███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。 作:庭師代行
明日菜が襲撃者に扮した千雨に痛烈な蹴りを入れてしまうというハプニングもあったが、実戦形式で行われた訓練の結果は刹那が一定時間耐えきったので合格となった。
訓練前にじゃんけんで負けたせいで実行役を任された千雨は文字通り踏んだり蹴ったりだったが、制服にくっきりと足跡が付いてしまった以外に被害は無かった。
訓練中の刹那の行動には
刹那には千雨とタカミチ以外には見せていない切り札もあるので、逃げに
今回は魔法や特殊技能をできる限り縛った状態での訓練だったので隠していたが、魔法の秘匿を考えずに
個人的には気に入っているデザインだったドラゴン・プリーストの仮面を明日菜に変だと言われて地味に傷ついた日から数日後の土曜日、千雨は学校に登校していた。
麻帆良では『隔週学校週五日制』が採用されているため、隔週で土曜日も三限目まで授業があるのだ。
普段は午後から部活動に参加する生徒が多いが、来週の月曜日から期末テストが始まるので今日は部活動も休みとなっている。
千雨は『過程の省略』で勉強時間を圧縮できるので、テスト前に
そもそも本物の天才である
そして千雨は常識外れな段階まで極まっている自分の技術を他人に教えるのは苦手だが、論理的に説明できる内容なら人並み程度には
千雨は形だけとはいえ魔法の研究機関であるウィンターホールド大学の最高責任者である【
実務の大半は補佐役であり大学内で二番目に地位が高い
なお千雨は現在もアークメイジの役職に就いたままである。アークメイジになる夢を抱いている【
ウィンターホールド大学を動かしている一部の人物を除く大多数の人物は、千雨は遠方まで
千雨がドラゴンたちの王である【アルドゥイン】を
対等な大人だと認められており信頼されてるのは分かるが、もう少し心配してくれてもいいんじゃねーかなと思いながら、千雨はホームルーム前の時間を利用して建築技術関連の書籍を読み進めていたのだが今は中断している。
理由は単純で、千雨の右斜め前の席に座っている委員長というあだ名でクラスメイトから親しまれている
日本人離れした外見だが本人
千雨とは方向性が違うものの、幼少期から高度な教育を受けている
「──というわけで、千雨さんから皆さんに話を持ちかけていただけないでしょうか」
「学年トップ級が4人もいるのに、中間のときはクラスの平均点が最下位だったからなぁ。勉強会を開きたいってのは分かったが、なんで直接言わないんだ?」
「お恥ずかしい話ですが、私が口うるさく言うよりバカレン──ゴホン、少々成績が悪い方々と親しい千雨さんから伝えていただくほうが効果的かと思いまして」
「オブラートに包んだせいで余計に酷い言い方になってんぞ。
佐々木以外のバカレンジャーと仲がいいってのは否定しないが……付きっきりでは教えれねーし本人たちが乗り気じゃないなら参加させないって条件でいいなら引き受けるぜ」
「恩に着ますわ、千雨さん!」
バカレンジャーとはその名の通り、クラス内で極端にテストの平均点が低く居残り授業をよく受けさせられている五人組のことを指している。
内訳は
興味のある物事以外勉強しようとしない夕映やバイトに勤しんでいるため勉強の時間が取れていない明日菜、そもそも日本語の問題文を理解するのが難しい
ぶっちゃけ二日足らずで点数を大きく伸ばすのは難しいんじゃないかと千雨は思っているのだが、今日と明日は木乃香と一緒に明日菜と刹那に勉強を教える予定だったので引き受けることにしたのだ。
それに、どうせ勉強を嫌がって誰も参加しないだろと高を
数時間後、勉強会を開くために全員で集まれる場所まで移動した千雨は、どうしてこんなことになったのかと遠い目をしていた。
千雨の後ろには想定の倍以上まで膨れ上がった人影が並んでいる。
最初から予定に入れていた木乃香や明日菜、刹那、立案者である委員長に加えて
千雨を含めると総勢12人もの大人数になった理由──それはエヴァンジェリンの余計な一言だった。
最初は千雨が話を持ちかけても
その話にハルナが食いつき勉強会のついでに遊びに行こうという話で盛り上がってしまい、勝手に集合場所が決まったのである。
こうなるのが目に見えていたので家を建てた話は黙っていたのだが、過ぎたことはしょうがないと諦めた千雨は開き直って全員を招待したのだ。
一旦寮に帰って昼食を
石で築かれた3メートル近い高さの塀と立派な門を見て驚いたのどかと夕映は、無意識に思ったことを口走っていた。
「思ってたより立派なお家ですねー」
「千雨さんって実はお金持ちだったですか?」
「そういうわけじゃねーんだが……宝くじに当たったみたいなもんだと思ってくれ」
今の千雨は億単位の個人資産を保有しているので間違いなく富裕層に該当するが、誰もが知る大企業の令嬢である委員長や千鶴、関西呪術協会の
本当の富裕層が参加している社交界には
「『
「こういうのは変にこだわらずに一発で分かる名前を付けりゃいいんだよ」
「千雨ちゃんって手先は器用やのに名付けだけは大雑把やもんなー」
門の側に備え付けられていた看板に
門の鍵を開けて敷地内に入った一同は興味深げに中世の家を現代風に改修したような外見の一軒家を眺めている。
麻帆良ではそれほど珍しくない建築様式だが、町中でよく見かける外観だけ再現した建物とは違って本物特有の存在感が漂っている。
両開きの扉を開けて家の中に入った千雨は質問攻めに遭う前に先んじて部屋を案内することにした。
12人も集まると少し手狭に感じられるメインホールに荷物を置いた一同は、興味深げにキッチンや寝室、二階部分を見学していた。
キッチンに置いてある最近発売されたばかりの調理家電を使いたそうにしている木乃香と、二階の本棚に収められている物珍しい本を読み
「さっきから二人して何やってんだ?」
「
「んなもんあるわけねーだろ!? ここは忍者屋敷じゃねーんだぞ!」
「私は床を蹴った音の反響で地下に武器庫があるか調べていたが……うまい具合に隠しているようだな」
「てめーはスパイか何かか!? さてはお前ら、家探しするために付いてきただろ!」
「半分はそうだが、残り半分は違うぞ?」
「最近暑くなってきたでござるからなぁ。タダで泳げるいい機会でござる」
「……真名はともかく楓、テメェは泳ぐ気力が無くなるぐらい思う存分勉強させてやるよ」
「ござっ!?」
自分の成績に対する危機感がまるで感じられない楓の態度に少しだけ腹が立った千雨は黒い笑みを浮かべながら楓の肩に手をやった。
殺気や敵意は発していないが、それ以上に恐ろしい何かを肌で感じとった楓は冷や汗を流しながら普段は閉じている目を見開いて驚いている。
万力の
人間の集中力はそこまで長く持続するものではない。集中力を維持したまま何時間でも作業できる千雨が例外なのだ。
千雨は楓が疲れ果てるまで勉強させるつもりでいたが、何時間も休憩を入れずに勉強を続けるのは効率的ではないという委員長の判断から、勉強を教わっている面々の集中力が途切れたタイミングを見計らって定期的に休憩を入れていた。
幸いにも中間テストの合計点数が学年全体で上位100位以内に入っている人物が四人も集まっているので、一人で二人を受け持てば問題なく勉強を教えられる体制を整えられた。
教える側も人に教えることで理解を深められるので、千雨としてもテスト範囲を復習できて有り難かった。
千雨は楓と夕映を受け持っていたが、意外にも順調にテストに出る範囲の内容を教えられていた。
楓は基礎的な部分で少し
夕映はバカレンジャーのリーダー担当などと呼ばれているが、本人に本気で勉強する気がなく自主的に勉強する習慣もないだけで、勉強しても結果に繋がらない
逆に夕映以外のバカレンジャーは勉強の習慣が無い上にやり方も間違えているので苦労しているのだが、夕映は普段から真面目に授業を聞いていれば上位100位以内を狙えるであろう地頭の良さがあった。
楓の集中力が途切れそうになったタイミングに合わせて、
キッチンから取ってきた冷えたジュースが注がれたガラス製のコップを休憩中の面々に差し出しながら、千雨は夕映に前々から思っていた疑問をぶつけた。
「夕映はなんで勉強が嫌いなんだ?」
「どうしても興味が湧かないのです」
「……夕映さんは哲学に興味があるのでしたね。でしたら英語以外の言語も学んでおいたほうがいいですわね」
「英語以外の言語、ですか……?」
「英語はともかく、他の言語も覚えたほうがいいのか?」
今まで
そんな彼女たちに教えるため、委員長は軽く握って右手の指を一本ずつ開きながら、西洋哲学を学ぶために必要な言語の名を呟いていった。
「西洋哲学を本気で専攻するおつもりでしたら、英語、ドイツ語、フランス語、ラテン語、ギリシア語を覚えなければなりませんわ」
「そ、そんなにですか!?」
「スピーキングまでマスターする必要はありませんが、最低でも辞書を引きながら原書の内容を理解できなければ話になりませんね。
夕映さんのお
「言われてみれば、おじい様の書斎には洋書も沢山あったです……」
夕映は小学生の頃から哲学書を読みふけっていたが、理知的で優しい憧れの存在である祖父から外国語を教わった経験は無かった。
おそらく自分の影響で孫娘の将来の選択肢を狭めないように、あえて好きにさせていたのだろうと委員長は推測していた。
委員長の話を聞いた夕映は
「随分と哲学や夕映の事情に詳しいじゃねーか」
「これでもクラスメイトの情報は一通り押さえていますわ。もちろん、千雨さんが作っていらっしゃる木工品も存じていますよ?
千雨さんさえよろしければ、寮の部屋で使う椅子を作っていただきたいですわね」
「機会があれば、喜んで引き受けさせてもらうぜ」
にこやかに笑う委員長に視線を合わせた千雨は
なお千雨から底知れない相手だと思われている委員長だが、意外に世情に
委員長と千雨が雑談している間、夕映はずっと目を閉じて考え事をしていたが、休憩時間が終わる寸前になって急に顔を上げた。
前を向いた夕映は千雨を真剣な眼差しで見つめると、頭を下げて先程から考えていた想いを口にした。
「千雨さん、お願いがあります。私に英語とラテン語とギリシア語を教えてください!」
「軽くなら教えれるが、今は期末テストの範囲を優先しろよ? テストでヘボい点数取ったら教えねえからな」
「……はいです」
千雨の現実的な条件に夕映は顔を歪めたが、これも将来のためだと覚悟を決めて重々しく
ちなみに一切会話に参加しなかった楓は疲れた頭を休ませるために、机に突っ伏したまま安らかな寝息を立てていた。
【
初等部の頃からクラスの委員長を務めていたため、本名より
早熟でスタイルもいいので一見すると高校生ぐらいに見える
初等部の頃に生まれてくるはずだった弟を亡くしているため、年下の少年を異様に愛してしまうという欠点もあるが、基本的には才色兼備で他人を思いやれる優しい少女である。
【アークメイジ】
帝国語で『偉大な魔法使い』を意味する言葉。
言葉の意味としては地球における『
アークメイジという称号はウィンターホールド大学以外にウィスパーズ大学やモロウウィンドの
【カジート】
砂漠と密林が広がっているエルスウェーアという地域に住んでいる猫に似た種族。
カジートとは彼らの言葉で『砂漠の人』という意味がある。
エルスウェーア以外の土地では、全身を体毛で覆われた人型の『シュセイ・ラート』という種族のカジート以外を見かけることは少ない。
カジートと
スカイリムやオブリビオンに出てくる
設定上は17種類のカジートが存在しており、エルスウェーア地方に行けるESOでは実際に多種多様なカジートの姿が見られる。