また、夢をみている。
「何だよ!アニキと 戦うのは 俺だぞ!
よーし!だったらユウリも 今から 俺の ライバルだ!
絶対に 負けないぞ! 鍛えあって、二人でチャンピオンを目指すぞ!」
私たちは同じ日にダンデさんにポケモンをもらって、チャンピオンを目指すホップに手を引かれるように出発したんだ。
「オレが 弱いとアニキまで 弱いと 思われる……
そんなのは イヤだぞ!
アニキは 無敵の チャンピオンだ!
これでいいのか ちょっと 考える」
ビートに負けて落ち込むホップ。私はうまく言葉をかけられなかった。
「強くなるため あれこれ 試す!
でなければ アニキに 追いつく……いや 追い越すなんて できないぞ。
テレビで 観ている アニキはただただ 強く 眩しかった。
今なら どれだけ 強いのか……
オレに 何が 足りないのか わかる。だけど オレも 強くなっているぞ! オマエより スピードは 遅くてもな」
ホップに負けたことは一度もない。誰にも負けたことはない。
けれど、ホップは眩しく見えて、自分をライバルとして追いかけてくれるのがたまらなく高揚した。
「オレの 願いが わかってきた……
オレは アニキと 戦いたい……!
いや 無敵の チャンピオンであるアニキに 勝ちたいんだ! 勝つんだ!」
自分じゃなくてダンデさんを追いかけていることにモヤモヤした。
本当の意味で、ダンデさんを倒してチャンピオンになろうと思ったのは、このときだった。
そして……
「……オレ 夢が できた!
世界中の 困ってるポケモンを 助けて あげられる……ポケモン博士に なりたい!
違う道を進むけど、これからもライバルでいてくれよな!」
目が覚めた。
眠るのは嫌いだった。いつも同じ夢を見る。体は眠りを欲していないけれど、だんだんと頭が働かなくなってくる。記憶を整理するのに必要なんだろう。だから3日に1度は眠るしかない。
体は元気、頭もすっきり、気分は晴れない。
洗面所で顔を洗って、タオルで拭う。
亀裂の入った鏡に映るのは変わらない私だ。
自宅の鏡を暴力で割るチャンピオンはいない。割った理由を説明するのが面倒で、もう何年もこのままだ。
鏡の割れ目をなぞるとわずかな痛み。指先に滲む鮮血。
血を拭うと、ほら、傷はない。
「カレーでも食べに行こうかな」
オフの日はカレーを食べてブティックめぐり。まるでメトロノームのように繰り返す。
着替えるためにクローゼットを開くと、手をモチーフにしたようなロゴの入った服が出てきた。昨晩、ビデオ会議で着ていたときの衣装だ。空き巣の可能性もゼロではないし、もっと奥に隠さないといけない。うっかりしていた。
「栄光をこの手に、ね」
ロゴの意味を聞かれて答えたことを思い出す。もっとも本当は手がモチーフじゃないんだけど。
腰に着けた相棒のモンスターボールをそっと撫でる。
ピピピ。
スマホにメッセージの通知が来た。
『グローリア! いよいよ開幕式だな! ワクワクするぞ! せっかくだから、シュートシティで待ち合わせしようぜ!』
相手はあの子からだった。
テンションの高いらしいメッセージに、メッセージを送っているときの表情がイメージされる。
アローラの海のようなエメラルドグリーンの瞳。あの子には悪いんだけど、あの目が嫌いだった。
カレンダーの日付はジムチャレンジの開会式目前だっだ。チャンピオンとして欠席はできない。
さすがに直接チャンピオンとして会えば、気づいてしまうだろう。
「『グローリア』もおしまいかな。最後ぐらい会ってあげないとね」
もう、あの目で見られることはなくなるだろう。
開催側として前日は打ち合わせで忙しいが、時間が作れないことはない。
何も知らないあの子にちょっかいをかけることは嫌いではなかった。チャンピオンでも総帥でもなくて気楽だ。その時間がなくなるのは残念だ。
メッセージアプリで、OKの返事を返した。
「いってきます」
軽く身支度を整えて、冷たい部屋に別れを告げた。
好き
ホップ ブティックめぐり カレー
嫌い
ホップ 鏡 チャンピオン ワンパチ