【完結】ムゲンのかけら   作:koum

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“Champion Time” is Over

 ガラル粒子を撃ち込まれ暴走するザシアン。

 それを追いかけていったポップから、まどろみの森にいるという連絡が来た。ソニアさんと一緒に、ホップの元へ急ぐ。

 もう何度か来た道をかき分け、奥へ奥へと走っていく。

 ホップとの旅立ちの日にも、乗り込んだのが懐かしい。まるで昨日のことみたいだ。

 森の陰から人影が飛び出してきた。考え事をしていたせいで、ぶつかりそうになってしまう。

「うわっ、ちょっとどこ見てるのよ!」

「えっ、なんでここに、かあさっ……。いや、なんでもない。そっちだって走っていただろ!」

 一瞬ホップかと思ったが、そうではなかった。

 現れた人影はホップによく似ていた。現れた勢いそのままに、ソニアさんと言い合っている。

 その子がこちらを向き、驚いた表情を浮かべた。

「ユウリ……って、そっか。この時代の…。とりあえず会えたか」

 男の子はチャンピオンである私の名前を知っていた。

 まだなったばっかりだが、なったばっかりだからこそ、私がチャンピオンであることは広く知られている。

 違和感はある物言いだけれど、不思議じゃない。

 男の子が勢いよく頭を下げた。

「仲間とはぐれて、道に迷っているところなんだ! 合流できるところまで、同行させてもらえないか?」

「なーに? チャンピオンとお近づきになりたいだけじゃないの? こっちは取り込み中だから勘弁してよね。そもそもこの森は立ち入り禁止よ」

「そんなんじゃないぞ! こっちも困っているんだ。頼む!」

 ソニアさんが文句を言っているが、押し問答している時間が惜しい。それに今この森でウロウロしていると、暴走しかけていたザシアンと鉢合わせしてしまうと危ない。

「いいよ、急いでいるからもう行こう。森の奥に行くけど、いいんだよね」

「いいぞ。あ、でもちょっと待ってくれ。手持ちのポケモンにも、ツレの一人に伝言しなきゃいけなくてな」

「スマホ持ってないの?」

「ちょっと事情があって、オレもツレもスマホが繋がらないんだぞ」

 見せられたスマホはなぜか圏外になっていた。見たことがないアプリばかりが入っている。

「ミミッキュ、マサルを見かけたらメモ渡してくれな」

 男の子はミミッキュをモンスターボールから呼び出すと、メモを渡した。そのまま森の奥へと消えていく。

「へー、ミミッキュ連れているんだ。すごいじゃない」

「自慢の相棒だぞ。最近ゲットしたばかりだけどな!」

「やっぱ服の布は『れいかいのぬの』なのかしらね。最近、ユウリが見せてくれた布と質感が似てたし」

 古い手紙の配達で、『れいかいのぬの』を手に入れたときに、ポケモンに詳しいソニアさんに確認してもらった。

 あの出来事をまだ消化できておらず、なんとなく持ち歩いていた。速足で急ぎながらも、『れいかいのぬの』に触れてみる。古い想いが残っている気がした。

「あんまり体を調べたことはないなー。ミミッキュの扱いで重要なポイントだからな」

「ミミッキュの体を覗き込むと吸い込まれる、だっけ。そりゃそうね。私はソニア。ね、名前なんて言うの?」

「おれの名前は……グローリィだよ」

 なぜかちらりとこちらを見てから、男の子はそう名乗った。

「あなた、ホップにそっくりね」

「……会ったことないから、わからないけど、もしかしたら親戚かもなー。家、この辺だし」

「嘘。私、あなたと会ったことないわよ」

「偶然だろ。そういうこともあるんだぞ。ちなみに、おれが探している子も、ユウリそっくりだぞ」

「へー、そんな奇遇もあるのね」

「ああ、だから見かけたら教えてくれ。頼む」

「ね、必死だけど、何かあるの? もしかして、甘酸っぱい話だったりする?」

「告白はしたよ。まだ出された条件をクリアできてないんだ」

 直感だけれど、グローリィは何かを誤魔化そうとしている。容姿の話題から逸らしたくて、ソニアさんの興味が引ける話題を、プライベートながら振ったのかもしれない。

「条件?」

「ポケモンバトルで勝つこと。とても強くてな、まだ一回も勝ててないんだぞ。なあ、仮にお前に勝とうとすれば、どうすればいい?」

「んー、わかんないな、多分それがわかられたら、チャンピオンに私はなってないよ」

 チャンピオンになってから、強くなるにはどうすればいい?みたいなことはよく聞かれるが、直接どうすれば勝てると聞かれたのは初めてで、少し興味が湧く。

「そっか、ね、どうやって告白したの?」

「弱いって扱いをされて、その勢いでいったぞ」

「そんなことで?」

「弱いって、負けるって、対等じゃないだろ。条件ってのもあるけど、オレも一度は勝ってから付き合いたいぞ」

「それは違うでしょ。ポケモンバトルに強いや弱い、勝ち負けと人の付き合いは関係ないと思うな」

 グローリィの言葉にショックを受けた。震えそうになる声を、平静に振舞いながら返した。

 勝負事を人間関係に持ち込むことへの嫌悪感とはまた違う。自分の土台が揺らぐのを感じる。

「私はわかるわ。ダンデくんと、幼なじみと一緒に旅に出たけどねー、負けが続いて、自分に自信なくなってねー、やっと自信取り戻したのは最近よ。10年近くかかったわ。あはは」

 ソニアさんも便乗した。

 バトルから距離をいているソニアさんの回答も意外だ。悩んで、悩んで、やっと吹っ切れた。そんなふうに感じた。

 ガサゴソと茂みが揺れた。

 思わず身構えると、先ほどのミミッキュが戻ってきた。男の子にメモを渡す。

「探し人が見つかったみたいだ。忙しいところ、邪魔したな。失礼するぞ」

 そのメモを見るなり、グローリィは急いで走っていってしまった。

 突然現れて、強引に着いてきて、慌ただしく去っていく。

「なんか……変な子だったわね」

 ソニアさんが不思議そうにしている。傍から見ていて、ソニアさんとの会話がすごくスムーズだった。まるで会話しなれているような、息の合い方。自然なのが不自然だった。

「単純に馬が合う相手だったのかな」

「もしかしたら、運命の相手だったのかも。最も、運命どころか、いよいよ伝説との遭遇よ」

 森の木々が開けた。

 何度か来た、まどろみの森の最深部。

 そこにホップと興奮したザシアンがいた。

 ホップは傷だらけだった。

「よし よし、もう 大丈夫 だぞ。おぉっ!?…… 落ち着いたか!?やった! すごいぞ!」

 ザシアンが徐々に落ち着いていく。その光景から目が離せず、一歩も動けない。

 自分との違いを強く感じた。

「ちょっと ホップ! ボロボロ じゃないの!」

「来てくれたのか!ザシアンをなだめるのに夢中 だったからな。道中で、ユウリのそっくりさんには会ったけどな」

 ホップはポケモンに正面から挑む。

 私はポケモンと共に、相手に挑む。

 絶対的な差で、遠いと感じた。

 いつか、チャンピオンだったダンデさんにとってのソニアのように、ホップと距離ができるのだろうか。

「オレだって……まだ 信じられないけど……でもさ! おかげでなんか ふっきれたぞ!

 ……ユウリ!お願いが ある!

 ビートの まねじゃ ないけどさ、オレと もう一度勝負 して くれないか!

 全てが 始まったこの 場所…………まどろみのもりで!」

 さきほど触れた『れいかいのぬの』に、また触った。

 幽霊の女の子は伝えたいことがあって、相手がお爺さんになるまで伝えきれずに長い時間をさ迷った。伝えきれない思いは幽霊となって、その場に留まるしかないんだ。

 幸運の女神には前髪しかなくて、いつだってタイムオーバーは目の前だ。

 機会はいつだって、今しかない。

「……いやだよ。ホップと戦いたくない。本当はずっと、ホップと戦って勝ち負けが着くのが嫌だった」

 ついに言ってしまった。一度、閉じていた口を開いてしまえば、もう止まらない。

「ホップと戦うのは楽しいよ。けど……戦った後、すごくきつかったんだ。チャンピオンはホップの夢なのに私が勝っちゃって、チャンピオンまでの距離もドンドン縮まってきて……。私はホップと旅を続けていただけなのに……」

「もしかして、と思ったことはあったけど、やっぱりそんな感じだったんだな。ユウリはさ、チャンピオンを目指してたけど、チャンピオンに成りたかったわけじゃないんだろ」

「気づいてたんだ……」

「オレはユウリのライバルだからな。それに……一緒に旅立った仲だぞ」

「でも……それも終わりなんでしょ?」

 いつか夢は終わると人は言う。

 ホップと共に旅に出た。

 いつの間にか、ホップが自分を追いかけてきた。

 一度も負けなかったら、チャンピオンになっていた。

 旅が楽しくて、ポケモンたちと共に駆け抜けて、辿り着いてしまった場所だった。

 ダンデさんに憧れて、チャンピオンはホップの夢だった。

 私がチャンピオンになってしまって、もうダンデさんはチャンピオンではない。

 ホップは夢を終えてしまう。

 夢の終わりは旅の終わりで、それはきっとココなんだ。

 チャンピオンは終着駅で、行き止まりで、他に人は来ず、ひとりぼっち。

「オレさ、困っているポケモンを助ける博士になりたい。

 皆と スタジアム めぐってさ、ポケモンたちを 助けていくうち、そう 思えるように なったんだ!

 ……だけどさ、今は困っているユウリを助けたいぞ。なぁ、ユウリも自分の夢を探してみないか?」

「私、もう、チャンピオンだよ」

「知ってるよ。けど、ユウリはユウリだろ。ポケモンバトルが強くて、戦うのが好きな、オレのライバルだぞ」

「なにそれ、私って野蛮過ぎない?」

「でも、ユウリ。ポケモンバトル好きだろ? オレは最初から、何度も、ユウリが戦うのを見てきたぞ。だから改めて―――勝負だ、ユウリ。これからも、オレはユウリと戦い続けるぞ。これはその一回目だ」

「そっか、ねえ、これからも一緒にいてくれる?」

「もちろんだぞ! こっちこそよろしくな!」

 俯いていた顔を上げて、ホップに向きあう。

 ホップはにかっと笑っていた。敵わないな、と思った。ポケモンバトルでは負けていないけれど、いつだってホップには負けている気がする。

いつか、ホップに勝ちたいな。

 お互いにボールを投げあった。

 




次回、最終話です。
当然のようにデバガメしている未来組の話。
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