姫松高校麻雀部監督代行播磨拳児   作:箱女

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41 嶺の上に花が咲く

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 恭子が先に対局室に入っていた有珠山の獅子原爽を相手に挨拶がてら世間話に興じていると、扉の一つが開いて、あまり見たことのない衣装に身を包んだ少女が入って来た。肩を出すようなチュニックにごくごく丈の短いポンチョのようなものを合わせている。事前の調査でわかっているが、ネリー・ヴィルサラーゼはグルジアの出身だ。それを考えれば民族衣装なのかもしれないと恭子は思ったが、さすがにそこまでは調べていなかったために断言はできなかった。もしかしたらただの奇抜なファッションなのかもしれない。

 

 その奇妙な少女が恭子を見つけるなり駆け寄ってきて、いきなりぷう、と頬を膨らませた。何を原因としているのかまではわからないが、態度を示すだけならこれ以上ないと言いたくなるほどにわかりやすい意思表示である。それまで恭子と雑談していた獅子原もこれには目を丸くしていた。有珠山は臨海女子と二回戦から当たっているが、その時の大将戦ではそんな様子など露とも見せていなかったのである。

 

 「ここでキョーコと打ちたくなかったよ」

 

 「そりゃどーも」

 

 仕草や外見だけの話をするなら可愛らしい以外の評価が思いつかない彼女の真意はつかめない。だから恭子は曖昧な返事をしておいた。ことによると郁乃が言っていたように予想以上に評価されているのかもしれない。仮にそうだとすればネリーは油断をしてくれないことになる。気分は悪くないがあまり歓迎もできない事態だった。思わずため息をつきそうになるが、それはなんとか堪えた。なんだか失礼な気がしたし、それにあまり彼女に対する態度を決定させたくなかった。彼女が恭子のどこを見ているかなどわかったものではない。

 

 つれない恭子の反応ではあったがネリーは意に介していないようだった。ひとしきり恭子の前でふくれっ面を見せた後は合宿の時のように無邪気にちょっかいをかけるようになっていた。相手をしているとつい忘れそうになってしまうが、彼女はあの臨海女子のメンバーの中で大将を任される存在である。対外的な実績を備えている郝でも明華でもダヴァンでもなく。そんなことに思い至って恭子はまたもため息をつきそうになる。まだ姿を見せない清澄に対して、早く席決めしていればこんなことを考えずに済んだのに、という八つ当たりのような思いを抱いたそのときだった。この大将戦での恭子の標的、宮永咲がようやく姿を見せた。

 

 外見はただのおとなしそうな少女だ。ショートヘアに華奢な体つき。平均的な高校一年生よりもわずかに発育が遅れているような気もするが誤差の範囲を出るようなものではない。失礼を承知で言うならば、その外見はどこにでもいそうでさえある。そんな頼りなげな少女がにわかには信じがたい実力を有しており、またそれをこの大将戦で発揮してくるだろうことは疑いようがなかった。そして恭子にとってのキーパーソンはその彼女だった。もはや撃ち落とせない位置にいる臨海女子などどうでもいいとさえ言える状況である。一方で有珠山の獅子原も軽視するには強過ぎるプレイヤーだが、あるいはだからこそ彼女に構っていてはおそらく勝てないだろうことを恭子はどこかで理解していた。

 

 

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 高校生雀士の括りで見れば、たしかに恭子は上から数えた方が断然早い。南大阪の絶対的な雄である姫松の大将なのだからそれは当然のことだ。しかしそれ以上に、彼女と卓を囲んでいる選手たちは異常とも言える実力を備えていた。少なくとも打ち手として一段は劣る恭子が宮永と獅子原を相手に逃げ切るには、素の実力以上のものが必要だった。得点の推移次第にはなるだろうが、ある一局で決定的な罠を張ることになるはずだ。今の恭子にあるのはこれまで培ってきた技術と経験、それと仲間たちが作ってくれたリードだった。彼女はこれからそれらを用いてこの大将戦を戦い抜くことになる。既に恭子には余計なことを考える余裕などなくなっていた。

 

 

 恭子の希望とは裏腹に状況は姫松にとって良くないものになりつつあった。東三局を終えた時点で獅子原に得点で先を行かれていたのである。大将戦が始まってからの連続和了は見事と言うほかなく、有珠山が副将と大将だけで勝ち上がってきたというデータを十分に納得させるものだった。映像での情報と実際に卓を囲んでの彼女の印象にズレはなく、気合を入れた表情というよりは自然体で局に臨むタイプであるらしい。そういった意味では自分のチームの主将とよく似ているな、と恭子は苦笑いを浮かべた。素直な性格をしていてくれればいいが、まず卓上ではあり得ないだろうことを恭子は悟っていた。こういうタイプは普段の性格がどうであれ、麻雀と向かい合う時だけは細かな表情の動きでさえブラフに使ってくるのが相場と決まっている。

 

 事前に覚悟していたことではあったが、彼女たちは本当に強かった。仮に恭子を比較対象として置くならば、彼女たちは三者が三者とも天稟の才を持っているのだから。それは瑞原はやりが中堅戦の直前に指していたものとはまた異なるが、彼女の話を考慮に入れようが入れまいが間違いなく単独で存在しているものだった。恭子は気付かれないように奥歯を噛みしめる。実力差に対してではなく、姫松が二位抜けをするプランにおいて明らかに邪魔になる存在だとはっきりしたからだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()だけはどうしても避けなければならない。恭子には自身の策を成就させるだけの地力が要求されていた。

 

 麻雀とは希望が通りにくい競技であることは周知のことだが、もちろんその反対のことも起こり得る。ツキは姫松を完全に見放したわけではないらしかった。恭子の配牌は軽さと、少なくとも稼ぎと呼べる打点を兼ね備えたものだった。功を焦るのはよくないが、かと言ってこの手をみすみす逃すようではこの卓で生き残るのは難しいだろう。そこまで打点の大きくない和了りが試合を決めることなど珍しいことでもなんでもない。

 

 恭子はその配牌に素直に従うことにした。序盤に細工を仕掛けてそれを成功させることと天秤にかければどちらの確率が高いかは明白である。基本的には策を弄するのは手が悪い時の話なのだ、わざわざアドバンテージを捨ててあげることもないだろう。恭子のその判断に応えるように、無駄自摸がまったくなかったとは言わないが、恭子の手は十分に気分よく進んでいった。ネリーが途中で一鳴き挟んだが、ある程度まで局が進行すると他家が積極的に競ってくるようなことはなくなっていた。どっちつかずの甘い打牌を彼女たちはしない。本当に強いプレイヤーはオリ方を知っている。生半なことはでは直撃など期待できない。結果として東四局は十巡目に恭子が5200を自摸和了った。この面子を相手に和了って点数調整を行えることが判明したのは彼女にとってきわめて大きな収穫だった。

 

 その一方で、当事者たち以外がネリーの鳴きに奇妙な印象を抱いていた。

 

 

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 「ねースミレ、さっきの臨海の鳴き気持ち悪くない?」

 

 最悪でも大将戦までには集合しておけ、と言付けておいたら見事に最悪を実行してきた白糸台の超新星たる大星淡が言葉を投げる。淡が触れたのは末原恭子が和了った東四局でのネリーの鳴きだ。互いの手が見えない卓上ではそれほどおかしなものには映っていないだろうが、観戦している側から見ればたしかに妙な点があった。その表現として “気持ち悪い” が適切かはわからないが。

 

 鳴いた時点での彼女の手は仕上がるどころかオリを選択した後の崩し始めたものであって、鳴くタイミングとしては首を捻りたくなるようなものだった。白糸台高校の部長であり、次鋒を務める弘世菫もほとんど同じような疑問を持ったが、彼女はあえて淡に尋ねてみることにした。

 

 「そうだな、どう気持ち悪かった?」

 

 「えっとねー、自摸番ズラしときゃいーや、って感じだったのと」

 

 そこまでは菫も同意するところだった。あの手順と手番で鳴くならそれ以外には考えられないと思ったほどだ。実際にネリー・ヴィルサラーゼが鳴くことで彼女が掴むはずだった恭子の和了り牌は本人に流れている。本人に流してどうするんだと思わなくもないが、振り込むよりは確実に安く済む。それでもまだ解消されない疑問点があるのだが、菫にはどうしてもそれがわからなかった。オリを選択しているのだから危険牌を掴んだところで出さなければいいだけの話なのだから。だが彼女は現実として鳴きを実行した。そこが菫の解消されない部分であった。しかし淡は彼女の言う気持ち悪い点をもう一つ具体的に指摘できるらしい。麻雀に対する嗅覚だけはとんでもないものを持っている目の前の少女に聞いて正解だったな、と菫は薄く微笑んだ。

 

 「なんか見せつけられてる感じがしたんだよねー、私たちにっていうか、外に?」

 

 菫の優しい笑みはほんの短い間しか継続しなかった。ため息をつきつつ五秒ほど前に思っていたことに即座に訂正を入れる。あの鳴きを外に見せつけるなど鳴きそのものに輪をかけて不可解でしかない。奇妙な何かを感じることに疑いはないが、それが示すものが何なのかがわからないのだから納得のしようがないのだ。しかし彼女には知る由のないことだが、淡の感じ取ったものは予想を遥かに超えて精確であり、それが出場選手を含めた観客に伝わるのはもう少し先のことだった。

 

 

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 「自摸、7700は責任払いです」

 

 「あっは、実際に食らってみるとすごいなこれ」

 

 大明槓からの嶺上開花で振り込んだのと同じダメージを被ったにもかかわらず、獅子原は面白い体験をしたとばかりに笑っていた。少しクセのあるサイドテールにした髪が小刻みに揺れる。満貫近い出費は笑っている場合ではないはずなのだが、そんなことは彼女には関係がないようだった。

 

 その様子に薄気味悪いものを覚えたが、恭子はそれ以上に獅子原に対して感謝の気持ちを抱いていた。宮永咲が嶺上開花に対して度を越した信頼を寄せていることに確信を持てたからだ。彼女はきっと重要な場面や余裕がなくなったとき、嶺上開花に手を伸ばすだろう。異能が割り込まないという意味での一般的な麻雀では槓ですら見る機会がそれほど多くないのだ。槓からしか発生しない珍しい役である嶺上開花を信じがたい確率で和了っているのだから、それを彼女が武器にしていることくらい誰にだって見抜けることだ。しかし恭子にとってはその誰にでも見抜けることが何より大事なことだった。

 

 

 続く局も宮永咲が加槓からの嶺上自摸で満貫を和了った。副将戦に比べれば打点の高い和了りが多く、臨海女子を除けば順位はころころと動いた。現時点で姫松は三位、連続和了で清澄が二位に順位を上げていた。自由自在と見間違えるほどにすいすいと和了った彼女の顔に余裕のようなものは見受けられない。恭子の推測が正しければ、宮永咲は前半戦ではもう和了ることはないだろう。それどころかおそらくは自身の得点を下げにさえくるはずだ。それが彼女を縛るルールなのかはわからないが、データはそれを証明している。だから恭子はいったん宮永から目を離すことにした。もはや最悪の可能性を考慮しながら戦える場ではないのはわかりきっていることですらあった。

 

 山がせり上がってきてそれぞれが配牌のために山を崩して手を作っているときに、恭子はネリーの方へふと視線をやってぎょっとした。対局前とは違っておとなしくしていることにも多少の違和感を覚えてはいたが、今の彼女の目には光が宿っていなかった。平板な目で、なにか大事なものが抜けてしまったような緩慢な動作で山から牌を拾っていく。視線は固定されているわけではなく、他家の手の背やまだ残っている山牌をさまよっているようだった。配牌が終わると先ほどとの差がはっきりとわかるほどに目に光が戻った。恭子でなくとも特別な事象を、異能を警戒したくなるような姿だった。しかし恭子の手牌を確認しても、今のところは何も起きていないようだった。

 

 それまでネリー自身の様子になど意識を回していなかったために、先の平板な目が限定的なものなのか恒常性のあるものなのかの判断が恭子にはつかなかった。少なくとも準決勝以前ではこんな様子は確認されていない。しかしこれまでに見られなかったからといってそれが安全だとは限らない、ということを恭子は二回戦で身を以て体験している。とりあえず恭子はこれまで宮永に回していた警戒のパーセンテージをある程度までネリーに分配することに決めた。タイミングとしては悪くない。可能ならもう一つ二つ和了って有利に進めておきたいと考えていたが、場は恭子の思った通りには進行しなかった。

 

 すいすいと手番が進んでいく。長短のリズムの違いこそあれ、途切れなく打牌が続く。本来ならそれは彼女たちが麻雀に習熟している、という理由ひとつに還元できるはずのものであった。しかし恭子はこの卓にそれ以外の別の要素が紛れ込んでいる気がしてならなかった。彼女は知ってのとおり異能を有しているわけでもないし、特別に勘が優れているわけでもない。だから恭子はそれを盲目的に信じ込むようなことはしないし、だからといって自分の中に生まれた疑念を簡単に捨て去るようなこともしなかった。この、どちらも成立し得るという考え方を持続的に持てることも彼女の強みだった。おそらくこの卓では他家の顔色を窺っても何の情報も得られないだろう。頼れるものは限られていた。

 

 まるで示し合わせたかのように誰も鳴く気配すら見せない。牌がラシャを叩く音だけが残った。河を見ると獅子原のそれはいかにも聴牌が近そうな捨牌だった。宮永に責任払いを食らったときにあれだけ余裕を見せていたのは取り返そうと思えばいつでも取り返せるという自信があったからなのかもしれない。一方でネリーの河を見てみると、ひどく不揃いな印象を受けた。牌の並びそのものは特別に綺麗なわけでも汚いわけでもなく、わずかに乱れが見られる程度だったが、牌の捨てられた順番からはどこかぐちゃぐちゃな印象を受ける。()()()()()

 

 実際のところ結果で語られる傾向の強い麻雀という競技において、牌を捨てる順番に正しいも正しくないも存在しない。そもそも配牌から局ごとに違う上に、プレイヤーごとに牌を捨てる基準など違って当たり前なのだから。ましてや異能という常人には理解の及ばぬ領域に住まう人もある中で、そういった線引きをしようと考えること自体が無意味であろう。そんなことは恭子もわかってはいるが、それでもなおそう思う。良手悪手の判断を飛び越えて、絶対的に正しくない何かがそこにはある。対局が終わって牌譜を確認すればわかるのかもしれないし、あるいは既に控室で郁乃が見当をつけているかもしれない。不自然に過ぎる捨牌が並ぶ河は、やはり不自然なタイミングで途切れた。

 

 「……ん、はい、ツモ。3000・6000だよ」

 

 じゃら、と音を立てて開かれたネリーの手には、やはり強烈な違和感が残った。完成形と局中の打牌がどうしても結びつかないのだ。もちろんどのタイミングでどの牌が手に入ったのかは今この場ではわからない。信じられないような自摸を繰り返した可能性はまだ残る。恭子だけでなく宮永も獅子原もじっと彼女の和了った形を見ているということは、おそらく腑に落ちない何かを感じ取ったのだろう。誰が音頭を取るわけでもなく、全員が一斉に自動卓の中央に牌を流し込んだ。

 

 

 迎えるのは前半戦最後の局。一位を走る臨海女子とその他の差は歴然としていて、もはやそれを埋めるなどという発想すら出てこないくらいだった。その一方で二位以下は混戦と呼ぶには十分に近い点差であり、最下位であっても満貫以上の和了ならば簡単にひっくり返りかねないものだった。現状に対して恭子の頭脳が下した評価はあまり芳しいものではない。このままずるずる行けば手を出すチャンスすらもらえずに敗退する可能性まである。彼女の中での最大のネックは、意外なことに現時点で最下位に沈んでいる有珠山の獅子原であった。

 

 せり上がってくる山牌を確認すると同時に恭子はネリーに視線を送った。今度は意図的に、だ。もしもあの平板な目が彼女のプレイスタイルに影響を及ぼしているのならば、その発動を事前に察知することができる。仮にそうではなかったとしても損になることはないだろう。果たして彼女の目は、明らかに奥行きを失ったあの目であった。

 

 前局が強烈に脳裏に焼き付いているのか、または勝手な思い込みで相手を必要以上に大きく見ているのか、恭子は奇妙な緊張感に包まれていた。理想を言えばここで宮永に重たい一撃を食らわせておきたいものだが、おそらくそれは許してはもらえないだろう。にわかには信じがたいことだが、彼女がきわめて限定的な範囲において点数調整を可能とし、またその時に最も実力を発揮することは紛れもない事実であった。

 

 一様に細く白い手が、四方からゆっくりと伸びて状況を展開していく。まるで花を摘むかのようにたおやかな手つきは、それだけを見れば競争ごとなどとはかけ離れた遊戯をしているかのような錯覚を与える。それはまるで何かの示唆のようだった。

 

 南三局での和了で調子づいたのか、ネリーは得意げに鼻を鳴らして牌を自摸っては河へと捨てていく。河の様子はまたも不自然で、そこから彼女の手格好を想定することはほとんど不可能に等しかった。一方で恭子の手は遅々として進まず、また無理をして和了っても実入りの少なそうな牌姿であった。和了ることが最善には違いないが、その過程で無理をして振り込んでしまえば目も当てられない。点を無駄にできないこの状況では、退くことの戦術的価値が相対的に上がっていた。

 

 「ポン」

 

 あるいはこのまま流局するかもしれない、という考えが恭子の脳裏をかすめた九巡目、恭子の捨てた二索に対してアクションを起こしたのは宮永咲だった。手前に鳴いた牌を晒して、喰い取った代わりに手牌から一枚捨てる。この行為が持つ意味を恭子は知っている。基本的に宮永咲のポンの奥には加槓が控えており、この鳴きはただの準備段階でしかない。なぜなら自前で四枚の牌を揃える暗槓も三枚揃えた上に他家のもう一枚を鳴いて完成する大明槓も、そうそう成立するような簡単なアクションではない。それと比べればそのチャンスを増やすために先に三枚を鳴いておきながら四枚目を持ってきて作る加槓のほうがまだ作りやすいからだ。もちろんそれでも確率で見れば高いとは到底言えるようなものではなく、それを実現している彼女がいかに歪んだ法則の上に立っているかがよくわかる。

 

 ポンすなわち槓、という発想は宮永を相手にするときだけは正しいと言ってもよかったのだが、恭子にとってこの事態は想定からはまったく離れていた。これまでの試合を観る限り、彼女は槓を攻撃面でしか使用していない (同時にそれ以外の利用法があるかどうか恭子には見当もつかない)。それを踏まえて考えるならば、宮永は半荘ごとに約プラス5000のルールを自ら破ることになる。それも勝ち負けが決定的にならない場面においてだ。しかしそれでは彼女が、少なくともこの大将戦で大暴れをしていない理由がつかなくなる。なぜならプラス5000のルールを無視するのなら初めから点数を稼ぐはずだからだ。控えめに言って、恭子は混乱していた。そして彼女が点数調整のために鳴いたのだとすぐには気付けなかった。試合前に確認していた通り、宮永咲は点数調整の天才だった。彼女のポンに対してネリーの眉が小さく反応したことに気付いたのも、また本人だけだった。

 

 「……ツモ。1000・2000で終わりだよ」

 

 

 どこか不満げなネリーの和了宣言で、大将戦の前半戦が終了した。ネリーの河の違和感も宮永のオーラスでのポンも、恭子にはわからないことだらけであった。しかし結果的にネリーは和了り、宮永は三万点返しで見れば±0を達成していた。

 

 

 

 

 

 

 




色々気になる方のためのカンタン点数推移


                大将戦開始     前半戦終了

ネリー・ヴィルサラーゼ →  一四九二〇〇 →  一六一九〇〇

末原 恭子       →   九〇七〇〇 →   八一〇〇〇

獅子原 爽       →   七九九〇〇 →   七一八〇〇

宮永 咲        →   八〇二〇〇 →   八五三〇〇

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