姫松高校麻雀部監督代行播磨拳児   作:箱女

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27 二回戦⑤

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 ( これはもう偶然とはちゃうやんな、永水の不調とかそんなんやない )

 

 新しい山が卓に上がってくるのを待ちながら、絹恵は晴れた疑念にほっとするやら気を引き締めるやら何とも落ち着かない心をどうにかしようとしていた。異能を叩き伏せることができるのは、それを超えた何かだけだ。それが異能なのか技術なのか強運なのかは別にしてだが、少なくとも絹恵はそう学んできている。薄墨の有している異能は状況が北家に座っている時に限定されるため、その強度もかなりのものだったが、それを封じるプレイヤーがこの卓にはついている。まだ表面化はしていないが、おそらくそれは強靭なものに違いない。百人に聞けば百人がたどり着くであろう結論だった。

 

 前半戦のオーラスを、これでは不満だと言いたげに薄墨がさっさと和了って終わらせた。そこを見ても彼女が封じられているのは異能だけらしいことが見て取れた。キーとなるはずだった局でなければ薄墨も普通に点数を稼いでいる。さすがは二年連続で出場しているポイントゲッターといったところだろうか。

 

 一礼だけは欠かすことなく足早に席を立った薄墨ではあるが、それでも永水女子の得点自体は伸びている。もしこれで彼女の思う通りに暴れられていたら、目も当てられないような惨状になっていただろうことは想像に難くない。その点だけでいえば絹恵は宮守の臼沢に感謝していた。ただ、現状おそらく薄墨を封じているのが彼女であると思われる以上、後半戦でもっとも警戒するべき対象になりはしたが。ひどく疲れた様子で対局場を後にする彼女を横目で見ながら、絹恵も廊下へと出ることにした。わずかでも気持ちの切り替えと気合の入れ直しをしておきたかったからだ。

 

 

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 誰もいない無骨な廊下の壁に寄りかかって、ひとり絹恵は考える。

 

 ( 巫女の能力を封殺しといて仕掛けへんかったのは理由でもあるんやろか……? )

 

 あまりにピースが足りないためどうしたって結論が出ないのはわかっているが、どうしても頭を働かせずにはいられなかった。事前の恭子との話し合いでも、宮守の副将は永水に比べればラクな相手であるとの結論は出ている。だがたとえば清澄の先鋒がそうだったように場の進行度で調子が変動する可能性はある。なぜそれを初戦では見せなかったのか、などと考えたところで絹恵は頭を振ってそれらの考えを追い払った。思考の迷宮に入ってはいけない。複雑な思考はそれを使いこなせる者だけを有利にするものだ。いま絹恵はシンプルでなければならない。点数を守って、できれば増やす。必要なのは手段ではなく、目的だ。

 

 たった一人の廊下は心細いような気もしたが、絹恵はもう一度頭を振って考え直すことにした。自身がチームの代表の一人としてここにいることを思い出し、心を奮い立たせる。チームとして勝利するために必要とされているのだから、やらねばならないことははっきりと存在しているのだ。それは今のところは及第点を出せる水準で推移している。

 

 二回戦以降は二位以上が勝ち上がりというルールの性質上、勝ち上がりのための安全ラインというものが存在する。十二万点以上あればまず二位以上は間違いないと言っていいだろう。意外と低いところにラインが設定されていると思われるかもしれないが、結局のところは全チームの点数を合計した四十万点のなかでどれだけの割合を占められるかというのが勝負のポイントである。仮に十二万点を保持した状態で二位の場合、一位は少なくとも十二万点以上を保持しているのが確定しているのだから、一位と二位で二十四万点以上を取っていることが決まる。となれば逆転するためには三位と四位が残りの十六万点を奪い合うなかで十二万点を取らなければならない。このことがどれだけ困難であるかはイメージしやすいだろう。もちろんそれがあり得ないと断言はできない。また実際にはその場での点のやり取りがあるため一位が三位に落ちるなどといった事態もあり得るので単純に言い切ることはできないが、それでも決まった点数の食い合いと考えると、比較的だが団体戦の構図が見えやすくなるのである。

 

 そして現時点で姫松高校は、副将戦開始直後からは少し落としてしまったものの、十三万点以上をキープしている。これを保てばどうあっても負けない点数である。だからこそ絹恵は気合を入れる必要があった。ここを守り切りさえすれば準決勝はすぐそこだ。

 

 

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 後半戦は清澄の原村、宮守の臼沢の二人がひたすら点を伸ばす展開となった。薄墨は前半戦で持ち味を活かせなかったことが影響したのかまるで元気がなく、甘いと言われても仕方のないような振込みも散見された。一方で絹恵は見えないなにかに怯えて出足が鈍っているようだった。必死に考えまいとしたことが頭を支配して、こちらもまた普段とはまったく違う弱腰のプレイングになってしまっていた。どちらもまだ高校生という点を考慮すれば責めるのは酷というものだろう。

 

 一方で調子の良かった二人は精神状態がまるで違っていた。かたやただ自分の合理性を貫いて打っているだけの原村と、かたやおそらく薄墨を封じている臼沢だ。精神的に優位に立っているのは間違いない。あれよあれよと言う間に点棒を奪い去り、南場に入るころには副将戦開始時に両校ともに九万点にさえ届いていなかった得点を十万点台に乗せてさえいた。当然、割を食ったのは薄墨と絹恵である。このとき永水女子はおよそ七万点、姫松は未だトップとはいえ十二万点を切るほどに削られてしまっていた。

 

 

 薄墨がもうひとつ手痛い一撃を受けての南三局。つまり絹恵の親番かつ薄墨の北家の場面である。この時点で絹恵は、もはや薄墨を警戒する意味などなく、どうにかして他を突き放さなければならないと考えていた。この思考を間違っているとまではさすがに言えないだろう。だいぶ削られてしまったが、それでもトップでバトンを回すことはまだ十分にできるからだ。この試合における絹恵の最大の失点は、敵である他家のプレイヤーに信頼を寄せ過ぎてしまったところにある。

 

 早い段階で薄墨が北と東を鳴くまでは予定調和となりつつあった。そしてそれを臼沢が何らかの方法で封じて、それからはおかしなところのない麻雀へと戻る。この流れは完成されたものであるはずだった。少なくとも絹恵にとっては。臼沢の立ち位置のことなど考慮に入れていなかった。

 

 薄墨は彼女の疲労に気付いていたのだろう。そしてそれが異能が発動しないことに何らかのかたちで関わっているだろうことも。だからこそ彼女は攻めに出た。下手を打てば破滅が待っていることを知ってなお、誇りと勝利のために大きな賭けを打つことにした。絹恵はそれに巻き込まれていることに気が付かず、失った点をどうにかしようと考えていたからこそ抗うことができなかった。薄墨が親である絹恵に当たり牌を差し込んできたのである。もちろん薄墨にとっては痛手に違いないし、絹恵にとっては棚から牡丹餅の出来事である。しかしわざと差し込んだのだから、そこにはもちろん裏がある。彼女の狙いは家を動かさないことだ。もう一度北家で役満を狙うことだ。

 

 点数で見れば圧倒的に最下位を走る少女がトップ目の親に差し込んだのを見て、臼沢は疲れ切った顔の中にうっすらと笑みを浮かべた。あまりにも疲労の色が濃すぎてこれ以上は余計なことができないような印象を受けるが、彼女の表情はむしろ渾身の策がはまったとでも言わんばかりのものだ。顔自体は下へと向けられていたため、卓についている誰もその表情を確かめることはできなかったが。

 

 

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 「これはもう宮守の狙い通りやろなあ」

 

 ソファの肘掛けに頬杖をついてどこか不機嫌そうに洋榎が呟いた。恭子も由子もわずかに苦い表情で画面を見つめている。状況としては自チームに点数が入ってきたというのに、である。拳児はてっきり相手のミスで一気にラクになったと思っていたものだから、その言葉と彼女たちの雰囲気に面食らってしまっていた。漫も拳児と同様に理解が及んでいないらしく、眉根を寄せて不思議そうな顔をしていた。

 

 「え、どういうことです?」

 

 わからないときには素直に聞けるのが漫の美徳のひとつだろう。拳児も尋ねようと考えていたのだが、一歩遅れてしまった。誤解を晴らせないことを多少は残念に思ったが、最低でもこのインハイの間はその誤解をキープしなければならないことを思い出して拳児はひとり息をついていた。

 

 「んー、仮にあの宮守のが他人の異能を封じるものとするやろ? 仮に、な」

 

 「永水の巫女が北家で和了れへんのはそれいうことですね」

 

 いつもならばこういう説明は恭子が行っているものだが、なんと珍しいことに今回は洋榎が請け負うようだった。正直なところを言えば、漫も拳児も洋榎による麻雀の解説を聞いたことがない。基本的には近くに恭子や由子、あるいは郁乃がいたものだから、彼女たちがその役割を果たしてしまっていたのである。麻雀の腕やスタイルを別にすればあまり精密な論理を考えている印象を受けないということで、拳児は彼女が解説を始めたことに多少の不安を感じていた。

 

 「さ、漫。ここまでの局での情報で宮守について考えなあかんことはなんや?」

 

 「え? え?」

 

 いきなり出された大雑把とも取れる質問に漫は答えられない。

 

 「解答権はきょーこに移ります」

 

 「異能を封じられると仮定した場合、それが任意かどうか、ですね」

 

 急に話題を振られたにもかかわらず、恭子は何でもないように答えを返した。これについては彼女の頭の回転の速さも褒められるべき点ではあるが、突然に話題を振られることに慣れてしまっているという立ち位置のせいもある。無論それを三年間鍛え続けたのは愛宕洋榎に他ならない。

 

 「さて漫、この状況下ではどちらで考えるべきや?」

 

 「えーと、任意でできると考えたほうが良い思います」

 

 「ピンポンピンポン大正解! 賞品として晩御飯のおかずを播磨から一品贈呈や」

 

 話を聞いていただけで会話に参加していない拳児は抗議の声を上げることすら許されていない。なんだか知らないが件の正解者はこれ見よがしにガッツポーズなぞ決めている。拳児は彼女たちにその辺の遠慮がないことなどとうに知っている。伊達に四ヶ月ほど同じ部活で過ごしていない。

 

 しかし今のクイズだけでは臼沢の目論見とやらがまるで見えてこない。おかずについては早々に諦めた拳児はひとりでそちらに思考を飛ばしていた。つまり彼女は異能を封じる封じないを選択することができるという前提で考えなければならないのだが、その前提が何を導くかが拳児にはさっぱりわからなかった。封じないという選択をすれば結局のところ役満で和了られる危険性が高まるだけなのだから選ばないのが当然だろう。そんなことを考えていると、どうやらクイズの続きの話が始まるようだった。

 

 「絹に親を続けさせるために薄墨は差し込んだわけやけど、その意図はカンタンや」

 

 「北家を続けたいいうことですよね?」

 

 「そやな、逆に言うと役満取らんときっつい点差ってことでもある」

 

 絹恵に差し込んだ時点での永水の得点は47200。このまま大将戦に流れればまず勝ち上がりはあり得ないだろう。仮に役満を和了ったところで八万点にも届かないが、和了らなければ話にさえならない状況である。

 

 「ここで宮守の、臼沢やったっけ? の腹案が実現可能になるわけや」

 

 「あ、やっと出てきましたね」

 

 「 “いま永水に役満を和了られても怖くないのだから、他を引き摺り下ろしてもらおう” 」

 

 「……へ?」

 

 「ウチでも清澄でも直撃なら万々歳っちゅうことや、宮守からしたらな」

 

 点差で考えれば通る理屈である。姫松と清澄のどちらでも直撃すれば自動的に宮守は二位に上がり、永水はまだ点差のある最下位となる。仮に自摸だったとしてもトップ目である姫松が親被りなのだから、場は多少なりとも平らになる。臼沢自身が振り込むようなことさえしなければ、どちらに転んでも問題はないのだ。

 

 「……うわ、ホンマや。めっちゃエグい」

 

 「ま、団体戦ならではの他家の利用の仕方やな」

 

 説明を終えると同時に、洋榎は鼻を鳴らして視線を画面へと戻した。つまるところ姫松にとって分の悪い状況へと持っていかれたということなのだ。苦い表情で画面を見ていた三年生の三人は、これを即座に見抜いていたということでもある。実戦に身を置きながらその策を構築した臼沢もそうだが、どうやら拳児とはまったくレベルの違う世界で彼女たちは戦っているらしい。今更ながら姫松を訪れた初日で恭子に言われた名門であるという事実を、拳児はその身に感じていた。

 

 ずば抜けた才能をこそ認めてはいるものの、そういった頭の回転は自身とそう変わらないと思っていた洋榎の解説がかなりわかりやすかったことに驚いた拳児が、このあと彼女にその事実をそのまま告げて一悶着起きるのだが、それはまた別の話である。

 

 

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 「……あまり見せたくはなかったんですけどねー」

 

 小声でそう呟いた薄墨は、槓を宣言して自身の手から北を四枚倒して晒した。ルールに則り二枚を裏返しにして隅へと押しやる。状況としては八巡目、既に彼女は東を鳴いている状態だった。

 

 ( うわ、自分から晒すのもアリなんか。でも…… )

 

 絹恵の思考を読み取るのはそう難しいことではないだろう。なぜなら彼女は決して味方ではない臼沢を信頼してしまっているからだ。味方ではない存在を信頼する条件はただ一つ、利害が完全に一致することだ。しかし絹恵は、姫松と宮守の利害が完全には一致していないことに気付くことができなかった。役満を和了られることはお互いに不利益であると信じ込んでしまっていた。

 

 四度繰り返されてきた強烈なプレッシャーが、またしても卓を支配してゆく。それは巡目が進むごとにその圧を増して、否が応でも恐怖を呼び起こす。そうそう簡単に慣れることのできない類のものだ。だがそれはこの卓においては一定の強さに達するたびに霧散してきた。臼沢塞がそうすることを選んできたからだ。

 

 消滅するはずであったものが、いや、消滅しなければならなかったものがまだそこにある。これまでよりもはっきりと強く、そして明らかな危険性を伴って。絹恵はとっさに臼沢の方を確認するが、彼女は汗をにじませたまま口の端を上げて呼吸を続けているだけだった。先ほどまで見られた疲労に沈む姿はそこにはない。もし彼女が体力と引き換えに薄墨の異能を封じていたとすれば、つまり今は封じていないということである。その選択肢を初めから捨てていた絹恵は一気に青ざめた。この局はオリて逃げる以外にあり得ない。この時点で既に勝負は決していたと言っていいだろう。あとは被害の向きだけが問題だった。

 

 

 「はい、自摸ですよー。小四喜、8000・16000に一本付けですー」

 

 やっと望んだとおりの役で和了れたことに満足しているのか、薄墨は機嫌が良さそうに見えた。普段の絹恵なら永水とそれ以外の点差を見て疑問を持てたのだろうが、今はまさしくそんなことを考える余裕がなかった。親被りで役満を食らったこともそうだし、迫りつつあった清澄と宮守により接近を許してしまったこともある。ただ彼女にとって何よりも辛かったのが、姉の作ったリードをかなり吐き出してしまったという事実だった。

 

 オーラスについてほとんど絹恵は覚えていないが、後に確認したところ、どうやら全員がノーテンで終わったらしい。はっきりと意識を取り戻したのは対局室から出て少し歩いた廊下の途中で、絹恵はそこで深くため息をついた。

 

 

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 それは二回戦の前日の夜のことである。

 

 腕を組んで神経質そうに指で自分の腕を叩きながら恭子は唸っていた。部屋には郁乃と拳児も含めた全員が揃っているが、恭子の近くにいるのは拳児のみである。他の部員たちはもう明日の対戦相手の情報を頭に叩き込んで、恭子の助言を受けて自分なりの対策を練っているところだ。彼女が必死に頭を働かせているのは残った最後のひとり、大将である自身のためであった。しかし基本的に情報を統括する立場にある恭子が自身の対戦相手について頭を悩ませるにはいささかタイミングが遅いと言わざるを得ない。情報を最初に入れるのだから、最初に対策を練る行為が終わっているのが自然と考えるべきだろう。

 

 そのきっかけを作ったのが他の誰でもない、拳児であった。拳児は恭子が戦術について各ポジションに話をして回る際にひたすら彼女の後をついて回った。なぜなら誰かのところに落ち着いてそれらの相談を受けた場合、拳児には何も答えることができないからだ。別にそれならそれで誤解が晴らせるのではないか、と思われるかもしれないが、大会中にそれはいけないと郁乃からの厳命が下っている。麻雀は他の競技と同様、あるいはそれ以上にメンタル面が表に出やすい競技である。である以上、そこにマイナスの影響を及ぼしかねない事象は避けるべきなのが当然であって例外はない。拳児からしても姫松の優勝が至上命題であって、たしかにそこに反論する余地はなかった。

 

 そして恭子が全員に対して戦術の話を終えてひと息入れたとき、拳児が声をかけた。

 

 「オウ、末原。オメー自分の相手は大丈夫なんだろーな?」

 

 不意に投げかけられた言葉に、恭子は訝しげな視線を返す。これまで先鋒の漫から副将の絹恵まで話をしてきたなかで、拳児が首を突っ込んできたことはない。つまり彼女たちの相手には問題がないが、恭子の相手には問題があるということだ。それを忠告してもらえるのは実に結構なことだが、その実シャレになっていない。拳児の眼力の精確性を考えればため息さえつきたくなるほどである。

 

 「なんや急に。あん中でヤバいんは清澄やろ、あとはリードさえあれば逃げ切れるわ」

 

 「ンだ、まだ気付いてなかったのかよ、永水も宮守も抜いて打ってんぞ」

 

 言われるであろう言葉におそらく見当をつけてはいたのだろう。それほどショックを受けてはいないようだったが、いかにも面倒なことになりそうだ、という風に額に手をやっている。たしかに可能性としてはない話ではないのだ。団体戦の最後を締める大将というポジションには当然大きな役割がある。姫松の場合であれば、それはリードをきちんと守り抜いて勝ち切るというものだが、他校であれば話は変わってくる。大将一人でひっくり返すことを戦術の選択肢として入れている場合があるのだ。その中でもさらに厄介なのがポイントゲッターが他にいる場合である。例としては永水女子がもっともわかりやすい。薄墨が稼げば大将は守るだけでいい。もし薄墨が稼げなければ大将で勝ち切る。これの利点はそのポイントゲッターが優秀であればあるほど、大将を隠して温存することが可能な点である。トーナメント方式を戦い抜くという意味において優秀な戦法であることは間違いないため文句を言うのはお門違いだが、恭子は文句のひとつも言いたくて仕方がなかった。拳児の言葉を信じるならば、二回戦の恭子の相手は、全員が一人で試合をひっくり返せる実力を持っているということに他ならないからだ。

 

 「……どんぐらいや」

 

 「あ?」

 

 「その二人は何パーセントくらい抜いて打っとる?」

 

 「んなことまで俺が知るか。わかってんのはまだ本気で打ってねえってことだけだ」

 

 ショックのやり場を見つけることができずに、結局は拳児への視線にそれを乗せた恭子の問いに返されたのは無碍と言ってもいい回答だった。もし拳児がそれらのことを見抜くことができたとすれば、それだけで高校麻雀はおろかプロの世界までも巻き込んで大騒動になる。そう考えれば恭子の質問も理不尽と言えば理不尽なものである。

 

 恭子の心情としてはわずかに複雑なものがある。事前に心の準備ができることはありがたいのだが、お前の相手は全員が強敵だと言われて喜ぶような気質はしていない。口にしたところで変わるわけではないし、また実際に違うのだが、優勝のためにはハードルが低いほうがいいに決まっている。そんな思いからか、またひとつ質問が恭子の口からこぼれた。

 

 「異能は?」

 

 「専門外だ。他を当たんな」

 

 それを聞いた恭子は、深く長いため息をつきながら頭をゆっくりと振った。次に顔を上げた瞬間には彼女の表情はいつも通りのものに戻っており、それは拳児を少しだけ驚かせた。どうやら目の前の少女にも、まだ拳児の知らない領域が存在しているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 







色々気になる方のためのカンタン点数推移


         後半戦開始   後半戦終了

原村 和   →  八七八〇〇 → 一〇九四〇〇

薄墨 初美  →  八四一〇〇 →  七九五〇〇

愛宕 絹恵  → 一三五六〇〇 → 一一五三〇〇

臼沢 塞   →  九二五〇〇 →  九五八〇〇

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