姫松高校麻雀部監督代行播磨拳児   作:箱女

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※ 話の都合上、アンチ・ヘイト的表現と取られかねない箇所があります。
  そのような意図はありませんので、どうぞご理解のほどお願いいたします。


26 二回戦④

―――――

 

 

 

 愛宕絹恵は副将戦の終わったあと、控室へと続く廊下を歩いている途中で急に立ち止まり、およそ麻雀からくるとは思えないような疲れた顔で深いため息をついた。

 

 

―――――

 

 

 

 データの上でも他の面子を見た上でも、副将戦で警戒するべきは永水女子の薄墨初美であることは動きようがなかった。第三シードを与えられた永水が地区予選を勝ち上がってきたのはひとえに彼女に拠るところが大きい。発揮する力に波のある神代を別にして、永水の実力はきちんと全国を戦い抜くだけのものを持っているが、その中でも薄墨はポイントゲッターとして一際輝いた。彼女がリードを奪い、大将の石戸が抑え込む。この構図を崩すことができなかったからこそ、他の鹿児島の高校は涙を飲むことになったのである。拳児が言うには大将の石戸はまだ実力を見せていないらしいが、この際それは関係がない。

 

 恭子が口酸っぱく説明した薄墨の異能は、原理こそわからないが話を聞いてみれば単純で、しっかりとルールさえ把握すれば誰にでも対策が取れるようなものだった。もちろん薄墨自身はそれを隠すための煙幕を張っていたし、一見したところで絹恵には見抜けなかったのも事実ではある。しかし正しい番号を押せば電話が鳴るように、原理を知らなくともルールに則ることはできるし利用することもできる。そういった意味で姫松の副将戦に対する準備はばっちりだった。決して清澄と宮守を侮っていたわけではないが、薄墨と比べるとどうしても霞んでしまうのは仕方のないことだろう。おそらくは薄墨本人を除いて、三者ともお互いにそう思っていただろうから。

 

 

 出親は清澄の原村、そこから順に薄墨、絹恵、宮守の臼沢というのが副将戦の席の様子だった。絹恵の引いた席は大外れとしか言いようのないもので、なぜかと問われれば絹恵が親のときに薄墨が北家に座ることになるからである。できることなら役満の親被りは避けたいところだが、それは誰にとっても同じことで今更言ってもしょうがない。もちろん和了られると決まっているわけではないのだから、必要以上に重く受け止めることはないのだが。

 

 兎にも角にも絹恵のやるべきことは単純だ。姉が十分すぎるほど稼いだリードを、なるべく守ってできれば増やす。そのために他家の動向を普段以上に意識するし、薄墨が北家のときは警戒を強める。これだけ点差が開いているのだから、大きな直撃さえもらわなければそうそうひどいことにはならないだろう。当然ノーチャンスということもないだろうし、自身が和了ることも考慮に入れればいいかたちで大将にバトンをつなげることができそうだと絹恵は考えていた。

 

 一礼をして対局が始まる。自分以外のところで叩き合ってくれれば言うことはないのだが、さすがに一校だけ抜けてトップを走っている姫松を放っておくほど他校も間抜けではないだろう。三対の目はしっかりと絹恵を捉えている。気後れしないようにひとつだけ息をついて、絹恵は持ってきたばかりの手牌へと目をやった。幸いなことに自風の西が二枚重なった、タイミングさえ逃さなければ和了って局を流すことができそうな、状況に即したと言える手であった。

 

 

 幸先よく東一局を安手で流した絹恵は、この後もスムーズに局を消化できるのではないかと期待した。しかしそれがただの期待であって、違和感とともにそれが実現しないのだということを理解したのは、やはり絹恵の親番、つまりは薄墨が北家に座ったときのことであった。

 

 恭子の話では、おそらく清澄も宮守も薄墨への対策は取ってくるだろうから、自然に打っていれば永水が急浮上してくることはないとのことだった。加えて原村も臼沢も、このインターハイの場においてではあるが、突出したプレイヤーではない。したがって安全に打っていれば安全に逃げられるというのが彼女の話であり、絹恵自身もそれに何らの疑いを持ってはいなかった。その予測を初めに崩したのが、こちらは悪い意味でだが、清澄の原村だった。

 

 薄墨のルールは “彼女が北家に座っているときに北と東の牌を晒せば、南と西の牌が寄ってくる” というものである。それらの牌が作る役である四喜和が怖いことは間違いないが、そのルールさえ知っていれば一般的な麻雀知識を持つ人なら誰でも対策は取れる。単に北と東を捨てなければよいのだ。あるいはどちらかが鳴かれたときにだけケアするだけでも十分だろう。仮に片方が鳴かれたとしても、最悪もう片方を持っている誰かが抱え込めばそれは未然に防げるのだから。薄墨が北を六巡目で鳴いたとき、絹恵はそのことを瞬時に思い出した。そしてその二巡後、原村はまるで無警戒に見える手つきで、東を河に捨てた。

 

 「これはこれは。美味しい牌をありがとうですよー」

 

 そう言って薄墨は、年齢不相応に小さな体躯に似合わない笑みを浮かべて東を攫っていった。このことに驚いたのは絹恵だけではなく、宮守の臼沢も同様であるようだった。いやに年寄りくさいモノクルの奥の彼女の目が、あってはならないことを目撃したかのように見開かれている。薄墨の異能について知らないにせよ程度の低いミスにせよ、この卓でもっともやってはならないことを彼女はしたのだ。これで薄墨は残りの二つの風牌が集まってくる条件が揃ったことになる。彼女に役満を和了らせないためには、それより先に和了ってしまうしかない。絹恵は自分にできる限り気を引き締めた。直撃などもってのほかだが、自摸で和了られてもダメージは大きいのだ。

 

 すくなくともその瞬間、絹恵はその卓の構図が薄墨とその他の三人 (ここに原村を入れることに多少の疑問は残るが) になったと確信した。しかし、もはや動きようがないとさえ思われた絹恵の確信ですらもその通りにはならなかった。

 

 焦る絹恵の気持ちをあざ笑うかのように、彼女の手は停滞していた。何度も牌を引いては内心でため息をついているうちに気が付いた。何かがおかしい。こんなに牌を自摸るチャンスがあっていいのだろうか。映像で見た限りでは、彼女は条件を揃えてからは相当に早い。だからこそポイントゲッターと呼ばれてきたのだし、また永水女子が負けなかった理由もそこにある。だが現状はどうか。原村が東を鳴かれてからもう六巡が経過しようというのに、薄墨は和了の宣言をするどころかその目にうすく涙を溜めてさえいた。

 

 ( なんやろ、うまいこと行かへんとかあるんやろか )

 

 その本質こそよくわからないが、結果として絹恵の考えは間違っていなかった。それが実感をともなった理解に変わるまではそれなりの時間を要することになるが、それについては今ここで語られるべき事柄ではない。結局のところ東三局は、誰も聴牌までたどり着けないまま流局となってしまった。緊張が弛緩するタイミングである牌を卓の中央へ戻すときに絹恵も息をひとつついたが、下家に座る臼沢のため息が妙に気にかかる感じがした。目を向けてみると、たった一局流しただけとは思えないほどに疲労していた。じんわりと額に汗がにじんで、まっすぐ座っているのさえ辛そうだ。絹恵からすれば、自分自身以外はすべてがおかしなことになっているように感じられて、ひどく気味が悪かった。

 

 

―――――

 

 

 

 「そーいえばコーチって原村をスカウトしたりはせんかったんですか?」

 

 「ん~、どういうこと~?」

 

 薄墨に対して無警戒に東を切ったことがよっぽど印象に残っているのか、漫が思いついたままに口を開く。一方で質問を受けた郁乃はその意図が本気でつかめていないのだろう、いつものように演技性の抜けない様子で首をかしげている。

 

 「いや、全中の優勝者ってことは優秀なんちゃうかな思いまして」

 

 漫の言ったように、清澄の原村和は昨年のインターミドル個人の覇者である。ただ、漫の言い方からも推測できるように、高校生たちは中学生の大会への研究などはまず行わない。考えるまでもなくそんな時間的余裕など存在しないからだ。だから漫は表面上の情報である全中の優勝者であることだけを材料にして郁乃に話を振ったということである。何の気なしの会話なのだから別に深い材料など要求される必要もないだろう。

 

 「う~ん、そやな~、チームとして欲しいとは思えへんかったかな~」

 

 「へえ、そんなもんなんですか」

 

 あまり開かれることのない糸目を宙に投げ、人差し指を顎に当てて郁乃は返す。こう言ってはなんだが彼女お決まりのポーズで、赤坂郁乃をイメージしろと言われたら多くの人がそのように考えるだろうものである。真面目な話もくだらない話もいつもと変わらぬふわふわした口調で話すものだから、聞いている側としてはいつも判断に迷うところがあった。今回の場合は比較的わかりやすいものだと言えるが。

 

 漫は居住まいを正して郁乃のほうへと向き直る。意外と面白そうな話が聞けそうだと思ったからだ。普段はコーチングやら拳児との相談やらであまり雑談をする機会のない存在だが、考えてみれば大会中は彼女とのそういった時間が取りやすいのである。

 

 「これは例えばの話なんやけど~、負けて悔しがる子とそうでもない子のどっちが好き~?」

 

 「んー……、悔しがる子のほうが人間味があってええ思いますけど」

 

 単純に頭の中で像を作ってみて漫は答えた。こちらの方が親しみやすい。あるいは漫自身にそういうところがあるのも影響しているのかもしれない。主将である洋榎だけは例外だが、その他の対局ではいつだって負ければ悔しい思いをしてきた。

 

 「うんうん、それでな~、これは麻雀そのものに対する考え方に通じたりしててな~?」

 

 「麻雀そのものに対する考え方?」

 

 はて原村はいったいどこへ行ったのか、と疑問に思わないでもなかったが、はじめ思っていたよりも更にこの話に興味が湧いてきたので漫はとくに気にせず続きを聞くことにした。

 

 「極端に言うと一万回打っての平均成績と一発勝負のどっちを重く見るか、いう話で~」

 

 「ああ、それで原村は一万回側の雀士やってことですか?」

 

 「結論急ぐんはダメやで~? ほんでな、もちろん私も原村ちゃんのこと調べてん」

 

 「えっ、いきなり話飛びましたね」

 

 これには漫も驚いた。さすがに後の話でつながってくるのだろうが、そういった前置きもないのだから意表を突かれたと感じるのも当然だろう。考えてみれば姫松にはそうやって話をするタイプが多いような気がするが、そこに何か理由があるかはわからない。とりあえず現時点で郁乃の話は謎だらけなのだから今は余計なことは言わないほうがよさそうだ。

 

 「原村ちゃんて個人では優勝したけど、団体戦やとどんなもんやったかわかる~?」

 

 「知らないですけど、それなりにええとこまで行ったんやないんですか?」

 

 笑みの種類をちょっとだけ違うものに変えて、郁乃は楽しそうに話を続ける。

 

 「それがさっぱりやってん。県予選ですぐ負けててな~」

 

 「はぁ、それはまた」

 

 漫が話を聞いている控室には弛緩した空気が流れている。恭子を除けばこの部屋にいるのは出番を終えた者ばかりであることだけでなく、部の方針としてそういう風に過ごすことを決めているのだ。真面目に張りつめていることの重要性も理解はしているが、麻雀という競技の特性上、団体戦ともなると待ち時間が非常に長いのだ。したがってその間ずっと緊張しているとどうしても疲れてしまう。先鋒や次鋒辺りならまだいいかもしれないが、大将ともなるとさすがに体が保たなくなってしまう。だから控室にいる間は拳児を含めリラックスして過ごすことを彼女たちは決めている。もちろん基本的にはチームの応援のために視線はテレビに向けられてはいるが。

 

 「どういうことかな~思て牌譜とか調べてみたらな、すとんと納得したわ」

 

 「え、どういうことです?」

 

 「あの子な、団体戦の舞台でも一万回のうちの一試合をやっとってん」

 

 言葉は頭に入ってきたものの意味として理解が及ばなかったため、漫はよくわからないといった表情を浮かべた。ほとんど謎かけにさえ聞こえる。それでもなんとか先ほどまでの話の流れを思い出して一生懸命につなぎ合わせる。一万回のうちのひとつと、一発勝負と、団体戦。

 

 「……どうしても点を取らなダメな時の打ち方をしてへんかった、いうことですか?」

 

 「や~ん、漫ちゃんめっちゃ賢い~」

 

 ここぞとばかりに頭を撫でようとする郁乃の手を漫は回避した。さすがに高校二年生になってまでよしよしされて喜ぶ趣味はないのだ。心持ち残念そうな表情になった郁乃には取り合わない。表情を沈ませたまま郁乃は言葉を継いだ。

 

 「細かく言うたらもっとあるけど、それやったらチームとしては別にいらんかな~、て」

 

 なるほどと漫は納得した。つまりそれは自分が勝てる可能性の高いと思うものを選んで負けたらしょうがないと思考しているということであり、そこに生じた責任はすべて自分自身が負うということでもある。あえて逆に言うならば、引き受ける責任の範囲を自身のものに限定するということだ。それは個人戦ならば通る理屈だが、団体戦では通らない。ほんのわずかでもチームに貢献するためにみっともなくとも最後まで足掻くのが団体戦であり、負けましたと言ってあっさり諦めてしまうようでは話にならない。もっとも身近な先達が末原恭子であった漫は少なくともそう考える。だからこそ彼女はあのタイミングで東を捨てることができたのだ。点差まで思考が及んだならば、一気に差を広げられる可能性がある役満の道を開くことは絶対に選べないはずなのだから。

 

 大きなお世話であることに違いはないが、漫は彼女がインターミドルを制したことをかわいそうだと感じた。もしかしたらそのせいで自身に疑いの目を向けるチャンスを失ってしまったのかもしれないからだ。これは漫の妄想と言ってもいいものであり、実際にはまるで的外れな可能性のほうが高いだろう。しかし結局は他校の選手のことであり、何が正しいかなどわかるわけがなかった。

 

 

―――――

 

 

 

 薄墨の四喜和が成立しなかったことを幸運と喜ぶべきか異常事態と見るべきか判断のつかなかった絹恵は、いま自分で納得できる情報だけをかき集めていた。ひとつ、この卓は事前に考えていたものとはまったく別のものになっている可能性がある。ひとつ、清澄の原村は薄墨の異能を理解していない可能性がある。この二つともが事実であるとも考えられるし、またその逆も考えられた。確定していたと信じていた情報が音を立てて崩れていくのを見た上での闘牌は、まだ経験豊富とは言えない絹恵にとって精神的にきついものがあった。

 

 最悪の可能性はいくらでも考えられたが、現実的なラインでそれらの真偽を確かめるのには南三局まで待たなければならなかった。再び絹恵の親番になり、また薄墨が北家になる。そこまでいけば絹恵の中にあるいくつかの疑念を晴らせる公算が高くなる。それまではあれこれ考えたところで結論が出ないことはわかっているのだから、徹底的に無視をして自分のやるべきことに集中しようと絹恵は決めた。

 

 卓を囲んでまだそれほど経過していないが、絹恵としての実感は、もちろん北家時の薄墨は別にしてということだが、飛び抜けたプレイヤーはいないというものであった。状況が大きく動くはずのところで動かなかったというイレギュラーはあったものの、そこを除けば事前の調査通りと言ってもいいくらいの感触である。実際に蓋を開けてみれば、取ったり取られたりで点数はあまり動かなかった。絹恵からすれば御の字といったところだろう。

 

 

 それまでに大きな和了りがなかったことも原因のひとつなのだろう、南三局はすぐにやってきたように感じられた。絹恵自身はとくに戦法を変えるつもりはなかったが、やるべきことは明白だった。親番を消費してでも疑念を晴らすことだ。あるいはそれが悪い方に転んだことを受け入れることになるかもしれない。どのみちよくわからないものを相手に後半戦を戦うよりは、凶悪であるというものであってもきちんとした認識を持ったほうがいくぶん戦いやすい。必要なのは事態の解明ではなく現状を受け入れること。それを絹恵は頭の中で復唱して局に臨んだ。

 

 おあつらえ向きに絹恵の手には東が一枚だけ浮いたように混じっていた。自身にとっての風牌であるにもかかわらず、その牌は切られることを欲するようにまったく繋がりを感じさせない孤独な牌に見えた。普段はこのように感じられることなどないから、あるいはそこに何かが影響していたのかもしれない。本来であればそんな奇妙な牌を捨てるのには警戒が必要だが、今回だけはむしろ先手を打って捨てなければならなかった。現状がどうなっているのかを確認するために。ひいては今の点差をキープするために。

 

 絹恵の捨てた東を、待ってましたとばかりに食い取った薄墨は満足そうな表情を浮かべている。それもそうだろう、四喜和を和了るための一段目のステップを早い段階で上がったのだから。もう一段目が重たいことは彼女自身も認識してはいるだろう。だがこの場にはそれを理解していない可能性を持つ者がひとりいる。期待を寄せるには十分すぎる条件だ。絹恵の東を捨てるというアクションは、外から見れば自ら罠に飛び込むような愚かしいものに見えたかもしれない。だがそれらのことは常に結果で語られるべきだ。絹恵の内心を知らない観客たちであってさえも、彼女を責めるにはまだ早すぎた。

 

 もし原村が北を掴んだ、あるいは配牌に持っていたとしたら、それが出てくるのは早いだろうと推測された。彼女の打ち方は非常に合理的だ。受けの広さから欲しい牌の残り枚数までをきちんと考察した上での取捨選択を徹底的なまでに行っている。だが反面、その合理性に信頼を寄せ過ぎている部分が見て取れた。あらゆる可能性の中で、確率は優先順位を決定しない。高い確率が低い確率に負けることなど、たとえば彼女たち雀士であるならばいくらでも経験しているはずのことである。しかしだからといって何が正しいかと問うたところで返事はない。ある意味で言えば、原村のスタイルが最強であることは誰にも否定できないことでもある。

 

 そして五巡目、眉ひとつ動かさずに原村が自摸ってそのまま捨てた牌は北だった。もはや決定的だった。彼女は薄墨の異能について知らない、あるいは知っていたとしても考慮に入れないのだ。それこそ合理的に考えれば薄墨にその二つを鳴かせることがどれだけ不利かわかるのだからおそらく前者なのだろうが、今はそんなことを考えている場合ではない。見方によっては絹恵が招いたとも取れるこの事態は、実際のところ姫松にとってもっとも避けたい状況である。清澄か宮守に直撃すれば被害はないが、それを期待するには役満という武器はあまりにも見え透いている。ぶつからないように避けるのが当然の判断なのだ。

 

 しかし絹恵にとってはここからが問題であった。東三局で不発だった薄墨の四喜和に原因は存在するのか、ということが喫緊のテーマであるからだ。ただの不調ならば流すこともできるが、仮に別の原因があったとしたらまた別の覚悟が必要になるかもしれない。異能を有していない絹恵でさえ感じ取れた圧力を消せるほどの何かがもしあるのならば、それは相当にマズいものである可能性が高い。短絡的に考えるならばその持ち主は臼沢だろう。あの局でやけに疲労していたことが妙に引っかかる。あくまで想像に過ぎないが、もしそれが事実だった場合、彼女は恭子と郁乃と拳児の目さえ誤魔化して実力を隠し通したとんでもないプレイヤーであることでさえあり得ない話ではなくなる。必要以上に相手を上に見てしまうことは避けるべきことであると絹恵は理解していたが、それを実践できるかどうかとはまた話が違っていた。

 

 

 強まり続ける薄墨の圧力が、もはや限界近くまで膨れ上がったその瞬間だった。ふと気が付くと先ほどまでの息苦しさが嘘のように消え去っていて、知らず知らずのうちにこわばっていた全身の筋肉が元通りになっていた。そして同時に、この座っている状態からでは考えられないほどに息を切らせた臼沢の姿が絹恵の目に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 






色々気になる方のためのカンタン点数推移


         副将戦開始    前半戦終了

原村 和   →  八九九〇〇 →   八七八〇〇

薄墨 初美  →  八〇四〇〇 →   八四一〇〇

愛宕 絹恵  → 一四〇三〇〇 →  一三五六〇〇

臼沢 塞   →  八九四〇〇 →   九二五〇〇

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