姫松高校麻雀部監督代行播磨拳児   作:箱女

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35 3月のキミと8月の部員ども

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 後半戦に入って再び東場がやってきた片岡であっても、もう智葉と漫の領域にはやすやすと踏み込むことはできなかった。片岡のような早く打点の高いストロングスタイルは、技術ではなく力で圧倒する性質のため、それ以上の力にぶつかったときに跳ね返せるものを持たない。本来であればそれを避けるために打ち回しなどの技術を身につけていくものなのだが、どういうわけか彼女にはその過程が存在していないようであった。それらのものを持たずにこのインターハイを戦い抜いてきたことは素直に称賛に値するが、やはりそこには限界があった。結果として後半の東場で彼女が和了ることができたのはたったの一回であり、それは片岡にとって、あるいは清澄にとって痛恨であったと言えるだろう。

 

 

 ( これで最後の親やし、ここで一気に詰める! )

 

 後半戦は南二局、点数状況は圧倒的に臨海女子が優勢であり、次いで姫松、清澄、有珠山と一校ごとの得点差がずいぶんと開いているものであった。トップを走る臨海女子は既に原点から五万点ものプラスを稼ぎ出している。漫が理解している通り、自身の親番で追いつかなければ智葉を超えることはできないだろう。前半戦で真正面から打ち合って水をあけられた後であるこの時点においても、漫はまだ戦意を失ってはいなかった。勝利への意志を捨て去ることを選ばなかった。最終的にこのことは姫松というチームにおいて何よりも重要なことになるのだが、まだこの時にはそのことに気付いている者は誰一人としていなかった。それは彼女を先鋒に選んだ拳児と郁乃の考えにすらなかったことだったのだから。

 

 漫の手は変わることなく高い打点を予感させるものであった。これは仮定の話だが、もし彼女が智葉を上回って和了を続けたとすれば既に準決勝そのものに決着がついてしまいかねないほどに漫の手は凶悪であり続けた。十万点を二半荘で吹き飛ばしてしまうような炸薬。見方によってはトップの智葉がこの卓を通常の麻雀の範疇に収めていると見ることもできるかもしれない。満貫以上を珍しくないとするような卓を通常と呼ぶなら、という前提を飲み込んだ上での話ではあるが。

 

 ざっと配牌を眺めるとドラである九筒が既に二つ揃っており、これで漫は余計な心配をすることなく面子作りに集中することができる。上手く転がればもう一枚引いてきてドラの刻子なんてこともあるかもしれない。一般的な麻雀ではそのような機会はそれほど多いものではないが、ことここに至っては話が別であることは言うまでもないことだろう。漫は最初の自摸からそれを期待していたが、さすがにその希望は通らないようだった。ただ、そこに彼女が落ち込む要素は何一つとしてない。鳴きをある程度の水準で使うようになった彼女にとって、自身の自摸ももちろん大事だが、重要なのは他家の捨てる牌だった。それが自分にとって有用かどうかをしっかりと見極めなければならない。まさか下手に鳴いて役無しなんてことを今更やるわけにもいかないだろう。そういった意味で漫の状態は、調子においても精神的な意味においても完全に整っていると表現するに相応しかった。

 

 

 局が動いたのは三巡目からだった。どう考えても仕掛けるには無謀と言わざるを得ないような、早い段階でのことである。しかしその感覚が麻痺してしまうほどにこの卓での一局の決着は早かった。半荘において流局がないのは間々あることではあるが、そのすべてが八巡以内に誰かの和了で決まるというのはなかなか見られないものだろう。しかもその誰かというのがほとんど二人に絞られるのだからなおさらである。仕掛けたのはこの先鋒戦で最も多く和了り、最も点数を稼いでいる辻垣内智葉であった。

 

 片岡が捨てた二萬にポンを宣言して智葉は牌を晒した。今は漫、智葉、本内、片岡の順に自摸が回ってくるので、かたちとしては漫の自摸が飛ばされることとなる。麻雀というゲームはそのルール上、基本的に新しい牌を自摸ってこなければ自分の手を進めることができない。もちろんそれは基本的な部分の話には違いなく、鳴きを入れることで自摸ることなく手を進めることも可能ではある。しかし鳴くことで手が狭まってしまったり、ことによっては和了り役すらなくなってしまうこともあるため、理想を言うなら常に自摸で手を伸ばしたいのが本音である。言ってしまえば自摸番が飛ばされるというのはチャンスをまるまる一つ潰されることに等しく、できることなら誰もが避けたい事象のひとつである。

 

 しかしいくら嫌だからといってルールに逆らうわけにもいかず、漫は智葉が牌を河へ捨てるのをただじっと眺めていた。この卓ではまったく何もできていない本内が次に牌を自摸って、局は更に進行していく。

 

 おそらく配牌で言えば漫のものが卓に着いている四人の中で最も良いとされるものだったろう。きちんとドラを抱え込んでもいたし、受けの広さを見れば速度の期待も十分だった。ただそれらの有利と思われる点も、手を進めることができなければ何の意味もないことは明らかである。だからこそ今の漫にとって一度の自摸はどこまでも重要なものだった。鳴くにしてもそれには特定の牌が他家から捨てられなければならないのだから。

 

 また片岡の番が回ってきて、彼女が牌を引く。その特性は自身の力でどうにかできる類のものではないらしく、東場で見られた覇気は見る影もない。せめて堂々と打とうと姿勢や振る舞いに気を遣っている姿はどこかいじらしくさえ見える。そうして彼女の手から離れた西の牌に、またも鳴きを宣言する声がぶつけられた。

 

 確認するまでもない。現在この卓で自由に振る舞えるのは漫と智葉の二人しかいないのだから。河に捨てられた牌は西であり、今の漫にとっては染め手を考えていなければ役に立たないいわゆるオタ風である。となれば漫にその牌を鳴く理由はなく、当然の帰結としてそれは智葉が鳴いたということになる。しかし大きな疑問として残るのは、西は智葉にとってもオタ風であるということだった。もちろん論理としてはまだこの鳴きは成立する。和了り目もまだ十分に残されているし、実際にそういうプレイスタイルも存在はする。だがそれを辻垣内智葉が採るとなると強烈な違和感が残るのだ。彼女がそこまであからさまな鳴きを見せるか、という点において。

 

 一巡前とまったく同じ展開に身動きの取れない漫は、局が進行するのをわずかな焦りと苛立ちを感じながら見守ることしかできなかった。そして片岡がまた山から牌を取ろうと腕を伸ばした瞬間に、途方もなく嫌な予感が漫の脳裏を過ぎった。ここまで二度、まったく同じような流れが目の前で展開されたのだ。()()()()()()()()()。確率で論ずるならば、それはほとんどありえない。だが漫に嫌な予感を与えているのはほとんどそんな概念からは解き放たれているようにさえ思われるプレイヤーだ。彼女ならばそれを実行しても不思議はない。片岡が手牌からひとつ抜き出して河へと捨てる。そして、やはり三度目のポンが宣言された。

 

 他家から見ればこの上なく不気味な行動だった。三つも晒せばいくらなんでも手が割れることに加えて防御面がどうしたってお粗末なものになってしまう。これまで一度たりとも振り込んでいない彼女が無策にそんなことをするとは思えないというのが周囲の判断であったし、またそれは事実でもあった。ただ、その正しい意図まで踏み込めている者は誰もいなかったが。

 

 それからの三巡は先程までとうってかわって実に穏やかなものだった。ただ牌を引いては捨てる作業の繰り返しだった。恐るべきはやはり上重漫だろうか、三度も自摸番を飛ばされてなおその手は倍満を睨むようなものに仕上がっていた。もし彼女の手が智葉に見えていたのなら先の無謀に見える鳴きの連打にも納得がいくのだが、いくら智葉といえども透視のような真似はできない。その本当の狙いは、まったく予想外のかたちで漫の前に姿を現した。

 

 「わ、やっと……! 素敵ですっ、自摸!」

 

 弾かれたように漫が視線を向けたその先で無邪気に和了を喜んでいるのは、有珠山高校の本内であった。あれだけ動いてみせた智葉を差し置いて和了ったとなると、それは相当の事態である。次いで漫が自身の右隣へと目をやると、そこには少しの動揺もないどころかどこか満足そうな表情を浮かべた智葉がいた。強引にしか見えなかったあのポンとそれによって飛ばされた漫の自摸、和了られてなおそれが正着だと言わんばかりの顔。それらの事象は漫にひとつの結論を導かせた。

 

 ( ま、っさか……、うちに和了らせんためだけに……? )

 

 結論ありきの考え方ではあるが、それには漫を戦慄させるだけの凄まじさがあった。それは暗に智葉がかなり早い段階で和了りを放棄していたことを示していたし、それだけ徹底して勝利にこだわっていることを漫に理解させた。これは推測でしかないが、おそらく本内が自摸ってこないようなら彼女は当たり牌を差し込みさえしただろう。たったひとつの目的のためだけに。

 

 そうやって親番を、ひいては智葉を上回るチャンスを失った漫は、その後どうにか彼女の親番を流して先鋒戦を終えた。最終的な結果としては前評判を見事にひっくり返したもので、前半よりも後半のほうが稼げている辺りは試合中に成長したと取ることもできるだろう。しつこいようだが、あの辻垣内智葉を相手にこれだけの結果を残したということに観客たちだけではなく解説の瑞原はやりも賛辞を惜しまなかった。だが周囲の反応と本人の実感は往々にして違っているもので、漫もその例外ではなかった。全力を尽くしてなお届かない圧倒的な壁に、彼女はただただ悔しさだけを募らせた。前半の終わりに満足しかけていた少女はもうそこにはいなかった。しかめっ面で対局場を後にするのは、後半戦というほんのわずかな間だけで視点を一段上げた選手だった。

 

 

―――――

 

 

 

 「おい真瀬」

 

 「わかってるのよー。“郝ちゃんとは真正面からぶつからない” でしょ?」

 

 拳児と由子の会話は基本的に面と向かっては行われない。おおよそ八割ほどは同じ方向を向いて座っているときに、ぽつりと零れるようなかたちで言葉を交わす。そこになにか特別な理由があるわけではないのだが、どういうわけか決まってふたりはそうするのが常となっている。立って話すと身長差があって大変という理由もつけようと思えばつけられるのだが、レギュラー陣は絹恵を除けば背が高いとはお世辞にも言えない。やはり由子だけに使える理由というのはなさそうだ。あえて言うならば、拳児と由子の初めての会話がそんな状況であったからなのかもしれないが、どうせ拳児はそんなことを記憶してはいないだろう。

 

 返事がちょうど欲しかったものだったのか、拳児はそうか、とだけ返してまた黙り込んだ。由子も無理に話題を振る様子は見せない。次鋒戦が始まるまでまだ少しだけ時間がある。ただふたりはじっと座って時間が過ぎるのを待っていた。そうして一分ほど経ったころ、由子が思い出したように口を開いた。

 

 「そういえば漫ちゃんは放っておいていいの?」

 

 先鋒戦を予想以上の戦果で終えた漫の様子は控室にいたメンバーの想像していたものではなかった。もっと明るく帰ってくるものだと誰もが思っていたのだが、彼女の表情はどう見ても悔しくて仕方がないといったものだった。戻ってくるなり隅に陣取って頭を抱えたり前後に小さく体を揺らしたりし始めたその姿は、これまでの彼女を考えると異様としか表現できないものであり、また迂闊に話しかけられないような空気をまとったものだった。突然に何かの自覚が芽生えたのかもしれないが、それをノータイムで理解し受け入れられるほどに人間が出来ているのは郁乃くらいしかいなかった。その郁乃が何も行動を起こさないのだから必然的に漫の一人の時間は隅っこで続くことになる。由子が触れたのはその話だ。

 

 「良くはねえ、が今はオメーの方が優先度が高え。出番前だしな」

 

 「んー、今のはプラス10点?」

 

 「あ? 何がだ?」

 

 「さあ?」

 

 ふふ、と口に手をやりながら楽しそうに笑う由子の心中は拳児にはまるでわからない。以前から似たような、あまり意図のつかめないやり取りがあったりするのだが、拳児はとりあえず良しとすることにしている。それがわからないからといって調子が崩れるということもないようだし、目的である全国制覇が達成できるのなら会話の意図などどうでもいい。最近はずいぶんと監督らしい思考をするようになったが、そういった一途な部分はまだまだ変わることはなさそうだった。

 

 また言葉のない時間が流れる。これはある意味では当然のことだが、現在の立場もあって拳児は部員と話をしていることが多い。というよりは拳児の近くにいる以上は何かしらの用のある部員がほとんどなのであって、それ自体に不思議な要素はない。ただそれは話がなければあまり拳児の近くに寄ることはないという逆の要素を成立させてもいた。いくら三ヶ月四ヶ月経って多少は馴染んだといったところで彼の見た目はチンピラのそれに違いなく、また裏の界隈に関わっていたというほとんど事実として扱われている噂もあるのだから、一般的な女子高生の対応としては妥当もいいところだろう。そんな中で拳児と言葉を交わすことなく隣に座ることができるのが真瀬由子という少女だった。ひょっとしたらクラスの席が隣だからなのかもしれないが、正確なところは誰も知らない。

 

 しばらくして出場校用の館内放送が次鋒の選手に対局時間が近づいたことを知らせた。それでも由子は急に緊張したりといった変化を、少なくとも表面上は見せなかった。彼女は対局室に向かう前に仲間たちから声援を受けて、それに丁寧に応える。状況別に彼女がやるべきことは既に前日に伝えてあり、その判断を失敗するとは拳児には思えなかったため、拳児からあらためて由子に送る言葉は何もない。じゃあ行ってくる、といった軽い挨拶を残した彼女を、部員たちとともに拳児はただ見送った。

 

 

 由子が控室を出たとなると、拳児の急務は沈んだ漫を立ち直らせることになる。郁乃がいまだに着手していないところを見ると、おそらく今回に関しては拳児の方が適任であるという判断なのだろう。拳児は郁乃に対して既にその辺りのことを疑わない程度の信頼は置いている。拳児が非常にピーキーな能力を誇るということを除けば、基本的に姫松高校の麻雀部には彼より有能な人間しかいないからだ。もちろん拳児は自身のその特殊性に気付いてはいないから、現時点においても飾り物の意識を持ち続けている。その意識と監督としての意識の兼ね合いが意外と複雑なことになっているのだが、彼について心配する必要はないだろう。

 

 まだ漫の変化による精神的動揺は広がってはいないが、放っておけばどうなるかはわからない。とくにこの中では大会経験の少ない絹恵に大きな影響が出る可能性がある。いつか拳児が誰かからそれとなく聞いた話では、拳児が監督として来る直前の春季大会で活躍できなかったことを絹恵は悔いているのだという。それも併せて考えれば、いつ彼女が過剰に神経質になってしまってもおかしくはない。姫松の部員たちが実力を発揮しきれないというのは拳児にとっても避けるべきことである。なぜならそのぶんだけ優勝が遠のくのだから。もちろん決勝に向けて今しがた試合を終えたばかりの漫にも立ち直ってもらう必要がある。拳児は座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり、漫のいる控室の隅の方へと歩き出した。

 

 「おう、上重」

 

 「あ、播磨先輩。どうしました?」

 

 細かい気配りなど考えない拳児は、座っている漫と視線の高さを合わせることもなく立ったまま声をかける。立ち姿は仁王立ちとでも言いたくなるようなもので、漫などの一部の例外を除けば萎縮してしまうような状況を作り出している。間違っても褒められたものではない。

 

 「オメーの気持ちもわかるぜ、人にゃどうしても勝ちてえ時があるもんだ」

 

 前置きのない特殊な話法は、余計なものを間に挟まないからブレることがない。また聞き手側も話を取り違えることが少ない。そのぶん置いていかれたり呆気にとられるようなパターンが見受けられるが。ちなみに姫松の部員たちは拳児のこの話し方に慣れてきているため、そのような反応を示すことはもうない。拳児は漫の返答を待たずに話を続ける。

 

 「仮にオメーが辻垣内のヤツに勝ちてえとして、だ。何が必要かわかるか?」

 

 拳児の声はいつもと変わらず野太いもので、また彼が問いかける機会などこれまでほとんどなかったものだから、ひどく重要な感じを漫に与えた。漫はわずかな間だけ視線を外して考え込み、確認するように拳児の問いに答える。

 

 「やっぱり実力やと思います。……経験とかもなんもかんも含めて」

 

 「そんなこったろうと思ったぜ。まあ、まるっきり間違ってるってわけでもねーがな」

 

 「へ?」

 

 もともとインターハイの団体戦用に作られたわけではない控室は意外と広く、五人やそこらではかなりスペースが余る。そんな空間の隅に室内中の、とはいっても由子を除いた三人と郁乃のものであるが、注目が集まっているのは、何を言い出すかわからないところのある拳児の発言を聞き逃すまいとしているからであった。これが矢神高校であれば面白さのウエイトが大きいのだが、姫松高校においては立場と経緯とのせいもあって真剣な興味の比重が大きくなっていた。去年の拳児のクラスメイトならばまず誰も信じないだろう事態である。

 

 「まず機会がなきゃハナシになんねーだろが。実力? んなモン後だ、後」

 

 「えっ、いや、たしかにそーですけど……」

 

 「いーやオメーは全ッ然機会の重要性を理解してねえ」

 

 即座に飛んできた否定の言葉に漫は目をぱちくりさせる。どこからその妙な説得力が来るのかはわからないが、これまでの彼の言葉に比べて力があるのはどうしても認めざるを得なかった。不思議なことに、それはわずかに郷愁、あるいは後悔のような匂いがした。ふと拳児の間違った過去について彼女たちは思いを馳せる。

 

 「いいか、手が届くところにソイツがいるのがどんだけ有難えかをまずは知れ」

 

 

―――――

 

 

 

 「こうして姫松と競い合えることを、とても光栄に思います」

 

 「ふふ、郝ちゃんからそう言われるとなんだか身構えたくなっちゃうのよー」

 

 どこまでも穏やかな表情で声をかけてきた郝に対し、こちらも負けないくらいに穏やかに由子が返す。対局室にはまだ清澄の次鋒が来ていないため、席決めは始まっていない。由子と郝が話している横で有珠山の桧森がすこしだけ居心地が悪そうにしている。たしかに初出場校にとってインターハイ常連校同士が親しげに話をしているというのはどこか疎外感を覚えても仕方がないだろう。ましてやこの二校が合同合宿を行っていたことなど当人たちしか知らないことなのだから、余計にその感覚を強くしてしまっているのかもしれない。

 

 「ぜひ身構えてください。死力を尽くしましょう」

 

 「まあ、状況次第ってことで勘弁してほしいのよー」

 

 挑発とも取れる郝のセリフを軽くいなして、由子はまた笑んだ。決勝に上がるのだとすれば再びぶつかる可能性のもっとも高い相手だ、手の内をすべて見せてあげる義理もない。何より臨海女子の面々は誰一人として底が割れていないのだから、わざわざこちらだけ不利になることもないだろう。優勝を見据えるとはそういうことである。もちろん準決勝に残っているようなチームはどこも似たようなことを考えてはいるのだろうが。

 

 音もなく対局室の扉が開いて最後の一人が姿を見せる。先に卓の前で待っていた三人が軽く礼をし、清澄の染谷がそれに礼を返す。つい今しがたまで柔らかい表情だった由子と郝の二人の表情が、いつの間にか見違えるように引き締まったものへと変化している。卓へと向かって歩いてきた染谷を迎え入れて、四人の手が同時に卓上の裏返された四つの牌へと伸びていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




色々気になる方のためのカンタン点数推移


          後半戦開始     先鋒戦終了

片岡 優希  →   八一八〇〇 →   七八九〇〇

上重 漫   →  一〇二〇〇〇 →  一〇四四〇〇

辻垣内 智葉 →  一四一七〇〇 →  一四五五〇〇

本内 成香  →   七四五〇〇 →   七一二〇〇

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