███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。   作:庭師代行

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第3章『竜の血脈(ドヴァーキン)の冒険』
第40話【服従】


 夏休みに入ってからというもの、長谷川千雨(はせがわちさめ)は学生寮の自室ではなく工房を備えた家(チェリーブロッサム邸)で寝泊まりする日が増えた。

 食券を無駄にしたくないので(友人と一緒に食事を摂るために)寮の食堂は利用しているが、居住スペースが限られている寮の部屋より自分で建てた家のほうが居心地がいいのだ。

 

 現在の千雨は差し迫った主たる目標(メインクエスト)が無いので、地球に帰ってくる前と比べると自堕落な生活を送っている。

 千雨のスカイリムでの暮らしを知らない人々からしてみれば、毎日休まずに勉強や修行、モノづくりをしているため非常に忙しそうに見えるが、ドラゴンの王(アルドゥイン)を倒す前は寝る間も惜しんで自由奔放に各地を巡って力をつけるために邁進(まいしん)していた。

 

 かつては完全に力を取り戻される前にアルドゥインを倒すという時間制限付きの目標があったが、今の千雨には()()()()()()()()()()()こそあるが急ぐ必要はない。

 しかし夏休みという比較的自由に過ごせる期間は有限である以上、限られた時間は有効活用しなければならない。

 そこで千雨は()()()()()()()()()()()()のひとつを実行に移すため、夏休み前から近右衛門に渡りを付けていたのだった。

 

 

 

 夏休みが始まってから数日後の早朝、黒に近い灰色のボディースーツ(ナイチンゲール装備)を着込んだ千雨は薔薇を模した長杖(サングインのバラ)にまたがって日の出に染まるオレンジ色の空を駆けていた。

 視界の邪魔になるフード付きのマントとマスクを外しているため風になびいているポニーテールを右手で押さえながら、千雨は名状(めいじょう)(がた)い電子精霊を肩に乗せて【飛行魔法】を使っている。

 

 千雨の使用している飛行魔法は異世界(ニルン)のものではなく、地球や魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で古くから伝わっている伝統的な飛行魔法である。

 タムリエル大陸にも空中を地面のように踏みしめて歩ける【浮遊】魔法が存在するが、様々な要因によって現代では(すた)れている。

 

 何百年も生きている高位の魔術師がかろうじて習得している希少な魔法になっており、参考になる呪文書をスカイリム地方で見つけることも出来なかった。

 相棒の傭兵(テルドリン・セロ)尊大な魔術師(マスター・ネロス)も習得している魔法だが、セロは教えるのが下手くそでネロスはどんな条件を出されるか分からないので千雨は積極的に教わろうとしなかった。

 

 千雨がエヴァンジェリンから教わった飛行魔法は(ほうき)や杖、絨毯(じゅうたん)などの物品に魔法を付与して空中を移動する技術である。

 地球や魔法世界(ムンドゥス・マギクス)では魔法の基礎の基礎とされており、魔法学校を卒業できる程度の実力があれば無詠唱で発動できる簡単な魔法だ。千雨も当然のように呪文を唱えずに発動できる。

 

 早朝とはいえ空を飛んでいたら誰かに見つかりそうなものだが、千雨は高度な隠密技術と幻惑魔法の奥義(心理の到達者)を地球の魔法技術に応用した認識阻害呪文を唱えているので、一般人はおろか裏の関係者でも非常に見つけづらい上に、写真や映像にも写らない状態になっている。

 学園結界のような大規模で厳重な探知結界をすり抜けるのは難しいが、個人が行使できる一般的な手段で今の千雨を見つけるのは至難の業だろう。

 

 千雨が一直線に目的地に向かわせていた長杖(サングインのバラ)の動きを止めて、普段は見る機会がない高さから麻帆良学園都市の町並みをじっくりと眺めていると、肩に乗っている電子精霊を通して知識を司る邪神(デイドラロード)──ハルメアス・モラが空間に反響する不気味な声で語りかけた。

 

この状況、魔法の力を(もち)いて事件を解決する思春期の定命の者(魔法少女)を主人公とした創作物(アニメ)に似ていると思わないか?

私が好きなアニメ(ビブリオン)には、お供の小動物なんて出てこねーけどな。つーか、その姿でいっちょまえに魔法少女のマスコット気取ってたのかよ!?」

私は客観的な事実を述べたまでだ

「……テメェ、わざとズレた発言して私の警戒心を解こうとしてるだろ」

お前がそう思うのなら、そうなのだろうな

「はぁ……本当に油断ならねーヤツだな」

 

 ハルメアス・モラは嘘をつかないが、親切丁寧にすべての意図を伝えるわけでもない。彼がはっきりと断言しない場合、間違いなく何かを隠しているのだ。

 千雨はハルメアス・モラの狡猾(こうかつ)な側面を知っているので、彼がもたらす情報や知識は信用しても、彼の発言や行動を信頼するつもりは一切なかった。

 

 千雨は普段の自動操作状態の電子精霊(モラ)はそこまで警戒していないが、本体であるハルメアス・モラが出張ってきたとなると話は別である。

 今回の目的地──裏の関係者しか入れない図書館島の最深部に興味があるハルメアス・モラは、地球における自分の化身(アバター)である電子精霊を通して千雨と行動を共にしているのだ。

 

「先に言っとくけど、今日は様子見で本格的に潜るつもりはねーぞ?」

図書迷宮(図書館島)此度(こたび)往訪(おうほう)で全てを調べ尽くせる程度の場所ならば、私も興味を示したりなどしない。

 お前が我が依代(電子精霊)に物理的実体を与えるまで、図書迷宮での知識の蒐集(しゅうしゅう)は控えるとしよう

「……さよの義体を作るついでに用意するだけだからな」

 

 声色は変わらないが心()しか楽しげなハルメアス・モラの口ぶりに千雨は眉をしかめているが、いつものように食って掛からなかった。

 

 ハルメアス・モラは物理的な干渉力が低い電子精霊の能力を(おぎな)う道具を欲している。

 千雨が義体を自作せずとも、電子精霊に軽作業を手伝わせたいと言って超鈴音(チャオ・リンシェン)葉加瀬聡美(はかせさとみ)人型ロボット(アンドロイド)を注文すれば簡単にハルメアス・モラの要求を満たせるだろう。

 

 しかし、千雨はメンテナンスと称して(チャオ)に情報が引き抜かれる危険性を考慮して手軽な方法を頼らなかった。

 (チャオ)に異世界の存在が露見しても困りはしないが、千雨はハルメアス・モラの存在を広めたくなかったのだ。

 

 とはいえ、このままハルメアス・モラの言葉を無視し続けて勝手に行動されたら何が起きるか予想できないので、千雨は仕方がなく肉体を用意することにした。

 千雨は自分の行動がハルメアス・モラに誘導されているかもしれないと考えているが、運命(未来)を見通す知識の悪魔を出し抜けるとは思えないので()()()無駄な抵抗はしていない。

 

 明らかに異質な外見の電子精霊を他人に見られないように携帯電話に憑依させた千雨は、余計なことは考えずに今やるべきことに集中するのだった。

 

 

 

 図書館探検部の部員しか知らない秘密の裏口を抜けて入館手続きをせずに侵入した千雨は、壁面に沿()って螺旋階段が設置されている円柱状の大空洞を飛行魔法を使って下降していた。

 この大空洞は図書館島の深部まで直通しているのだが、魔法や『気』を使わずに侵入するのは難しいため経験を積んだ図書館探検部の部員も立ち入り禁止となっている。

 

 図書館島に通い続けて熟達した部員は鉤縄(かぎなわ)と鍛え上げた技術だけで最深部の手前まで潜れるという話を聞いた千雨が、ダンジョン探索部に名前変えろよと呆れながらツッコミを入れたのは記憶に新しい。

 なお最近の千雨はスカイリムで習得した【跳躍(ジャンプ)】して急勾配の斜面を直登する技法を応用して、図書館島を探索する際に本棚の棚板を蹴って高所まで移動することが多い。

 明日菜が見たら間違いなくツッコまれる程度には常識外れな行動なのだが、千雨は相変わらず自分の行動が世間一般の常識からズレている自覚が薄かった。

 

 大空洞の底まで辿り着いた千雨は飛行魔法を解除すると、電子精霊にマッピングを任せて罠の回避に集中しつつ迷いのない足取りで横道を進んでいく。

 千雨は近右衛門やエヴァンジェリンも持っていない死霊術(ネクロマンシー)の技術が記されている魔法書を探すために、図書館島の最深部まで出向いていた。

 

 図書館島の最深部には魔法書(グリモワール)を始めとした魔法に関する書物が大量に保管されている。

 その中には死霊術(ネクロマンシー)に関する魔法書も含まれているが、図書館島は()()()()()()()()()()ので関東魔法協会の理事である近右衛門でも蔵書を持ち出すことはできない。

 

 膨大な蔵書の中から目当ての本を見つけるのは難しいので、千雨は司書の手を借りるべく近右衛門から聞き出した場所を目指しているのだ。

 さほど時間をかけずに、目的地である突き当りに10メートル近い大きさの扉が鎮座している世界樹の根が複雑に絡み合った神殿まで辿り着いた千雨は、背の低い草に覆われた地面を踏みしめながら眼前の存在を見上げている。

 

「前々から妙な気配は感じてたからドラゴンが居るかもなとは思ってたが……()()()()()()なんて聞いてねえぞ!?」

事前に何も伝えられていないのか?

「行けば分かるとしか言われてねーよ。あの狸ジジイ、分かってて黙ってやがったな」

 

 門の前に立ち塞がって低く(うな)っている二足の竜(ワイバーン)に似た姿のドラゴンと睨み合いながら、千雨はドラゴンの存在を隠していたであろう近右衛門に対して悪態をついていた。

 ドラゴンは予定にない突然の来訪者を警戒しているのか鋭い牙をむき出しにして咆哮したが、千雨は口ぶりとは裏腹に平常心のまま『過程の省略』で腰に装備した黒檀の片手剣の柄に手をやっている。

 

ドラゴンボーンよ、どうするつもりだ

「門番を攻撃するのはマズイだろうし、話しかけて穏便に済ましたほうが──」

 

 千雨の眼前にいるドラゴンは、スカイリムの一般的なドラゴンと比較すると体格こそ少し大きいが見た目の差異は少ない。

 スカイリムには様々な種類のドラゴンが居るが、人語を解するだけの知能を持っている点は共通しているので、千雨は普段の感覚で会話を試みようとした。

 

「ゴアアアアアアッ!」

「──くそっ! 問答無用かよ!?」

 

 しかし、ドラゴンは千雨の問いかけに対して灼熱の炎の(ブレス)で返答した。

 咄嗟(とっさ)に瞬動術で真横に飛んだので千雨は無傷だが、焼き払われて赤熱している地面がブレスの威力を物語っている。

 

スゥーム(シャウト)で勝負したいってんなら受けて立つぞ!」

 

 スカイリムのドラゴンは(シャウト)を武器にして戦う。炎を意味する言葉を口にすれば灼熱の息(ファイアブレス)で全てを焼き払い、氷を意味する言葉を口にすれば極寒の息(フロストブレス)で全てを凍てつかせる。

 そして自分より強い相手に従うドラゴンにとって、戦いと論争は同義である。人間が言葉を交わして議論するのと同じように、ドラゴンはシャウトを交わして戦うことでどちらの意見が正しいか決めるのだ。

 

 千雨の肉体はドラゴン(ドヴ)ではないが、多くのドラゴンから同族(ドヴァー)であると認められている。

 彼らの流儀を心得ている千雨は、翼をはためかせて空中で静止しているドラゴンを睨みながらシャウトを発するために大きく息を吸い込んだ。

 ただならぬ気配を感じ取ったドラゴンが足で踏み潰そうと動いたが、千雨は一歩も動かずにドラゴン相手に効果的であろうシャウトを解き放った。

 

gol(ゴル) h2(ハァ) dov(ドヴ)

 

 ドラゴンの言葉で『大地(Gol)』『精神(Hah)』『ドラゴン(Dov)』を意味する単語が組み合わさり、臨戦態勢に入っていたドラゴンの戦意が一気にしぼんでいく。

 千雨は声を浴びせた相手を自分の意志に従わせるシャウト──【服従】でドラゴンを屈服させたのだ。

 

 地面に降り立ったドラゴンは穏やかな眼差しで千雨の顔を見つめているが、自分から言葉を発する気配はない。

 スカイリムのドラゴンとは違って人語を話せないのか、それとも人語を理解できるほど賢くないのか判断がつかない千雨は、地面に降り立って頭を下げているドラゴンの鼻先を撫でながら話しかけた。

 

zu(ズゥー) fen(フェン) bo(ボー)……この先に行かせてもらうぜ」

「……グルゥ」

 

 奥の扉を指差してドラゴン語と日本語で問いかけた千雨の言葉の意味を理解したドラゴンは、小さく唸ると頭を縦に動かして頷いた。

 今は服従のシャウトで落ち着かせているが効果は永続的なものではないので、手早く了承を取った千雨はドラゴンが守っていた巨大な扉を押し開けて足早にその場を後にしたのだった。

 

 

 

 扉を開けた先には遠くに巨木の森が見える地下とは思えない神秘的な空間が広がっていた。

 巨大な空洞の中央にはエヴァンジェリンの別荘に似通ったものを感じる意匠の塔が建っており、そこに目的の人物である図書館島の司書が住んでいるのだろうと千雨は当たりを付けた。

 

 天井からは多量の魔素を含んだ日光に似た柔らかい光が降り注ぎ、周囲の高台には世界樹の根と思われる全高100メートルは優にある巨木の森林が広がっている。

 木々の間から流れ込んでいる大量の水が飛沫を上げているため地面がどうなっているかは不明だが、人工的に作られた空間であるのは確実だろう。

 

「ファンタジーここに極まれりだな」

紛れもない現実を空想的(ファンタジー)と表現するのは間違っていないか?

「うるせー、現実逃避ぐらいさせてくれ」

 

 げんなりとした表情で千雨が非現実的な光景の感想を述べていると、ハルメアス・モラが表現の間違いを指摘した。

 千雨も自分が一般的な尺度ではファンタジーな存在であり、表の世界の常識では空想だと思われているものが実在していると理解しているが、それはそれとして以前の常識を捨てきれていなかった。

 

 千雨はあの世(ソブンガルデ)地獄(オブリビオン)広大な地下空間(ブラックリーチ)を始めとしたファンタジー小説にしか出てこないような場所に足を踏み入れたことがある。

 しかし自分が住んでいる街の地下に、このような常識外れな空間があるとは思っていなかったのだ。

 

 予想外な場所に少しだけ戸惑いながらも周囲に罠が仕掛けられていないか調べ終えた千雨は、岩肌の上面を削って石材で舗装された道を進んで塔の入り口まで移動した。

 扉の前まで辿り着いた千雨は、塔の内部で待ち構えている何者かの希薄な気配を感じ取った。

 

『どうやら、誰かが中に居るっぽいな。テメェが出てきたら話がややこしくなるから、大人しくケータイの中で隠れとけよ』

随分と私の存在を隠したがっているな。()()()()()()()()()()()()()()()()が、お前が望むのなら静観するとしよう

 

 あっさりと引き下がったハルメアス・モラの反応に違和感を覚えたが、問いただしても意味はないだろうと判断した千雨は扉を軽く叩いた。

 中に居る人物から念話で『鍵は開いていますよ』と伝えられた千雨が扉を開けると、そこには大きな本棚が立ち並ぶ書庫が広がっていた。

 

 書庫の中央に設置されている読書スペースの椅子に腰掛けているフードを目深(まぶか)に被ったローブ姿の20代前半に見える男性が、胡散臭(うさんくさ)い笑みを浮かべながら千雨を手招きしている。

 向かい合う位置に置かれている椅子に千雨が座ると、ローブ姿の青年が被っていたフードを取り払った。

 

 ローブ姿の青年の素顔は()()()()()()()()()すら感じられるほどの美形だったが、千雨は青年の整った顔立ちより独特な気配が気になっていた。

 地縛霊の相坂(あいさか)さよとは違い実体は確かにあるのだが、生物特有の生命力や存在感が薄いのだ。

 

 思っていた以上に厄介な相手かもしれないと考えつつ、千雨は内心を見せないように気をつけながらローブ姿の青年に頭を下げて挨拶を交わした。

 

「本日はお世話になります」

「ようこそいらっしゃいました、ハセガワ・チサメさん。それともドラゴンボーン、もしくはドヴァーキンと呼んだほうがいいでしょうか」

「どの呼び方でも構いませんよ」

「それでは、ちうさんと呼ばせてもらいますね」

「……オフ会でもないのに、リアルでハンドルネームで呼ぶのはやめてください」

「ふむ、親方と呼んだほうが良かったでしょうか?」

「なんで掲示板で使われてるあだ名まで知ってんだよ!?」

 

 ローブ姿の青年の予想外な発言に、千雨は机の天板に額を叩きつけながら普段どおりの口調でツッコミを入れた。

 

 千雨はインターネット上で年齢や住んでいる場所などの個人情報は出さないようにしており、毎日更新しているブログでも性別を匂わせる内容は隠している。

 女子中学生が更新していると公開すればアクセス数は伸びるだろうが、あくまで趣味でやっているサイトなので過剰なアクセス数は求めていない。

 そして個人情報が広がらないように徹底しすぎた結果、千雨は『ちうのホームページ』に設置している掲示板や外部の大手匿名掲示板で親方というあだ名を付けられてしまった。

 

 なぜそんなあだ名が付けられたかというと、千雨は面倒見が良いので真剣に質問してきた相手には真面目に対応していたからである。

 木工や建築、彫金、冶金(やきん)などの技術を初心者でも分かりやすいように文章や写真で教えた結果、掲示板で千雨を親方と慕う弟子(ファン)が現れたのだ。

 

 千雨はサイトの利用者と敬語でやり取りしているが、相手によっては普段の口調のような少し乱暴な言葉遣いで書き込むこともあり、素性を知っている麻帆良大学の関係者以外のサイト利用者の勝手な憶測から経験豊富な男性の職人だと思われている。

 いつの間にか技術を教えた相手以外の掲示板を利用している常連にも親方という呼び名が広まったが、蔑称(べっしょう)ではないので千雨は好きなように呼ばせていた。

 

 千雨の反応に笑みを深くしたローブ姿の青年は、目を細めながらあだ名を知っていた理由を語り始めた。

 

「最初は監視と暇つぶしを兼ねて貴方(あなた)のホームページを見ていたのですが、今ではすっかり常連になってしまいましてね。

 掲示板ではクウネル・サンダースというハンドルネームを使っているのですが、親方はご存知でしょうか」

「ご存知も何も、ホームページを本格的に更新しだしてから1週間後くらいには書き込んでただろ。あと親方って言うな」

「それではチサメさんと呼ばせてもらいますね。私のことは掲示板と同じようにクウネルと呼んでください」

「……フライドチキン、好きなのか?」

「好きか嫌いかで言えば好きですが、どちらかというと言葉の響きが気に入っていますね」

「まさか本名じゃねーよな」

「もちろん本名は別にありますが……気になるなら、チサメさんが携帯電話に隠している電子精霊に聞いてみてはどうでしょうか?」

 

 千雨が腰に付けているポーチに隠していた携帯電話に視線を向けたローブ姿の青年──クウネル・サンダースが席を立つ。

 ローブの袖口から長方形のカード状の魔法具──パクティオーカードを取り出したクウネルに釣られて立ち上がった千雨は、素知らぬ顔でクウネルを言いくるめるために話題を()らそうとした。

 

「私が電子精霊を使って魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の情報を集めてるって知ってたのか」

「その言い回しは少し語弊(ごへい)がありますね。

 チサメさんは異世界で出会った不滅の存在(イモータル)──知識を司るデイドラロード(ハルメアス・モラ)の要求に応えているのでしょう?」

「……テメェ、それをどこで知りやがった」

 

 デイドラロードにまつわる書籍は地球に持ち込んでいないにも(かか)わらず、隠し続けていたハルメアス・モラの存在を言い当てたクウネルに千雨は冷淡な視線を向けている。

 依然(いぜん)として笑みを崩さないクウネルに得体の知れない不気味さを覚えた千雨は、腰に下げたままの黒檀の剣をいつでも引き抜けるように警戒しながら相手の反応を待つのだった。




女性器を暗喩している杖にまたがるとは業が深いな用語解説

飛行魔法(ひこうまほう)
箒や杖に付与することで空を飛ぶ魔法。
無詠唱で行うのが基礎の基礎であり、練習時には『飛行、(ウォラーティオー・)浮遊、(レウォターティオー・)箒よ飛べ(スコパエウォレント)』と詠唱する。
付与した物を中心に力場を発生させるので、またがっても肉体に負担はかからない。

浮遊(ふゆう)
かつてのタムリエル大陸では浮遊や瞬間移動(ワープ)といった変性魔法が広く使われていた。
しかし現代では魔術師ギルドの解体や帝国による法規制、戦争の影響による有力な魔術師の減少によって上記の魔法を識る人物は非常に珍しい存在となっている。
モロウウィンド(TES3)では瞬間移動や浮遊などの魔法が登場する。
しかし続編であるオブリビオン(TES4)スカイリム(TES5)では削除されている要素のため、本作では上記のような理由を付け加えている。
スカイリムではMODを導入しなければプレイヤーキャラは浮遊魔法を使えないが、空を飛ぼうと試みるウィザードと遭遇するランダムイベントが存在する。
彼がどうなるか気になる定命の者は『空飛ぶウィザード』で検索してみるといいぞ。

【ジャンプ】
前作(オブリビオン)では軽業スキルで跳躍力が伸びていたが、今作(スカイリム)では削除されたため跳躍力を伸ばす手段は存在しない。
しかしジャンプすることで強引に山を登る方法はスカイリムでも引き継がれており、シリーズ経験者からは開発会社(ベセスダ・ソフトワークス)の名前をもじって『ベセスダ式登山法』と呼ばれている。
本気で山を登りたい場合は徒歩ではなく馬を使ったほうが簡単に登れるぞ。

服従(ふくじゅう)
gol(ゴル)(大地)』『h2(ハァ)(精神)』『dov(ドヴ)(ドラゴン)』の3語で構成されているシャウト。
動物、人間、ドラゴンを従えて仲間として戦わせられる効果があり、空を飛んでいるドラゴンに聞かせると地上に降ろすこともできる。
しかしどんな相手にでも通用するわけではなく、同じシャウトを覚えている相手や最高位のドラゴン(アルドゥイン)、精神を持たない相手には効果を発揮しない。
精神を操作する幻惑魔法より強制力が高いシャウトだが、心理の到達者は応用できないため精神を持つ生物相手にしか効果を発揮しない。
服従させたドラゴンの背中に乗ることも出来るが、ゲームではどこに行くかドラゴン任せなので、一度行ったことのある場所に体感時間では一瞬(ファストトラベル)で移動できるが飛行手段としては役に立たないぞ。
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