この話はイフエンド、『マサルを儀式場に連れていかなかったら』です。
読み飛ばしても問題ありません。
大丈夫な方だけどうぞ。
ムゲンダイナの光が際限ないほどに高まり、『ダイマックスほう』として放たれた。
轟音と共に、光の柱がローズが立つ儀式場の床に突き立つ。
ローズは最後まで、一歩も動かなかった。
光の中に、姿は消えていった。
轟音の後、床には大穴が開き何も残らない。
「キャアアアアアアアアアアアァアアアアア、ローズさまぁああああああああ」
発狂した女性の甲高い絶叫が響いた。
声の主はオリーヴだった。目を見開いてワナワナと震えながら、その場に座り込む。
そして、背後には言葉を失うホップとマリィが続いていた。
オリーヴは、ローズがユウリに真実を告げることを知っていた。ゆえに惨劇を防ぐために、ユウリのブレーキとなるであろう二人を連れてきていた。
ユウリは予想外の二人の登場に息を飲む。
「あ……」
何か言わなければ、しかし誤魔化しの言葉も出ず、口をつぐんだ矢先に足元が揺れだした。
時計塔内部で放たれた『ダイマックスほう』は設備をいくつも貫いていた。この時計塔はムゲンダイナの力と共鳴し、増幅させる装置だ。それがムゲンダイナの力そのもので穿たれたことで、許容値を超えオーバーロードを始めていた。
塔の全体が揺れだし、穴を中心に亀裂が走りだす。
「ここはもう危ないぞ。一旦脱出しないとまずい。マリィはオリーヴを頼む」
「わかった。ホップはユウリをお願い!」
落ちてくる破片で顔をかばいながら、ホップは脱出するためにアーマーガアを繰り出すと、ユウリに向かって走り出した。
「ユウリ、今はとにかくオレたちと一緒に……」
「来ないで!」
ユウリの強い言葉に応え、ムゲンダイナがホップの前に立ちふさがる。先ほどローズを消し飛ばした竜に、ホップは思わず立ち止った。
ムゲンダイナとホップの対峙。
ユウリから注意が逸れた瞬間。
「もう……遅いよ……」
ユウリの足元が割れ、崩落した。ユウリは逃げるどころか、無抵抗に穴に向かって身を投げだした。
「ユウリ、待て、待ってくれっ!!!」
ホップは手を伸ばすが届くはずもなく。
最後に、ユウリが零していた涙が流れ星のように散った。
意識を取り戻したとき、ユウリは自分が井戸の底にいると思った。
自分の落ちてきた大穴の向こうに、赤く染まった夜空が見える。
全身を打ち据えて、体の隅まで痺れている。
右足は瓦礫に潰され、どうなっているかはわからない。
脳内麻薬のせいなのか、なぜか痛みがほとんどなかった。
全身が寒くて、鉛のように重かった。
顔を横に向けると、傍らには夜空よりも赤く染まったムゲンダイナが、守るように控えていた。普段ならば黒い表皮も、赤く変色していた。
「ありがとう、ムゲンダイナ。けど、もういいんだ……」
ユウリが意識を取り戻すことができたのは、ムゲンダイナが追いかけ、迫る瓦礫の大半を弾いてくれたからだろう。辺りは瓦礫の山と化していた。
だが、終わりは近い。ユウリは死の気配を感じていた。
じわじわと赤い水たまりが広がっていく。
「ムゲンダイナ。こんな私に付き添ってくれてありがとうね。私はこんな光景しか見せることができなかったけれど……いつの日か…あなたを……」
ユウリはムゲンダイナから視線を切らした。
首を上げているのも限界だった。
そっと目が閉じられる。
「あぁ、こんな世界はもう嫌だよ。痛くて、つらい。
ホップに連れられて、ジムチャレンジに参加して、チャンピオンを目指して……
あの日に戻りたい、覚めない夢なんてないけれど……そんな夢を見ていたいよ」
最後に目を開けば、ユウリの視界には美しくも儚い赤い夜が映る。
じきに朝日が昇り、赤い世界は泡沫へと消えていくだろう。
ムゲンダイナは一つ鳴き声を上げた。
赤い体は、赤い燐光を漏らし始めた。
やがて、赤い輝きは年を取らないユウリの身も染めていき―――
そして―――
ニュースです。
『ローズ容疑者が起こしたとされる“クリムゾンナイト”から一週間が立ちますが、依然として、彼に立ち向かい、施設の崩壊に巻き込まれたチャンピオンの行方は分かっておりません』
『ムゲン団のメンバーの行方不明が相次いでおり、事態の混迷は深まるばかりです。中には同じく行方不明のチャンピオンが全ての黒幕という根拠のない噂もありーーー』
『ムゲン団の本部は現在廃墟となっておりますが、なんでもかつての時計塔が見えるという噂がありますね。そこには行方不明になったムゲン団員の人影が見えるんだとか』
『今年のジムチャレンジも熱いですね。そういえば、彼らの間の噂知ってます? 伝説のチャンピオンのそっくりさんがいるんだとか』
街で、ワイルドエリアで、チャンピオンの目撃例は止まない。
跡を追う者はいる。
しかし幻のように痕跡は消え、捕まえられない。
ムゲン団の団員の失踪が相次ぐ。
……こういう噂もある。
ムゲン団本部の跡地に現れる幻の時計塔、そこには一匹の竜と少女が住むという。
「君、ジムチャレンジャーなの? 私もなんだ。一緒にチャンピオンを目指そうね!」
ムゲンダイナ ヒュプノスのすがた
ドラゴン・ゴーストタイプ
死を運ぶ無限の力が、夢を司る巨大な虚数に反転した。
ガラルの赤き竜にして、夢幻の世界へ誘うポケモン。
ムゲン団本部跡地にて、空が赤く染まる夜に現れる時計塔に住む。
今に傷つき過去に夢見る人が吸い込まれ、二度と出てくることはない。