███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。   作:庭師代行

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第35話【武道四天王】

 古菲(クーフェイ)との模擬戦から数日ほど経過して6月も終わりに差し掛かったある日の昼休み、自分の席で弁当を広げようとしていた千雨は朝倉のインタビューを受けながら過去の軽率な判断に頭を悩ませていた。

 あっという間に千雨に武術の心得があるという話が広まるのは予想していた。しかし噂が広まった結果、『武道四天王』などという名で呼ばれるようになるとは思ってもみなかった。

 

 ちなみに『武道四天王』の内訳は、普段の言動からして明らかに武闘派である古菲(クーフェイ)を筆頭として、常に竹刀袋を持ち歩いている刹那と本格的な忍者の真似事(コスプレ)をしている楓、歴戦の猛者を思わせるミステリアスな気配を漂わせている龍宮に千雨を加えた五人である。

 

「まず初めに言わせてくれ……なんで四天王なのに五人なんだよ! どうせなら五人衆に改名しろよッ!」

「千雨ちゃんがくーちゃん(古菲)と模擬戦したとき、桜咲さんが居なかったでしょ?

 それで四天王って言われてたんだけど、後からくーちゃんを負かした人が四人居るって広まっても呼び名だけは訂正されなくてこうなったみたいだよ」

「なるほど……って納得するとでも思ってんのか。どう考えてもおかしいだろ!? 五人揃って四天王とか完全にギャグじゃねーか!」

「わ、私に言われても困るよ。噂の出処(でどころ)中武研(中国武術研究会)なんだからさー!」

 

 千雨が朝倉の肩を両手で掴んでガクガクと揺らしているが、八つ当たりしても意味がないと頭では理解している。

 後でアイツら(中武研部員)全員シメてやると心の中で決めた千雨は投げやりにインタビューに答え終えると、弁当箱の蓋を開けて今朝揚げたばかりの唐揚げを箸で挟むと口に運んだ。

 

 木乃香から教わった冷めても美味しい唐揚げの味は絶品で千雨は無意識に目を細めている。

 物欲しげに弁当箱の中身を見つめていたザジに唐揚げを爪楊枝に刺して差し出していると、横からすらりとした褐色の腕が差し込まれて弁当のおかずを()(さら)っていった。

 

「ふむ、このだし巻き卵は関東風の味付けなのか」

「意地汚えぞ、龍宮」

「どこかの誰かの口車に乗せられたせいで昼食にも事欠いているんだよ。少しくらい恵んでくれてもバチは当たらないと思うぞ?」

 

 つい先日、千雨に言葉巧みに誘導された結果、龍宮は焼肉屋で夕食を奢らされたため手持ちの食券が枯渇している。

 食券が支給されるのは月初めと決まっているので、一週間ほど耐え(しの)ぐ必要がある。

 食券を使わずに現金で買うこともできるのだが、龍宮は()()()()()()で金を蓄えて(プールして)いるので昼食に回す金銭が不足していた。

 

「そもそも勝手に賭けを始めたのが悪いだろ。ったく、しょうがねーな。これ(スイート・ロール)やるから我慢してくれ」

「……本当に常備しているんだな」

「今朝焼いたばかりの出来たてだぜ。ところで、なんで長瀬じゃなくて私に飯をたかってんだよ」

「既に長瀬からも受け取ってはいるんだが……」

 

 少し困った顔をした龍宮が取り出した食品用ラップフィルム(サランラップ)で包まれた茶色い丸薬状の物体を見た千雨は首を(かし)げながら口を開いた。

 

「なんだコレ? 団子か?」

「私も実物は初めて見たが、どうやらこれが兵糧丸(ひょうろうがん)らしい。味は悪くないが、さすがに毎日食べていると飽きが来る」

「アイツ、本当に正体隠す気あんのかよ」

「逆に堂々としていたほうが、正体が露見しにくいのかもしれないぞ」

「だから龍宮はバイアスロン部に入ってんのか?」

「定期的に試射していないと腕が鈍るからな。そういう長谷川が図書館探検部に入って図書館島に潜っているのも、私と似たような理由だろう?」

 

 バイアスロンとは二種競技のことを指しており、クロスカントリースキーとライフル射撃を組み合わせた競技が有名である。

 麻帆良には射撃部や軍事技術研究会などの銃火器を扱っている部活動も存在するが、龍宮は射撃競技で悪目立ちする気はないのでマイナー競技のバイアスロン部に所属している。

 

「最初はそのつもりだったんだけどな……同年代の友達と共通の目的をもって活動するのも悪くないもんだぜ?」

「……麻帆良は良い場所だが、私には少しばかり眩しすぎる。年相応に笑える長谷川が羨ましいよ」

「難しく考えすぎだっつーの。そりゃ龍宮は少し老けて見えるけど、焼き肉食いに行ったときは普通に笑えてたじゃねえか」

「そうか……私は笑えていたか」

 

 千雨の言葉にぽかんと口を開けたまま固まった龍宮は少しの時間、遠い目をして過去を思い返していた。

 考えがまとまった龍宮は口を閉じて微笑を浮かべた後、太ももに固定してスカートで隠していた大型拳銃(デザートイーグル)を一瞬で引き抜くと千雨の後頭部に突きつけた。

 

「ところで聞き捨てならない言葉が混ざっていたな。私はハーフだから日本人と比べて発育が早いだけで、決して老けてるわけじゃないぞ?」

「でも、その外見じゃ中学生料金で買い物でき──」

「よほど死に急ぎたいようだな」

「冗談に本気でキレるなよッ!?」

 

 千雨の後頭部に銃口を完全にくっつけた龍宮はグリグリと大型拳銃をねじりながら脅しの言葉を告げる。

 もっとも人差し指は伸ばされたままトリガーにかけておらず、安全装置も解除していないので本当に銃の引き金を引くつもりはない。

 

 氷点下の眼差しで見下ろしてくる龍宮の態度とは裏腹に殺気は感じなかったので成すがままにされているが、それはそれとして割と本気で怒っていると理解した千雨は素直に謝ったのだった。

 

 

 


 

 

 

「フ、フフ、フゥハハハハハ! ついに……ついに完成したぞッ! 物は試しにと造った試作品だが、()()()()()()完成品より便利に仕上がったぜ!」

夏季休暇(夏休み)には間に合ったようだな、ドラゴンボーンよ

「てめーに感謝したくはないが、今回だけは褒めてやるぜ。電子精霊を使わなかったら、ここまで速く最適化は出来なかっただろうからな」

 

 夏休みまで3週間を切った7月の頭、詳細な設計と必要な素材の()()を済ませた千雨は金曜日の夕方から日曜日の朝まで工房に籠もって徹夜で作業を続けていた。

 千雨は人並み外れた演算能力を持っているが、さすがにワークステーションのような高性能パソコンと比べると処理能力は見劣りする。

 

 脳内や紙に書いて術式を考えるよりパソコンを使って製図したほうが楽だと常々(つねづね)感じていた千雨は、電子精霊が集めた情報を元に魔法力学的な法則をシミュレーションするソフトウェアを自分の手で組んでしまった。

 もっとも完成度はあまり高くなく、モラが統率している電子精霊の手を借りて一部の作業を省略できる程度に収まっている。

 

 結局は自分の手で出力しなければならない上、シミュレーションの精度には限界があるので組み上げた術式が正常に動作するかどうかは実際に試してみなければ分からない。

 それでも作業効率は格段に上がったため、千雨は異様な速度で目的の物を完成させられたのだ。

 

ならば報酬として図書迷宮(図書館島)の探索に──

「よっしゃ! 早速エヴァに自慢しに行くか!」

──悠久(ゆうきゅう)の時がある(ゆえ)()かしはしないが、ドラゴンボーンの行動を誘導するのは至難の業だな

 

 試作品をインベントリに格納して疾風のように家を飛び出していった千雨を見送ったモラは、本体(ハルメアス・モラ)からの指令を達成するには時間がかかりそうだと独りごちる。

 人間的な感情など持ち合わせていないモラは日常業務である旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の情報収集を再開するために、地下室まで張り巡らされている構内通信網(LANケーブル)を伝って千雨の自室に置かれている自分の住処(ワークステーション)へと戻っていった。

 

 

 

 瞬動術で川を飛び越えてあっという間にエヴァンジェリンの家まで辿り着いた千雨は高まったテンションに身を任せて扉を解錠(ピッキング)しようとしたが、(すんで)のところで思いとどまって素直にドアベルを鳴らした。

 手癖とは恐ろしいもので、普段は気をつけているが無意識に鍵がかかっている扉をピッキングしようとする癖は今も治っていなかった。

 

 ドアベルを鳴らしてから10秒ほど経過した後、メイド服姿の茶々丸が千雨を出迎えた。

 軽く挨拶を交わした千雨は勝手知ったる足取りでエヴァンジェリンの家に入ると、すぐさま階段を登って二階にある寝室に移動した。

 

 千雨の予想通り、朝に弱いエヴァンジェリンは午前9時を過ぎても穏やかな寝息を立てていた。

 このまま起きるまで待っていると昼過ぎまで寝ている可能性が高いので、千雨はエヴァンジェリンの肩を揺すって起こすことにした。

 

「おい、エヴァ。見せたいものがあるから起きろ」

……あの腐れ魔女、いつか殺す

「どんな夢見てんだよ。物騒すぎんだろ」

 

 眉間に皺を寄せて寝言で怨嗟(えんさ)の声を上げるエヴァンジェリンに千雨がツッコミを入れるが起きる気配は微塵もない。

 その後、1時間ほど優しく揺すったり声をかけても一向に起きないエヴァンジェリンに痺れを切らせた千雨は強硬手段として鼻と口を塞ぐことにした。

 

「カハッ!? な、何事だ!?」

「やっと起きたか。もう10時過ぎてんぞ」

「もうそんな時間か……うん? なぜ千雨が私の家にいるんだ?」

「マスター、蒸しタオルをどうぞ」

 

 千雨に無理やり起こされたと気がついていないエヴァンジェリンは寝ぼけ眼をこすりながら不思議がっている。

 間髪(かんはつ)を入れずにあらかじめ用意していた蒸しタオルを茶々丸に差し出させて話を有耶無耶にした千雨は、エヴァンジェリンが完全に目覚めるまで時間を置いてから本題を切り出したのだった。

 

 

 

 ふんだんにあしらわれたフリルが特徴的な黒いゴスロリ(ゴシック・アンド・ロリータ)風の服に着替えたエヴァンジェリンは、千雨が造ったという試作品を半目で呆れながら見つめている。

 

 エヴァンジェリンの視線の先には少し大きめな何の変哲もない革袋が鎮座している。

 認識阻害の魔法が組み込まれているため見かけ上はただの革袋に見えるが、エヴァンジェリンは吊り紐(ストラップ)に付いている金属板に刻まれている五芒星(ペンタグラム)に見覚えがあった。

 

「まさかとは思うが、この小汚い革袋がダイオラマ魔法球なのか?」

「やっぱりエヴァの目は誤魔化せねーか」

「つくづく貴様は合理的すぎると思っていたが、いよいよもって頭がおかしくなったか」

「いくら私でも頭がおかしい呼ばわりは傷つくんだが……こんな外見にしたのは手を抜いたからじゃなくて、()()()()()()に目立たない素体を選んだんだよ」

「……魔法球を持ち運ぶ、だと? 魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の飛行船にでも備え付ければ不可能ではないが、そのまま持ち運ぶなど不可能──いや、貴様には神の加護(インベントリ)があるんだったな」

 

 ダイオラマ魔法球は非常に高度な魔法具である。繊細な分、耐久度はあまり高くないので、カバンを魔法球に加工して持ち歩こうとする酔狂な人物は今まで誰一人としていなかった。

 千雨は最初にスノードームを模した小型の魔法球を造って実験しようとしていたのだが、どうせ造るならインベントリに入れて持ち運べる魔法球にしようと考えたのである。

 

「口で説明するより実際に見てもらったほうが早いな。この金属板に触れたら中に入れるようになってるぜ」

「……中は随分と狭いんだな」

「インベントリを使えばチェストに好きなだけ物を詰め込めるからな。

 それに広くしすぎると周囲の魔素を喰いすぎるし、持ち運ぶならこれくらいで丁度いいと思ったんだよ」

 

 革袋の内部はエヴァンジェリンの言うように手狭でワンルームマンションと大差ない広さである。

 そんな空間にベッドやテレビ、タンス、収納箱(チェスト)、本棚、鍛冶設備、アルケイン付呪器、錬金器具などを詰め込んでいるのでエヴァンジェリンが狭く感じるのも当然だ。

 

 試作品とはいえ非常に手が込んでおり、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)から輸入した『小型溶鉱炉』や『四祈祷(きとう)精霊エンジン』を利用した発電機、空気循環や温度・湿度の調整ができる魔法具なども設置している。

 探索中に持ちきれなくなった物品(アイテム)を保管する倉庫兼作業スペースとして使う予定なので風呂やトイレは残念ながら設置していない。

 

 エヴァンジェリンから貰った教本に記されていた内容を生かして千雨が造った魔法球は『別荘』とは仕様が大きく異なっている。

 千雨は安定性を高めるために、あえて環境再現や時間操作の術式を削って極限まで空間を維持するために必要な魔力を減らしている。

 

 内部空間の拡張を最小限に留めているのも、設計を切り詰めた結果こうなっただけである。

 結果として魔法球の外と中で流れる時間はおなじになったが、その代わりに自由に出入りできるようになったので利便性は上がったと言えるだろう。

 

「ここまで改造されると、もはや別物だな。それで、この魔法球は何という名前なんだ?」

「名前? 別になんでもいいだろ。適当に『ヘイブン・バッグ(避難所カバン)』にでもしとくか」

「……なんとも(ひね)りのない名前だな」

 

 自分で建てた家に付けたセンスを疑う名前(チェリーブロッサム邸)と比べると断然マシだったのでエヴァンジェリンはとやかく言わなかったが、生産技術が向上してもネーミングセンスは一向に良くならない千雨なのであった。




着実にぶっ壊れアイテムを集めているな用語解説

【武道四天王】
千雨が加わった影響で5人なのに四天王扱いされている武闘派集団。
千雨はひっそりとフェードアウトしたいと思っているが既に手遅れである。

【ヘイブン・バッグ】
ダイオラマ魔法球の理論を応用して千雨が造った圧縮空間の一種。
燃費はいいが内部空間を保全する術式も削っているのでヘイブン・バッグを傾けたら中身も傾く。
擬似的な世界を創造するダイオラマ魔法球として見たら及第点にも届かないけど、純粋な魔法具として見るなら面白い発想だねぇ。
Haishao氏のMOD『Haven Bag』による追加要素……というか異世界の技術を使った再現になるのか?
おそらくポータブル系の持ち運べる家MODとしては一番有名だろう。
ゲームでは大量の金貨が地面に散らばっている六畳程度の広さの空間だが、必要最低限の設備は揃っている。
自動収納機能は残念ながら付いていないが、Manilla Turtle氏のMOD『Automatic Item Storage』を導入してチェストに自動格納魚(日本語訳)をぶち込めば便利空間の出来上がりだ!
千雨は造らなかったがスノードームドワーフ(ドゥエマー)のキューブなど様々な種類のMODがあるので、スカイリム(TES5)をプレイする定命の者は好みで使い分けるといいぞ。
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