███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。 作:庭師代行
下階へと移動した千雨たちは雨で濡れた服を着替えて汗を流すために風呂場へと移動した。
クラスメイト全員が入っても余裕があるであろう神殿のような造りの風呂に千雨が圧倒されていると、茶々丸と同じぐらいの身長の2体のメイド服を着た人形が現れた。
待ち構えていた言葉を話す自立稼働メイド人形たち(こいつらもミニスカメイド服だったんだが、やっぱりエヴァの趣味なんじゃねーのか?)を見た千雨の物欲と知識欲が暴走しかけたりしたが、なんとか理性でそれらを抑え込んで体を温めた。
傷一つ無く筋肉も見かけ上は少ししかついていない千雨の裸体を興味深げに見つめるエヴァンジェリンをからかったりしながら、あっという間に時間が過ぎた。
エヴァンジェリンの用意した服に着替えた千雨が髪を乾かして脱衣所を出る頃にはストームコールで発生した嵐は静まっており、窓の外には夕焼けに染まる澄み渡った空が広がっていた。
「ちゃんと時間経過で日が沈むんだな。プラネタリウムみたいなもんか?」
「いや、太陽や月は本物ではないが空模様は天候魔法で再現してある。
使う機会がないからしまっているが、極寒の土地や灼熱の砂漠を再現した魔法球も持っているぞ」
「……それだけいっぱいあるなら1個くらいくれよ」
「そんな気軽に渡せるか。この土地に縛られる前に暇を持て余して造っていた物だが、すべて仕上げるのに長い歳月をかけているのだぞ」
エヴァンジェリンは合計で6つの魔法球を所有していて、その内の1つが現在千雨が滞在している別荘である。
その他にエヴァンジェリンがかつて拠点としていた城を格納した魔法球と、その魔法球から四方に伸びた透明な管で接続された4つの魔法球が存在する。
接続された魔法球はそれぞれ『雪山』『砂漠』『密林』『山脈』で構成されており、直近ではタカミチがとある究極技法を習得する修行で使っていた。
1時間を1日に延長するという効果は凄まじいが、その分他人より早く老化してしまうため一長一短である。
内部で24時間経過しないと外に出られないため、目的が終わったら外に出るという使い方もできない。
寿命が存在しないエヴァンジェリンや現在の千雨にはデメリットではないが、これがタカミチが年齢より老けて見える理由である。
「約束通り造り方は教えてやるが、まずは自分だけの始動キーを用意できる程度には魔法の知識を深めなければな」
「私も急いでるわけじゃねーからそれはいいんだが……この服装はなんだ?」
「見ればわかるだろう。メイド服だ」
「んなわかりきったこと聞いてんじゃねーよ。この服もそうだがさっきのメイドもミニスカだし、ぜってーアンタの趣味だろこれ!」
「……近接戦闘をさせる際に適切なスカート丈を研究した結果、こうなっただけだ」
「そもそもスカートじゃなくていいだろーが。このミニスカメイドロボ子人形好き吸血鬼ッ!」
「ええい、人に変な異名をつけるんじゃない! それにパンツスタイルでは美しくないだろうが!」
「発想の方向性がおかしいっつってんだよ! 人をバカバカ言ってる割にはアンタだって十分アホだぞ!」
「なんだと貴様!」
「マタ喧嘩ヲ始メタナ」
「こんなに生き生きとしたマスターを見るのは初めてです」
「ソリャ従者ニナッテ9日シカ経ッテネーンダカラ当タリ前ダロ」
無駄にサイズがピッタリなメイド服を着た千雨が、黒い生地の
ポニーテールを解いてツインテールにしている千雨は割と満更でもない様子だが、それはそれとしてエヴァンジェリンの趣味にツッコミを入れたかったようだ。
額に手を当ててほろりと泣く真似をしながら、怒鳴り合うエヴァンジェリンの様子を見ている茶々丸にチャチャゼロがツッコんでいるが、お構いなしに口論を続けている。
その後もお互いに服装談義を重ねながらどんどん脱線していくが、最終的になぜかエヴァンジェリンが千雨に人形使いと裁縫の技術を教えるという結論に行き着いた。
売り言葉に買い言葉で、こうなったら人形使いの技術も叩き込んでやるというエヴァンジェリンの発言を千雨が受け入れたのだ。
それはつまり不死の怪物であるにもかかわらず人間であることを辞めていないという証明でもあるが、同時に感情の振れ幅が思春期の子供と大差ないということでもある。
人生経験の長さを加味しても
案外チョロいなと思いながら、千雨は脳内で錬金術の素材を自立稼働人形に育てさせる管理プランを練るのだった。
その後、千雨はエヴァンジェリンから簡単な魔法に関するレクチャーを受けることになった。
13年前に呪いをかけられてからずっと中学生として過ごしているので最近の魔法使いの事情には
「基礎的な部分は理解できているのだろう? 試しに初心者用の魔法を唱えてみろ」
「こっちの魔法は唱えるときに発動体がいるんだったよな。杖はそんなに使わねーんだが……ああ、あれがあったか」
ニルンにも魔法の
地球や魔法世界の魔法使いが使う杖が魔法を詠唱する際の補助具だとしたら、ニルンの杖は魔法の力が込められたマジックアイテムだ。
魔法の才能や知識があれば杖に込められた魔法の威力が増えたり、発動の際に使用する内包魔力の消費が減ったりするが、魔法の知識がない者でも込められた魔法を開放することはできる。
千雨はインベントリの片隅で放置していた1本の杖の存在を思い出して、おもむろに取り出した。
「これでいいか?」
「……妙に禍々しい魔力が籠もっているが、まあいいだろう」
千雨が取り出した先端に赤い薔薇の飾りがあしらわれた130センチほどの長さの材質不明の杖──【サングインのバラ】を見たエヴァンジェリンは少しだけ眉をひそめた。
見た目こそ薔薇を模した美しい杖だが、これは
サングインとの飲み比べ勝負で負けた千雨はスカイリム各地で酔っている間に引き起こした事件の数々を解決して、最終的にサングインの所有する
そしてサングインに気に入られた千雨は彼の所有するアーティファクトを授けられてコレクションのひとつに加えることとなる。
この杖には
ドレモラの社会構造は複雑なので説明は割愛するが彼らは地球で言うところのカースト制を敷いており、この杖の魔法ではカーストの最上位に位置するドレモラ・ヴァルキナズを呼び出すことができる。
この杖の他にもう1本、先端に口を大きく開けた老人の顔があしらわれた銀色の金属質の杖も持ち歩いているのだが、見た目の問題で千雨は取り出さなかった。
「プラクテ・ビギ・ナル『
「ほう、一発で成功か。異世界の魔法が扱えるとはいえ、全く系統が異なるというのに器用だな」
初心者用の始動キーを
入門者向けの練習魔法とはいえ、魔法を習いたての初心者が一発で成功させるのは難しい。エヴァンジェリンは千雨に素直に称賛の言葉を贈った。
「
「なんだと? お前が神から授けられたのはシャウトを扱う力ではないのか?」
「説明が難しいんだが……そうだな。私はアカトシュに与えられた加護で
「……なるほどな。それほどの力ならば、神の加護というのもあながち嘘ではなさそうだ」
千雨は手に持っていたサングインのバラをインベントリに格納して、同じ手に鞘に入ったままのデイドラのブレイズ・ソードを出現させて、アカトシュの加護を実演してみせた。
一般的な魔法理論の
千雨が授けられたアカトシュの加護を一言で言い表すなら『過程の省略』と表現するのが正しいだろう。
例えば千雨が1冊の本を読んだとしよう。
その場合、本を読む過程では時間が経過せずに読み終えるか読むのを中断すると時間が動き出す。
千雨の体感では普通に時間が経過しているが、周囲から見たら一瞬で読み終えたように見える。
これは他の行動にも当てはまるが他者に危害を与えることはできないため、千雨一人で
もっとも直接的な殺傷ができないだけで、一瞬で相手から装備をスリ取ることはできる。
戦闘時に一瞬で装備を切り替えたときや、近右衛門から貰った本を読むときにも『過程の省略』を利用していた。
この『過程の省略』で常人の何百倍もの時間を短縮したからこそ、千雨は様々な技能を短期間で習得できたのだ。
もっとも『過程の省略』もアカトシュの加護の一部に過ぎないのだが、本当の
「ついでに魔力容量も調べてやろう」
「なんで笑いながら犬歯を見せつけてくるんだよ」
「平時の状態を見ただけでは魔力容量は判断できん。私のような
計測用の魔法具なんてものは手持ちにないから、手っ取り早く血中の魔力量で魔力容量を測ってやる。あと、さっきの戦闘で消費した魔力を補充させろ」
「絶対最後のが本音だろ……変なことしたらぶっ飛ばすからな」
断ってもよかったが、千雨は自分の魔力が地球の基準でどれぐらいか知るためにエヴァンジェリンの提案を受け入れた。
ブレイズ・ソードを格納してフリーにした右手の人差し指を差し出すと、エヴァンジェリンがその指を口で咥えてチュウチュウと血を吸い始めた。
鋭い牙を突き立てられているにもかかわらず不思議と痛みはない。むしろ少し気持ちいい感覚すらある。
1分ほどかけてじっくりと血を吸い終えたエヴァンジェリンは、満足げな表情を浮かべながら口を開いた。
「ふむ……人間の血とは違った味わいだが独特の重厚感とコクがある。中々の高得点だぞ、長谷川千雨」
「のんきに私の血の味を食レポしてんじゃねーよ。私が知りたいのは魔力容量のほうなんだが?」
「そう
修業を終えた
「
エヴァンジェリンの指摘を聞いても千雨はケロリとしていた。
自分の魔力容量がスカイリムの一流の魔術師と比べても劣っていると最初から自覚していたからだ。
鍛えれば魔力容量を増やすこともできただろうが、千雨は
魔力の消費を抑える
もっとも
千雨は魔力容量こそあまり多くないが、魔法の力量そのものはその道の達人と比較しても優れている。
「魔力容量は先天的な素養が大きいから
しかし、この程度の魔力容量ではダイオラマ魔法球を造るのは厳しいぞ?」
「魔力を消費しないで魔法を使える装備があるから多分大丈夫だろ」
「……私の耳がおかしくなったのか? すまないが、もう一度同じ言葉を繰り返してくれ」
「魔力を消費しないで魔法を使える装備があるから多分大丈夫だろ」
「…………それも神の加護による力なのだな? 貴様にしか扱えないアーティファクトなのだな?」
「いや、普通に量産できるし誰でも使えるが」
「………………寝る」
「ちょ、おい!」
あまりのショックに脳が理解を拒んだエヴァンジェリンはフラフラと愛用のダブルベッドまで歩いていき、そのまま飛び込んで動かなくなってしまった。
いくら呼びかけても起きてこないエヴァンジェリンの姿を眺めながら、千雨は段階を踏み越えすぎたかと反省していた。
先程の発言の直前まで
目の前で人が死んだときに我慢できずに使ってしまうこともあるが、
エヴァンジェリンに放置されて手持ち無沙汰になった千雨は、最終的に
これこそが
シャウトを見聞きするだけで使いこなせるドラゴンボーンの力は強力だが補助輪にすぎない。
千雨は最初のドラゴンボーンである【ミラーク】との戦いで勝利を収めたが、シャウトの技能では未だに彼に遠く及ばない。
総合力で勝利を収めただけでドラゴンボーンとしての力が勝っていたわけではないのだ。
ドラゴンにとってシャウトとは特別な技能ではない。
人間が言葉を話すのと同じように、シャウトはドラゴンにとってはなんてことのない自然言語なのだ。
もちろん個体の強さによって戦闘で使えるシャウトの種類や強さは変化するが、どんなに弱いドラゴンでも喋るだけで喉が疲れたりはしない。
千雨がシャウトを使う際に喉を酷使してしまうのは、ドラゴンと比べると肉体の構造や強度が脆弱すぎるからだ。
しかしながら声の道を極めたグレイビアードたちは脆弱な人間の体でありながら、喉を痛めることなく連続してシャウトを扱うことができる。
彼らは人生の大半を瞑想と修行に費やすことで、ドラゴンと対等以上の練度でシャウトを使いこなせるようになった達人である。
声の道の始祖にして
争いこそ好まないが彼らの
様々な技能を達人と同等以上に鍛え上げた千雨は、シャウトこそ数多く使えるが声の技術は未熟なままである。
肉体こそ普通の人間と比べると頑強だが発声がうまくないため、シャウトを使うと無駄に喉を痛めてしまっている。
ただ扱えるだけで真に習得できていない技術を放置するはずもなく、
本来の千雨のシャウトに関する才能は人並み程度だったようで習得には時間がかかっているが、それでも着実に成長はしている。
アルドゥインの魂から読み取った
【サングインのバラ】
使用者の
先端に付いている薔薇は女性器の
【
魔法を発動させるために必要な言葉だが、言葉としての意味より
一般的には4・4・5が多いが分割して2・2・1・3・5としたり字余りが出ても構わない。
キティの始動キーである『
魔法はヨーロッパ周辺で発祥したため、呪文にはラテン語やギリシア語が
【
化学反応ではなく
この魔法が一番最初に習う呪文とされているのは、火が神話的に重要な役割を果たしているからである。
【
アカトシュが分け与えた権能の一部を利用した力。
時間の流れを操作することができるが、他者への大きな干渉はできないので時間停止とは若干異なる。
戦闘でも応用できるため、装備の瞬間的な変更やポーションをタイムラグなしで使えるなど様々な利点がある。
アカトシュに加護を授けられた人物は全員、成長速度を加速させるために同様の力を与えられていた。
ゲーム上のスカイリムではインベントリを開いたり本を読んでる間は時間が経過しない。
千雨はゲームのように1時間休むだけで体力が全快したり、一瞬で料理を食べ終えることもできる。
【グレイビアード】
世界のノドの中腹にあるハイ・フロスガーという寺院で修行をしている僧侶たちの総称であり組織名でもある。
はるか昔、第一紀の頃のスカイリムでは多くのノルドがシャウトを扱うことができた。
ノルドは強大なシャウトの力を戦争に利用していたが、ある戦争で惨敗してしまう。
敗北の理由を7年間考え続けた
平和主義へと転向したユルゲンがシャウトを争いでは使わないと決めて、声の道を極めるために設立したのがグレイビアードである。
【ユルゲン・ウィンドコーラー】
偉大なるシャウトの使い手でありノルドの大英雄でもある。
彼の魂は
アルドゥインとの最終決戦ではゲーム本編とは違って竜戦争で活躍した3人の英雄と共に千雨の味方をした。
「運命に駆り立てられようとも、己の選んだ道を進め。だが賢明に選ばねば、悪の道に誘われ迷い込むぞ」