███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。 作:庭師代行
茶々丸による状況説明を聞き終えた葉加瀬と
ふたりとも研究者として自分の技術には並々ならぬ自信を持っている。
そのため数十トンはある金属の塊を殴ったならともかく、ただの鎧を殴って壊れたと言われても納得はできなかった。
「鎧を殴った反動で壊れた、ですか? その程度でこんなに破損するはずがないのですが……」
「ハカセは茶々丸の修理を頼むヨ。私は千雨サンから、もう少し詳しい話を聞いてみるネ」
「わかりました……そうだ! どうせ換装するなら、昨日調整したばかりのロケットパンチも搭載しましょう!」
「しかし、前回は失敗して私ごと空中に飛ばされたのでは……?」
「ちゃんと今回はパラメータを調整してあるから大丈夫だよ。ほら、時間もないし急ぎましょう!」
あまり乗り気ではない茶々丸の背中を押しながら、葉加瀬は研究室の奥へと移動していった。
茶々丸は起動してから毎日のように実験と称して変な装備を試させられているため、若干嫌気が差していたのだ。
茶々丸は葉加瀬のことは好きだが、突拍子のない装備を搭載しようとしてくる悪癖だけは苦手だった。
その様子を笑いながら見送った
動力部や追加装備には
そのため修理を葉加瀬に任せるのは自然な流れなのだが、千雨の目にはわざと葉加瀬と茶々丸を遠ざけたようにしか見えなかった。
「では現物を見せてくれるカ? 千雨サン」
「ほらよ。重いから触るときは気をつけたほうがいいぜ」
「……今、どこから取り出したネ」
「悪いが企業秘密だ。魔法の一種だと思ってくれ」
千雨は気軽にインベントリから取り出したデイドラの鎧を机の上に置いたが、
しかしながら話術に長けた千雨は洞察力も高いため、インベントリを見せた後の
もちろんインベントリという未知の技術そのものにも驚いていたが、同時に
一度も会話をしたことがない上、以前に会った記憶もないので千雨には
「千雨サンは魔法生徒なんだナ?」
「学園長には魔法関係者として扱うとは言われてるが、魔法生徒とやらじゃねーな。そういうアンタらは魔法関係者なのか?」
「いや、私とハカセは魔法生徒でも魔法関係者でもない。魔法の知識はあるが、現状は……黙認されているだけだろうネ」
「黙認……?」
「オヤ、千雨サンは知らないのカ。魔法を知てしまた生徒は魔法先生に魔法に関する記憶を消されてしまうんだヨ。
私たちは長期間魔法と関わていたからナ。無理やり全ての記憶を消したら悪影響が出ると判断して、監視だけに留めているんだろうネ」
魔法先生も滅多に行わないが、魔法が存在すると確信してしまった一般人を危険から守るために記憶消去魔法を使うことがある。
簡単な魔法障壁で防がれる干渉力の弱い魔法なので大規模な儀式を行わなければ魔法使い相手には通用せず、消去という単語が入っているがどちらかと言うと封印のほうが効果としては近い。
普通は長くて半日から1日程度の記憶しか消せないため見逃されているのだと
既に話が脱線して裏の読み合いが発生してるが、千雨は気がついていないフリをしながら会話を続ける。
「だがエヴァが協力してたんだろ? なら監視なんかしなくても魔法関係者として扱っていいだろ」
「それが得体の知れない相手だたとしても、
「ハッ、それは私にも当てはまるってか」
「そこまでは言てないヨ。ただ千雨サンが何者か気になただけネ」
「そうだな……異世界から召喚された勇者って言ったら信じるか?」
「ハハハ、それなら私は未来からご先祖様を救うためにやってきた火星人だナ」
「エセ中国語時間旅行者火星人とか設定盛りすぎだろ。
ったく、最近は異星人ギャグが流行ってんのか? いいから、さっさと鎧を調べてくれ」
「陽気な中国人ジョークだたというのに、千雨サンはつれないネ」
お互いに冗談めかして話を切り上げたが、
もっとも
話を終えて椅子から立ち上がってデイドラの鎧の検分を始めた
「……ッ!? 千雨サン、これ何キロくらいあるか知てるカ?」
「胸当てと腰当て部分を合わせたら50キロはあるんじゃねーかなあ」
「それて千雨サンの体重より重くないカ……?」
「この前の身体測定だと40キロちょいだったし確実に私のほうが軽いだろうな。って何言わせんだよ」
デイドラの鎧を含めた【デイドラ装備】はその名の通り、
特殊な製法によって生み出されているため、一般的には最高位とされる黒檀装備よりも更に強力なのだが着用者が限定される装備でもある。
なにせデイドラ装備一式(鎧、兜、ブーツ、
体格に恵まれていない千雨の場合は、
千雨の動きが機敏だったため見誤ったが、そもそも茶々丸よりもこれらの装備一式を着込んだ千雨のほうが重かったのだ。
とはいえ着用せずに持ち歩いているだけの状態だとインベントリの2割近くを圧迫してしまうため、スカイリムにいた頃は持ち運べる重量を上昇させる
現在、身に着けている指輪とネックレス、そして髪を束ねている緑色のリボンにも持ち運び重量上昇と
それはそれとして千雨が50キロはある鎧を簡単に持ち上げられたのは純粋に筋力があるだけなのだが、そこを指摘してはいけない。
「とりあえず、これは私では動かせないから運んで貰てもいいカ?」
「あそこに運べばいいのか? なんかやけにSFっぽい機械が置かれてるが」
「私が作た測定装置ネ。金属組成から始まて原子や分子の配列や金属強度まで測れる優れものヨ」
「そのエセ中国語で言われるとメチャクチャうさんくせーぞ」
「そんなことないヨ。火星人ウソつかないネ」
「ボケるなら、まずは中国人か火星人かで設定を統一しろよ」
「ハハハ、千雨サンは手厳しいナ。では手早く調べさせてもらうネ」
装置の側に置かれていた基盤がむき出しになっているゴーグルのような機械をつけた
キーボードの入力速度は私のほうが速いなと心の中で勝ち誇りながら、千雨は
モニターに表示される検査結果を最初は興味深げに見ていた
10分ほどで検査は終わったようでゴーグルを外してフラフラとしながら千雨の真正面へとやってくる。その
「どうしたんだよ。なにかおかしな部分でもあったか?」
「……千雨サン、あれは誰が作たんだ?」
「私が作ったが──って、おい! いきなり肩を掴むなよ!」
「あれは何ダ!? 未知の原子と分子で構成されているだけではなく、
それこそまるで別の世界から──」
「落ち着け、
「──スマン、気を遣わせたナ」
「未知のものを見つけたときの興奮は私にも理解できるから気にすんな。
ところで提案があるんだが……この未知の素材、もっと詳しく調べてみたくはないか?」
「ム、ムムム……」
千雨はあくどい笑みを浮かべながら机の上に様々な種類の鉱石と、その鉱石から生成された
極めつけに
好奇心と自制心で板挟みになった
千雨の使用頻度が高いのは黒檀とドラゴンスケール、デイドラ装備の3つだが、他にも地球で専門家に調べてもらうために様々な装備の一部をスカイリムから持ち込んでいた。
意味深な
しかし自分という存在が非常識の塊だというのは嫌々ながらに理解しているため、詮索こそしないが頭の片隅に
「はぁ……なんか無駄に長い1日を過ごした気がするな」
茶々丸の修理が終わったのを確認して日が暮れる前に寮の自室まで帰ってきた千雨は、キャスター付きのオフィスチェアに座りながら伸びをした。
肉体的には疲れていないが、精神的には別荘や研究所で色々あったためそれなりに疲労していた。
「ザジは今日は帰ってこないんだったよな。しかし、アイツが泊まり込むほどサーカスにハマるとはなあ」
土曜日の午後に手品曲芸部の開催しているサーカスを見学しに行ったザジは、なんとその場で入部を決めてしまったらしい。
無表情な上、ほとんど喋らないくせにやっていけるのかと聞いたら花が咲くような作り笑顔を見せてくれたので、まあなんとかやっていけるだろう。
月曜日からは泊まり込みで練習に行くと(無言で)伝えられていたので、ザジがいないのは最初から分かっていた。
「今日は私だけってんなら、今のうちにこれをパソコンに入れちまうか」
千雨はつけっぱなしのまま放置していたパソコンをスリープモードから復帰させると、インベントリから2冊の本を取り出した。
近右衛門から貰った『まほネット公式ガイド2001』と『電子精霊実践入門』である。
電子精霊は一般回線でも使用できるが、アップデート作業にはまほネットが必要になるため、まずは前提条件としてまほネットの利用環境を構築する必要があった。
「魔法使いの癖に最先端の技術も使ってるんだな。付属のインストールディスクにブラウザが入ってるのか?」
まほネットとはダークウェブを通じて専用のブラウザを利用して通信を行う
買ったばかりのメインPCに何かあったら困るので、買い換えるまで使っていたサブPCにCD-ROMをセットして自作のウイルスチェックソフトを通した後に、千雨はまほネットのインストールを開始した。
余談だが、まほネットとは『Magic Access Hyper Official Network』の
接続に魔法を使ってないだろとか、ハイパーを混ぜる意味はあるのかとツッコんではいけない。
「インストールは終わったが……マジで普通だな」
魔法使いが作ったプログラムのため何か起こるのではないかと身構えていたが、終始問題なく10分ほどでインストールが終了して普通の
普通であることは喜ばしいのだが、普通すぎて逆に肩透かしを食らった千雨は少し残念な気分になっていた。
「おいおい、日本語対応のサイトまであるのかよ。しかも魔法具の通販までやってやがるし普通なのは見た目だけだったか」
リンクを辿っていって
微妙に現実味があるせいで余計に頭が痛くなる。というか呪符や魔法薬だけではなく、実弾や刀剣も売ってるのは大丈夫なのかと思いながら千雨は画面を睨みつけている。
注意深く読んでみると危険物の
「……いつまでもツッコんでたら日が暮れちまうな。さっさと電子精霊とやらを試してみるか」
ネットサーフィンを中断した千雨はハムスターのような愛くるしいネズミが表紙に描かれた『電子精霊実践入門』を開くと、いつものように『過程の省略』を使って内容の再確認を行った。
本の解説によると、電子精霊の
元々、電子精霊とは魔法使いがコンピュータを操作する際に操作方法を覚えなくても運用できるように生み出された非常に歴史の浅い精霊である。
個々の霊格も低く、高度な知性を宿すように育て上げた上位電子精霊に、中位や下位の電子精霊を統括させることで初めて真価を発揮する。
通常のプログラムとは理論が異なるため、使いようによっては
それでも通常のセキュリティソフトより高度な
まほネットも電子精霊を用いた運用が前提とされている部分があるので、接続に魔法が必要だという点はあながち間違いではない。
「えーと、このCDの
……なんか
悪魔召喚の儀式を天才プログラマーがコンピューター上で行えるようにした世界が舞台となったゲームのシチュエーションを思い出した千雨は、少しだけ儀式の内容に不安を覚えた。
もし本当に悪魔が召喚されたとしても今の千雨なら問題ないだろうが、なんとなく嫌な予感がしたのだ。
こういうときの千雨の予感はよく当たるのだが、先延ばしにしても解決するとは思えなかったので中断せずに呪文を唱えることにした。
「プラ・クテ・ビギナル!
始動キーを唱えだした千雨だったが周囲の変化を感じ取り、すぐさま呪文の詠唱と魔力の流れを断ち切った。
しかし繋がりを切ったにも
黒い魔力が伸びる先には、開かれたページから無数の
インベントリから勝手に取り出された黒の書を冷たい眼差しで睨みつけながら、千雨は
剣帯で吊ってあるデイドラのブレイズ・ソードの
【デイドラ
セブン・トゥ・ハンマーズ著【重装鎧の鍛造】で紹介されているように、物語の中に製法が記されている程度しか情報が出回っていない伝説の装備。
スカイリムでは製法を知っている人物は誰一人としていなかったため、過去の文献や知識を司るデイドラロードの領域で情報を集めて、ようやく作れるようになった。
ゲーム内では防御力を上げても567までしか適用されない上ダメージが20%貫通するので、そこそこの防御力の軽装を持ち歩いたほうが使い勝手がいい。
本作では前回紹介したMODでその辺りの設定を改変しているので、ゲーム本編よりも耐久力が上がっている。
【
重量1=1キロや1ポンドとして計算した場合はリンゴなどの軽い物の重量がおかしくなるので、厳密な計算式は考えていない。
デイドラ装備一式で100キロ超えは重すぎるかもしれないが気にするな!
【
どれだけ重たい装備を身に着けていても足音を発生させなくする特殊な歩法。
魔法や付呪にも似た効果のものがあるが、こちらのほうが効果が高い。
【
感圧式のトラップや
ワイヤートラップは避けられないため過信は禁物である。
【
どれだけ重たい装備を身に着けていても重量を感じさせない動作が可能になる体術。
重装と軽装、双方に同様の技術が存在する。
ゲーム的には装備している防具の重量が0になるという効果がある。
【
スカイリムには生まれた月に対応する12の星座と、そのどれとも対応しない星座が1つ存在する。
合わせて13の星座があり、駿馬座は6月に対応している。
千雨は2月生まれなので恋人座が対応するが、単純に祝福の効果で駿馬座を選択している。
スカイリムの各地には
駿馬座の加護を受けた者は、どれだけ重い鎧を着ていても身軽に動ける力と、より多くの荷物を運べるようになる力が授けられる。
ゲーム的には『鎧の移動速度低下を無効化』『装備している防具の重量を0にする』『持ち運び重量100上昇』の3つが付与される。
バグかは不明だが装備している装備と同じ種類の装備も重量が0になるので、重装をよく使うプレイヤーに重宝される星座である。