███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。   作:庭師代行

43 / 45
第42話【貴族】

「どうやら話はまとまったようですね」

「また盗み聞きしてたのか?」

「フフフフフ、表情と雰囲気から察しただけですよ」

「ウソくせーな、オイ」

 

 ハルメアス・モラとの会話が終わる頃合いを見計らっていたのか、絶妙なタイミングで紅茶を淹れる下準備を済ませたアルビレオ・イマが千雨に声をかけた。

 千雨は電子精霊との契約を利用した機密性の高い念話をしていたのだが、この男なら簡単に盗聴できるのではないかと疑念を抱いている。

 

(会話を聞かれてたとしても問題ねーけど……本当にやりにくい相手だな)

 

 アルビレオ・イマは一見すると物腰が柔らかい好青年のように思えるが、その実態は悠然(ゆうぜん)とした態度を崩さない掴みどころのない人物だ。

 すべてを見透かしているような言動はハルメアス・モラを彷彿とさせるが、底意地こそ悪いものの過去の経歴から悪人ではないだろうと千雨は考えている。

 

 図書館島の地下に来た理由──膨大な蔵書の中に眠っているであろう死霊術(ネクロマンシー)の記された魔法書を探しに来たという本題をどう伝えるか思案しつつ、千雨はティーカップに紅茶を注いでいるアルビレオ・イマの姿を眺めていた。

 非常に整っている容姿も相まってアルビレオ・イマの優雅な立ち姿は絵になるが、千雨は外面()()美形な相手にうつつを抜かすような性格ではないのでジトッとした目つきで睨んでいる。

 

「なあ、アルビレオ・イマ」

「……」

 

 千雨は周囲を観察しつつアルビレオ・イマの動きを警戒していたが、とある部分に疑問を覚えた。

 疑問を解消するためにハルメアス・モラから聞いた本名で呼びかけるが、アルビレオ・イマは反応を示さない。

 いっそう笑顔を深くするアルビレオ・イマの無言の圧力に屈した千雨は小さく舌打ちすると、さきほどの自己紹介で伝えられた偽名を口にした。

 

「クウネル・サンダース」

「はい、何でしょうか?」

「マジでその名前使うつもりかよ」

「いい名前でしょう? とても気に入っているので、()()()はクウネル・サンダースと名乗るつもりです」

「……それより、なんでティーカップが一人分多いんだよ」

 

 こういった手合は自分の言動に対する相手の反応を見て楽しんでいるのだと理解している千雨は、指摘したい気持ちをぐっと(こら)えて疑問に思った点を問いかけた。

 

 千雨が指差す先には、陶器製のティーポットとティーカップが載せられた見るからに高級品の純銀製のトレイが鎮座している。

 電子精霊を介してこの場にいるハルメアス・モラの分を含めたとしても3個あれば足りるのだが、なぜか1個多いという点が千雨は気にかかったのだ。

 

「私はこの場にいる人数分しか用意していませんよ」

「……さっき言ってた保険か。見える範囲に居ないっつーことは、てめーの影にでも潜んでるのか?」

『ほう、下等な人間にしては鋭い』

 

 千雨の問いかけに答えたのは、どこからともなく聞こえてきた声変わり前の少年を思わせる澄み切った声だった。

 人間を(あざけ)り見下している態度を隠す気がない冷ややかな声色に警戒心を抱いた千雨は、不自然に背後へと伸びたアルビレオ・イマの影を注視している。

 

「そう警戒するな、ハセガワチサメ」

「なッ!?」

 

 コウモリのような形の黒い魔力を撒き散らしつつ影から現れた見目(みめ)(うるわ)しい金髪金眼(きんめ)の少年に既視感を覚えた千雨は、無意識に目を見開き驚嘆(きょうたん)の声を上げてしまった。

 

 そんな千雨の反応に気を良くした少年は白色の毛皮(ファー)付きのフードが特徴的な黒いコートの裾を(ひるがえ)し、悠々(ゆうゆう)と距離を詰める。

 そして千雨と向かい合う位置にある椅子に腰掛けた少年は足を組むと、大仰(おおぎょう)な態度で自らの正体を語り始めた。

 

「あの(まが)いモノに師事しているだけあって、僕の正体に心当たりがあるようだ。そうだとも、僕こそが()()()()()()たる『貴族』が一人。吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)、ニキティス──」

「ハルナの妄想じゃなくて実在する人物だったのかよ!?」

「──うん?」

 

 服装こそ異なるものの千雨の眼前で偉そうにふんぞり返っている少年──ニキティス・ラプスの姿は今から3か月ほど前、図書館探検部の入部説明会で早乙女(さおとめ)ハルナに見せられた人物画と瓜二つだった。

 千雨はニキティスがあえて垂れ流している目視できるほどの膨大な魔力や、かつての宿敵(アルドゥイン)に匹敵する強者としての気配を感じ取っているが、それよりも想像上の人物(ハルナの妄想)だと思っていた相手が実在したという現実に驚いていたのだ。

 

 思っていたものとは違う千雨の反応に肩透かしを食らったニキティスは少しの間、ぽかんとした表情で固まっていたが、気を取り直したのか口元を皮肉げに歪めつつ千雨との会話を再開した。

 

「……どうやら中途半端な知識しかないようだな。よかろう、特別に貴様のようなサル(人間)トカゲ(ドラゴン)の混ざりモノでも理解できるように、僕が何者か教えてやる」

「私はアンタに興味ないんだが」

()が高いぞ。ニキティス『様』と呼べ、()()()()

「はあ? そっちこそ人にポケモンみてーな呼び名つけるんじゃねーよ」

「ふん……翼と鱗を持たぬ半端者が吠えるではないか。1万2千年の時を生きた真祖の力、その身をもって教えてやってもいいんだぞ?」

 

 足を組んで椅子に座ったままのニキティスが流れるような動きで指を鳴らすと、彼の背後に全長10メートルを優に超える漆黒の悪魔が召喚された。

 詠唱もなく現れた顔に口しか彫られていないデッサン人形のような造形の巨大な悪魔が見掛け倒しではないと即座に判断した千雨は、弾かれたように立ち上がると大きく距離を取った。

 

 そのまま一瞬で黒に近い灰色のボディースーツ(ナイチンゲール装備一式)と黒檀の片手剣をインベントリに格納し、代わりにエヴァンジェリンとの模擬戦で使用した赤いラインが刻まれた禍々しい漆黒の鎧(デイドラ装備一式)と神々しい魔力を宿した片手剣を引き出し身に纏う。

 

「そっちがやる気だってんなら、こっちにも考えがあるぞ」

 

 腰に差している鞘から十字型の(つば)白い光をまとったクリスタル(ドーンスタージェム)が埋め込まれた両刃の片手剣──【ドーンブレイカー】を引き抜くと、その切っ先をニキティスに突きつける。

 

 たおやかな光が発せられているドーンブレイカーは、一見するとファンタジー作品に出てくる勇者が持っている聖剣のような風貌だ。

 ニキティスは顎に手を当てて興味深そうにドーンブレイカーを観察しているが、剣から発せられる独特な魔力の正体を察して眉をひそめた。

 

「この魔力は……毛色こそ違うがデイドラロードのものだな。聖剣ではなく魔剣の(たぐ)いか」

「ご明察だな。()()()()のデイドラロードの力が、こっちの吸血鬼にも効くか試させてもらうぜ」

「ククク、おもしろい。あの面倒な侵略者()()が目をつけている異世界の英雄の実力、しかと見定めてやろう!」

 

 本能的にドーンブレイカーが聖剣ではなく魔剣に分類されると判断したニキティスの認識は正しい。

 【生命の活力を司るデイドラロード(メリディア)】が『敵』と定めた相手を滅ぼすために造ったドーンブレイカーは、この世界において()()()()()と称される特殊な能力を宿している。

 純粋な武器としての切れ味こそ千雨が鍛えた物に比べると劣るが、アンデッドや吸血鬼のような死にぞこないとデイドラを始めとするデイドラロードの被造物に対して、さまざまな効力を発揮する。

 

 (みずか)らの不死性に絶対的な自信を持っているニキティスは、ドーンブレイカーの能力に恐れを抱くどころか両腕を掲げ戦意を(たぎ)らせている。

 しかし今にも召喚した悪魔の拳を千雨に叩きこもうとしていたニキティスに待ったをかける者がいた。

 

「そこまでにしてください、ニキティス」

「なぜ水を差す!? アルビレオ・イマ!」

「さきほども忠告したでしょう、ここで暴れられては困ると。それと私のことはクウネル・サンダースと呼んでくださいね」

「お前とは旧知の仲だが、僕が素直に言うことを聞くとでも──」

「暴れたら司書権限で100年ほど出入り禁止にしますよ?」

「──興を削がれた。今回は見逃してやろう」

「……こっちの吸血鬼って、こんなのばっかなのか?」

 

 背後に待機させていた巨大な悪魔を消し去り垂れ流していた魔力を閉じたニキティスは、乱暴に椅子に腰掛けてアルビレオ・イマにさっさと紅茶を淹れろと顎で指図している。

 一触即発の空気を無視してお茶請けの洋菓子を味見している電子精霊(ハルメアス・モラ)咀嚼音(そしゃくおと)に加えて、アルビレオ・イマとニキティスの漫才じみたやり取りに戦意を削がれた千雨は剣の切っ先を下ろすと、そのまま剣と鎧をインベントリに格納して私服に着替えた。

 

 アルビレオ・イマが紅茶を淹れて席に座ったタイミングで、千雨は本題である死霊術(ネクロマンシー)の魔法書の在り処を尋ねたのだった。

 

 

 

 参考になりそうな魔法書は数日で用意できると伝えられた千雨はアルビレオ・イマが用意した上等な茶葉と洋菓子を味わいつつ、世間話がてら気になっていた点を問いかけた。

 

「そういや念押しして暴れるなって言ってたけど、あれって私に対してじゃなかったんだな」

「ニキティスがチサメさんを試すために挑発するのは読めていましたからね」

「そんなやつ保険で呼ぶんじゃねーよ」

 

 その保険のせいで一歩間違えれば殺し合いに発展していただけに、千雨としてはあまり納得がいかなかった。

 しかしアルビレオ・イマが図書館島に隠れている事実は、かつて共に戦っていたタカミチすら知らされていないため、護衛として動かせる人員は片手で数える程度しかいないのだ。

 アルビレオ・イマの事情は知っているがデイドラロードの存在を秘匿している近右衛門や近衛詠春(このええいしゅん)は動かせないため、純粋な戦闘力だけなら()()()()()()()()()()()()()()()()()という規格外の存在を頼った経緯がある。

 

 なおアルビレオ・イマは黙っているが自分の目が届かない場所で千雨とニキティスが出会った場合、まず間違いなく周囲への被害を考えずに暴れるので事前に釘を刺したかったという理由もある。

 

「年がら年中、図書迷宮にいるのでちょうど良かったんですよ」

「僕をひきこもりみたいに言うんじゃない。ちゃんと外出もしてるぞ」

「何十年も姿を見せないせいで、魔界の姫が安否確認に来ていましたよね?」

「あれは()()()()()のついでだろう。そもそも業魔大陸(ごうまたいりく)の戦闘狂どもを率いているバアルと違って、あいつらは配下でもなんでもない」

「せめて友達とかいねーのかよ」

「頂点に立つ者は常にひとりという言葉を知らないのか」

「知ってるけど、それ漫画のセリフだろ」

「漫画も悪くないが、情景を想像する余地のある小説のほうが僕好みだ」

「アンタの趣味趣向なんて知ったこっちゃねーんだが。つーか、ちゃんと人の話聞いてんのか???」

 

 話の本筋からズレた回答に千雨は呆れているが、当の本人は気にした様子もなく片手でハードカバーの本を開いて読書に(ふけ)っている。

 呆れた顔をしていた千雨が気を取り直して紅茶で喉を潤すと、ニキティスが口走っていた単語の説明を求めた。

 

「……それで、この真祖様はナニモノなんだよ。エヴァのことを半端者とか言ってたけど、吸血鬼にも格付けがあるのか?」

「チサメさんはキティから『貴族』について聞かされていないようですね。では、ここはひとつ情報交換といきましょうか」

「エヴァのことキティ(子猫)って呼んでるのかよ」

「彼女のミドルネームはアタナシア(A)キティ(K)ですからね」

「アンタにそう呼ばれるのはスゲー嫌がりそうだな」

「ふむ、おかしいですね。日本には『人が嫌がることを進んでしなさい』という言葉があったはずですが」

「てめー本当の意味知ってて言ってるだろ!?」

「こいつの性格の悪さは筋金入りだ。いちいち気にしていたらキリがないぞ」

 

 本に視線を向けたまま話を聞いていたニキティスが千雨のツッコミに呆れた声で返す。

 

 ニキティスはアルビレオ・イマと付き合いが長いので彼の性格と言動を熟知している。

 実力行使ならともかく、ムキになって言葉で応戦してもいいように(もてあそ)ばれるだけだと身をもって知っている。

 

 最初は黙っているつもりだったが、振り回されている千雨のツッコミがうるさいので助言した。

 しかし、そのせいでアルビレオ・イマの矛先がニキティスに向かうこととなる。

 

「本心では人間が好きなのに、露悪的な態度で誤魔化している貴方に言われたくはないですね」

「黙れ、それ以上余計なことを口走ったら潰すぞ」

「フフフ、それは困りますねぇ」

 

 少し魔力を放出してニキティスが威圧すると、アルビレオ・イマは両手を上げてあっさりと引き下がった。

 ニキティスとしてもアルビレオ・イマの封じているものが解放されて自分に向かってきたら面倒なので本当に潰すつもりはないが、それはそれとして完全に無視するとエスカレートするのが目に見えているため釘を刺した。

 

 人をおちょくるのは好きだが引き際はわきまえているという最低な性格をしているアルビレオ・イマは話題をいったん打ち切ると、読書の片手間に口を挟んでくるニキティスを交えながら裏の世界の人間も知らない情報の数々を千雨に語った。

 

 

 

 途中からツッコミも入れずに無言で話を聞いていた千雨は現実離れし過ぎて信じたくない情報を整理すると、虚ろな目で要約した内容を口にした。

 

「金星には本当に地獄があって、そこには悪魔が住んでて、ニキティスとバアルとかいう『貴族』の故郷でもある……って認識であってるよな?」

「そうだ。僕たちが生まれたのは今から1万2千年ほど前のことだ。あの当時起きた不老不死を巡る争いの余波が人類の深層心理に悪夢や地獄のイメージとして刻まれ、魔法使いたちから『魔界』と呼ばれるようになった」

「縄文時代から金星に高度な文明があったとかSFかよ。スケールがデカすぎてついていけねーよ」

「事実は小説よりも奇なりだ。歳月を経て人類の想像力が追いついたとも言えるな」

 

 ニキティスはかなりの読書家で別け隔てなく知識を蒐集しているが、学術書や純文学より大衆向けの娯楽(エンターテインメント)小説を好んでいる。

 エンタメ小説ほど入れ込んではいないが映画や音楽、料理、アニメ、レジャー、漫画、ゲームなど大衆娯楽全般を(たしな)んでいる流行に敏感(ミーハー)で庶民的な真祖だ。

 時間の感覚が定命(じょうみょう)の者とは違うので服装のセンスが100年ほど遅れているときもあるが、超越者にしては()()()親しみやすい性格をしているとも言える。

 

 一方でアルビレオ・イマは聞かされていなかった事実に危機感を覚えたのか、普段は薄っすらとしか開けていない切れ長の目を開いて真剣な表情でニキティスに問いかける。

 

「それよりも、デイドラロードの侵攻を抑えるためとはいえ、キティが封印した真祖バアルを解放したのは私も初耳なのですが」

「……屈辱的だが、ダーナが使役している四大元素の上位精霊と僕が召喚した悪魔だけでは、大量に湧いて出るデイドラを相手するには手が足りなかった。

 僕たちに協力的なデイドラロードの配下も戦力として使っているが、裏切るかもしれない相手を主戦力にはできないからな」

「どれだけ数が多くても、ニキティスなら本気を出したらデイドラくらい軽く蹴散らせるんじゃねーのか?」

「だから『様』を付けろと……まあいい。ハセガワチサメの言うとおり、デイドラどもは大した敵ではないが、僕たちが直接戦ったら戦況は大きく傾く。

 そうなったら均衡(きんこう)を取るために、配下に任せて座視(ざし)しているデイゴンとモラグ・バルが本気で動くだろう。

 戦ったとしても負けるつもりはないが、死の概念が存在しない相手を滅ぼす手段がないのも事実だ。決着がつかない泥仕合を続けた結果、こちらの世界にどんな影響があるか分かったものじゃないぞ」

 

 デイドラロードが(みずか)らの手で定命の者と戦った記録は、ムンダスの長い歴史の中でも片手で数えられる程度しか残されていない。

 代表的な例として【狩猟を司るデイドラロード(ハーシーン)】と戦った【ネレヴァリン】、【秩序を司るデイドラロード(ジャガラグ)】と戦った【クヴァッチの英雄】、【支配を司るデイドラロード(モラグ・バル)】と戦った【面影】の三人がいる。

 

 全員がデイドラロードに打ち勝っているが、ハーシーンは力を分割した上に全力では戦っておらず、ジャガラグはシェオゴラスと入れ替わったばかりで本調子ではなく、モラグ・バルは仲間の命を犠牲に王者のアミュレットを介して時を司る竜神(アカトシュ)に助力を請い弱体化させている。

 

 過去には複数のデイドラロードが結託して呪いを掛けて弱体化させたジャガラグや、複数のデイドラロードから次元全体の脅威として追放されハルメアス・モラが()()()()()()から存在と居場所を抹消した【道を司るデイドラロード(イセリア)】などデイドラロード同士が間接的に争った例も存在する。

 

 しかしデイドラロードは三位一体の現人神(ソーサ・シル)と八柱のデイドラロードが結んだ【人間界への不可侵協定(コールドハーバー協定)】や、直接的な支配領域(オブリビオン)への侵攻を禁ずる【原初の契約】によって縛られている。

 それらの理由によりデイドラロード同士が特定の領域内で争った事例は観測されていないため、膨大な知識を蓄えているハルメアス・モラをもってしても何が起こるか完璧に予想するのは難しかった。

 

『ニキティスの推測は当たってるのか?』

『次元の狭間は世界の外殻と隣接した不安定な場所だ。狭間の魔女とも議論を重ねたが、戦闘の余波で連鎖的に世界の(ことわり)が歪み、次元(宇宙)が崩壊する確率は五分五分といったところだ。

 そしてドラゴンボーンの持つアカトシュの加護を利用したとしても、断裂した運命の糸を修復できる確証はない。

 あの愚か者どもは歯牙(しが)にも掛けないだろうが、我々はこの世界の知識が永遠に失われる可能性を容認できない以上、消極的に動くほか選択肢はない』

『こっちでアカトシュの加護(███&███)を使っても、向こうでは何も起きなかったみたいだしな……過信は禁物か』

 

 アカトシュから加護を授けられている千雨とテルドリン・セロは、どちらが能力を行使しても()()()()()()()()()()

 何度も意思疎通を繰り返す手間が省けるのでメリットのほうが大きいが、千雨が家を建てたときのように断続的に加護を使われた場合はデメリットにもなりうる。

 

 そのためスカイリムにいた頃の千雨は、モノづくりで失敗した際に連続で何回もアカトシュの加護を使ってやり直すのは避けていた。

 しかし地球に帰ってきた後に共有している使い魔(ドレモラ執事)を通してセロと手紙でやり取りした結果、世界の壁を隔てている場合は影響がないという事実が判明したので、今は遠慮なくアカトシュの加護を使っている。

 

 ちなみに物品を向こうに送った後に、こちらを送る前まで戻した場合は受け取った側の物品は消滅する。

 千雨はプログラミング的思考から法則の隙間を突いて(バグを利用して)希少な一品物(ユニークアイテム)を増やせるかもしれないと期待したが、現実的な結果に落胆していた。

 

 

 


 

 

 

 本来なら午前中には切り上げる予定だったはずが、想定外の話題が多すぎて半日以上話をするはめになった千雨が帰宅した後、アルビレオ・イマとニキティスは席を離れずに会話を続けていた。

 

「そろそろ最短で十年を切りそうだが、ハセガワチサメを抱き込まなくていいのか?」

「いずれは協力を仰ぐでしょうが時期尚早(じきしょうそう)ですよ。チサメさんが頼まれ事を断りにくい性格だとしても、(えん)もゆかりもない世界の崩壊を防ぐために手を貸してくれるとは思えません」

「見ず知らずの相手ならともかく、今のままでは『黄昏(たそがれ)姫御子(ひめみこ)』を人柱にするしかないと言えば、奴も断りはしないだろう」

「それはあくまで最終手段です。儀式を行えば星核との繋がりは安定するでしょうが、代償に彼女の自我は摩耗消滅してしまう」

「だったら人間性を育ませたのは失敗だったな。それに問題を先送りしたところで、魔力の収支が釣り合っていない以上、遅かれ早かれ破綻するのは目に見えている。

 そうだな……僕は()()()()()()に住んでいる魔力を無限のリソースと勘違いしていた連中がどうなろうと興味はないが、()()も同列に扱うバアルなら手を貸すかもしれないぞ?」

「元老議員を影から操って地球侵略を企てていた真祖が素直に協力すると、本当に思っていますか?」

「まずありえないだろうな。崩壊後の移住先にするための植民地計画をあっさりと放棄している時点で片手間だったのだろう。

 バアルも人間を愛しているのは間違いないが、アレは芸術品を()でているのと大差ない。不変を良しとしている時点で我々とは相容れぬ考え方だ」

「……ままならないものですね」

 

 アルビレオ・イマは近右衛門たちを通じて、事情を把握している一部の人物たちとやり取りを続けている。

 しかし、具体的な解決案を出せないまま、崩壊までのタイムリミットは刻一刻と迫っていた。




私もゴールデンセイントとダークセデューサーを派遣してるぞ用語解説

魔界(まかい)
魔族や悪魔、魔獣などの魔に属する種族が暮らしている異界の名称。人類からは地獄として認識されている。
人類が土器の作り方を覚えた頃(およそ1万2千年前)から争いが続いており、高度な魔法技術に反して文化的な暮らしからは程遠い荒廃した土地が広がっている。
地球や魔法世界のような明確な国家が存在するのかは不明だが、業魔大陸十二諸侯(ごうまたいりくじゅうにしょこう)や王族などの肩書を持つ高位魔族が複数確認されている。
活動地域が異なるため双方に直接的な繋がりはないが、研究所を有する王族一派はある程度文化的な生活ができている可能性が高い。

地球や魔法世界の魔法使いは把握していないが、魔界は太陽系第2惑星『金星』に存在した先史文明の成れの果てである。
金星には恒星間航行可能な宇宙船を建造できるほどの魔法技術を有する高度な文明があったが、今から1万2千年前に不老不死の手段を巡って内乱が起きた。
その結果2人の真祖が生まれ、金星の星核(せいかく)から溢れ出た『闇の魔力(金星の黒)』に適応できた生物は異型となり、一般的な生物の枠組みを超えた寿命と魔力を手に入れた。
しかし争いの影響で発生した異界によって、物理世界から隔離された金星の裏側『魔界』に閉じ込められてしまった。
閉じ込められたとはいえ、転移門で繋がっていないだけで真祖クラスの魔力か念入りに準備した転移魔法を使えば脱出はできる。
しかし魔族は闘争に明け暮れているので、一部の物好きか弱肉強食の世界で破れた敗北者以外は外界に興味を抱いていない。

貴族(きぞく)
一般的には人類社会における特権階級を指す言葉だが、自力で不老不死へと至る手段を生み出して人類の上位種になった者の総称としても使われる。
人類には『貴族』という呼称は知られておらず、『吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)』や『真祖』と呼ばれることが多い。
吸血行為はやろうと思えばできるが、そもそもやる必要がないので吸血鬼の要素はほとんどない。
キティ(エヴァ)も真祖と呼べるだけの不死性を宿しているが、始まりの魔法使いが創った『闇の魔法(マギア・エレベア)』で不老不死になっただけなので厳密には真祖とは言えない。
現在も太陽系で活動している『貴族』はニキティス坊や、バアル、狭間の魔女の3名のみ。

ニキティス坊やとバアルもアタシからしてみたら生まれたての赤ん坊みたいなものだけどねぇ。
TES的に言えば精神性も含めて吸血鬼よりデイドラに近いが、デイドラロードと比べると物質寄りの存在だな。おっと、このババアは例外だぞ?次にババアって言ったら、その顎髭(あごひげ)引き抜くよ。

【ニキティス・ラプス】
1万2千年前の金星で生まれた『貴族』のひとり。
出身地である魔界には滅多に帰らないため、同郷の真祖(バアル)と違って影響力はほとんどない。

傲慢で人間を見下す露悪的な態度を隠さないが、その本性は大衆向けの娯楽(エンターテインメント)、その中でも小説が好きなミーハー真祖。
生きている人間が思い悩みながら活動する姿を愛しているため、人類が滅びそうになったら手を貸す程度には友好的な存在である。
逆に言うと()()()()()()()()()の危機では動かないため、本当にいざというときしか役に立たない戦力とも言える。
それだけなら人類の味方のように聞こえるが、善悪の区別なく自分の基準で行動するので場合によっては平気で裏切ることもある。

大口を叩くだけあって最上位の人類や魔族と比べても桁外れな身体能力と魔力の持ち主だが、本質的に戦闘者ではないので身体能力と魔力を活かした力押しを得意とする。
純粋な魔力量は太陽系内でも最上位で、本人は総魔力の0.1%で地球を1年回せると豪語している。
核爆弾と同規模の爆発なら構えを取る程度(かめはめ波の構え)で起こせるが、並行世界(UQ HOLDER!の後日談)では直径1208kmの準惑星(冥王星第1衛星カロン)の地球への落下を自力では阻止できなかったため、実際の出力や変換効率には難があるようだ。

【ドーンブレイカー】
ダブスタクソ女神メリディアが作り出したデイドラ・アーティファクトのひとつ。
腐敗(デイドラ)偽りの生命(アンデッド)を焼き払う目的で作られたが、夜を司るデイドラロード(ノクターナル)に奪われた挙げ句、改造されてノクターナルの信奉者にダスクブリンガーという名前を与えられたことがある。
相手を問わず炎上させる効果とアンデッド(吸血鬼を含む)とデイドラに対して爆発と追加ダメージを与える付呪(エンチャント)が施されている。
また不死祓いの効果も付与されているため、切りつけた相手の再生力を著しく低下させる能力もある。

スカイリム(TES5)本編では微妙な威力の炎上効果とアンデッドにしか効果のない爆発効果が付呪されているが、ESOではアンデッドとデイドラにダメージボーナス(DLC4『Dark Brotherhood』でダメージボーナスは削除された)があったので、本作では効果を混ぜた上に魔改造された。
敵味方関係なく吸血鬼とアンデッドに爆発ダメージを与えるので自爆したり、爆発で周囲のアイテムを吹き飛ばす欠点もあるが、序盤から中盤までなら普通に使えて見た目が特徴的でカッコイイので様々なMODが開発されている。
クエストジャーナルの誤字(原文でも間違っているので誤訳ではない)や祭壇から爆発でふっ飛ばして2本取得できるバグ、色々といじられることが多いメリディアなどネタに事欠かない武器でもある。

【アカシャの図書迷宮(としょめいきゅう)
図書館島と呼ばれている巨大図書館の正式名称。中層階までは一般人でも到達可能だが、最下層は魔法使いも全容を把握していない。
アカシャとはサンスクリット語の阿迦奢(アーカーシャ)を語源としており、現代ではアカシックと言われている。
主に世界で起こったありとあらゆる事象が記録されているもの『アカシックレコード』を指す言葉として(もち)いられる。

()()()()どんな本でも所蔵しているため、この世界では発刊されなかった可能世界(並行世界)の書物や人類史以前に存在した文明、発生する可能性のあった文明の書物すら読める。
媒体を問わず文字として書き起こされていなければ所蔵されず、遠い未来の書物も置いていないため、ありとあらゆる事象が記録されているわけではない。

寿命に限りがあるなら、無限に等しい蔵書の中から可能性として存在する本を探すなんて無謀なことはせず、同じ世界か近しい世界の本で我慢するんだね。

ithelia(イセリア)
(運命)、混沌を司るデイドラロード。
運命を変え、自分の好きなように形作る権能を持っており、『道のデイドラ公(Prince of Paths)』『歩まれなかった道の女王(Mistress of the Untraveled)』『見えざるもの(Unseen)』『運命を変えるもの(Fate-Changer)』として知られて()()
運命を司っている点はアカトシュやハルメアス・モラと共通しているが、イセリアの権能はより直接的かつ大規模で運命そのものを己の望む形に繋ぎ変えることができる。
しかし彼女の権能に耐えきれず運命の構造(世界)がダメージを受けており、このままでは次元が解体される可能性を予知したハルメアス・モラの提案に賛同したペライトとヴァーミルナ以外のデイドラロードたちによって封印された。
その後、復活する可能性を排除するためにハルメアス・モラの能力でデイドラロードを含めたすべての記憶から存在と居場所が抹消された。
2023年6月6日にThe Elder Scrolls Online(ESO)に追加されたチャプター『ネクロム』のシナリオでハルメアス・モラから語られた新たなデイドラロードの一柱。
性別以外は2024年3月末時点では不明だが、2024年6月4日配信予定のチャプター『ゴールドロード』での登場が確定している。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。