███:長谷川千雨は最後の竜の血脈である。 作:庭師代行
「高畑先生、今お時間よろしいですか」
「どうしたんだい? 千雨君」
なかなか雑談をやめないクラスメイトに悪戦苦闘しながらもホームルームを終わらせ教室を去ろうとしているタカミチに千雨は声をかけた。
タカミチラブな明日菜に、なんで高畑先生に話しかけてるんだ私も話そうとしてたんだぞという意思のこもった目つきで睨まれるが、気がついていないフリをしながら話を続ける。
「放課後、学園長とお話したいのですが大丈夫でしょうか」
「今日は職員会議もないし大丈夫なはずだよ。
僕の方から話は通しておくから、放課後になったら直接学園長室に向かうといい」
「お手数をおかけします」
片手を軽く振りながら教室を去るタカミチと見送りのために廊下まで出ていった明日菜を眺める千雨。
ありゃベタぼれだなと思いながら席に戻ろうとしている最中、木乃香に話しかけられた。
「おじーちゃんに用事でもあるん?」
「……おじいちゃん?」
「近右衛門おじーちゃんはウチの母方の祖父なんやえ」
「そうだったのか……これっぽっちも似てねーな」
「なんか言うた?」
「なんでもねーよ。ちょっと学園長に提出しないといけない書類があってな。直接渡したかったんだ」
「そうなんや。新学期早々に大変やねえ」
いかにも
驚きすぎてポツリと本音が漏れてしまったが木乃香には聞こえなかったようで、千雨は何事もなかったかのように会話を続けて誤魔化した。
「つーわけで、悪いが絡繰には少し待っててもらうことになるがいいか?」
「構いません。教室で待たせてもらいます」
「……どうせなら私の家に招待してやってもいいぞ」
ティッシュで鼻をかみながら気だるげな表情でエヴァンジェリンが千雨と茶々丸の会話に割り込んできた。
茶々丸は
機体自体は今年の1月には完成していたので誕生日は2001年1月3日だが、起動したのは4月1日なので現時点では生後9日とも言える。
現在はエヴァンジェリンと交わした契約により彼女の従者となり、情操教育を兼ねて中学生として過ごしている。
「よろしいのですか、マスター?」
「構わん。遅かれ早かれ一度は連れて行くつもりだったからな。ついでに『別荘』に入って体調を整えたい」
茶々丸は起動したてで自我がまだ希薄であり、
そんな
「マクダウェルの家に行かなくても、この教室でも──いや、マズイか。とにかく私の部屋とかでもいいんじゃねーのか?」
「私の
ニヤリとした憎たらしい笑みをエヴァンジェリンが見せつけてくるが、もちろん千雨はビビってるわけではない。
最初は放課後に人が居なくなった教室で話す気でいたが、探知魔法とオーラ・ウィスパーの結果を思い出した千雨は教室をざっと見渡した。
案の定、
この前はおぼろげにしか見えなかったが、明確に存在を認識した影響か今は楽しげにクラスメイトの様子を眺めている幽霊の表情まで確認できた。
千雨は生きたまま【
恐れてはいないが、死人とはいえ魔法関係者かも分からない相手がいる状態で内緒話はできないので、教室ではなく自室に行こうと話を持ち掛けた。
本来なら穏便に
そのときも夫婦の幽霊を再会させたり、
クラス名簿に記載されているということは、近右衛門やタカミチは幽霊の存在を認知しているはずである。
話しかけてみてもいいのだが、それこそ放課後の誰もいない時間帯を見計らわなければ間違いなくクラスメイトに電波呼ばわりされるだろう。
ぐだぐだと考えていてもしょうがないので、千雨はとりあえずエヴァンジェリンの家に行きたくない理由を述べることにした。
「遅くなったら門限過ぎちまうかもしれねーだろ」
「理由がせせこましいわッ! 心配せずとも
「……そこまで言うならしょうがねーな」
「マスターのワガママに付き合って頂きありがとうございます」
「おいボケロボ、まるで私がゴネたような言い方をするな!」
(マクダウェルって意外とツッコミ気質だったんだな)
エヴァンジェリンの意外な一面を目撃した千雨は少しだけ親近感を覚えたのだった。
入学直後のためか本格的な授業はまだ始めないようで、本日は学力を把握するための実力テストと身体測定がメインだった。
入学早々にテストがあると聞かされた1年A組の面々の半数以上は文句を言っていたが、決まりなのだからしょうがない。
千雨は3年ほど現代日本の学業から離れていたが、記憶力には自信があるのでテストは難なく解くことができた。
国語と社会は満点とはいかないだろうが、得意な算数と理科は満点を取れた自信がある。
しかし一部のクラスメイトたちはそうはいかなかったようで、明日菜を始めとした数人は眉をしかめながら答案用紙とにらめっこをしていた。
この調子で、これからの授業について行けるのか他人事ながら千雨は不安に思った。
テストが終わった後は各教科の教科書や100ページを超える部活動案内のパンフレット(運動部が21、文化部が160以上掲載されている)が配布された。
以前の千雨は部活動に入るつもりはなかったのだが、現在はひとつだけ気になる部活動が存在する。
時間ができたら、その部活を見学しに行くつもりだ。
その後は別室に移動して身体測定が行われた。千雨の身長は156センチだった。
クラス内の上下差が激しすぎるのであまり当てにはならないが、クラス内では中間くらいの身長である。
体を鍛えているにも
千雨の体は少しは筋肉がついているが、引き締まって見える程度のレベルで腹筋が割れているわけではない。
体中に矢が突き刺さったり剣で切り裂かれたりしても1時間休憩したら傷跡も残らずに治ってる時点で、肉体的にも変質しているのだろう。
おそらく、というか絶対に【ドラゴンの血】を飲み続けた影響なのだが、そうでもしないと僅か2年で猫2匹分の強さしかなかった少女がアルドゥインと戦えるほど強くはなれなかっただろう。
ドラゴンの血は1000年前、タムリエル大陸の国々が3つの陣営に別れて戦争をしていた時代にポーションの材料として使われていたこともあったが、そのまま飲み干すような物ではない。
余談だが、千雨がドラゴンの血を飲んで己の血肉としているという話を聞いた【
竜戦争の時代にドラゴンを虐殺していた彼も、さすがにそこまでして力をつけようとは思わなかったようだ。
島民を洗脳して魂だけの状態から復活しようとしていたミラークにすら引かれる
千雨の外見が成長していないのも、アカトシュの加護とドラゴンの血を長期間に渡って摂取していた影響と千雨に素質があったという複合的な結果である。
普通の人間がドラゴンの血をそのまま摂取したら拒絶反応で死んでいる。
ポーションにする技術も失われているため、現在は千雨が飲む以外には使い道のない素材だ。
(ったく、どいつもこいつも無駄に胸がでけーな。私も、せめて連れて行かれるのが数年後だったらなあ……)
千雨は12歳にしては発育がいいほうだが、どう高く見積もっても中学3年生くらいの外見である。
今後は成長しないと思うと少し寂しい気持ちになった。
こっちの世界には外見年齢を操作できる魔法とかねーかなあと遠い目をしながら千雨は思案するのであった。
放課後、学園長室まで一人でやってきた千雨はノックをすると扉を開けて部屋へと入った。
「さて、なんの用かの」
「実はお願いしたいことがありまして……纏まった金銭が必要なので向こうから持ち帰った物品を
「ふむ、どのような物があるか見せてもらっても?」
書類の積み上げられた立派な机に座っている近右衛門の質問に頷いた千雨は、カバンから小さな小箱を取り出した。
小箱を開くと中には
金や銀の
加工しやすいように混ぜものをしているので、千雨が作ったインゴットは純度がそこまで高くはないのだ。
もっとも職人気質な千雨は高純度なインゴッド作成を諦めてはおらず、いずれは加工技術を学び道具を集めて24金のインゴットを自作するつもりでいる。
「ほう……これは見事な宝石じゃな」
「向こうでも同様の名前で呼ばれていたので、おそらくこちらの宝石と同質の物だと思うのですが、調べてもらってもよろしいでしょうか」
「よかろう。
しかし交流があるとはいえ大量に物品をやり取りするわけでもないので、宝石や貴金属を持ち込んで換金する場合も多かった。
「ありがとうございます。宝石が売れる品質の物だったときは、そのまま売却してもらえますか」
「うむ、税金や手数料がかかるから少し目減りするかもしれんが、それでもいいなら現金に変えるとしよう」
「……税金がかかるんですか」
「フォフォフォ、魔法使いも戸籍を持っておるし、ちゃんと納税もしているからの。
千雨君の場合は被扶養者じゃから少々複雑になるが、そのあたりはこちらで処理しておくから安心せい」
「重ね重ねありがとうございます」
学生だった千雨には馴染みが薄いが、金銭が絡むのなら納税が必要なのは当たり前だった。
もちろんスカイリムでも納税はしていたが、社会構造が異なるため参考にはならない。
これからも金を稼ぐのなら、そのあたりの勉強は必須だなと痛く痛感する千雨であった。
「それではこちらの宝石、全てお願いしますね」
「ホッ!?」
インベントリに収めていた数百個の宝石を机の上に広げた千雨の行動に、近右衛門は普段は眉毛で隠れている目を見開いて驚いた。
実は千雨は土曜日の深夜に【秘密の召使い】という
秘密の召使いは【黒の書】という知識を司るデイドラロードのアーティファクトで移動した先で手に入れた
相棒の傭兵も同様の
「……ま、まあ良かろう。勝手にスポンサーを集めて多額の金を動かされるよりはマシじゃからな」
「お手数おかけします」
震える声を誤魔化しながら顎髭を撫でる近右衛門に千雨は頭を下げる。
言葉遣いこそ丁寧だが、この暴挙は先日幻惑魔法を掛けてきた意趣返しである。
妙に具体的な発言は気になったが、思い当たるフシはないので千雨はスルーした。
「それともう一つ、出席番号1番の席に座っている幽霊について、お聞きしたいのですが──」
「さよ君の姿が見えるのか!?」
「え、ええ……話したことはありませんが、意識すれば表情ぐらいは見えますよ」
急に立ち上がって食い気味に迫ってきた近右衛門の反応に、千雨はこりゃ余計なことを聞いちまったなと思いながらも素直に真実を告げた。
「……彼女の様子を教えてはもらえんか」
「やっぱり反応してもらえないのが寂しいのか
「そうか……悪いが千雨君。お主にひとつ依頼ができた」
「アイツの話し相手になってやれ、という依頼ならお断りします」
「ならばワシの用意できるものなら、なんでも用意する。じゃから──」
なりふり構わずに追加で条件を出そうとする近右衛門だが、二の句を紡ぐことはできなかった。
今まで見せたことのない真剣な目つきで、千雨が近右衛門の瞳を射抜いたのだ。
一瞬、千雨の瞳孔がドラゴンのように縦に裂けたのかと錯覚するほどの眼光だった。
「なんでそんなに必死になってんのかはわからねーが、依頼なんてされなくても話くらいしてやるよ。クラスメイトなんだからな」
「……すまぬ、千雨君」
「謝らないでください、学園長。それと、これからも色々と
「フォフォフォ……お手柔らかに頼む」
おそらく近右衛門と幽霊は生前知り合い──もしかしたら恋人だったのかもしれないが、千雨は深堀りしなかった。
一気に老けたように感じられる近右衛門に容赦なく追い打ちをする千雨だが、これでも控えめな方である。
あの手この手で食料品店や服屋に拾ってきた武器防具を売りつけるよりは遥かにマシだ。
「あの幽霊、
「さよ君は今から60年ほど前、大戦に巻き込まれて亡くなったんじゃよ。その後は地縛霊となって、あの教室に縛られておる」
「そうですか……魔法使いでも幽霊は見えないんですか?」
「難しいじゃろうな。ワシは魔法の他に陰陽術も
エヴァンジェリンのような人から外れた高位の存在ならば、会話もできるやもしれんが……彼女には断られてしまっての」
「アイツ、プライド高そうですからね」
「それだけではないのじゃが……ともかく、さよ君をよろしく頼む」
「話をするだけです。その後どうなるかは分かりませんよ?」
頭を下げる近右衛門に対して千雨は確約はできないと答えるが、彼に頼まれずとも近いうちに関わっていただろう。
寂しげにしている幽霊を無視して授業を受け続けられるほど千雨は達観していないのだ。
【ソブンガルデ】
勇敢な戦士だけが死後招かれるとされる
千雨は死者の魂を喰らい更なる力をつけようとしたアルドゥインを倒すために、古代の遺跡を使って転移したことがある。
「勝利かソブンガルデかだ!」
【ソウル・ケルン】
アイディール・マスターと呼ばれる上位存在が支配するオブリビオンの領域。
死霊術で魂を奪われた者が行き着く先で、魂だけになった者たちは滅びることもできずに永遠にさまよい続けている。
千雨はハルコンという吸血鬼たちの王の野望を止めるために動いている途中で星霜の書が必要となりソウル・ケルンへと向かった。
相棒の傭兵の
【ルシエン・ラシャンス】
200年前、
かつての弟子である聞こえし者の話をしてくれたりと案外おしゃべりである。
こいつの部屋の毒リンゴで序盤、金策をした
【ドラゴンの
DistinctlyMinty氏の作成したスクリプトをPhaserRave氏が許可を得てリメイクしたMOD『Dragon's Blood』による追加アイテム。
ドラゴンを倒した際に一定確率でドラゴンの血を拾えるようになる。
ドラゴンの血を使用すると本来はレベルアップ時にしか貰えない
追加ファイルを適用すればスキルポイント、体力、マジカ、スタミナのどれかを選択して増やせるようにもなる。
バランスを壊し気味なMOD要素だが、これよりも更にバランスブレイカーなMOD要素が残っている。
【
ドラゴン語で『
世界で初めてドラゴンボーンの力を与えられた元ドラゴン・プリースト。
ミラークは
しかしドラゴンボーンの力を得たミラークは知識を司るデイドラロードのもたらす知識に魅入られてしまう。
ミラークは欲望のままに
その後、竜戦争で敗北したミラークは肉体を失いデイドラロードの領域に逃れたのだった。
ミラークは永い間、復活の時を待っていたが運命は彼を逃しはしなかった。
ミラークの信者が千雨を偽りのドラゴンボーン呼ばわりして襲いかかったことが原因で千雨は彼と敵対することになる。
時系列としては終盤の中頃に位置する。
【
荷馬になるのが夢だった変態ドレモラ執事を召喚するパワー。
ドレモラ商人を召喚できる【ブラックマーケット】というパワーとの2択だが千雨はこちらを選択した。