校門をくぐって春明は早々に悟った。
早く着き過ぎてしまっていたらしい。
構内で見かけるのは入学式の準備をしているのであろう上級生や教員ばかり。
新生活に舞い上がっているのだと思われているのだろう、上級生たちに生暖かい眼差しでクスクスと笑われているように春明は感じた。
式の会場である講堂はまだ開場すらもしておらず、早々に手持無沙汰になっていた。春明は時間を持て余し、当てもなく校内の散策をすることとなったのである。
入試の時にも思ったことだが、かなり立派な高校である。
国立魔法大学付属第一高校は一学年の定員は200名、一科生4クラス、二科生4クラスの8クラス体制。全校生徒合わせても最大600名しかいない。それにも関わらず、校舎の棟数も多く、体育館らしき建物も複数あり、さらには野外演習場まである。流石は日本に八つある魔法科高校のうち、毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいるエリート校である。
陰陽術の知見からすると、それなりに大きな規模の霊脈も一高内に走っている。現代魔法は面倒な部分を多く排除した関係上、地脈の有無は魔法の発動に関係ない。しかし、陰陽術には地脈を使用する術が多々あり、緊急時に切れる手札は多いに越したことはない。
当てもなくブラブラと散策していたところ、男女の口論が聞こえてきた。聞こえてくる声色からして、険悪な雰囲気はない。
……痴話喧嘩かな?
見て見ぬ振りをするべきだとは分かっていても、興味には勝てるほど春明はまだまだ大人ではなかった。
視線の先。必死に訴えかける見目麗しい少女と困り顔で宥める整った顔立ちの青年。言葉の端々から「お兄様」と聞こえることから兄妹なのだろう。
それにしても何とも目を引く兄妹である。春明同様に目を向けている人達が散見された。
『春明』
『ん? どうかした?』
『あの青年、どこか歪なものを感じます』
『歪?』
『ええ、霊気に違和感を少し。何らかの欠損……人工的なものを感じます』
霊気とは人を含む動植物、山や河川などの自然環境の発する霊的エネルギーのことである。この霊気のバランスが崩れると瘴気に変わり、周囲に悪影響を及ぼす霊的災害を発生させる他、霊気のバランスの崩れた人体や動植物を変質させる危険性がある。
『危険性はない?』
『……そうですね。詳しい状態まではわかりませんが、見た限り、安定しています。一般的な人の方が霊気の偏重の危険が高いぐらいです』
『なら、どうしてわざわざ報告を?』
『春明も知っているはずですよ。陰陽術の場合、身体的、霊的欠損は強みになるのです。魔法の場合はわかりませんが、欠損を補う何かがあってもおかしくありません』
陰陽術を使うにあたって、身体的、霊的欠損が強みになるのはよく言われる説である。確証がある訳でもないが、まったくない訳でもない。言うなれば、まことしやかに語られることなのだ。
例えば、東北地方に古くから存在するイタコ。イタコとは霊魂を呼び寄せ、意志の疎通をする口寄せの術を使う巫女である。彼女たちは押しなべて強い霊力を持つ。過去においては、イタコは盲目あるいは弱視と言った視覚障碍者であった。彼女たちは光を見られないからこそ、霊的に『見る』力を身に付けられたのである。
『わかった気にしておくよ』
そう告げると葛葉は再度隠形を強めた。
いつの間にか少女はどこかへ行き、青年一人になっていた。
不意に、青年が振り向き、目が合った。そして、何を思ったか近づいてくる。
とは言え、露骨に逃げるわけにもいかず、春明も彼に歩み寄った。
青年は意外そうな表情を見せた。しかし、表情の起伏は乏しく、無表情で何を考えているのか読めそうになかった。
「……なにやら視線を感じたのだが、何か用か?」
「……あーいや、申し訳ない。如何せん二人とも目を引く外見だったものでつい……」
不自然にならないように、自身の思っていたことを青年に伝えた。
「妹はともかく俺の方は普通だと思うんだが」
「そんなことはないよ」
「……礼を言うべきか?」
青年はそう言って苦笑を浮かべた。
彼は用が済んだと背を向けようとしたが、春明は先んじて口を開いた。
「よければ自己紹介をしない?」
「自己紹介? ……意外だな。一科生と二科生ではあまり交友は生まれないと思っていたんだが」
青年は自分の左胸を指でトンと叩く。そこにはエンブレムはない。その上で周囲に視線を巡らせた。周囲には少ないながらも作業に向かう上級生がこちらに視線を向けていた。視線には非難や困惑の色が感じられた。しかし、春明はそれらを無視して、手を差し出しながら言い切った。
「他の人のことは知らないけれど、友人になる人は自分で決めるさ。……もちろん君が良ければだけど」
「……そうか」
そうひと言呟くと、彼は仄かに笑みを浮かべた。
「司波達也だ。達也で構わない」
「土御門春明。出来れば春明と呼んでくれ」
自己紹介を返すと、少しばかり達也の目が見開いた。おそらく『土御門』の名前に反応したのだろう。ある程度予想していたことなので、戸惑いはない。むしろ、達也の反応は控えめであるとも思ったぐらいだった。
「失礼は承知しているが、……あの土御門か?」
「陰陽術師の土御門のことなら、そうだよ」
「……なるほど。確かに春明と呼んだ方が良さそうだな」
春明は達也に苦笑を見せるしかなった。
○●○
入学式までまだ時間の余裕があったため、達也と座れるところを探して時間を潰していた。話したことは他愛のない、出身地だとか引っ越しが大変だったとか、逆に達也からは妹の深雪の話などを聞いた。陰陽術の話が出なかったのは達也に気を使ってもらったが故だろう。
どのくらい時間が経っただろうかと思ったとき、ふと達也がベンチから立ち上がった。
「どうかした?」
春明も立ち上がって、達也の視線を追って振り返ると上級生の女子生徒が近づいてきていた。
「新入生ですね。開場の時間ですよ」
(あれはCAD……ということは生徒会か特定の委員会)
左胸には当然八枚花弁のエンブレム。
しかし、他の上級生と違う点があるとすれば、一科生と二科生が一緒にいるのを見ても不快な表情を浮かべていない事。むしろ嬉しそうに笑みを浮かべてすらいた。
「ありがとうございます。すぐに向かいます」
達也が行儀よく頭を下げて、この場を後にしようとした。しかし、先輩はまだ何か用でもあるのか、この場から去らず、むしろ距離を詰めてきた。
先輩の姿を見て、春明は何故か自身の護法の一体を思い出した。その護法は猫又。彼女は自身の愛くるしい姿を自覚しており、それを使い人の懐に入り込むのが上手い。
「少しいいかしら? あなたたちは以前からお知り合いなんですか?」
「いえ、今日知り合いました。時間に余裕があったので、ここに座って話を少ししていたところです」
「そうですか! 一科生、二科生の垣根を越えて親交を深めるのはとても良いことです」
正直に答えると、先輩は尚更うれし気に笑みを深めた。
「あ、……申し遅れました。私は生徒会長の七草真由美です。七草と書いて“さえぐさ”と読みます。よろしくね」
(七草……十師族か)
十師族とは日本の魔法界に君臨する一団だ。
魔法師の家系のうち、苗字に数字が含まれる数字付き、その中でも魔法技能師開発研究所を共通の出自とする特に優れた二十八家、その中から4年に一度の「十師族選定会議」で選ばれた10の家系が『十師族』を名乗っている。
日本国内の魔法師は、現代魔法師も古式魔法師も十師族を頂点とする魔法師のコミュニティに所属し、その自治に従っている。そのため、表面上の権力は放棄しているものの、政治の裏側では司法当局を凌駕する権勢、超法規的な特権を持っているとされている、らしい。
中でも七草は、十師族の中では四葉家と並び最有力とされている一族で、主導的地位を争う地位にある。十師族結成以来、一度も枠外に出たことがない。
早々に面倒な人に話しかけられてしまったものだ。
「俺は、いえ…自分は司波達也です」
「土御門春明です」
春明が名乗り返すと七草先輩の表情に影が射した。そして、彼女は丁寧に頭を下げてきた。その反応に困惑する。
「土御門君には、とても不快な思いをさせていることかと思います。私も十師族の一員として、申し訳なく思っています」
「いや、えっと……先輩、顔をあげてください。別に先輩が悪いわけではないですから」
春明としてみれば学校の先輩に頭を下げられてしまっても困るだけだ。
早い時間でまだ人は少ないとは言え、幾人かには不思議な目で見られているのも確かであるし、何より達也からの追及の眼差しで居心地が悪い。後で、一科生になった理由を知らせなければならないだろう。
「……学校で困ったことがあれば、私に相談してね」
「はい、そのときはお願いします」
七草先輩は頷いて見せると、話題を変えるように明るい口調で言葉を発した。
「それにしても司波君と土御門君、先生たちの間ではあなたたち二人の話で持ちきりよ」
「春明はわかりますが自分もですか?」
「ええ」
七草先輩の言葉からはネガティブな感情は感じられない。むしろ、称賛に近い印象を受けた。
「土御門君は実技試験の干渉力がトップ。それも歴代トップの干渉力を出したそうよ。司波君は入学試験、筆記七教科平均96点で一位。中でも魔法理論と魔法工学が前代未聞の満点。」
何故、そこまで成績に詳しいのか疑問である。入試結果も個人のプライバシーの範疇ではないのだろうか。春明はつい呆れた様な眼差しで七草先輩を見ていた。
ちらりと達也を見るが、あまり喜んでいるような面持ちではなかった。筆記がどれほどよかったとしても、実技が芳しくなかったが故の二科生なのだから素直に喜べないのは当然だろう。むしろ、遠回しにコンプレックスを刺激されているのではなかろうか。
このまま話を長引かせるのは遠慮願いたい。
幸いなことに講堂の方から小柄な女子生徒が七草先輩を呼びに走ってくるのが見えた。
「先輩、あの人は先輩を呼びに来たんじゃないですか?」
「え? あーちゃん?」
「達也、僕らもそろそろ向かおう。……それじゃあ、先輩失礼します」
○●○
講堂へ入るとすでに半分以上の席は埋まっていた。真由美と話し込んでいたせいであろう。
席の指定はなく、どこの席に座っても良いとされている。春明は二人で座れる席がないか視線をキョロキョロと彷徨わせていると、達也が肩を叩いてきた。
「それじゃあ、俺はあっちに行くから」
「え? 一緒に座らないの?」
「……気が付いてないのか?」
達也に指摘されて、よく観察してみるとどうにも新入生の分布に規則性があった。
前半分に一科生、後ろ半分に二科生。同じ新一年生であるのにも関わらず、前と後ろでエンブレムの有無が綺麗に分かれている。
「……なるほど…」
つい口から出た反応に、達也は苦笑を漏らした。
「どうも、差別を受けている者にも差別意識は強く根付いてしまうものみたいだな」
「……みたいだね」
「まぁ春明のような一科生もいるのが救いだ。だが、今は無用に悪目立ちするのも面倒だからな」
「なるほど」
「それじゃあ、また」
そう言うと達也は後ろの開いている席に向かった。
もし隠形術を使えば、二科生に紛れ込むのは容易い。あるいは、達也を一科生に紛れ込ますことも可能だろう。しかし、たかが入学式である。春明は前半分で空いている席を探して座ることにした。
魔法師とは言え、本質的にはただの高校生。式が始まるまでの間、騒がしくなるのも仕方がない。しかし、どうにも魔法師間でのコミュニティがあるのだろう。隣近所で知り合い同志が座っているようだった。敢えてそこの環に入ろうとも思えないので、早々に腕組んで、意識的に睡魔に身を委ねていた。
「あの、隣いいですか?」
不意にか細いながらも声が聞こえた。
声のした方を見ると、髪を二つ括りにした気弱そうな少女が立っていた。
何ゆえ、わざわざ知らぬ男の隣に、と思って回りを見渡す。気づかぬ間に席はほぼ埋まっていた。
また彼女の後ろではショートヘアの小柄な少女がもこちらを見ている。二人で座るのに都合のいい席を探していて、春明の隣に目星をつけたのだ。
「もちろん、構わないよ」
「ありがとうございます。雫、いいって!」
「うん、聞こえてる」
感情の起伏に差がある二人である。しかし、だからこそ気が合うのかもしれない。二人のやり取りを見て、微笑ましく思っていると、二つ括りの少女が春明を改めて見てきた。
「私、光井ほのかと言います」
「北山雫、よろしく」
「ああ、よろしく。俺は土御門春明です」
「えっ! あの土御門ですか!?」
しまったと思うもすでに遅い。周囲からは先ほどまでとはまた異なったざわめきが生まれていた。それは少しずつ伝播していき、こちらを不躾に窺い見る者達が増えていく。
「ほのか、声大きい」
「ご、ごめんなさい」
涙交じりに謝られてしまい、どうにも申し訳ないような気がしてしまう。昔から葛葉を筆頭に強気な女性とばかり関わりがあったため、気弱な女性が少しばかり苦手意識を持っていた。
「大丈夫。気にしないで。……ただあまり悪目立ちしたくないから、よかったら春明って呼んでくれるかな?」
「うん、わかった」
これ以上、面倒ごとは避けたいのだろう。北山さんがすぐさま返事を返してきた。
「なら、私のこともほのかって呼んで下さい!」
「私も雫でいい」
○●○
入学式が始まるまで居心地の悪さを感じていたが、ほのかと雫の二人と話をして紛らせていた。式さえ始まれば、流石にエリート校。騒がしかった者達も真面目な顔を作って、式に臨んでいた。
しかし、入学式自体は大して代わり映えもしない何処にでもある普通のものだ。所謂、様式美というやつだろう。
些か退屈に感じ始めた頃、不意に新入生達がざわつき始めた。
それは新入生総代の答辞である。
「……綺麗」
隣のほのかも呟いていた。
新入生総代、司波深雪。名を呼ばれ、登壇した司波さんの容姿は非常に可憐で美しかった。それは異性だけに留まらず、同性の少女達の目をも惹き付ける物だ。
皆、彼女の容姿ばかりに注目して、答辞の内容はしっかりと聞いていないようである。そうでなければ、違う意味で講堂内が大いにざわついただろう。
彼女の答辞内容には『平等』だとか『勉学以外にも』など、聞く人が聞けば一科生と二科生という仕組みに生じている差別意識について言及していることが分かるだろう言葉を多用していた。中々際どいフレーズを多用しているが、それらを上手く建前でくるみ、棘を感じさせない。
中々に強かな少女である。
……ただ可愛らしいだけの女の子じゃないようだ。
○●○
入学式が終わると、ID交付が行われる。その後はHRがあるのだが、こちらは自由参加となっている。
IDの交付場所にほのか、雫と共に移動した。
しかし、そこにも一科生と二科生の構図が生まれていた。一科生が先に並び、二科生がその後方へと並んでいるのだが、時折、遅れてきた一科生が平然と二科生と一科生との間に割り込んでいくのだ。
これには春明も顔を顰めずにはいられなかった。高校生になってまでこんな子供じみた真似が良く出来るものだ。
隣を見るとほのかは愕然とした表情立ち尽くし、雫は眉根を微かに寄せている。
「……後ろに並ぼうか」
「そう、だね」
「うん」
IDを受け取り、列から少し離れる。
高校での生活を左右するクラス決め。たかがクラス決めと思うなかれ。高校生活は三年間あるとはいえ、その交友関係は最初の一年、ないしは最初のひと月でほぼ決まる。
可能ならば、達也と同じクラスが良いが、一科生と二科生と言う壁が存在する。ならば、同じ一科生であるほのかと雫の二人と同じクラスが良いところ。
「私はA組でした。雫は?」
「私もAだった」
「やった!」
春明は内心ガッツポーズを決めた。
「春明君は?」
「僕もAだったよ」
「ほんと!?」
一科はA組からD組までの4組もあるのだから、三人が同じ組になれたのは中々の幸運だろう。
「……あっ!」
唐突にほのかが声を上げた。何事と思いほのかの視線を辿ると、そこには新入生総代である司波さんが歩いてきていた。
彼女は後ろにぞろぞろと人を引き連れて歩いてきている。彼女が好きで引き連れているわけではないのだろうが、取り巻く者達は誰よりも先に彼女にお近づきになるべく、我先にと賞賛の言葉を次々と投げかけていた。
「……彼女も大変だろうな」
「え?」
ポツリと零した声を拾ったどういうことと疑問の眼差しを向けてきた。
春明は周囲に気を配りながら、声を押さえて答えた。
「笑顔で対応しているけど、疲れると思うよ。あれだけ後を付け回されたらね」
「そう、だよね……」
ほのかは少し落ち込んだように肩を落とした。
どうやらお近づきになりたかったようだ。
「ほのかはミーハーなところがあるから」
「うっ……」
雫の指摘に覚えがあるのか、ほのかは肩を窄める。
「彼女も予定があるのかもしれないし、今日のところは諦めた方がいいと思うよ。高校生活は始まったばかりなんだからさ、これからいくらでもチャンスはあるさ」
「……うん。そうだね」
司波さんとその取り巻きが過ぎ去ると周囲から徐々に一科生が少なり始めていた。帰路につく者、律儀にHRに参加する者とそれぞれに動き始めたのだろう。ちなみに、二科生のIDの交付はまだ終わっていなかった。
「二人はこの後どうするの?」
「私たちは家族と入学のお祝いをしてもらう予定」
「そっか。じゃあ、校門まで一緒に行こうか。明日から改めてよろしく」
「よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
○●○
二人を校門で見送り、春明も帰路に着こうと駅へと足を向けた。
「春明」
しかし、校舎の方から名前を呼ばれて立ち止まる。振り返ると達也が他三名の女子生徒と歩いてきていた。三人とも少し意外そうな表情を浮かべている。達也が一科生と知り合いなのが意外だったのかもしれない。
「今、帰りか?」
「うん。達也も?」
「ああ、少し寄り道してから帰ろうかと話していたところだ」
達也の少し後ろに控えるのは達也の妹。もう少しゆっくり帰っていたら、ほのかも彼女と知り合うことが出来ただろうに。抜け駆けしてしまって申し訳ないと心の中で謝罪した。
「お兄様。ご友人ですか? よろしければご紹介していただきたいのですが……」
「ああ、春明。今朝姿を見たかも知れないが、俺の妹の深雪だ」
「よろしくお願い致します」
「よろしく。土御門春明です」
「土御門ッ!?」
自己紹介を返すと、司波さんではなくその後ろの活発そうな少女が些か過剰な反応を返した。眼鏡を掛けた少女が制止しようとするが、時すでに遅し。
校門ゆえ、下校途中の学生の視線が痛い。今日はよく視線を集める日だ。
「あ、ごめん……」
周囲の視線に気が付いたのか、罰の悪い顔で謝られる。
「いいよ、大丈夫。……でも、出来れば春明って呼んでくれるかな?」
「わかったわ。私は千葉エリカ。エリカって呼んで」
「柴田美月です。よろしくお願いしますね」
自己紹介を終えても、一度集めた視線は中々無くならない。どうしようかと考えていると、タイミングを見計らっていたのか、達也が口を開いた。
「……この後、エリカ情報の喫茶店に行く予定なんだが、春明も一緒にどうだ?」
「あ、いいね! 達也君も男の子一人で辛いだろうしね」
エリカが達也の提案にからかい交じりに便乗した。
提案は非常に魅力的であった。春明は幼少の頃から、魔法科高校に入学するための勉強や陰陽術の修行などで自由な時間がほぼなかったが故に、学友と寄り道した経験がほぼ皆無なのだ。それゆえ、親しい者は幼馴染と式神ぐらいだ。
『春明、多少羽を伸ばしても良いと思いますよ。せっかく親元を離れたのですから』
こんなことでも念を送ってきた過保護な式神に苦笑を漏らす。
ふと柴田さんが目を細めて、見えないはずの葛葉を見ているような気がした。
「ありがとう。ご一緒させてもらうよ」