最初から、どこかで見た気はしていた。
「ジムリーダーに続き、チャンピオンの入場だっ!
ご存知ガラルが誇る最強のチャンピオン、ユウリ!
誰が彼女の無敗の記録を打ち破れるのか!」
司会のその言葉の先を覚えていない。
現れたグローリア、いやチャンピオン ユウリに頭が真っ白になった。
チャンピオンとして現れたグローリアの覇気に、いつものグローリアの姿が重ならない。振り替えれば、いつもチャンピオンとしての服装とは異なる、地味な印象の服を着ていた。
印象も違って、服装も違う。だから気づかなかったのか、と納得した。
『どうしてチャンピオンだったことを黙ってたんだ。オレを騙していたのか』
ユウリに向けるそんな言葉が胸中を巡り、気が付けば考え込んでしまう。
ホテルのブラインドの隙間から、電気をつけていない部屋に夕日が差し込む。開会式は午前だったのに、気づけば夕方だ。
スマホに通話着信が来た。相手は父さんだった。
「開会式お疲れー。テレビで、ソニアと見てたぞ。懐かしいなあ、あのときはユウリと参加してたけど、今じゃチャンピオンがユウリで、ホープがチャレンジャーだからな。まさかこんな日が来るなんて、思っても見なかったぞ」
のほほんとした口調で、無視できないことを吐いてくる。父さんが現チャンピオンと同期なことは知っていたが、聞き流せない。
「ん、ユウリのことか? 幼馴染だし、ちょこちょこ会ってるぞ。そういや、ホープは会ったことなかったな」
親しげな調子に腹が立った。考えてみれば、ユウリは父さんと同じ年なんだよな。もしかしてというか、当たり前かもしれないけれど、オレのことをガキとしか思っていないんじゃ……いや、この考えは止めておこう。
「……すごく可愛かったぞ。あんまりのろけるようだと母さんに言いつけるぞ」
「んー、そういやなんでか、ソニアはユウリと距離置いてんだよな。昔は仲良かったんだけどな」
嫌な予感がした。
「その昔って結婚する前だったりする?」
「おー、そのくらいの前だぞ。なんでそんなこと聞くんだ?」
適当に誤魔化して、通話を切った。
頭の中のもやもやは深まるばかりだ。
スマホを仕舞おうとすると、メッセージも受信していることに気づいた。
ダンデ叔父さんからだ。開会式では、協賛するバトルタワーの長として出席していた。
『よっ、ホープ。いよいよジムチャレンジだな。小さかったお前も大きくなったもんだ。まだエンジンシティにいるなら時間ができたんだが、飯でも食べに行かないか』
このままでは一人で考え込んで進まない。OKと返した。
ダンデ叔父さんは極度の方向音痴だ。
下手に待ち合わせすると合流できないので、場所を教えてもらい迎えに行き、レストランへ共に歩く。
ダンデさんをチャンピオンの座から落としたのはユウリだ。もう20年近く前だけど、もしかしたらデリケートな話題かもしれない。
そう思ったが、陽気に力強く笑うダンデ叔父さんの顔を見ると、そんな気遣いは不要かと思えた。
「チャンピオンの、ユウリのことが聞きたいんだけど、教えてくれないかな」
「おいおい、やる気だな。開会式の熱に当てられたな」
にかっと笑って、不思議そうにした。
「それにしても、会ったことなかったのか? ユウリはホップと仲がいいからな。てっきり顔合わせしているものかと思ったぜ。一つ言えることは、俺よりユウリは強いぞ。道にだって迷わないしな!」
「自慢することじゃないよ、ダンデ叔父さん。それに、チャンピオンが強いのは当たり前じゃないか」
「はっはっはっ。その通りさ。そして、それだけなんだ。ガラル地方で最も強ければ、チャンピオンで、皆の憧れにして目標。ただ、それだけの称号さ」
ダンデ叔父さんは懐かしそうな表情を浮かべている。
「チャレンジャーは挑んでくる度に強くなれるし、チャンピオンだって強くなる。そうやって皆が加わり盛り上がるんだ。だから気軽に挑めよ」
ダンデ叔父さんの言う言葉は楽しげで、頭のモヤモヤが少し晴れた。
元々、チャンピオンが目標だったんだ。ポケモンバトルに勝ったら、付き合う。その約束は有効のはず。
だったら、挑む理由が増えただけだ。
よーし、やってやるぞ!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
開会式が終わってから、チャンピオンの控室で休憩していると、ジムリーダーとして同じく出席していたマリィが顔を出した。スパイクタウンは後半の街なので、しばらくやることはない。開会式後は、この部屋でおしゃべりをするのが、ここ数年の定番だ。
「お疲れさま、ユウリ。めずらしく機嫌がいいじゃないと?」
「そっちこそ、お疲れさま。別にフツーだよ。それに、『いよいよ』だからね」
ホープに告白されたことが頭をよぎったが、とても言えない。
マリィが納得するであろう言葉で言い返した。
実際、ムゲン団が集める『ねがいぼし』の数はもう少しで目標の数に到達する。
「ねえ、マリィはなんで協力してくれるの?」
マリィは敵対すると思っていた。通報しないだけ万々歳だが、やはり違和感は拭えない。何度も確認してしまう。
「ユウリが見てられんけんね。今でも止められるなら、止めたい思うとるよ。そ、それに、スパイクタウンとしてもメリットがある話だし」
「あーあ、マリィはかわいいーなー、彼氏くんには嫉妬しちゃうなあ」
「マサルとはそんなんやなか!」
強引に話を反らした。『彼氏』の話はマリィによく響く。
「そっか、そっか。でも、まじめな話なんだけど、どんな感じ?
状況が状況だったからね。なんでもいいから教えてくれない?」
マリィの『彼氏』こと、正体不明の人物であるマサル。
ムゲン団のとある実験施設の近くで倒れていて、記憶喪失だった。
所持品は空のモンスターボールと、よりによって現チャンピオンの自分と同じIDのリーグカード。
そして記憶回復のための試しとしてポケモンと触れ合わせたところ、切れに切れたポケモンバトルのセンスを垣間見せた。
恐ろしく高精度な偽造カードに加え、怪しすぎる状況かつ行く当てもなく、ポケモンを従えて暴れた際に備えて、実力者のマリィが面倒を見ていた。
「特に追加で話すこともないとけど……あえて言えば、ムゲン団に入らないタイプやね。珍しく落ち込んでたから理由を聞いてみたら……
『オレ、なんであんなシャツ買っちゃったんだろうな。後悔してるんだ。高かったから。でも過去に戻れたとしても、買っちゃうかもなー。あーあ』
って言っていたくらいやけん」
なぜかそのシャツが伝説のTシャツと直感した。
30000円もするクソダサTシャツ。
私も買って後悔した。あれを買うなんてどうかしている。
しかも、買ったお金はマリィからもらったお金じゃない。
何をしてるの、マサル。そして、なんでそんなに楽しそうなの、マリィ。
マリィは厄介な人間に入れ込んで、身を滅ぼすダメンズの才能があると確信した。
ネズさんやエール団のガードで、箱入り娘をしているのはあながち間違いじゃない。
「ねぇ、マリィ。本当に、彼氏じゃないの?」
「だから、そんなんやなかよ。大体、彼女おるかもしれんし」
「記憶喪失ってのは難しいね」
他の女性メンバーには普通なのに、マリィに対してマサルはごく自然に距離が近い。
取り入ろうとしているのかとも思ったけど、あまりに自然すぎる。
だから、もしかしたらマサルの失った記憶の中で、マリィに似た彼女がいるのかもしれない。
しょげている様子のマリィに、やっぱりマサルが好きなんじゃないかと思った。
マリィ 3X
スパイクタウンのジムリーダーにしてムゲン団幹部。
ネズやエール団のおせっかいのせいで、年齢イコール彼氏いない暦。
まるで恋人のような距離感のマサルにたじたじ。
……まんざらではない。
■■■■■■ マサル
ムゲン団の実験場の近くで倒れているところを保護された。
記憶喪失で、そのときの所持品は空のモンスターボールとユウリと同じIDのリーグカード。
現在は実質、マリィのヒモ。
バトルの腕はチャンピオン級な最強の無職。
次は幕間で、そして終章です。
過程を飛ばして結果だけが残るキングクリムゾン方式。
まともに書いたら、ボリューム的に書ききれませんっ。