【完結】ムゲンのかけら   作:koum

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お久しぶりです。
良質な敗北者ユウリSSを摂取したので、
力尽きて書けなかった、マサル周りの話を書きました。


Tips.ムゲンで欠けた物語

 

●およそ一年と少し前。

 

 

 ジムチャレンジの果て、チャンピオンリーグの果てのチャンピオン争奪戦。

 二人のポケットトレーナーが相対する。

 ジムチャレンジの同期で、その後、10年以上戦い続ける猛者だった。

 アナウンサーの声がスタジアムに響く。

『チャンピオン、マサル。通称、最弱のチャンピオン!

 チャンピオンリーグの戦績はずば抜けており、何度もチャンピオンになるも、防衛戦となるとまさかの全敗!

 その名の通り、また負けてしまうのか!

 それとも、実力を発揮して今度こそ防衛に成功するのか。

 そして、熾烈なチャンピオンリーグを勝ち抜いたのはスパイクタウンのジムリーダー、マリィ選手!

 ご存知、悪タイプのエキスパート。トリッキーなポケモンを操るセクシーな方言美女。また、嘘か本当か、この二人は恋人という噂もあります。

 色々な意味で目が離せない、ジムチャレンジの開会式より始まった、長い闘いの閉めにふさわしい注目の一戦です!』

 アナウンサーの長いセリフが会場にハウリングを残す中、マリィは余裕ぶった顔ぶりでマサルに話しかける。

「最弱ってまた言われとるよ。悔しくなかと?」

「オレとしては、マリィのセクシー方言美女が気になる。あのアナウンサー、マリィの魅力をわかってるわ」

 軽口を叩きながら、マサルは好戦的な笑みを浮かべる。

「しかしまさか、本当にマリィがくるとわな。

「勝たせてもらうけんね。最弱の汚名挽回、覚悟しとーがいいよ」

「相手が誰であろうと、いや、マリィだからこそ、今日の俺は負けないさ。チャンピオンは譲らないぜ」

 レフェリーの試合開始の合図。両者譲らず、お互いにボールを投げ合った。

 

 

ムゲンで欠けた物語

 

 

 マサルとマリィ、激しいバトルが終わった。

 緊張感が混じった、ざわついた空気。

『チャンピオン・マサルが勝利しました! 初の防衛成功! 構成をがらりと変えての、耐久型中心のサイクル!

状態異常の嵐に、耐えて耐えての粘り。意表を着いた普段見られない、泥臭い、これまでのチャンピオンらしくない一幕。一皮むけたというべきか、勝利への執念を感じる試合でしたね……。緩急が激しいといますが、マリィ選手の読みをことごとくかわし切りましたね。一皮むけたというべきでしょうか」

 まるで別人のような戦いぶりだった。

 普段のマサルは勢いのままに戦い、攻め続け、変わり続ける状況に対応し続ける動のタイプ。しかしこの戦いでは突然の急ブレーキをかける交代を見せた。今までのマサルならば、リズムを崩すような戦いだった。

 マリィは何度も戦ってきた相手の突然の変容に、読みを何度も外されての敗北だった。

「さすがね。悔しかあ……。強くなっとうね、マサル」

 戦い慣れた自分にメタを張ってきたわけではない。ハイレベルの戦いで、自分のスタイルを変えるのは容易ではないのだ。マサル自身が戦術の幅を広げ、数段レベルアップしていたが故の敗北だった。

「なあ、マリィ。オレの名前の意味って教えたことあったっけ」

「勝利って意味じゃなかったと? 嫌味なチャンピオンらしい名前ね。子供にマサルって名前つけるの、はやっとるらしかよ」

「……実はさ、俺は自信がなかったんだ。防衛戦に負け続けてさ、守る、維持していくってのが苦手なんじゃないかって。

 でも、今回、このチャンピオンの座を守ることができた。守れるような戦い方ができる自分に変わることができたって思えたよ。やっと息ができた気がするよ」

「負けた相手に言う言葉? デリカシーなかね。モテんよ」

「他のやつにモテなくてもいいけどな、おまえにはモテたいな。

 マリィ。オレと結婚してくれ! 家族になりたいんだ」

「こんな場所で何いいよると。

 ……こちらこそ、お願いするけん」

「いやったぁぁあああ!」

 

 マリィがOKを出した瞬間、空に花火が打ちあがった。

 赤い頬が色鮮やかな火花に照らされる。

 

「たった今、チャンピオン・マサルから、マリィ選手へのプロポーズが受理された!

 恋人たちの新たな門出に皆さん祝福を!」

 舞台袖から現れたダンデの朗々とした宣誓が放送された。

 本来、閉会式に上げられるはずの花火が、主催者側のダンデの手で早められたのだ。

 次々に上がる花火の音にかき消されるスタジアムが歓声に沸いた。

「ダンデさん、どうして……?」

「プロポーズするときには、花束ぐらい用意するもんだぜ。オレとソニアのことを散々つついてくれたからな。ちょっとしたお返しだよ」

「本当は、もっと雰囲気作って、用意するつもりだったんですけどね。感極まっちゃいました」

「バトルは成長したいのに、そういうところで勢い任せのところも成長してくれると嬉しかよ」

「う、努力します」

「期待せず、長い目で見とくけんね。これからもよろしく!」

 幸せそうに、とろけるように、マリィは笑った。

 

 

 

 

●9ヶ月前

 

 マサルとホップはワイルドエリアに日帰りで遊びに来ていた。

 ぐつぐつランチのカレーが煮えている。

「なー。マサル。結婚式前日にこんなこと、していていいのか?」

「なんだよー、独身最後の日なんだから、付き合ってくれていいだろ? 落ち着かなくてさ。心配しなくても、準備は万端だぜ。もしかして、研究忙しかった?」

「研究の方は行き詰まっていたから、ちょうどいい気分転換になってるぞ」

 食事前に、荷物の整理をしていると、ピロリとホップの端末が鳴った。

「ホープからだ。……今からここに参加したいって。もう近くまで来てるらしいし、マサル、呼んでもいい?」

「いいよー。華があって何よりだ。ホープちゃんから懐かれてるよなー。恋する乙女って感じで、ぐいぐい来てるよな。ホップ的にはぐらりときたりはしないの?」

「姪っ子にグラッときちゃダメだろ。恋に恋するお年頃なんだぞ」

 片づけを終わらせて、端末片手にホップは立ち上がった。

「ここ分かりにくいから、ホープ迎えに行ってくるぞー」

「おっけー。カレー見ながら適当に待ってるわ」

 暇になって、マサルは草むらに寝転がった。ちくちくとした草の感触が気持ちいい。

 ふと、腰のボールの一つから赤い光がこぼれている。

「ん、なんだこれ。ムゲンダイナ?」

 光っていたのは、ムゲンダイナのモンスターボールだった。

 とりあえずの判断としてモンスターボールからムゲンダイナを呼び出した。

 ムゲンダイナは体から赤い光を明滅させていた。それがボールから漏れていたのだ。

 そして、それがその日、マサルが見た最後の光景だった。

 ムゲンダイナと連動するように、マサルに光が走り、マサル自身が消えた。

 煮えるカレーの匂いの中で、マサルの消滅に混乱するムゲンダイナの助けを求める咆哮が響いた。

 後の調査では、異常な密度のガラル粒子と時空の歪曲が観測されるも、それ以外の痕跡は確認されなかった。

 結婚式を翌日に控えていた、チャンピオン・マサルは行方不明となった。

 

 

 

 

 

●当日

 

 のどかな風景が広がるハロンタウン。

 ほうじ茶のような、カフェインレスの茶葉の柔らかい芳香が漂う中、二人の女性がお茶をしていた。

「マリィちゃん、大したお構いもできなくてごめんなさいね。体調の方は大丈夫かしら」

「この子が生まれたら、しばらく動けなくなるけん、お邪魔しました。もしかしたら、マサルが実家にいないかな、なんて」

「帰ってきたら、ひっぱたいて、マリィちゃんのところへ送り出すわよ。心配しないでね。それにしても、いよいよ私も『おばあちゃん』になるのねえ」

 マリィの下腹部は大きく膨れていた。

 中止になった結婚式の後で、妊娠が発覚した。

 臨月で、予定日は2週間に迫っていた。

出産のために、歩いた方がいいと医者に言われて、行きたくなった場所がこの家だった。

「うちの子がごめんなさいね。親になるってのに、どこをうろついているのかしら。いくら謝っても足りないわ」

「お義母さまが謝らんくてもいいですよ。本人からしっかり聞きますから。そのうち、ひょっこり帰ってきますよ」

「あら? 誰か玄関に来たみたい。ちょっと覗いてくるわ。ゆっくりしててね」

 派手なプロポーズの後に、結婚式前に行方不明。

 そのうえ、相手は妊娠しているとなれば、話題としてセンセーショナル過ぎた。

 チャンピオンの実家であるこの家も、一時期は報道陣が詰めかけてきたものだ。

 そのせいで、来訪者には神経質になっている。

 マリィを不安にさせないように穏やかな声をかけて、緊張しながら玄関へ向かった。

 

 




記憶が戻ったマサルの内心
「マリィとの結婚式すっぽかしちゃった。やっべーわ、まじで。えっと、もうすぐ一年ぐらい?! ヤバすぎて実感が湧かない。ネズさんにマイクスタンドでフルスイングヘッドショットされそう。マリィ泣いてるだろうなあ。……はー。もはや2、3日ぐらい誤差でしょ。会ってから考えよ」
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