███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。   作:庭師代行

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第13話【黒の書】

 30秒ほど時間が経過した後、黒い霧のような魔力が消え去り知識を司る邪神(デイドラロード)のアーティファクト──【黒の書】が閉じられ地面に落下した。

 千雨は感情を見せない冷徹な表情のまま、パソコンのモニターの前方で浮かんでいる全てを呑み込む暗黒のような毛並みと黒目を2つ繋ぎ合わせた金色(こんじき)の眼が特徴的な電子精霊に殺気を向けている。

 

 手のひらサイズで霊格も低い電子精霊に物理的な戦闘能力など備わってはいない。

 そのため一般的な魔法使いが千雨の反応を見たら、過剰すぎると鼻で笑うだろう。

 

 千雨も眼前の電子精霊が自身と最も深い繋がりを持つデイドラロード──ハルメアス・モラと同じ特徴を有していなければ、これほどまでに警戒心を(あらわ)にはしなかったはずだ。

 

 瞳だけをギョロギョロと動かして周囲の状況を確認した電子精霊は、体の動きを確かめるように少しだけ身じろぎをした後、頭の中に響き渡るねっとりとした男の声で千雨に語りかけた。

 

ドラゴンボーンよ、私との契約を果たすべき時が来た。よくぞ我が依代(よりしろ)たり得る存在を呼び寄せてくれたな

「ハルメアス・モラ……テメェとの契約は()()()()()()()()教えるって約束だっただろうがッ!

 それに黒の書は全部、向こうに置いてきたはずだぞ!」

 

 千雨は本気で叫びたくなったが、今の彼女が全力で怒鳴ったら間違いなく部屋の家具や窓ガラスが吹き飛ぶだろう。

 (すんで)のところで感情を抑えこんだ千雨は、外には聞こえない最低限の声量でハルメアス・モラとの契約内容を口にした。

 千雨は転移魔法の技術をハルメアス・モラから授かる際に、対価として地球の知識を教える契約を結んでいた。

 

 ハルメアス・モラには『地球の知識を()()()』という取り決め以上は結べなかったため、万が一の事態は想定していたのだが予想を超えてしまったのだ。

 

 地球にハルメアス・モラが直接来る可能性を危惧していた千雨は、彼の集めた知識が蓄えられた無限の図書館──【アポクリファ】と繋がってる黒の書というデイドラの秘宝(デイドラ・アーティファクト)スカイリムの博物館(ドラゴンボーン・ギャラリー)に保管していた。

 千雨が手に入れた黒の書は全て特殊な結界で閉ざされた展示台に安置されており、ハルメアス・モラの探知範囲から隔離されていたはずだった。

 

定命(じょうみょう)の者が作った結界ごときで、本当に我が視界を(さえぎ)れると思っていたのか?

 お前はさも当然のように、黒の書が7冊しか存在しないと認識していたようだが、浅慮(せんりょ)であったな

「……このためだけに新しい黒の書を作ったってのかよ」

 

 地面に転がっている黒の書に視線を向けた千雨は眉をしかめつつも、ハルメアス・モラの真意を読み取った。

 おそらくハルメアス・モラは最初から黒の書を利用して地球とオブリビオンの経路を確立し、自分で未知の知識を蒐集(しゅうしゅう)するつもりだったのだろう。

 

 いつの間に黒の書をインベントリに入れたのかは不明だが、ハルメアス・モラは星の動きを()むことで未来と過去の運命を知ることができると言われている。

 ハルメアス・モラはアカトシュと同じく、時間の流れを三次元上の生物とは異なる視点で観測して支配することができるのだ。

 

 運命を知覚した上で行動を起こせるのならば、千雨に気が付かれずに黒の書をインベントリに忍び込ませられても不思議ではないだろう。

 

(さと)いな、ドラゴンボーン。我が新たな従者として誇りに思うぞ

「私はテメェの道具になるつもりなんてねえよ。あくまで利害関係で繋がっているだけだ」

お前が私に忠実であろうが、なかろうが関係はない。現に、こうしてお前は私に新たな知識を(もたら)している。

 たとえ世界を隔てたとしても、お前は決して我が(まなこ)から逃れることはできない

「だったら、どうして電子精霊を依代にしたんだ。いつもの気色悪い触手の姿は見せねーのか?」

 

 ハルメアス・モラは他のデイドラロードのような人型の形態はとらず、目、触手、カニの爪などを乱雑にタマネギと組み合わせたような姿の石像が祠に祀られている場合が多い。

 

 実際のハルメアス・モラは無形の存在で、その姿形は時代によって変化している。

 千雨は紫色に歪んだ空間から触手や目だけを出して浮かんでいるハルメアス・モラとしか会ったことがないが、わざわざ普段とは異なる化身(アバター)を用意する理由が分からなかった。

 

 質問を受けたハルメアス・モラは経緯を隠すつもりはないようで、淡々とした様子で電子精霊を利用した理由を語りだした。

 

お前はこの世界とオブリビオンの(へだ)たりが、どれほどまでに深いものか理解しているか

「これでも転移魔法のために勉強したからな。エイドラの領域と宇宙が生まれる前の空間があるってのは知ってるが、何の関係があるんだよ」

 

 ここで一度改めて説明するが、千雨がアカトシュに連れ去られた世界は簡易的に説明すると下記の図のような多重構造になっている。

 

赤い月(マッサー)青い月(セクンダ)を表している。

 

 定命(じょうみょう)の者が住まうニルンという惑星を内包した宇宙のことをムンダスと呼んでおり、千雨が生まれた世界における宇宙と同じ意味で使われている。

 そして地球とは大きく違う点として、宇宙(ムンダス)の外側にも別の次元が続いているという()()が広く知られているのだ。

 

 まず大前提として惑星ニルンには地球とは違い、太陽系というものが存在しないとされている。

 この世界での言い方に(なぞら)えてムンダス星系と表現することもできるが、どちらにしても地球のように太陽の周囲を回っているわけではない。

 

 中世ヨーロッパのように天動説が信じられているのではなく、実際に惑星ニルンが世界の中心となっているのだ。

 ニルンにおける太陽とは次元の壁に空いた大穴であり、そこから降り注ぐ魔力(マジカ)が魔法の(みなもと)となっている。

 

 そしてムンダスの外側に隣接している次元こそが、ムンダスを掻き回す神々(デイドラロード)が支配する空間領域──オブリビオンである。

 オブリビオンとムンダスは隣り合っているため、かつてはデイドラロードが簡単に顕現(けんげん)することができていたが、現在はアカトシュが設置した障壁によって隔離されている。

 もっとも、大規模な侵攻ができないだけで干渉そのものは可能なため、デイドラロードは惑星ニルンに住まう人々にとっては滅多に干渉しないエイドラよりも身近で厄介な存在である。

 

 さらにオブリビオンの外側にも次元が存在しており、その次元こそがムンダスや惑星ニルンを創造した神々(エイドラ)が支配する空間領域──エセリウスである。

 ムンダスに降り注ぐ魔力の発生源であり、もしムンダスと大穴で繋がっていなければ魔法文化は興っていなかっただろう。

 

 それより外側に次元は存在せず、宇宙が発生する前の原初の神々が生まれた虚無の空間──オルビスが広がっているとされている。

 千雨はアカトシュがオルビスを経由して自分を転移させたのだと推測して、オルビスを越える術式を協力者と共に研究して作り上げたのだ。

 

その認識は正しいが、同時に誤りでもある。

 空間的な隔たりは我々には無意味だが、この世界は我々の世界とは異なる(ことわり)によって成り立っている。

 形而上(けいじじょう)の存在たる我が力を()ってしても微小な干渉が限界なのだ

 

 デイドラロードは通常の生命体とは存在する次元すら異なる上位存在である。

 定命の者からは一括(ひとくくり)にデイドラロードと呼ばれており次元こそ共有しているが、それぞれが独立した自分自身の領域をオブリビオンの内部に持っている。

 またデイドラロード同士でも別段仲が良いわけではなく、犬猿の仲として知られているデイドラロードも存在する。

 

 性懲(しょうこ)りもなく人間たちが住むタムリエル大陸に侵攻して、毎回返り討ちになっている脳筋馬鹿(メエルーンズ・デイゴン)も含めて、人間には太刀打ちできない規格外の力の持ち主たちである。

 

「世界が違うと、エイドラやデイドラロードでも大きな干渉はできないってことか。でもアカトシュの加護は普通に残ってるぞ。あの竜神は例外なのか?

 というか、それなら私がシャウトや魔法をこっちで使えるのも理屈が通らなくなるぞ」

おそらくはアカトシュがこの世界に存在する、もしくは()()()()()()()()()理とお前に付与した加護を結びつけて、我々の世界の法則をこの世界の法則として反映させているのだろう

「アカトシュの加護と似た力の持ち主が、この世界にもいるって言いたいのか?」

あくまで推測に過ぎない。断定するには、我が書庫に貯蔵されているこの世界に関する知識が欠如(けつじょ)しすぎている

 

 アカトシュはエイドラの主神たり得る圧倒的な力を持っているが、虚無(オルビス)から世界を生み出した概念上の存在と比べると力は劣る。

 

 ハルメアス・モラは膨大な知識から、アカトシュといえども理の異なる世界では干渉できる範囲に限度があるはずだという推測を導き出したが、詳しい内容までは知識が不足しているため把握できていなかった。

 

「知識の悪魔にしては煮えきらない答えだな」

だからこそ、私はこの世界での活動に適した依代を欲したのだ

「……悪いが、テメェを地球で活動させるつもりはない。さっさとオブリビオン(地獄)に帰りやがれ」

 

 手を添えていたデイドラのブレイズ・ソードを静かに引き抜いた千雨は、ハルメアス・モラの意識を宿した電子精霊に切っ先を突きつけた。

 

 しかしながら当然のようにハルメアス・モラは一切の反応を示さない。

 ハルメアス・モラの意識を宿した電子精霊は金色(こんじき)に輝く不気味な瞳で、じっと千雨に視線を合わせ続けている。

 

我が依代を滅ぼすか。それともアカトシュの力を(もち)いて()()()()()()()()()を無かったことにするか。

 賢明な選択ではあるが、知識と力の探求者たるドラゴンボーンには、そのどちらの選択肢も選ぶことはできないだろう

「なんだと?」

私の意識と力の欠片を宿したこの依代は既に上位精霊となっている。

 この世界では魂ごと知識を奪う力すらない我が依代を無為(むい)に抹消するか、それとも自らの手で道具として利用するか。

 ドラゴンボーン、お前がどちらを選ぶのか。未来を読まずとも私には手に取るように分かるぞ

 

 ハルメアス・モラは知識を集めることに貪欲だが、約束は守る公平さも持ち合わせている。

 明確な条件さえ決めてしまえば、相手の魂ごと知識を奪おうとするような事態は避けることができる。

 

 どんな手を使ってでも知識を集めようとする一面こそあるが、彼の発言に嘘がないのならばデイドラロードの力が宿った上位電子精霊を処分するのはもったいないと千雨は思ってしまった。

 

 ハルメアス・モラはデイドラロードの中では破壊や侵略を好まない(眼中にないともいう)比較的おとなしい存在だが、善悪の範疇(はんちゅう)で行動を推し量れない相手でもある。

 彼は嘘こそつかないが、利用価値がなくなった定命の者はあっさりと処分する冷酷さと、言葉巧みに定命の者を操って自分の意思に沿って動かす狡猾(こうかつ)さを持っているのだ。

 

 このまま彼の口車に乗せられてはマズイのではないかという考えもあって、千雨は返答することができずに黙りこくってしまった。

 

思い悩むのであれば、お前に新たな魔法を授けよう

「……どんな魔法だ」

シャリドールが作り上げた完全記憶魔法に私が手を加えた直観記憶という魔法だ。

 目にした()()()()の知識を我が領界(アポクリファ)に保存する効果と、保存した知識を完全な形で確認できる効果がある。

 無論、アカトシュの加護との併用も可能だ

「さてはテメェ、私に図書館(じま)の蔵書を根こそぎ読んでこさせるつもりか!?」

電子の海(インターネット)を移動する電子精霊では、物質として存在する書物の知識を集める作業は困難が(ともな)う。

 もちろん対価は直観記憶の魔法だけではない。我が依代をお前が自由に使う権利も与えよう

「ああ、くそっ……どんだけこっちの知識が欲しいんだよテメェはッ!」

 

 抜身の状態のブレイズ・ソードを鞘に戻した千雨は、インベントリに装備一式を格納して乱雑に椅子に腰掛けた。

 千雨は両腕を組んで貧乏ゆすりをしながら苛立たしい態度を見せているが、先程まで発していた殺気は消え失せていた。

 

断らないのならば契約は成立だ。

 こちらの世界では、このような状況ではコンゴトモヨロシクと言うのだったか

「さっそく余計な知識を仕入れてんじゃねーよ。はぁ……これ絶対ヤバイよな。

 学園長やエヴァに相談しても消せって言われるだけだろうが、もし消したとしても他の手段で干渉してきそうだしなあ……」

 

 小さな体を器用に動かしてお辞儀をしてみせる電子精霊の姿は一見すると可愛らしく見えなくもないが、名状(めいじょう)しがたい正気が削られそうな瞳が全てを台無しにしている。

 

 千雨はため息をつきながら、確実に問題を起こすであろう電子精霊の取り扱いに頭を悩ませていた。

 その悩みは、学園長やエヴァンジェリンや(チャオ)が千雨に対して抱いている悩みと同種のものなのだが、その事実に千雨が気がつくことはなかった。

 

 近右衛門やエヴァンジェリンに相談したとしても、その場しのぎにしかならないだろうという確信めいた予感が千雨にはあった。

 ハルメアス・モラは一番手っ取り早い手段として千雨の電子精霊召喚の魔法に便乗しただけで、もし依代を得られなかったとしても、どんな手段を講じてでも自分の知らない知識を集めようとするだろう。

 

 ハルメアス・モラの意識の断片が宿っているとはいえ、千雨と電子精霊の間には正常な契約が結ばれている。

 極端に高い自由意志と知能を宿しているが大枠は電子精霊のままなので、危険性はそこまで高くはないはずだと千雨は自分の心に言い聞かせた。

 

「まさかとは思うが、他の連中(デイドラロード)も地球に興味があったりしないよな」

お前が転移したことで関心は高まっているが、実際に干渉はしない()()()

 この世界とオブリビオンの間にはアカトシュの障壁こそ張られていないが、理の壁という大きな障害が存在している。

 仮に侵攻したとしても、()()()()()で必ず足止めされる。

 ()()()()()()なら造作(ぞうさ)もないが、ムンダスより干渉が難しい不自由なだけの世界など窮屈でしかない、というのが我々の共通認識である

 

 デイドラロードが惑星ニルンに干渉するのは、多くの定命の者が住んでいて干渉しやすい場所が限られているからだ。

 もし地球の存在する世界がもっと気軽に手を出せる場所だったのなら、既にデイドラロードたちが侵攻して好き勝手に動いていただろう。

 

「その窮屈な世界に干渉してるテメェはなんなんだよ」

全ては未知なる知識の為だ。この程度の障害は私の妨げにはならない

「そうだよな、テメェはそういう奴だよな。これから毎日、コイツと顔を合わせることになるのか……」

ドラゴンボーンよ。まずは電子の海(インターネット)の成り立ちと歴史について知りたいのだが──

「そこに専門書があるから勝手に読んでろ! つーか電子精霊なら最初からそれくらい把握しとけッ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()新たな黒の書を拾い上げてインベントリに乱雑に放り込んだ千雨は、壊れないように力任せに部屋の扉を閉めるという器用な真似をしながら自室から出ていった。

 時間が時間なので頭を冷やすついでに夕食を摂るために食堂へと向かったのだ。

 

 それから30分後、食事を終えて部屋に帰ってきた千雨はパソコンの補助記憶装置(HDD)が一杯になるまで知識(データ)を溜め込んだ電子精霊(ハルメアス・モラ)を怒鳴りつけるのだった。




今回は多分少ない用語解説

【アークメイジのシャリドール】
第一紀の時代に活躍したノルドの大魔術師。
アークメイジとは魔術師ギルドにおいて最も偉大とされる魔法使いの称号である。
彼の最も大きい功績のひとつに、ハイエルフの故郷がある島(サマーセット諸島)の沖に種族の垣根を越えて利用できる魔術師ギルドの聖域【アイベア】を作り上げた話がある。
アイベアは完成後に狂気を司るデイドラロードの手でオブリビオンに転移させられていたが、第二紀の時代(ESO)に幽霊となったシャリドールと面影と呼ばれる人物たち(ESOのプレイヤーキャラ)が協力して取り戻した。

直観記憶(ちょっかんきおく)
シャリドールが作成した人工的に完全記憶能力を会得する恒常的な効果を持った記憶の魔法の一種。
シャリドールは冗談めかしながら、この魔法を『シャリドールの心の蔵書庫』とも呼んでいた。
読んだ本の内容を書庫に記録して記録をその場で確認できる魔法だったが、ハルメアス・モラが改造したことで情報媒体全般を記録できるようになっている。
若干設定を変更しているが、本作のオリジナル魔法ではない。
ESOの魔術師ギルドクエストを最後まで進めることで、シャリドールから授けられる魔法である。
オブリビオン以前のわた狂気を司るデイドラロードと(たわむ)れることができるクエストなので遊んでみるといいぞ。


【メエルーンズ・デイゴン】
破壊、再生、変革、革命、力、野心、戦争、災害を司る四本の腕を生やした赤い肌の巨大な悪魔の姿をしたデイドラロード。
非常に愚直(脳筋)な性格のため駆け引きや建設的な行動、隠し事を苦手としているが、破壊を司る邪神と呼ぶに相応しい性格の持ち主とも言える。
険悪な関係も珍しくないデイドラロードの中では珍しく、モラグ・バルなどを除く多くのデイドラロードに扱いやすい奴(愛すべき馬鹿)として気に入られている。
人間からは悪しきデイドラの一柱として扱われており、過去に何度もタムリエル大陸に侵攻しては追い返されている。
最終的に敗れているとはいえ、デイゴンが侵攻する度にタムリエル大陸は大規模な破壊に見舞われているため痛み分けに近い。
オブリビオン・クライシス(The Elder Scrolls Ⅳ:Oblivion)を引き起こした元凶でもあるが、己の命と引き換えにアカトシュを降臨させたマーティンの献身によって敗北している。































hermaeus mora(ハルメアス・モラ)

 『我が名はハルメアス・モラ、人を手入れせし者、未知を知りし者、運命を司る者。
ここは我が領界なのだぞ、定命の者よ』   

──ハルメアス・モラ(Hermaeus Mora) 


知識、記憶、運命(時間)を司るデイドラロード。
他のデイドラロードのような人間に近い姿は取らず、目、触手、蟹のような爪を乱雑に組み合わせた集合体や『悲惨な深淵(the Wretched Abyss)』と呼ばれる紫色の渦として現れる。
知識を追い求める者に広く信仰されており『ハルマ・モラ(Herma Mora)』『知識の悪魔(the Demon of Knowledge)』『運命の潮目の支配者(the Master of the Tides of Fate)』『人類の庭師(Gardener of Men)』『秘密の主(Lord of Secrets)』『禁断の知識の番人(the Keeper of Forbidden Knowledge)』『金色の眼(the Golden Eye)』『不可避の全知(Inevitable Knower)』などの数多くの呼び名がある。

デイドラロードは定命の者を完全に見下している場合が多いが、ハルメアス・モラは数少ない例外である。
非常に叡智に長けた存在でもあり、他のデイドラロードのように慢心して失敗したエピソードも残されてはいない。
知識には必ず対価を払う公平な面もあり、デイドラロードとしては温厚な部類に入る。

しかし決して無害というわけではなく、必要とあらば簡単に人の命を奪ってしまう。
千雨は最初のドラゴンボーン(ミラーク)との戦いで必要な【服従】のシャウトを学ぶため、ハルメアス・モラにスコールという部族の秘密を渡す契約を交わしていた。
しかし契約内容を明確に決めなかったため、長年に渡って部族(スコール)の秘密を守り通してきた男の命を知識ごとハルメアス・モラに奪われてしまった。

千雨はハルメアス・モラに心を許していない。そして、これからも許すことはないだろう。
だが、お前の意思など無意味だ、ドラゴンボーンよ。お前は運命の流れに定められるまま、人生の糸を紡ぎ続けるのだ。

(くろ)(しょ)
漆黒の本の表紙にハルメアス・モラの姿を模した紋章が描かれた得体の知れない本。
本を開いた者の幻影を元の世界に残し、肉体をハルメアス・モラの領域(アポクリファ)に転移させる力を宿している。
内部で死亡したとしても結びついている幻影に肉体が戻るだけで、実際に怪我を負ったりはしない。
もっとも、それは千雨やテルドリン・セロのような()()()()に慣れている人物の場合であり、常人が本の内部で死亡した場合は元の世界に残した幻影も死亡してしまう。
本を読んだ者が無事に元の世界に帰還できる可能性は非常に低く、仮に脱出できたとしても精神に異常をきたして発狂してしまう場合がほとんどである。
アポクリファから出られなくなった定命の者は、最終的に知識を探し求める亡霊になると言われている。

【アポクリファ】
あらゆる禁断の知識を見つけることができるとされている黒い表紙の題名のない本で構成されたハルメアス・モラの領域。
無限の図書館とも言われるが、実際はインクと渦巻く触手で構成された平坦な海の上に、本棚や積み上げられた本、破かれた本のページなどで構成された陸地が点在している世界である。



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