時も・・・・・・一緒に来て欲しかったんじゃ・・・ないかな・・・・・・。

縁を切ったのは・・・・・・間違いだったんじゃ・・・・・・。

・・・いやいや、今考えなきゃいけないのは、この生きているユイを助けることだ。

そうすれば、未来は変わって、あんな悲しいお別れはしなくて済むんだから。

 

「どうしたの?行かないの?」

 

「う、ううん!行く行く!」

 

私達は山を下りて隣町へ行くこととなった。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

もうすぐ隣町に入る。

隣町は、そんなに遠くは無い。

普段から、たまに行くこともあるし。

さすがに、夜の隣町の全てを知っているわけではないけど・・・

あの子が夜廻りを続けるくらいだから、相当出るのだろう。

でも、今はまだ明るいから関係ない。

明るいうちに出会えたらいいんだけど・・・。

家にも一度行ったことがあった気がするんだよね・・・。

どの辺りだったか・・・・・・歩いてたら思い出すかな。

私達は、道路を渡るために、人も車も居ない横断歩道を歩いていた。

その時だった・・・。

 

「えっ・・・・・・」

 

何も走っていなかった道路に、突然トラックが沸いて出た。

凄いスピードでこちらに向かってくる。

突然のことに、私は身動きが出来ない。

轢かれる!?

 

「ハルっ!!危ないっ!!」

 

ドンッ!!

 

私はユイに突き飛ばされ、アスファルトに転がった。

それに少しだけ遅れて鈍い音が響いた。

体を起こした私が、音の発生源付近を確認すると・・・。

 

 

 

「そ、そんな・・・・・・また・・・・・・なの・・・・・・?」

 

 

 

親友が血だまりに伏していた・・・・・・。

 

 

 

隣町に・・・行かせない・・・ってこと・・・?

 

 

 

今度こそ守るって・・・心に決めたのに・・・。

 

 

 

また・・・ユイを・・・こんな惨い姿に・・・・・・。

 

ピクッ

 

「っ!?い、今・・・動いた!?ユイ!!」

 

私は慌てて駆け寄る。

確かに今動いた、ユイの右手が。

私はその右手を両手で握る。

 

「ユイぃ!!」

 

「・・・・・・ハル・・・・・・良かった・・・・・・」

 

「ユイぃ!!ユイぃ!!」

 

私は親友の名前を連呼することしか出来ない。

高校生だというのに何て情けないんだろう。

 

「ハル・・・・・・」

 

「な、何?」

 

「・・・・・・絶対・・・・・・こっちに来ちゃ・・・・・・ダメだから・・・・・・ね・・・・・・」

 

「え・・・・・・」

 

「・・・・・・生きて・・・・・・ハル・・・・・・」

 

それだけ声を絞り出すと・・・親友は微笑んだ・・・。

 

 

 

そして・・・もう二度と動くことは無かった・・・。

 

 

 

ユイは・・・・・・最後に笑ったんだ・・・・・・。

 

 

 

苦しかっただろうに・・・

 

 

 

痛かっただろうに・・・

 

 

 

怖かっただろうに・・・

 

 

 

最後に・・・笑ったんだ・・・。

 

 

 

ユイ・・・・・・君は一体どれ程に・・・・・・。

 

 

 

その時、私の耳にあの声が響く・・・。

 

    サミシイヨ・・・ハル・・・イッショニ・・・キテヨ・・・ハル・・・

 

「・・・・・・うるさい」

 

    ヒドイヨ・・・ハル・・・ワタシハ・・・ハルノタメニ・・・シンダンダヨ?

 

「・・・・・・黙れ」

 

    ハルハ・・・ワタシノコト・・・キライナノ?・・・ズットイッショ・・・デショ?

 

「ユイは・・・・・・ユイは!そんなこと!言わないっ!!」

 

バキッ

 

私は自分の右手を握り締め、力一杯地面に叩きつけながら叫ぶ。

嫌な音がして、拳が砕ける。

痛い・・・・・・でも、ユイはこんなものではなかったんだ・・・。

痛みのおかげか、偽物のユイの声は聞こえなくなった。

さぁ、早く戻せ・・・。

そっちが本気なのは分かった・・・。

今度は・・・一切手を抜かない・・・油断しない・・・。

その心の声が届いたのか、程なくして意識が遠のいていく・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

私は目を見開いた。

念の為、大木の枝を確認する。

花は・・・3輪だ。

ユイが生き返れるのは残り3回・・・いや、花ゼロの状態がOKか分からない。

残り2回だと思って動くべきだろう。

それにしても・・・ユイのこともそうだけど、私は?

花が無くなったら私はどうなるの?

やっぱり死ぬのかな・・・もう自殺してるわけだし・・・。

 

 

 

・・・・・・・・・え?

 

 

 

今・・・・・・なんて・・・?

 

 

 

自殺?・・・私が?

 

 

 

・・・・・・そうだ、私・・・・・・自殺したじゃないか。

 

 

 

この大木の枝にロープを引っかけて・・・首を吊ったじゃないか・・・。

 

 

 

1人で生きていくのが辛過ぎて・・・・・・

 

 

 

ユイがいない世界が寂し過ぎて・・・・・・

 

 

 

何で忘れてたんだろう・・・・・・。

 

 

 

でも、この世界は天国でも地獄でもなさそうだ。

 

 

 

不思議なことに巻き込まれた・・・それしか分からない。

 

 

 

とにかく、今ここには生きているユイがいるんだ。

死なせていいはずがない。

私が自殺してようとどうだろうと、やることは変わらない。

今度はもう作戦を考えてある。

私は、ユイに声を掛けられる前に体を起こす。

 

「あ、起きた。どうしたの?大丈夫?」

 

「ユイっ!」

 

私はユイの質問に答えることなく、ユイの名を呼ぶ。

しっかりと、目を見据えながら。

 

「えっ?あ、はいっ!」

 

私の気迫のせいか、ユイが姿勢を正す。

 

「この町から離れよう!」

 

「・・・え?・・・隣町に行くってこと?」

 

「そんなんじゃダメだ!もっと遠く!こんな変な化け物なんかが出ない街へ!」

 

「・・・・・・お金はどうするの?歩いては行けないよ?」

 

「それは・・・何とかなるよ」

 

本当に何とかなるんだ。

私の家は非常用にタンス預金をしていて、その場所は私も知っている。

いや、知らされている。

お父さんとお母さんが、私がどうしても困った時に使えるように、って。

絶対に無駄遣いはしないだろうという、両親の信頼の証でもある。

現に、私は一度も・・・高校生になっても一度たりとも手をつけていない。

子供の頃、お母さんにお絵かきセットをねだった時、

『今はサイフにお金が入ってないから、ここから出すね』と言ったお母さんを、

私は『ダメだよ。どうしても困ってるわけじゃないから。だから我慢する』

そう言って制止したことがある。

その時、お母さんは、いっぱい頭を撫でて抱き締めてくれた。

後日、ちゃんと普通のお金で買ってくれたんだけど。

そんなお金が・・・家に帰れば・・・ある。

 

「・・・・・・そっか。何とかなるんなら・・・・・・行ってみよっか」

 

「えっ?・・・あ、うん・・・」

 

「ん?どうかした?」

 

「いや・・・・・・何でも・・・・・・」

 

自分で言い出しておいて何だけど、この話は通らないんじゃないかと思っていた。

少なくとも、根気強く説得が必要だと思っていたから拍子抜けだ。

何だか調子が狂うけど、話に乗ってくれるなら助かる。

私達は山を下りて、それぞれ一時帰宅することになった。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

私の家のタンスには、やはりお金があった。

封筒に入っていて、『ハル貯金』と書かれてあった。

封筒を見たのも初めてなんだから、当然中身を見るのも初めてだ。

中を見て驚いた。

中には福沢諭吉が描かれた紙幣が・・・50枚も入っていた。

小学3年生の娘に対して、非常時に使えるように用意する額ではない。

高校生ですら持て余してしまう。

どれだけ私を信用してくれているのだろう・・・・・・目頭が熱くなる。

 

「お父さん、お母さん、初めてこのお金を使います。有難う。・・・それと・・・ごめんなさい!」

 

私は頭の中に浮かべた両親にお礼と謝罪をすると、外に出た。

丁度、ユイが準備を終えてこちらに到着した。

2人お揃いのうさぎリュックが揺れる。

そして色違いのリボン。

ユイの右手と私の左手をしっかり繋いで。

どれだけの人が私達を姉妹と勘違いするだろうか。

でもきっと、誰に聞いても私が妹なんだろうな。

私達は・・・目的地の無い冒険に出た。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

ここはどの辺りなんだろう?

かなりの都会のようだけど・・・。

日もすっかり暮れてしまった。

バスや電車を乗り継いで、かなりの時間移動した。

だから、あの呪われた町からは遠ざかったはずだ。

あとは、どうやって数日間を過ごすか、だ。

ここが一番難しい。

なにぶん、こちらは2人とも小学生だ。

本当は私は高校生なのだけど。

こうなると、いくらお金があってもホテルなんて泊まれないし、

24時間営業の飲食店で『お母さんを待ってるんです』も厳しい。

ただ、この街には怪異は出ない。

それは素晴らしいことだ、本当に。

さすがに私達ほどの子供は親子連れでない限り見かけないけど、

中学生や高校生の集団が笑いながら街を闊歩している。

・・・この時間に遊んでいる以上、宜しい人達ではないだろうけど。

 

「・・・どうしようかなぁ」

 

「・・・・・・」

 

私がポツリと呟きながら、チラリとユイの方を見る。

ユイの様子はというと、さっきからずっと微笑んでいる。

私との冒険が楽しいってこと・・・かな?

『どこでも付いていくよ』って言われているような気がする。

それはそれで有難いんだけど・・・・・・本当、どうしよう。

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

私達は・・・警察署に居た。

そりゃそうだ。

深夜の町をこんな子供が歩いていたら誰だって補導する。

ちゃんと警察が仕事をしただけだ。

最初は交番に連れていかれたんだけど、

私の反応が不審だったのと、大金を持ち歩いていたのもあって、

交番よりも上のランクに昇格してしまった。

2人揃って長椅子に座らされ、婦人警官2人に事情を聴かれていた。

でも、私達は何も答えない。

示し合わせたわけでもないのに、ユイも何も喋らなかった。

まるで、私の意図を全て汲んでくれているようだ。

ただ、私が持っていた大金に窃盗疑惑が発生した時は、

私よりも先に『誰からも盗んでない!』と全力で否定してくれた。

この婦人警官を困らせるのは心苦しいが、今は言えない。

持ち物に住所が分かるものは持ってない、持ってこなかった。

これまた、ユイまで持って無かったのには驚いたけど。

ということは、私達が住所を自供しない限り、私達はこのままだ。

それは非常に都合がいい。

安全な警察署で、警察官に見守られながら、危険な夜を明かすことが出来る。

このまま黙り続ければ、何日だって過ごすことが出来る。

カツ丼代は自費だって聞いたことがあるけど、お金はある。

他にも費用を徴収されるかもしれないけど、

お金が尽きたからといって、小学生2人を放り出すことはないだろう。

このまま粘って、引っ越しの予定日に電話番号を伝えよう。

そして、もう犯罪でも何でもいいから、ユイも連れて行こう。

お父さんお母さんに必死に泣きついて。

ユイの家庭の事情を知っているから、もう少し話を誇張すれば可能性はある。

その時は、ユイのお母さんが逮捕されるかもしれないけど・・・。

事情はどうあれ、ユイを殺すような人の安否なんて構っていられない。

 

 

 

私がこんな考えを巡らせていた時だった。

 

 

 

ユイが・・・突然・・・倒れた・・・。

 

 

 

慌てて婦人警官に支えられる。

 

 

 

凄い熱が出ているようだ・・・。

 

 

 

息も苦しそうで、自分で立つことは不可能な状態・・・。

 

 

 

まさか・・・これも・・・?

 

 

 

ユイはすぐに呼ばれた救急車で病院へ。

 

 

 

私もついていく許可を貰った。

 

 

 

集中治療室に入ったユイを、部屋の出口付近で座って待つ。

 

 

 

病院でも連絡先を聞かれ、さすがに話すしかないと思って自宅の電話番号を伝えた。

 

 

 

それから数時間が経って、私のお父さんとお母さんが到着した。

 

 

 

ユイのお母さんは・・・来なかった。

 

 

 

私は、お父さんとお母さんの顔を見ることが出来なくて、ただただ顔を伏せていた。

 

 

 

そんな私を、お父さんとお母さんは叱ることもなく、顔を無理やり上げさせることもなく、

 

 

 

ただ、長椅子に座る私を挟むように黙って両側に座っただけだった。

 

 

 

その間、私は一言『ごめんなさい』と絞り出すのがやっとだった。

 

 

 

お父さんは、そんな私の頭を撫でてくれて・・・お母さんは背中に手を置いてくれた。

 

 

 

それから更に何時間経ったんだろう・・・ようやく出てきた先生が言ったのは・・・。

 

 

 

ユイが・・・・・・息を引き取ったという・・・・・・最悪の報告だった・・・・・・。

 

 

 

ここまで来ても・・・ダメなのか・・・。

 

 

 

あの神様、いや、化け物は・・・・・・見逃してくれないのか・・・。

 

 

 

私達はただ・・・命を持っていかないで欲しい・・・それだけなのに・・・。

 

 

 

どうして・・・・・・どうしてなの・・・・・・?

 

 

 

どうして・・・逃げ惑う小さな命を奪っていくの・・・・・・。

 

 

 

生きる為に・・・必死に抗っている命を・・・平気で奪っていくの・・・・・・。

 

    ハル・・・・・・クルシイヨ・・・・・・ハル・・・・・・アイタイヨ・・・・・・

 

また例の声が聞こえてくる。

 

 

 

この声は、弱った心に付け込んで、人を操り人形みたいにしてしまう。

 

 

 

親しい人の声を真似て、もはやその人が呼んでいるようにしか聞こえなくなる。

 

 

 

聞きたくてももう聞けないはずの声が聞こえてきて・・・どんどん引き込まれていく。

 

 

 

その声を聞いていると、救われるような錯覚さえする。

 

 

 

でも、この声に従った先に待っているのは・・・死だ。

 

 

 

その辺の記憶は戻っているし、それが分かる程度には私は冷静だ。

 

    ハル・・・ハル・・・サミシイノ・・・・・・イッショニイテ・・・・・・ズットイッショニ・・・・・・

 

親友を真似た声が聞こえてきても冷静でいられるのは・・・

 

 

 

もう既に、ユイの本当の声を知っているからだ。

 

 

 

『・・・・・・絶対・・・・・・こっちに来ちゃ・・・・・・ダメだから・・・・・・ね・・・・・・』

 

 

 

『・・・・・・生きて・・・・・・ハル・・・・・・』

 

 

 

ユイは・・・私が生きることを望んでいる。

 

 

 

間違っても、道連れにしようだなんて考えていない。

 

 

 

だから、この死への呼び声は全て嘘だと跳ね除けることが出来る。

 

    ハル・・・ヒトリハ・・・サミシイノ・・・・・・ズットイッショニ・・・・・・イタイヨ・・・

 

そう・・・全て・・・跳ね除けることが・・・・・・。

 

    ハルトイッショニ・・・イラレタラ・・・ソレダケデ・・・ウレシイノニ・・・

 

すべ・・・て・・・・・・跳ね・・・除け・・・・・・。

 

    オイテイカナイデ・・・ハル・・・ヒトリハ・・・イヤダヨ・・・

 

・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

ユイの本当の『声』は・・・私に生きて欲しいと願うものだ・・・。

 

 

 

それは間違いない・・・。

 

 

 

トラックに轢かれたユイの口から出た・・・本当の『声』だ・・・。

 

 

 

でも・・・・・・ユイの・・・本当の『心』は?

 

 

 

もし・・・今聞こえてくるのが・・・本当の『心』だとしたら・・・?

 

 

 

やっぱり・・・あの時・・・ユイと縁を切ったのは・・・間違い・・・?

 

    ハル・・・ドウシテ・・・キテクレナイノ・・・?

 

私は・・・あの時・・・一緒に行ってあげなきゃいけなかった・・・?

 

    ハルトイッショナラ・・・ドコデモ・・・シアワセ・・・

 

後々になって自殺するくらいなら・・・その方がユイも喜んでくれたんじゃ・・・。

 

    カワイソウカワイソウ・・・ヒトリボッチハカワイソウ・・・

 

ダメだ・・・体が・・・震える・・・・・・。

 

    キテアゲテ・・・イッショニキテアゲテ・・・

 

手足が冷たくなって・・・・・・動かなくなる・・・・・・。

 

    テヲツナイデアゲテ・・・

 

あの時の光景を・・・鮮明に思い出してしまった・・・・・・。

 

    ハル・・・ホラ・・・テヲツナゴウヨ・・・

 

ユイに関する記憶の中で・・・唯一消したいと願って止まない記憶・・・。

 

    イカナイデ・・・ハル・・・

 

でも、そんな記憶ほど根強く残って・・・・・・

 

    コワイヨ・・・ハル・・・タスケテ・・・

 

嫌だ・・・・・・苦しい・・・・・・

 

    ハル・・・ハル・・・

 

早く・・・・・・早く戻って・・・・・・。

 

 

 

私の必死の思いが届いたのか、また意識が遠のいていく・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

何度目かの背中に感じる地面の感触。

 

 

 

目を開けなくても、これだけで戻ったことが分かる。

 

 

 

体の震えや手足の冷たさも解消している。

 

 

 

これでまたユイは生き返ったわけだけど・・・暢気に喜んでいられない。

 

 

 

私は目を開ける。

 

 

 

目の前の大木に咲く花は・・・残り2輪。

 

 

 

私の気分は・・・この天気とは真逆に大雨だ。

 

 

 

残りチャンスが少ない、というのもあるけど・・・

 

 

 

何より、『一体何回ユイを殺す気なんだ』という自己嫌悪が心の嵐となっている・・・。

 

 

 

この世界では、ユイは確かに何度も生き返るけど・・・

 

 

 

その回数分だけ、死の恐怖や苦しみを味わうことになるんだ・・・。

 

 

 

色んな方法を考えて試してみたけど・・・どれも失敗して・・・。

 

 

 

考えつく限りの手を・・・試して・・・・・・。

 

 

 

いや・・・・・・確かに・・・もう1つ手はあるけど・・・・・・。

 

 

 

もう1つ・・・・・・早々と浮かんだ手はあるけど・・・・・・。

 

 

 

でも、それは・・・・・・私のトラウマに直結していて・・・・・・。

 

 

 

少し考えるだけでも・・・体が震えてきて・・・・・・。

 

 

 

目の前に対峙なんてした日には・・・どうなることか・・・・・・。

 

 

 

ユイが、私に生きて欲しいと願ってくれるのは分かる。

 

 

 

あの時、私がユイとの縁を切った時。

 

 

 

あの呼び声は悪霊の声であって、ユイの声ではなかった。

 

 

 

だから、あの時、縁を切ったのは正しかったんだ、と。

 

 

 

それは・・・今までのやり取りで十分に分かっているはずのことだ。

 

 

 

ユイのことを一番よく知っているのは私じゃないか。

 

 

 

ユイは間違っても私を道連れにするような考え方はしない。

 

 

 

そう信じている。

 

 

 

でも・・・もう一度あの状況になったら・・・・・・。

 

 

 

あの声が聞こえてきたら・・・・・・。

 

 

 

私は・・・・・・それでも・・・『絶対大丈夫』と言い切れるのか・・・・・・?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

何だ・・・私・・・あの頃の方が強いんじゃないか・・・・・・?

 

 

 

体だけ大きくなって・・・心は萎んでしまったのか・・・。

 

 

 

そんなだから・・・自殺なんてするんだ・・・・・・。

 

 

 

本当・・・・・・救えない・・・・・・。

 

 

 

「ハルー?どうしたのー?目を開けたまま寝てるのー?」

 

ユイが倒れたままの私を覗き込んできた。

 

 

 

あと2輪・・・・・・ある。

 

 

 

今までのことを考えれば、少なくとも、あと1回はループ出来るだろう・・・。

 

 

 

でも・・・ループを重ねる毎に・・・私の心は疲れ果てていく・・・。

 

 

 

花の在庫はあっても・・・心が次のループまで保てるかどうか・・・・・・。

 

 

 

私は・・・壊れることなく・・・目の前の・・・世界一綺麗な花が散るのを防げるのだろうか・・・。

 

「・・・・・・私ってさ・・・・・・本当、弱いね・・・」

 

思わず零れた弱音だった。

零すつもりなんて無かったのに。

自分の中に抑え込み切れなくなってしまった。

でも、もういいや。

これでユイにも弱いって認めてもらって・・・

そうすれば・・・もう・・・逃げてもいいのかな・・・。

 

「・・・・・・強いと思うけど?」

 

「えっ!?何でっ!?どこがっ!?」

 

予想外の答えに、私は体を起こしてユイに向き直る。

そんな私に、ユイは微笑みながら答える。

 

「だってさ、ハルって頑張り屋さんだもん。どんな苦手なことでも、最後まで頑張るもん」

 

「・・・・・・」

 

「確かに、何でも出来るわけじゃないよ?走るのだって、ずっと苦手なままだもんね?」

 

「・・・・・・」

 

「でもね。運動会でもさ、走るの苦手だけど・・・ビリになっちゃうけど・・・それでも頑張って走るじゃない?」

 

「・・・・・・」

 

「走りだけじゃなくってさ。他でもそう。ハルは最後までどんなことでも頑張るもん」

 

「・・・・・・」

 

「それってさ・・・凄くカッコイイし、強いと思うよ?」

 

「・・・・・・」

 

ユイは・・・私に微笑みかける。

 

 

 

・・・・・・何で・・・そんなこと言うんだよ・・・・・・。

 

 

 

そんなこと言われたら・・・・・・言われたら・・・・・・。

 

 

 

目が熱くなる・・・。

 

 

 

胸が熱くなる・・・。

 

 

 

心が熱くなる・・・。

 

 

 

そんなことを言ってくれる親友を・・・・・・

 

 

 

守らなくてどうする!!

 

 

 

全力で!!

 

 

 

最後まで!!

 

 

 

諦めずに!!

 

 

 

頑張らなくてどうする!!

 

 

 

もう逃げられない・・・いや、逃げない!!

 

 

 

私は・・・・・・やる!!

 

「・・・・・・」

 

私は、静かに起き上がると、背中の土を払った。

そして、大木に咲く2輪の花を見つめる。

あと2輪あるから、なんて考えはダメだ。

今回無理だったらどうしよう、なんて考えもダメだ。

そんな甘い考えでは、弱い考えでは、ユイを救えない。

これで決める。

今回で最後にする。

私は・・・全力を尽くす!

 

 

 

花を見つめながら、そんな決意をした時だった。

 

「えいっ!」

 

プチプチッ

 

「・・・・・・え?」

 

何と、ユイは残った2輪の花を摘み取ってしまった。

運動神経抜群のジャンプによって。

 

「え・・・ちょ、ちょっと!ユイ!なんてことを!?」

 

これで最後にする、とは誓ったものの、戸惑いを隠せない。

傍から見ると、こんなに戸惑うなんて自分でも変だと思うけど・・・。

でも、ユイが摘んでしまった花は普通の花ではなくて・・・。

とても大切な・・・2人の生命線で・・・。

そんな戸惑いっぱなしの私に対して、ユイはクルリと向き直って微笑む。

 

「誰かさんの決意が揺らぐとダメだと思ってね。もう覚悟は決まったんでしょ?ハル」

 

「・・・・・・・・・え?・・・それって・・・・・・どういう・・・・・・?」

 

「分からない?そうだよね。じゃあ・・・とりあえず、全部思い出してみたら?」

 

「え、ちょ、ちょっと・・・これ・・・は・・・・・・?」

 

突然、意識が遠のいていく。

これは、もうお馴染みの感覚ではある。

でも・・・こんな状況で一体なぜ・・・?

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

セミの声が響き渡る。

ここは・・・山の入口だ。

私は、山の上の方を見つめている。

・・・何だか目線が高いな。

もしかして・・・・・・。

私は、自分の体を確認しようとした。

でも、全然体が動かない。

・・・いや、それは正確じゃない。

体は動く・・・・・・勝手に。

『私』の体は、私の意思とは無関係に勝手に山を登り始めた。

自由に動かないなりに感覚を研ぎ澄ませると、左腕の感覚が無いのが分かる。

やはり、そうだ。

今、『私』は高校生の体に戻っている。

左腕を失っているから、元の世界の『私』、ということなんだと思う。

こうなる直前のユイの『思い出してみたら』というセリフも踏まえると、

今から起こるのは、『私』が自殺するまでの再体験なのかもしれない。

正直、もう一度自殺を経験するなんて避けたいんだけど、

ここまでしてくれるからには、意味があるものなんだろうと受け取っておこう。

 

 

 

そんなことを考えているうちに、『私』は順調に自殺場所を目指して登っていく。

途中には、『命を大切に!お困りの際はこちらへ連絡を』という看板がある。

この看板から分かる通り、この山はこの辺り一番の自殺の名所となっている。

周囲一帯で行方不明になった人がいたら、ほぼ確実にこの山で自殺している、というくらいに。

そこまで分かっていても、捜索はなかなかされなかった。

何故かというと、捜索の為に山に入った家族や親戚が、次々と事故や自殺で死んでしまったから。

何とか山から生きて下りてきた人も、後でおかしくなってしまったらしい。

勿論、子供の頃はそんなこと知らなかった。

引っ越しの後、定期的にユイのお墓参りの為に町へ戻っているうちに得た情報だ。

今思えば、全てはあの化け物のせいだったんだ。

山に巣食うあの化け物・・・恐らく、その正体は縁結びの神様だ。

昔、あの山では縁結びの神様を祀っていて、

将来を誓い合った男女の良縁や、独身の人が運命の人に出会えるよう良縁を祈願していたらしい。

ただ、徐々に願いは過激になっていって・・・

『死んだあの人とあの世で結ばれますように』と後追い自殺する人が出てきたり・・・

振られた腹癒せに『2人であの世で結ばれますように』と道連れを願う自殺者が出てきたり・・・

曲がった願い事をする人が多くなったらしい。

それが、神様を邪神へと・・・化け物へと変化させたのかもしれない。

そして、私達はその化け物を倒した。

それからは、街で行方不明者が出ることはなく、時折山を巡回しても、自殺者はいないらしい。

自殺しようと山に入った人は居たらしいけど、途中で気が変わったとか言ってるらしい。

とにかく、この看板はそんな忌まわしき過去の名残だった。

 

 

 

でも、『私』の自殺は・・・こんな看板では止まらなかった。

しばらく足を止めることにはなったけど・・・。

せっかく、自殺者ゼロになっていたのに、町の人達にも申し訳ない。

 

 

 

『私』は再び山を登り始める。

 

 

 

と、そんな時だった。

 

    帰りなさい・・・山を降りなさい・・・

 

どこからともなく声が聞こえてきた。

 

    これ以上進んではいけません・・・

 

『私』には聞こえていないのか、特に反応する様子は無い。

 

 

 

確かに、当時の私もこんな声が聞こえた記憶は無い。

 

 

 

それよりも、気になるのは・・・山に入った者に語り掛ける声が復活していること・・・。

 

 

 

どういうことだ・・・・・・まさか・・・またあの化け物が復活して・・・・・・。

 

    引き返しなさい・・・

 

・・・・・・いや、違う。

 

    今すぐに帰りなさい・・・家族の待つところへ・・・

 

山の声は復活しているけど・・・・・・決定的に違うことがある。

 

 

 

山の声は・・・人を死に誘っていない。

 

 

 

いや・・・それどころか・・・・・・。

 

    ここに来てはいけません・・・

 

そんな声も『私』には届かない。

 

 

 

足を止める気配は無く、確実に自殺地点へ近づいていく。

 

    あなたを大切に想う人がいます・・・

 

足は止まらない。

 

 

 

残すは、綺麗なのにどこか寂しさを感じる景色が広がる展望スポットの一本道のみ。

 

 

 

確実に・・・確実に・・・あの大木へ近づいていく。

 

    今すぐに引き返しなさい・・・思いとどまりなさい・・・

 

足は止まらない。

 

    ダメです・・・死んではいけません・・・

 

遂に大木に到着する。

 

    お願い・・・聞いて・・・

 

足場とする木箱を移動させる。

 

    やめなさいっ・・・やめなさいっ・・・

 

木箱に乗り、細さの割に強靭なワイヤーロープを肩掛けバッグから取り出す。

 

    こっちに来ちゃダメ!

 

ワイヤーロープを枝に吊るし、輪っかを作って首にかける。

 

    やめてっ!!ハルっ!!

 

『私』は・・・木箱を蹴った・・・。

 

 

 

『私」は首だけで大木にぶら下がり自殺は完了・・・・・・

 

バツンッ!!

 

ドサッ!

 

・・・・・・しなかった。

 

 

 

自殺は・・・完了しなかった。

 

 

 

何故か首が締まった瞬間、強靭なはずのワイヤーロープが弾け飛んだ。

 

 

 

結果、『私』は支えるものを失い、背中からすぐそばの地面へ落ちた。

 

 

 

それと同時に、幽体離脱したみたいに、私の意思が外に放り出された。

 

 

 

体はまた子供に戻ってるけど、自由に動けるみたいだ。

 

 

 

私は、仰向けで倒れている『私』を見下ろす。

 

 

 

『私』は、首が締まったショックで気絶しているようだ。

 

 

 

続いて、ワイヤーロープを確認してみると、凄く鋭利な刃物で切ったような断面だった。

 

 

 

そして、何よりも気になるのは・・・声の主だ。

 

 

 

最初こそ、声色が山の神を真似たようなものだったけど・・・

 

 

 

最後の方は・・・あれはもう・・・完全に・・・・・・。

 

 

 

と、その時・・・私は気付いた。

『私』のすぐ傍に・・・薄っすらとだけど人のような形の『何か』がある。

目を凝らすと、その『何か』の正体が薄くもはっきり認識できた。

『何か』は・・・・・・ユイだった。

死んだ当時の見知った姿のまま、両膝をつき、心配そうな表情で『私』の右手に両手を重ねている。

 

「ユイ・・・・・・」

 

ユイは・・・こちらを向くことはなかった。

私の声は聞こえないのかもしれない。

話し掛けるのは諦めて、すぐ隣にしゃがみ込む。

すると、ユイの声が聞こえてきた。

ユイを見ると、口は動いていない。

これは・・・・・・心の声?

 

(・・・・・・どうしたらいいの・・・・・・・・・どうしたらいいの!?)

 

ユイの目には涙が溜まっている。

 

(ロープが無くなっても・・・自殺の方法は他にもある・・・)

 

(このままじゃ・・・目を覚ましたハルは・・・今度こそ自殺しちゃう・・・)

 

(縁結びの力を使おうとしても・・・ハルの自殺を止められるほどの縁を結べる相手が・・・見つからない!)

 

(家族でもダメだなんて・・・・・・ハル・・・・・・)

 

(私のこと・・・今でもそんなに想ってくれるんだね・・・・・・それは嬉しい・・・嬉しいけど・・・でも!)

 

(寂しい思いをさせちゃったことも・・・悪いと思ってるけど・・・でも!)

 

(死んじゃダメだよ・・・・・・まだ・・・こっちに来ちゃダメだよ・・・・・・ハル・・・・・・)

 

ユイの目から涙が止まらない。

涙は次々と零れ落ちるが、地面を濡らすことはない。

 

(・・・・・・私とハルの縁をもう一度結べれば・・・ハルの自殺は止まるんだろうけど・・・・・・)

 

(・・・でも・・・私はもう死んでて・・・そんな私と縁を結ぶってことは・・・・・・それは・・・結局・・・ハルを・・・)

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

(・・・・・・・・・私だって・・・・・・私だって・・・・・・ハルと・・・・・・もう一度手を繋ぎたいよ・・・・・・)

 

(ハルと一緒に笑い合いたい・・・色んな所に行ってみたい・・・ずっとお話していたい・・・)

 

(何で・・・・・・何で私・・・死んじゃったの・・・・・・やっぱり辛いよ・・・・・・どれだけ諦めようと思っても・・・・・・)

 

ユイが体全体を震わせながら俯く。

それにより、涙が頬を伝うことなく直接地面に落ちる。

それでも地面には染み一つ出来ない。

 

(ハルとお別れして・・・・・・平気なわけないじゃない!!)

 

(ただ2人で一緒に生きていきたい・・・それを願って何が悪いの!!)

 

(何で!!こんな願いすら叶えてくれないの!!)

 

(何で!!意味も無く殺されて!!こうしてハルまで死ななきゃいけないの!!)

 

(こんなの間違ってる!!間違ってるよ!!)

 

(ハルと一緒に生きられない世界なんて・・・・・・もういやだ!!)

 

その瞬間、時間が止まった・・・ような気がした。

意識がぼやけていく・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

視界が戻ってくる。

いつものように大木の下で寝転がっているわけではなかった。

ちゃんと両足で立っていて・・・目の前には微笑んでいるユイの姿。

微笑んでいるけど、その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。

 

「どう?全部思い出した?」

 

「・・・・・・うん。迷惑かけちゃったんだね・・・」

 

「んー、迷惑ってわけじゃあないかなー。心配はすっごくかけられたけどねっ」

 

「あ、うん・・・そだね・・・ごめん・・・」

 

『分かれば宜しい』と、ユイは悪戯っぽくウインクして見せた。

とても可愛い。

 

「で、でもさ・・・ユイは・・・いつから縁結びの神様になったの?時間を操ったのもその力?」

 

「あー、それね。それはね・・・」

 

ユイの説明は、こうだった。

まず、縁結びの力は、あの化け物から引き継いだもの。

確かに、あの時のユイはアイツに操られている様子だった。

アイツと同じ攻撃手段を持っていたし、力を授かっていたというのも頷ける。

『あの時は、無理やり押し付けられた呪いみたいなものだったけどね』とユイ。

・・・・・・あの時の恐ろしいユイの姿が頭に浮かんでしまった。

アイツの姿と合わせて、私のトラウマ(ビジュアル部門)のツートップに君臨している。

少し寒気を覚えた私に、『もうあんな使い方してないからね?』とユイ。

それはそうだろう。

ユイが、あんな恐ろしい力の使い方をするわけがない。

『そもそも、誰もお願いに来ないから力使えないし』と続く。

そういえば、神様は人々に信仰されないと力を発揮出来ないらしい。

世界の創世神とかは別次元なんだろうけど、こういう庶民的な神の場合、

元々は人々が『こんな神様がいたらいいな』という願望が発端となって誕生するらしい。

『こういうお願いをしたら、こういう風に願いを叶えてくれる』といった設定を根強く信仰する。

そうすると、庶民に愛される神様の出来上がりだ。

・・・・・・捻じ曲がった願望が集まると、邪神になるけど。

そして、誕生した神様は永久に不滅かというと、そうでもない。

人々が信仰を疎かにすると力が弱っていくし、忘れ去られると消滅する。

今回の場合、そもそもユイがこの山に神様として降臨したことを誰も知らない。

当然、誰も拝みに来ないし、信仰は一切集まらない。

そんな状態では、前任者から強大な力を受け継いだとしても、すぐに衰えてしまうだろう。

なので、ユイには新たな縁を結ぶほどの力は残っていなかったらしい。

 

「ただし!自殺しようとする人を食い止める為なら、縁結びの力が強まるんだよ」

 

何でも、自殺志願者の家族や恋人、愛犬などとの縁を強めることで、

『死んだら悲しむ人(犬)がいる。戻らなきゃ』って思わせるらしい。

『あんまり強い自殺願望があると効かないみたいだけど』と後付けされた。

明らかに私のことを指しているようなので、視線を逸らすことにした。

すぐに頭にチョップ(軽いの)が飛んできたので、視線を戻す。

 

「でも、不思議な話だね。縁結びの信仰は無いはずなのに、そんなに力が使えるんだ?」

 

「自殺を食い止める時限定だよ?」

 

そこが一番不思議なところだ。

どうして、そんなピンポイントな場面でのみ力を発揮出来るのだろう。

縁結びの神となったユイだが、さっき言った通り、信仰はゼロだったはずだ。

力は発揮出来ないはず・・・・・・いや、寧ろ、消滅条件さえ満たしていると言える。

私がその疑問を投げかけると・・・。

 

「だって、そういう風に願われたからね」

 

願われた?誰に?

 

「私のことをただ一人、強く強く想ってくれる人。世界中の誰もが忘れても、ずっとずっと覚えていてくれる人」

 

そんな人が・・・いるとしたら・・・それは・・・

 

「ハル、言ったよね?・・・私の死んだ木に向かって、さ」

 

そうだ、私は言った。

『これからはユイみたいに自殺する人がいなくなるといいね。私みたいに悲しむ人がいなくなるといいね』と。

まさか・・・それだけ・・・?

私1人・・・たった1人の・・・そんな一言の為に・・・?

ユイは・・・今までずっと・・・?

 

「うん。無理やり受け継いだ縁結びの神の力と、ハルの強い想いと。それが私を創ってたんだよ?」

 

何てことなんだ・・・。

ユイは・・・ずっと私の願いを・・・私との約束として守ってくれていたんだ・・・。

それなのに・・・その願いを台無しにしたのは・・・私自身・・・・・・。

今まで自殺者が出なかったのはユイの頑張りだった。

それを・・・私は・・・台無しにしたんだ・・・・・・。

それだけじゃあない。

無理やり自殺させられたユイの目の前で・・・自分の意思で自殺した・・・。

それは・・・ユイに対する冒涜でしかない・・・。

何で・・・あの時に気付かなかったんだろう・・・。

いや、でも・・・あの自殺のおかげで今があるのか・・・複雑だ。

・・・・・・そもそも、あの自殺は結局どうなったんだ?

ロープは切れて・・・私は気絶止まりだったはずだ。

さっきの回想のようなものでは、そこまでしか分からない。

そして、今、不思議なループ世界にいる。

あのシーンから、この状態になったのは・・・何がどうなったんだ?

ユイにそこまでの神力が備わっていた・・・?

その辺をユイに尋ねてみたけど、

『よく分からない。あの後、ハルと私を残して、周り全体が真っ黒になった』

『その後、ハルが消えちゃって、そうしたら、私も消えていくのを感じた』らしい。

そして、『最初のうちは全然元の記憶が無かったし、死んだら毎回記憶は最初からだった』とのこと。

更に、『突然、一気に元の自分の記憶が戻って、それまでの全ての死んだ記憶も戻った』というのだ。

私の場合、ユイが死んでループする前後に徐々に思い出していった感じだったけど・・・。

『どのタイミングで記憶戻ったの?』って聞いたら、

『分からない?ヒントは、私の対応が大人っぽくなったところだよ』って。

で、『大人っぽいところなんてあった?』って言ったらデコピンされた。

おでこを押さえながらユイを見ると、ちょっと拗ねたように口を尖らせていた。

 

「しょうがないじゃない。大人になれなかったんだから」

 

「あ・・・」

 

私は何て失言をしてしまったのか・・・。

何と返していいか分からなくて泣きそうになる。

そんな私に、ユイが右手を差し出す。

 

「だから、ね。・・・今度は、一緒に大人になろうねっ」

 

「ユイ・・・・・・うんっ!」

 

私は、その手を両手で包み込むように握る。

そして、ユイがそこに左手を添える。

手の暖かさが心地いい。

この温もり・・・絶対に手放さない・・・絶対に!

守る・・・いや、2人で生き抜くんだ!

 

「さぁて、行こっか。まずは、あのハサミの神様のところかな」

 

「うん!必勝祈願も兼ねて、ね!」

 

私達は手を繋いで前に進んでいった。

決戦前だというのに、私達は笑顔だった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「こうして、私達は悪い神様を倒したのでした。・・・っと」

 

ここは私の家、私の部屋、私の勉強机。

窓からは暖かい日差し・・・いや、暖か過ぎる日差しが容赦なく差し込んでくる。

窓は閉めてるけど、セミの声がはっきり聞こえてくる。

・・・前に住んでいたところよりもずっと都会なんだけど、セミはどこにでもいるんだね。

 

まぁ、それはいいとして。閑話休題。

今、高校1年生になった私は、当時の不思議な体験をノートに書き留めていた。

私達は何度もループしながら、遂には邪神と化した縁結びの神様を倒した・・・らしい。

どうして他人事みたいなのかって?

だって、何か・・・信じられなくって・・・。

こんな弱虫な私が・・・そんな大冒険を繰り広げていたなんて・・・。

実はね、昨日まで、その辺の記憶が完全に無くなっててさ。

昨日の夜、夢の中で『今まで預かっていた記憶を返そう』とか言われて、

飛び起きたら、どんどん知らない記憶が入ってきて・・・。

自分の記憶らしいんだけど、何か・・・自分に似た誰かのお話を聞いている感じで・・・。

 

元々の記憶では、あの日、花火が綺麗に見える場所を探しに山へ行って、

無事にいい場所が見つかって、夕方になったから山を下りて、

その日は、家に帰ったら疲れ果ててすぐに眠っちゃったはずなんだ。

で、寝るのが早過ぎて夜中に目覚めて、

全然寝られないから、懐中電灯を持ってこっそり夜の町を歩いてみて、

何となく山にも登ってみたら、同じく懐中電灯を持ったユイに偶然出会って、

夜の山を2人で探検してから、お母さん達が起きる前に家に帰ったんだ。

その二日後、ユイと2人で手を繋いで花火を見た。

その数日後には私の引っ越しが迫ってて、

残りの数日は、一緒に居て楽しいのに寂しい、っていう複雑な心境だったね。

 

というわけで、時間ループだの、化け物だの、って記憶は全く無かったわけ。

そこにこんな不思議な記憶が流れ込んでくるんだから・・・そりゃ他人事にもなるよ。

まさか、そんな過激な一晩があったなんてね。

そういえば、花火の日、ユイが『うちのお母さんが元気になった』って言ってた。

意味がよく分からなくて、『病気だったの?良かったね』って言ったら、

ユイが物凄く嬉しそうに『うんっ!』って言ってた。

もしかして、それも私達が頑張ったから・・・なのかな?

これが本当なら、『頑張った』どころではないんだけど。

 

でも確かに、今となっては昨日のことのように鮮明に思い出せる。

・・・・・・昨日知ったことだから、その通りなのかもしれないけど。

ほら、今でも・・・目を閉じれば・・・その時の光景がありありと頭に浮かんで・・・。

かっこいい私・・・・・・勇敢な私・・・・・・凄い私・・・・・・じゃあない・・・か・・・。

最後こそ頑張ったけど、色々と逃げ回る私らしい私の姿だ。

そう考えると、この記憶も真実味が増すというかなんというか・・・。

あー・・・今なら思い出せるぞ・・・。

 

 

私達はあの化け物を倒したんだ。

 

 

『コッチニオイデ』とか誘われても、

 

 

そもそも、ユイは隣にいるわけだから何の誘惑にもならなかった。

 

 

相手の言葉に逆らえばいい、っていう対策も知ってたわけだし。

 

 

そして、化け物の巣食う洞窟から出たところでコトワリ様が現れたんだ。

 

 

コトワリ様っていうのは縁切りの神様でね、

 

 

縁結びの神様とは真逆で、色んな人の悪縁を切ってくれるんだ。

 

 

縁結びの神様を倒すために、神器のハサミを貸してくれたんだ。

 

 

そのおかげで勝てたわけだから、感謝してる。

 

 

でも、もう化け物退治は終わったのに、何で出てきたんだろうと思って。

 

 

ハサミを取り返しに来たのかなと思って、差し出したんだけど、

 

 

コトワリ様は、いつも通りハサミを持ってて、

 

 

しかも、ハサミを開いて、いつでも切れる状態で。

 

 

この状況で切る対象となる縁なんて、私とユイの縁しかないわけで。

 

 

せっかく必死に頑張って生き抜いたのに、切られてしまうのかと。

 

 

やっぱり、私とユイの縁は繋がってちゃいけないものなのかと。

 

 

『お願い!私達の縁を切らないで!』って叫んだ。

 

 

でも、コトワリ様のハサミはジャキンという音を立てた。

 

 

今思えば、その瞬間から記憶が途切れてたんだ・・・。

 

 

ただ、夜中に山を2人で探検した、という記憶に置き換わったんだ・・・。

 

 

ということは・・・コトワリ様が切ったのは・・・・・・。

 

 

でも、コトワリ様が切るものって・・・縁じゃないの・・・?

 

 

・・・・・・・・・ダメだ、分かんないや。

 

 

「ふぅ・・・・・・。あっ!いつの間にか変な絵が描いてある!」

 

「変な絵とは何よぅ、力作なんだけどなぁー」

 

ごめん、言い忘れてた。

今、私の部屋にはもう1人居るの。

そのもう1人は、私が目を閉じて記憶を遡っているうちに、ノートに落書きをした。

ノートの右下の隅に、リボンを付けた女の子がキリッとした表情でガッツポーズ(?)をしている。

デフォルメ、という表現でいいのかな・・・子供の落書き、って感じの絵だ。

・・・・・・この絵、もう何度見たことか。

 

「昔から全然変わんないよね、この絵」

 

「ふふん、かっこ可愛いでしょ」

 

私は『画力上がらないね』って意味で言ったんだけど。

何故か、私の親友は自慢げだ。

まぁ、この懐かしい絵・・・私も好きなんだけどね。

そうだそうだ、私と親友のその後について説明しなきゃいけなかった。

 

あの数日後、私の家の引っ越しは予定通り行われることになった。

引っ越しの当日、私とユイは抱き合って泣いていた。

笑顔でお別れしよう、なんて約束は、小学3年生の私達には守れるわけがなかった。

永遠の別れのように感じていた。

でも、そんな私達に救いの言葉があった。

私のお父さんから『2人とも。ちょっと提案があるんだけど』と。

お父さんが出した提案、お父さんお母さんと、ユイのお母さんが相談したもの。

それは、夏休みや冬休み、春休みといった長期休暇に、

しばらくユイを私の家に預かろうか、というものだった。

お父さんが車で送り迎えはする、と。

というのも、そういった期間でも大人は仕事があるわけで、

日中は今までみたいに独りぼっちになってしまう。

特にユイの家庭に至っては、お母さんの新しい仕事が朝早く夜遅いので、

家に居ても全然会う時間がなくて寂しい思いをさせてしまう、と。

ユイが居てくれると、私を独りぼっちにしておくより安心だ、と。

つまりは、私のお守りをユイにお願いしたい、って内容だった。

今思えば、不名誉な理由な気がするけど、

その時の私達の喜び様ったら・・・。

そんなわけで、年に数回はユイががっつり泊まってってくれた。

中学に入ったら、さすがに『お守り』って理由は無くなるけど、

それでも私達はそんなお泊り会を続けた。

時には、私がユイの家に泊まることもあった。

 

そして、そして!

ユイは、私と同じ高校を受験したんだ。

ただ、高校はユイの家から通える距離じゃあない。

というわけで、今は私の家に居候してるの。

毎日一緒に過ごしてるの。

引っ越しの時、あれだけ大泣きしてお別れしたのに拍子抜けかもしれない。

でも、あの涙があったから、今一緒に居られる幸せが分かる。

そして今、『あの涙』があったから、今という奇跡に感謝できる。

感謝すると、今でも目に涙が浮かんでくる・・・。

 

「あ・・・」

 

私の左手が温かくなった。

 

 

隣を見ると、ユイが右手を乗せてくれていた。

 

 

目を合わすと、ユイの目にも涙が浮かんでいた。

 

 

2人揃って微笑む。

 

 

そして、私は左手を動かしてユイの右手を握る。

 

 

ユイも私の左手をしっかり握り返してくる。

 

 

今、私達が想うことは同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『て を はなす?』

 

 

 

 

 

 

  うん   ➡ やだ

 

 

 

 

 

 

 

END


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