███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。 作:庭師代行
人間の肉体に竜の魂を宿した生まれながらの
竜の言葉で『竜の血脈』『竜の血族』『竜を狩りし子』などの意味があり、人間の言葉ではドラゴンボーンという。
肉体が滅んでも魂だけで生存できる竜の魂を喰らう力と、竜の言葉を見聞きするだけで使いこなせる力を持っている。
長谷川千雨は時を司る竜神によって生み出された最後にして最強のドラゴンボーンである。
第1話【霊体化】
彼女は自分のことを他人よりちょっとだけ現実主義者で、伊達メガネをかけていないと人見知りするだけの普通の子供だと思っていた。
もっとも自分のことを現実主義者だと自認しているが、深夜のラジオ番組で語られていたような思春期を終えた者特有の斜に構えた思想を患っているわけではない。
神様なんているはずがないし魔法なんて存在しない。
そんなものはあくまでフィクションであって虚構に過ぎない。
超常現象はすべて科学的に証明できるはずだ。
今年の春から中学生になる12歳の少女にしては少しばかり擦れた考え方ではある。
だからといって創作物に対して現実的ではないと野暮なツッコミをいれるわけでもない。
現実は現実、空想は空想だと
少なくとも
帰ってきた。帰ってこられた。帰ってきてしまった。
そんな感傷をつぶやく間もなく、中学生になったばかりであろう年頃の少女は背中の中ほどまであるポニーテールをはためかせながら高度1万メートル上空を自由落下していた。
摂氏マイナス50度の極寒の世界の中、薄茶色の髪の少女──
「うまくいったと思ったら座標がメチャクチャじゃねーか、あのクソジジイ!」
千雨はこめかみに青筋を立てながら、つい先程まで顔を合わせていた何百年も前から生きている偉大だが尊大で冷酷無比な
こういった不測の事態に備えて、千雨は可能な限りの【
視界の邪魔になるので、頭を完全に覆い隠す兜の代わりに額の部分に大きなルビーが
とはいえ
彼の地で冒険のイロハや戦い方の基礎を教えてくれた傭兵が使える浮遊の魔法は教え方が壊滅的にヘタクソで覚えられなかったため、落下の勢いを弱めることもできない。
ああでもないこうでもないと考えているうちに雲を突き抜け、どの建物よりも高い巨木が特徴的な見慣れた町並みが迫っていた。
「……絶対目立つけど、こうするしかないか」
軌道を修正して湖に落ちるには角度が悪いと判断した千雨は諦めたように
竜の言葉で『
別世界の人間を引きずり込めた時点で、世界を
非常に強力で代替手段の存在しない力なので、千雨としても使えなくなるよりは使えるままのほうが便利なのは間違いない。
しかし加護が消えていないということは、アカトシュは千雨を手放す気がないということでもある。
千雨が旅していた
3年前の千雨なら「信じるのは勝手だけど、神様なんて実在するわけないだろ」と真顔で言いそうだが、今となっては実際にいくつもの加護や奇跡を授けられているため存在を疑ってはいない。
特定の手段を使えば会話をしたり加護を受けられるが代償として何を要求されるか分からない
もっとも種族によってはデイドラロードを信仰するのが一般的な場合や、エイドラとデイドラロードを区別していない場合もあるが今は割愛する。
千雨としては「なに勝手に人の人生をめちゃくちゃにしてくれてんだ」と思っているので、エイドラもデイドラロードもあまり好きではない。
もっともエイドラの加護がなければ野垂れ死んでいたのは確実なので、露骨に嫌うこともできないという複雑な状態なのである。
現実逃避気味にアカトシュを心の中で恨んでいても時間は進む。
なるべく人が歩いていない路地裏に落ちるように軌道をずらした千雨は、膝を抱えて体を丸くして全身を襲うであろう衝撃に備える。
それから数秒後、重力によって加速している千雨の体は土煙を巻き起こしながら道路を転がっていき、最終的に民家のブロック塀に直撃して大きな衝突音を出したが無事に止まった。
肉体は【霊体化】で傷つかないとはいえ、物理的に干渉しなくなるわけではない。
肉体を不変の状態にしているだけなので、痛みや感覚に影響はないが地面や壁を透過できたりもしないのだ。
「な、何があったんだ?」
「隕石でも落ちてきたのか!?」
(さっそく野次馬が集まってきやがったか。ここはさっさと離れたほうが良さそうだな)
姿勢を低くして気配を周囲に溶け込ませていた千雨は、禍々しいデザインの
野次馬の集団からすんなりと離れた千雨が真っ先に行ったのは現在の西暦と日時の確認だった。
千雨がいた
時間の進み方が同じなら、千雨は3年以上の歳月を向こうで過ごしたことになる。
その割には
コンビニで新聞を確認した千雨は自分の心配事が杞憂だと判明して安堵した。
日記に記しておいた千雨がタムリエルへと
(別に狙ったわけじゃないけど……偶然とは考えにくいな。アカトシュが干渉したのか?)
野次馬を撒いて人目につかない場所で鎧姿から足首まで丈のあるシンプルな深緑色のワンピースに着替えた千雨は、学生寮までの道のりを歩きながら現状について思案していた。
千雨はエイドラやデイドラロードの人知を超えた力で生まれ故郷である地球に帰ってきたわけではない。
現在では散逸してしまった魔法も組み込んでおり、千雨はそれらの知識を手に入れるために、とあるデイドラロードと取引をしている。
信徒というわけではない(と千雨は主張している)が、今の彼女の性格が
デイドラロードは真の意味で不死身の存在で、寿命や死の概念のある生物──
当然だが、ぶっつけ本番で成功したわけではなく何度も転移には失敗している。
千雨は縁のあるデイドラロードが多すぎるのに加えて、実際に彼らの支配する領域に訪れたことがあるのも影響していた。
幸いにも
それでも帰ってきたのには、明確な理由があった。
タムリエルは魔法や
過去に
つまるところ千雨は日本の文化が恋しくなったのだ。
スカイリムにも美味しい料理はあるし、他の地方には軽くしか足を踏み入れていない。
かつてはインドア派だったが、今は見知らぬ土地や遺跡を探索するのも気に入っている。
気候の関係かスカイリムでは育てられておらず輸入もされていないが、南にあるシロディール地方には米があると相棒の傭兵から聞いている。
それでもパソコンやオタク文化なんてものは影も形もない。
娯楽小説やカードゲーム、ボードゲームは存在するが、地球と比べると見劣りしてしまう。
ならば自分の手で作ろうかと考えたが、自分の求める水準まで達するのにどれぐらいかかるのか分かったものではない。
そもそもデイドラロードはともかくエイドラが地球の知識をむやみに広めるのを許さない可能性もある。
だったら地球に帰ればいいという結論に達するのもどうかと思うが、千雨の計画に参加した面々は誰も止めなかったためここまで突き抜けてしまった。
気にしていてもしょうがないと浮かんできた疑問を切り捨てた千雨は、おぼろげな記憶から道順を思い返して学生寮に向かうことにした。
平日の昼間とはいえ入学式前日のためか、学生寮のロビーは新入生と思わしき少女たちで賑わっていた。
千雨は初等部からの進学組のため、顔と名前ぐらいは知っている生徒も何人かいる。
出て行ったときと服装が違っていると気が付かれたら面倒なので、千雨は気配を薄くして駆け足気味にロビーを通り抜けた。
専用の
今はそれらの装備を一切身に着けていない素の状態だが、なんの変哲もないワンピース姿の隠密でも
しかし千雨は失念していたが麻帆良には常人離れした連中がそこら中にいるのだ。
日本は海外やスカイリムと比べて平和だという
もしくは3年ぶりに日本に帰って来られたことで気が緩んでいたのか。
結局、興味深そうに千雨の姿を目で追っている長身の糸目の少女に気がつくことはなかった。
(それにしても財布や学生証を持ち歩いてなかったのは不幸中の幸いだったな。
向こうで目を覚ましたときは最初から囚人服に着替えさせられてたから、持ってたらきっと無くなってたぜ)
いきなり目をつけられ始めているなど露知らず、千雨の体感時間で3年以上前の出来事を思い返す。
そう、たしかあのときは中学入学を期に新調したパソコンのアップデートが終わるまでの時間つぶしに、寮の近辺の地理を確認するために散策していたはずだ。
(ずっとかけてなかったし今更あの伊達メガネに未練はないけど、なにか忘れてるような……)
以前の千雨は人見知りを誤魔化すために、伊達メガネを他者と自分を遮る精神的な壁に見立てていたのだが、スカイリムではそんな
急にめまいを起こして倒れたと思ったら、聞いたことのない神々に加護とタムリエルの基礎知識や言語、生きていくのに必要最低限の技能を強制的に無意識下で押し付けられて、目が覚めたら手枷を付けられ身に覚えのない罪で処刑されそうになる。
それが
様々な感情で頭の中がグチャグチャになりながらも心が折れることなくアカトシュの加護を利用して乗り切った後で、ようやく眼鏡をかけていないことに気がついたぐらいだ。
その後も
今となってはいい思い出──とは言い切れないし血
ならばと反射的にどこからともなく
「って何やってんだよ、私は……」
たとえ寮の自分の部屋とはいえ、鍵のかかった扉を
アカトシュの加護により厳しい鍛錬を行うことなく簡単にシャウトを操れる千雨は、やろうと思えば
戦いに関する技能やそうでない技能も
人並み外れた力を有していると頭では理解しているつもりだったが、気をつけないと駄目だなと気を引き締めた。
気をつけようとは思っているが使うのは控えようと考えていない時点で千雨の考え方はかなり毒されているのだが、それを自覚することはなかった。
部屋に入る前に探知魔法で同居人のザジ・レイニーデイが部屋にいないことを確認していた千雨は、手早くワンピースをインベントリに収納するとクローゼットにしまっていた普段着に着替えた。
インベントリとは千雨がそう呼称している特殊技能で、アカトシュの加護のひとつだろうと推測しているが原理は把握していない。
簡単に説明すると入れられる総重量が身体能力に依存しているドラえもんの四次元ポケットのようなものだ。
固定された収納家具の場合は制限なく入れられるため、千雨はなんでもかんでも貯めこんで仲間や知人によく呆れられていた。
着替え終えた千雨は椅子に腰掛け窓から見える夕焼けに染まる町並みを眺めていた。
はっきり言って千雨は麻帆良に住む人々があまり好きではないと
全体的におおらかな気風が千雨の性格と噛み合わず、それが人見知りに拍車をかけて親しい友人ができずに学校では孤立している。
インターネット上のいくつかのコミュニティに所属しているため、実際にはあったことのない顔も知らない知人はそれなりにいるが上辺だけの付き合いにすぎない。
それでも、こうして帰ってきてわかったことがひとつだけある。
「……やっと帰ってこれたんだな」
日が暮れ始めた夕焼け空に浮かぶ
千雨はアルドゥインの壁に記された予言をなぞるように
だが、この世界での長谷川千雨としての役目は始まってすらいない。
異世界を救った英雄は今しばらく平穏な日常を噛みしめるだろう。
この世界の大きな流れを動かすこととなる英雄の卵が麻帆良へとやってくるその日まで。
なおその後、本格的に泣きそうになったところで同室に住んでいるザジが帰ってきてしまい微妙な雰囲気になったのはご愛嬌である。
【
髪の色が
好きなもの:小さくムダのない機械、
嫌いなもの:人ゴミ、街中での襲撃、サルモール、マルカルス、運命。
備考:予想のつかない事象も嫌いだったが、予想外の事態に遭遇しすぎて慣れてしまった。
慣れたが受け入れたわけではないので、心の中でツッコミを入れる癖は治っていない。
【
千雨の魔改造の素材となったTES5の
本作では少しだけ現実寄りに改変されているので、ゲーム本編のようにメニュー画面を開いたりスキルツリーを触ったりはできない。
逆に言えば、それ以外の要素は大体は変わっていないどころか
【
ベセスダ・ソフトワークスが2011年11月11日に発売したオープンワールドなアクションRPGの5作目。
略してTES5やスカイリムと表記されることが多い。
指輪物語のようなハイ・ファンタジーな世界観と色々な意味で高い自由度が特徴的なゲーム。
ヘビーなPC版プレイヤーはMOD環境を整える過程で何日も費やすゲームでもある。
本作の環境は2016年11月10日に発売されたスカイリムの
なお10周年を記念して2021年11月11日に公式に認められているMODの要素が追加された『Anniversary Edition』がリリースされた。
日本時間では12日だと?細かいことを気にしているとハゲるぞ、定命の者よ。
【
『Modification』の略称。ゲームを改造して様々な要素の追加や変更を行うデータのことを指している。
MOD配信サイトとして最大手である『Nexus Mods』ではSE用のMODだけで4万種類以上が公開されており、プレイヤーの好きなようにゲームをカスタマイズできる。
【バニラ】
MODを1つも入れていない基本の状態のこと。
【ニルン】
地球と同じ球体状の惑星だが大きな違いとして
【タムリエル】
ニルンにある陸地の中で最も大きいTESシリーズの舞台にもなっている大陸。
一説によると1200万km²(オーストラリアの1.5倍)の広さがあるとされている。
【スカイリム】
TES5の舞台となったタムリエル北部に位置する山と雪の多い地域。
寒さに強い脳筋ゴリラことノルドという人種が多く住んでいる。
【
交流圏に他に帝国が存在しないため単純に帝国と呼称されているインペリアルという種族を中心とした多民族国家。
シロディール地方一帯を支配しているので、地球風に言い表すならシロディール帝国となる。
過去に2度滅亡しているため第三帝国と呼ばれることもある。
【
TESシリーズで使われているオリジナル言語の1つ。
ドラゴンが鉤爪を使って書いていた文字という設定なので、引っかき傷のような形となっている。
例文:
マジはドラゴン語じゃないだろだと?まあそんな日もあるさ。
【
『
本文でも説明しているが、使用時は半透明になるだけで完全に透明になるわけではない。
自分から自分や他のものに干渉しようとすると解除されるため攻撃や回復には使えないが、回避や魔法の詠唱などの間接的な行動はできる。
主な使用用途としては『高所からの落下』『罠を無理やり突破』『敵との距離を詰める』などが挙げられる。
【デイドラのサークレット】
johnskyrim氏のMOD『JS Armored Circlets SE』による追加装備。
スタルリムと皮を除いたバニラで防具として作れる素材に対応したサークレットを追加する。
バニラと同じアクセサリー扱いか軽装や重装扱いで防御力がある物を選べる。
千雨が装備している物は重装扱いで防御力も相応にある。
【
アカトシュが定命の者に使命を遂行させるため分け与えた権能の一部。
便宜上アカトシュの加護と表記しているが、
アカトシュが同種の加護を授けた人物は最低でも5人確認されているが、現在も加護を宿しているのは千雨を含めて
仕様や応用力こそ異なるが桜雨キリヱの『
ボヤけてて読めないかい?どうしても気になるならコピペして読むんだね。