魔法科高校の式神使い   作:おたん小茄子

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入学編8

 

討論会当日。

少なくない人数の生徒が講堂へ集まっていた。春明はその様子を玉櫛の分霊を通して確認する。

それほど関心の高い事柄なのだろう。

 

春明は屋上に陣を構えていた。ここからならば異常を見つけた際に黒楓で駆けつけることが出来る。

第一高校への出入り口には玉櫛の分霊を配置。校内にも分霊を巡回させている。

既に、爆発物や化学兵器等を持った者を取り押さえ、捕縛していた。

そのことは既に渡辺先輩にも報告をしており、講堂内に控えている風紀委員にも即座に動けるように指示が出ているはずだ。

 

「ハルアキ、オイラ達も隠形解いていていいのかー?」

 

九郎丸や葛葉は春明の傍に控えて、姿を現していた。

玉櫛も春明の頭の上で姿を見せている。

 

「ああ、先輩にも許可は貰ってあるから。何かあったときは頼んだぞ」

 

そういうと九郎丸は嬉々として、錫杖を素振りし始めた。

 

「とはいえ、玉櫛が要れば何か起きる前に解決しそうだけどな」

 

そう口にしたが、玉櫛から同意は返ってこなかった。

 

「玉櫛?」

「……いけません!」

 

玉櫛の警告のすぐ後、校門が装甲車によって吹き飛ばされた。

また、別の場所からは爆発音。すぐ近くの分霊の視界をリンクさせると第一高校を囲う塀の一部が爆発物によって破壊されていた。

 

「おいおい、ここまでするかよ!」

「春明! お嬢さん達の近くにも侵入者です!」

 

お嬢さん達と言われて、ほのかと雫のことだと気付く。

 

「彼女たちは今どこに!?」

「野外演習場です! 部活動中だったのでしょう」

 

春明は逡巡した。彼女達であれば、侵入者であろうと何とか出来るだろうと思う反面、駆け付けたい気持ちもあった。

すると、背中に鋭い痛みと渇いた音が響く。

振り返ると、葛葉が張り手をしたのだと気が付いた。

 

「さっさとお行きなさいな。女を守れずして、誰を守れるというのです」

 

頭から玉櫛が飛び降りる。

そして、人の姿へと化す。必要な場所以外の分霊を消したのだろう。

 

「こういう時こそ、我々に命じてください」

 

九郎丸は今か今かとウズウズした様子で春明を見上げていた。

春明は自身の焦りによって動けなくなった体を解すため、深く息を吐いた。そして、鋭く息を吸うと、自身の頼れる護法に命じた。

 

「学校の皆を守れ! 俺の警護は必要ない、九郎丸は校門に来た侵入者を撃退。葛葉は敵を撃破しつつ、生徒を講堂へ避難させろ。玉櫛は講堂に結界を」

「「「承知!」」」

 

それだけ言うと春明は式神を投じて、黒楓を呼び出した。そのまま背に跨って、野外演習場の雑木林へと馬首を向けた。

 

○●○

 

正に風のような速度で宙を駆ける黒楓。しかし、その背に乗る春明には余計な風を感じることはない。それは黒楓が周囲の風を手中に収めているからだった。

そして、みるみる雑木林に近づき、侵入者たちと対峙する雫の姿が見えた。

雫の後ろには、ほのかやバイアスロン部の面々がおびえた様子で固まっていた。

 

「行け、黒楓!」

 

春明の言葉を合図に、黒楓は地面に激突するかのように、急接近する。

その衝撃で爆風が吹き荒れた。しかし、その爆風すらも黒楓のコントロール下にある。雫達にはそよ風すら感じられないのにも関わらず、侵入者たちは立っていることも困難なほどの風に見舞われ、掘り返された土砂を頭から被ることとなった。

 

「な、なんだ!?」

「う、馬!?」

 

突如現れた春明に動揺する侵入者たち。

しかし、指揮官だろうと思われる男が指示を出す。

 

「狼狽えるな! あいつも魔法師だ、アンティナイトを使えば何も出来まい!」

 

そう言われ、男たちは各々アンティナイトを翳す。

春明の後ろにいる雫やほのか達が頭を押さえ、苦悶の声を上げた。

春明自身も頭痛に見舞われたが、気にせず黒楓に手を翳す。

 

「黒縄槌」

 

黒楓の姿が宙に解け、春明の手に集まる。そして、次第に形作られるそれは真っ黒で巨大な槌。

春明の身長を優に超える長さの持ち手、巨大な樹木の幹のような打撃部分。持ち手部分には黒い縄が緩く巻かれていた。

それを軽々と担ぐ春明に侵入者たちは目を見開いて、後ずさりした。

実際のところ、春明は一切重さを感じておらず、内心でほくそ笑んでいた。

そして、後ろを振り向き、雫達に微笑んで言う。

 

「危ないから、ちょっと下がってて」

 

そういうと、春明は黒縄槌を横薙ぎに振った。そこには誰もいない。しかし、轟音と共に侵入者の一人が車に撥ねられたかのように宙を舞った。

黒縄槌は風を打ち出す。侵入者はその風に吹き飛ばされたのだ。それはただの風ではない。元来、竜巻であった黒楓の撃ちだす風だ。竜巻の威力に相当する暴風であれば人間など簡単に吹き飛んでしまう。

仲間の惨状を見た侵入者は恐れ故か、はたまた逃げられないと覚悟を決めたのか、反って春明に襲い掛かってきた。

その一人に投げ槍の如く、黒縄槌をぶん投げる。槌は自らの意志で加速して、男の腹に突き刺さった。

春明は持ち手に巻かれていた縄を握っている。その縄をグンと引っ張り、槌が持ち上げられる。しかし、宙に持ち上がった槌は自由に意思を持っているかのように、別の侵入者へ向けて突進する。

縦横無人に宙を走り回る槌と打面から撃ちだされる暴風によって、侵入者たちはあっという間に無力化された。

 

「春明君!」

 

戦闘を終え、一息つくと背後から雫の声。

振り返るとほのかと雫が近づいてきた。

 

「怪我はない?」

「うん」

「私も大丈夫」

 

バイアスロン部の部員たちの中にも怪我をした者はいなさそうだった。

 

「もう行かないと、後はお願いしていいですか?」

 

バイアスロン部、部長の五十嵐先輩に確認を取ると、部員総出で侵入者の捕縛に動いてくれた。

 

「雫、ほのか。ごめん、最後まで一緒にいてあげたいんだけれど……」

「ううん、大丈夫!」

 

雫は力強く答えた。

 

「講堂は安全だから、とりあえず避難して」

 

そういうと春明は再度黒楓の背に乗って、校舎側へと引き返した。

 

○●○

 

上空から現状を確認する。

校門前の攻防は、九郎丸と生徒たちとの共同戦線が引かれていた。

近代兵器なんて、何するものぞ。錫杖と火焔を扱い、侵入者を次々と無力化していく。

 

葛葉は幾体もの分身を用意して、生徒の誘導を行っていた。葛葉の分身は玉櫛の分霊と異なり、強力な力を持たせることは出来ない。しかし、葛葉は分身越しにでも敵対するものに呪術をかけることが出来る。そして、当の本人はと言うと、崩れた塀の近くで無双していた。というより、遊んでいるに近い。

呪術で人を操り、幻覚を見せ、同士討ちをさせる。まさに阿鼻叫喚。

ふと、葛葉がこちらを見上げた。

その満面の笑みを見て、春明は背筋がぞくりとする感覚に襲われた。

 

『春明、何をサボっているのですか?』

 

念話が届き、悲鳴を上げかけたが、寸でのところで飲み込む。

 

『サボってないよ! 状況確認も必要だろ!?』

『何かあれば、玉櫛から連絡があるでしょうに……。あ、そうそう。あなたの学友がどこかに向かって行きましたよ?』

『誰がどこに?』

『司波兄妹と千葉と言いましたかね。手伝わなくても良いのですか?』

 

達也がいるのならば、問題ないだろう。それよりも現状を渡辺先輩に報告し、指示を仰ぐのが良いと判断し、春明は携帯端末を操作した。

 

その後は、渡辺先輩の指示の下、遊撃的に動いて防衛に努めた。

 

○●○

 

事態の収束が見え始めた頃。

春明は玉櫛と合流して、情報収集に努めていた。

おおよその侵入者は排除されている。後は校内に潜んでいる者を炙り出してひっ捕らえるだけだ。講堂内には戦闘には向かない多くの生徒や教員が肩寄せ合っていたが、事態の収束が近いことから安堵の様子も見られる。

分霊の視界を共有して校内を見渡していると、不意に肩を叩かれた。

自身の目を開き、顔を上げると、渡辺先輩が缶珈琲を差し出してくれていた。

 

「お疲れ様。疲れただろう? 少しは息を抜いてもいいんじゃないか?」

「いえ、十文字先輩や達也たちが出払っているんですよね? 空いた分を埋めないと」

 

なんでも今回の首謀者のところに殴り込みに行ったとかなんとか。

 

「そうは言うが、大方の敵は君と君の式神が相手取ってくれたおかげで、被害はほぼ無いに等しい」

 

渡辺先輩は思案気な表情を浮かべている玉櫛に向かって頭を下げた。

 

「今も、玉櫛さんのおかげで十分に監視の目も足りている」

「いえいえ、春明の頼みですから、この程度なんてことはありませんよ」

 

玉櫛と渡辺先輩が平然と話している様子を見て、春明はなんだか嬉しくなった。

 

「じゃあ。僕たちも少し休みを頂こうか?」

 

春明は玉櫛にそういうが、彼は首を横に振った。

 

「いえ、私は結構です。まだ少し気になることもありますので」

「気になること?」

「……何かあるんですか?」

 

渡辺先輩も玉櫛の懸念に眉をひそめて、問うてくる。

 

「渡辺の御嬢さん、御内密の話になるのですが、以前、幸徳井家がブランシェに接触していたと言う話があったのです」

「幸徳井家と言うと、以前土御門家にいちゃもんを付けた?」

「ええ。何かよからぬことを考えている可能性もあります。そして、数日前に葛葉が何やら式神らしき存在を見つけています」

 

確かにあの時の式神は何だったんだろうか。

何かしら仕掛けてくるとしたら、今回のタイミング以外にあるのだろうか。

 

その時、ゾワリと総毛立つ気配を感じた。

 

「春明!」

「渡辺先輩! 今すぐ、外に出払っている生徒を講堂へ!」

 

渡辺先輩は突然のことで困惑した様子だった。しかし、悠長なことをしている時間はない。

 

「……一体なんだ?」

「説明している暇はありません! 一刻を争います」

 

先輩は春明の逼迫した様子を見て、頷きを返して端末を操作する。

 

「後で説明してもらうからな!」

「はい!」

 

それだけ言うと春明は講堂から飛び出した。

 

○●○

 

講堂を出ると、葛葉と九郎丸が駆けつけてきた。

 

「ハルアキ―!」

「春明も気が付きましたか?」

 

講堂内の結界を出たせいか、よりはっきりと良くない気配を感じる。

それはまるで心霊スポットにでも来たかのような薄ら寒さ。

 

「気配の主は?」

「正門側ですね。堂々と正面から入ってきたようです」

「わかった、急ごう」

 

九郎丸は空から、春明と葛葉は兎歩によって正門前に移動した。

そこにいたのは、女だった。

肩口で切りそろえられた黒髪、白の着物に水色の帯を締めた姿。顔立ちは清楚さもあるがどことなく幼さが残っており、可愛らしい。

だからこそ、その手に持つ刀がそぐわない。

また、女の額には符が張られていた。

 

「操られている?」

「……そうでしょうね。彼女はおおよそ、あの刀に宿った付喪神。彼女を強制的に使役するために意志を縛り、行動を指示し、逆らえば苦痛を与える。そのような術式でしょう」

 

葛葉は痛ましい眼差しで女を見つめていた。

女は春明達のことを無視しているのか、興味すらないのか、緩慢な速度で胸元に手を入れた。その手に握られていたのは壺だった。

小ぶりな壺だ。

その壺こそが怖気の正体。春明は直感であれは良くないものだと理解した。

しかし、女は手にした壺をそのまま地へと滑り落とした。

壺が割れ、重くドロリとした霊気が漏れ出す。それは、まるで怨念を煮詰めて凝縮したかのようなものだ。

それが地に吸われ、第一高校にある大きな霊脈を刺激する。

 

それは突如始まった。

地響きと共に、鳴き声が聞こえる。宙に断層と呼ぶべき間隙が複数生まれ、そこから異形の腕が間隙の縁を掴む。

それはこの世のものではないもの、この世にあってはいけないもの。

妖の類ではない。それは言うなれば、亡者。

霊脈を刺激した結果、この一時、この場においてこの世とあの世の境が重なってしまったのだ。

亡者は生者を貪る。かつての生を取り戻すべく。

亡者は春明に殺到した。

しかし、九郎丸が火焔を生み出した。春明と亡者の間に伸びる業火。亡者はその火さえも見えないのか、虫のように火に飛び込んでは絶命の鳴き声を上げていく。

 

「……葛葉。あの間隙をどうにか出来る?」

「どうでしょうか。一度見て見なければ」

「頼む」

 

そういうと葛葉は間隙を調べに向かった。

 

「九郎丸は亡者共の相手を――」

 

その時、刀の女が一歩で春明の懐に潜り込んできた。

春明は咄嗟に金行符を抜く。

符が硬質化し、刀を受け止めた。

 

「大丈夫か! ハルアキ!」

「大丈夫だ、九郎丸は亡者を頼む! 講堂に近づかせるな! 学校外にも絶対に出すんじゃないぞ!」

「わ、分かった!」

 

女は一度刀を引き、改めて打ち込んでくる。

しかし、春明もただでは近づけさせない。刀印で宙を薙ぐ。その軌跡を描くように、宙に墨で描いたような斬撃を、女へと放った。

だが、女はその斬撃をいともたやすく引き裂く。

 

女の持つ刀はまるで刀身が濡れたかのようにぬらぬらと光を放っていた。――いや、実際に刀身から水がポタポタと生み出されている。

 

「抜けば玉散る、村雨丸かよ」

 

春明のつぶやきが聞こえたのかは定かでないが、女は八双に構えると唐竹割りのように刀を大きく振り下ろした。

その刀身から生み出される水気が氷の刃となって春明に迫る。

 

春明は土行符を地面に投じた。そして、足裏で符を叩くと、地面がせり上がり土壁となって春明を守った。

春明はすぐさま、土壁から転がるようにして離れる。

それに一瞬遅れて、女は土壁を両断して、姿を現した。

 

しかし、女が姿を現したときには既に、春明は攻撃の準備を整えていた。

火行符を三枚束ねて矢を作る。そして、木行符で生み出した弓で打ち出した。

矢を射ると同時に、弓を手放す。すると、矢が木気を吸い、更なる火を生み出した。『木生火』によって焔の矢が勢いを増したのだ。

 

女は無視できない攻撃と判断したのか、水気逆巻く刀で焔の矢と対峙した。拮抗はわずか。

『金生水』、金属の表面には凝結により水が生じるように、あの刀こそが水気を生み出し強化する。強化された火と同じく強化された水であれば、『水剋火』によって水が火を消し止める。

 

春明は駄目元で放った攻撃の結果を見て、舌打ちを零した。

葛葉は間隙の処理にまだ時間が掛かるだろう。九郎丸も葛葉の処理が終わらなければ、こちらの加勢には来られない。

そして、玉櫛は講堂を守る必要がある。

 

ここは春明ただ一人で、あの女を打倒しなければならないのだ。

 

近づかれてしまえば御終いである。春明が受け身に回れば、すぐさま斬り裂かれてしまうだろう。

他の呪術を使うことも難しい。本来ならば式神を前線に立たせて、その間に術を準備するのだが、今は手が足りず、そんな隙も与えてくれない。

 

今でこそ、あの女は霊気を押さえられている。それはあの額にある符で制御するため、強制的に抑え込まれているに違いない。

葛葉は付喪神と言っていたが、本来はかなり強力な霊気を持っているだろう。当然、生半可な術では到底効果は得られないだろう。

 

であれば、春明に取れる手段は限られてくる。

確実性はあるが、一発勝負。もし、春明の術が上回れなかったらそのまま切り捨てられてしまうだろう。

当然ながら、恐怖はある。

 

だが、春明には目の前の女を救いたいと思ったのだ。

 

彼女の顔に表情はない。しかし、刀を振り上げるたび、微かにだが苦痛に歪む顔があった。微かにだが、剣先に震えがあった。

そして、何より彼女の目から涙が零れていた。

 

春明にとって人と霊的存在は大差ない。幼い頃より、共に過ごし、親代わりであり兄弟のようであり、友人であった。

人と接するよりも式神と接する機会の方が多いとさえ言える。

目の前で女が無理やり使役されている。そんなことを見過ごすことなんて出来やしなかった。

 

女を望まぬ支配から解放する。

今はただそれだけのために。

春明は符を抜いた。

そして、それを宙に投じて、殴りつけた。

 

それは轟音と眩い閃光を生み出した。

その正体は雷である。

雷鳴と雷光を伴い、女へと枝を伸ばす稲妻。

 

女は迎え撃つ様に、袈裟切りを放つ。雷と刀での鍔迫り合いだ。

女は春明との距離を一歩一歩詰めてくる。その距離はみるみる詰まり、刀が春明の頬を切り裂き――。

 

そこで止まった。

 

雷光は収まり、太く伸びていた樹木が姿を現した。その樹木にがっちりと刃を喰い込ませ、女の身体自体も樹木の中にすっぽり収まっていた。

 

雷の正体は木行符である。五行思想では雷は木行符に分類される。

本来、金属は木を傷つけ、切り倒す。『金剋木』の関係上、木気で勝てる道理はない。しかし、あの刀は普通の刀ではない。刀身に水を生み出す刀である。『水生木』、木は水によって養われる。そのため、刀身が生み出す水を樹木が吸い、木気が金気の克制を上回った。

その結果、『木侮金』という逆相克という関係性が生み出された。

 

今でもギシギシと刀を動かそうとする女。そうするごとに水が更に生み出され、樹木が更に強固になっていく。

 

春明は女の額に張られた符に手を伸ばした。

符をはがすと、女は脱力し意識を失った。そして、そのまま姿を維持できないのか、姿を消し、地面に刀が残された。

 

「ごめんね。今は封印させてもらうよ」

 

簡易的な封印を施して、刀を持ち上げる。

刃文に夜空の星のような輝きが見え、よく沸が付いた美しい刀であった。

 

その後、葛葉によって間隙は閉ざされ、九郎丸によって亡者たちは焼き払われた。

 

○●○

 

襲撃から幾日間、学校は休みになった。

その間も間隙の見逃しが無いかや、霊脈の乱れの修復を行う等、春明は学校に来ては仕事に励んでいた。元々、陰陽術師としての仕事の領域であったため、正式に学校から依頼されたためだ。

 

とは言え、間隙に関しては葛葉が閉ざしてくれたため、本当に確認するだけで済んだ。

霊脈の乱れに関しては、間隙を生じるほどの乱れたのだ。玉櫛と修復に当たったのだが、一週間ほど時間を要した。随時、要観察ではあるが、一先ずは安定したと言ってよいだろう。

 

「ねぇ春明君? 報告は有難いのだけれど……」

 

生徒会室にて、七草先輩は言いにくそうな顔で話を遮った。彼女の目は春明の背から覗く物に注がれている。

そのまま渡辺先輩が話を引き継ぎ、疑問を口にした。

 

「君のその背負っている物は一体なんだ? まるで刀袋のように見えるんだが……」

「ああ、これですか?」

 

春明はそういうと、背負っていた袋から中身を取り出す。

それはあの襲撃の日に戦った刀であった。

 

「……おい、銃刀法違反ではないのか?」

「ちゃんと許可を得ていますよ。それに刃引きも行いましたし」

 

その時、刀がカタカタと自ら動いた。

それを見て、二人の先輩は春明から一歩遠のく。

 

「実はこの刀、付喪神が付いているんですけど、元々の所持者を探して返そうとしたら、夜中に動いて気色が悪いから土御門で引き取ってほしいと言われちゃって……」

「気味が悪いだなんて、心外です」

 

ふわりと背中から抱きとめられる。刀に宿る霊体。新たに春明の護法となった『氷雨』だ。

氷雨という名は春明が改めて与えたものだ。

侵されていた霊気を補修した後、彼女に今後のことを相談すると、春明に使われることを望んだのである。

 

春明も快く迎え入れたのだが、問題があった。

彼女は気味悪がられていたが故に、人に触れられることを欲していた。それゆえに、こうして実体化すると、スキンシップが些か激しいのだ。

 

氷雨には彼女を操っていた人物のことを聞いたのだが、その部分がすっぽりと記憶が抜けていた。呪術による影響だろうが、手がかりが一切ないのには頭が痛かった。

 

「氷雨、スキンシップはほどほどにって言っているだろ?」

「そんなこと言わないでください。旦那様」

 

春明と氷雨のやり取りを呆然と見ていた先輩達は面白いネタが出来たと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「摩利、ちょっと聞いた? 旦那様ですって」

「ああ、女誑しならぬ、式神誑しだな」

 

葛葉の溜息が聞こえた気がした。

 




今回で入学編完となります。
九校戦編を準備しておりますが、仕事で中々時間が取れず、遅くなるかと思います。
申し訳ございません。
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