姫松高校麻雀部監督代行播磨拳児   作:箱女

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67 ほんとうの初めまして

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 祭りと言えば血が騒ぐ人種がいる。もちろんそうでない人もいる。しかし大体の場合において、祭りというものは参加してしまえば面白いというのが相場である。大勢の人の中でただ単純に騒ぐという行為がすでに非日常であり、そしてそれが祭りの根幹なのである。姫松高校に通う生徒は直近で体育祭というイベントを経ているためにその辺りの事情の理解度がきわめて高く、また楽しいことは大好きという素直な考え方を持っている。つまるところどこが出所なのかわからないパワーを使って準備に心血を注いでいるのが姫松高校の現状ということだ。

 

 廊下を歩けば段ボールだの布だのが足の踏み場をなくし、試しによその教室を覗いてみればインクのにおいが鼻をつく。いつもなら部活に出ているはずの人間がそこらに残って作業をしている。聞けばクラス内でローテーションを決めて部活を休む日取りを順に回しているらしい。かく言う拳児の所属している麻雀部も水木金土と部を休みにして文化祭の準備に取り組むことが決定しているため、それほどものを言える立場にないのは秘密である。とはいえここまでお膳立てされてしまうと、拳児も選択肢が準備を手伝うか逃げてサボるかのどちらかしかない。いまは用事がある振りをして校内をうろつきながらサボっているが、どうせ近いうちにバレるのは目に見えている。恭子あたりに小言をもらうだろうことを想像して拳児はため息をついた。

 

 

 見つからないためには人の少ないところに行けばいい、と単純に考えた拳児は、頭の中にあった該当箇所を目指して歩き出した。いくら拳児とはいえもう半年もこの学校で過ごしているのだ、そういった場所くらい簡単にアタリをつけられる。ちなみに脱走しない理由はカバンを持って下駄箱まで行けば確実に途中で止められるからだ。

 

 姫松高校の校舎の造りの特徴は、主に二棟に分けられているところにある。正式に名前が付けられているわけではないが、一棟を教室棟、もう一棟を部室棟とほとんどの人が呼んでいる。ちなみに部室棟と呼ばれてはいるものの、理科室などといった特別教室やその準備室など一般授業で使う教室もいくつかあるため、部に所属していない生徒が部室棟とまったく関わらないかと言えばそういうこともない。さて部室棟の一階にはグラウンドや体育館に出る運動部の部室があり、二階からは文科系の部が活動場所として部室を構えている。もちろん吹奏楽部など活動内容の関係で教室棟で活動するなどの例外はあるが。そして多くの部が気を利かせるこの時期は、部室棟にいる人間が少なくなる。拳児が目を付けたのはそこだ。四階の端までいけばおそらくほとんど人など来ないだろうと推測したのだ。

 

 四階の端にあるのは半ば物置になっている教室で、基本的に用のある生徒はいない。あまりにも使われることがないため、教師陣が鍵をかけることすら忘れている始末である。何かを求めてこの教室に来るとすれば、せいぜい一般的ではないものを無くて当たり前の感覚で探しに来るくらいのものだろう。あるいは物置としての利用をしに来ることもあるかもしれない。

 

 そこでなら煩わしい準備の手伝いなどせずに過ごせるだろうと拳児は考えた。多少退屈かもしれないが、面倒ごとにかかずらうよりはだいぶマシだ。それに郁乃から出されている新チームの構想についての宿題もまだ終わっていないことを考えれば、そちらに時間を費やしてもいいかもしれない。姫松に通い始めたころと比べてずいぶんと振る舞いが改善されたように思われているが、やはり要素としての不良の素地はそう簡単に拭い去れるものではないらしい。この学校には拳児がいいところを見せるべき相手がいないのだからもともと張り切る理由もないのだ。

 

 サボる場所へと向かうのに急ぐ必要があるわけもなく、えっちらおっちらと拳児は歩いていた。教室棟にいるあいだはどこもかしこも誰かしらが走っていて、そのたびに忙しい連中だと心の中で憐れんだ。そうして部室棟のほうに入ると途端に生徒の数が減って、まるで別世界のように静かになった。あの夏のインターハイでホールの外に出たときのことにどこか似ているような気がした。とはいえあんなに暑くはないし、セミの声などどこにもない。本当はどこにも共通点などないのかもしれなかった。

 

 四階の端の扉の鍵はやっぱり開いていて、拳児が動かした手の方向に沿って素直に滑った。誰もいなくて、ちょっと埃っぽい匂いがした。おおかた年度末の大掃除にならなければ手を入れてもらえないのだろう。その辺のことをあまり気にしない拳児は後ろ手に戸を適当に閉めて、ずかずかと物置に足を踏み入れた。そしてそこに彼にとって、あるなじみ深いものがあるのに気が付いた。

 

 

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 「ええ? さすがにそれは無いんちゃうん」

 

 「やっぱそう思う? 買いに行くしかないんかな」

 

 「あ、でも “物置” やったらあるんちゃう? うち行ってこよか?」

 

 「ホンマに!? 絹恵ちゃんありがとう! もし無かったら携帯鳴らしてな、買い行くから」

 

 全学年全クラスが文化祭の準備に勤しんでいるのだから、当然ながら絹恵のクラスもその準備で賑わっていた。普段の学校生活でまず使わないだろうものを文化祭で使おうとするというのはよくある話で、絹恵のクラスの出し物でもそういったヘンテコなものが必要となっていた。本当なら普段から使わないものが学校にあるわけがないのだが、そこはそれ “物置” には何があるかわからない。うまくすれば探しているものが見つかる可能性だってあるのである。そういうこともあって、絹恵は四階の端にあるあの教室へと足を運ぶことになった。

 

 

 他クラスの友達や部の仲間達と軽く言葉を交わしながら絹恵は歩いていく。そうして思うのは、全体的に雰囲気が明るいということ。祭りは準備しているときがイチバン楽しいというのもあながち間違いじゃないのかもしれない、と絹恵はそう思う。文化祭自体はそれぞれが好き勝手に楽しむものだが、準備は集団がひとつの方向を向いて団結する。そうやって考えるとそもそも同じ枠組みで考えてはいけないものなのかもしれない。

 

 教室棟と部室棟とのあいだには間仕切りのようなものはないのだが、多くの生徒がここから先は部室棟、という共通の認識を持つ一本の見えない線が存在する。そこをまたぐとたしかに空気の匂いが変わるのだ。決して具体的に説明できるような力のある匂いではなく、たとえるなら季節ごとに変わる空気の感じというのが最も近いだろうか。絹恵はその線を意識することなく踏み越えて、部室棟へと歩を進めた。

 

 不思議なくらいに静かだった。たしかに文化祭の準備中なのだから教室でいろいろと作業をしているのが当たり前なのだが文化部が活動していてもおかしくはないはずだ。なにせ文化部の発表の機会でもあるのだから。一定の時間まではクラスの準備を手伝って、それから部のほうに顔を出すなどといったやり方なのかもしれないが、こうも誰もいないと誰かの作為を疑いたくなってくる。誰か、などといってもそれに当てはまりそうな人物が思い当たらないので、絹恵は思った矢先からそれを却下した。

 

 三階への階段を上がると、ごくごく小さな音が聞こえた気がした。物音、という感じではない。なにか規則性を持った音の連なりだ。いつもなら絶対に気が付かないほどの音量、しかし今この場所は気味が悪いくらいに音が無い。だから遠くでかすかに鳴る音が絹恵の耳に届く。

 

 さらに階段を上がっていくと次第に音がはっきりと聞こえるようになってきた。わずかに残響を残すのは聞き覚えのあるストリングスだ。軽く、どこか牧歌的なイメージを抱きたくなるようなこの音は、アコースティックギターのそれに間違いない。既に四階の廊下を歩き始めた絹恵の耳には音の連なりが輪郭を持って聞こえていた。人生のどこかで聞いたことがあると断言できる曲なのだが、曲名も誰の曲かも出てはこない。わかるのは親しんだ邦楽ではないだろうということだけだ。

 

 できる限り足音を殺して音のするほうへ近づいていく。“物置” のほうから聞こえるのだから仕方がない。やがてなだらかなストリングスに加えて、鼻歌が混じり始めた。否応なく安心したくなるような低い声。どうやら気分はよさそうだ。しかしいったい誰なのだろう。部室棟の様子を見る限りはおそらく部としての活動ではないのに違いない。だとすれば残る可能性は個人ということになるが、個人にしてもこんなところで弾き語りをするかというとそれも首をひねりたくなる。

 

 歩く速度を落としてまで気付かれないようにして、あと三歩で音の出所に届くところまでたどり着いた。もうギターと鼻歌ははっきりと聞こえている。乱暴に閉めたのか戸はすこしだけ開いていて、中にいる人物が戸のほうを向いていなければ覗くことはできそうだ。しかしそれを確かめる手段はない。結局は運任せに覗いてみるしかないのだ。奇妙な緊張が絹恵の胸を支配していた。

 

 

 そっと、戸の隙間に視線を通す。まだ細い直線上には誰の姿もない。ゆっくりと顔の位置をずらして見える範囲を変えていく。教室の奥のほうを向いているのだろう、背面の左半身だけが見えた。ギターネックも見える。もうそこにいる人物が弾き語りをしていることに疑いの余地はない。だんだんと見えてくる後ろ姿に、誰だろう、と思う気持ちと同時に淡い期待と呼べばいいのか予感と呼べばいいのかわからないなにかが、絹恵の頭の隅に小さく浮かんだ。

 

 大きな背中と後ろに流れる黒い髪を見た瞬間に絹恵は身をひっこめた。見間違えるはずがない。なにせ半年間ものあいだ、ほとんど毎日休むことなく見続けてきた後ろ姿だ。この学校の男子全員を連れてきて後ろ向きに並べたところでピンポイントで当てることができるだろう。一目でわかった、播磨拳児がギターを弾きながら鼻歌を口ずさんでいるのだ。

 

 ( えーっ!? 播磨さんなにして、えっ、ギター弾け、うそ、めっちゃええ声してる )

 

 絹恵が混乱するのも無理はなかった。彼女から見れば拳児は元裏プロの麻雀部監督であり、その手腕で姫松をインターハイ優勝へと導いた存在である。しかし、裏返せばそれ以上の情報は皆無と言っていい。せいぜい運動能力がずば抜けているだとか勉強面はつつかれたくないらしいだとかが関の山である。まさか音楽方面に手を伸ばしているなどとは誰も思うまい。しかもギターにしてもアコースティックギターなのだからまるでイメージに合致しない。いま弾いている曲もハードなものではなく優しいメロディだ。まるで小高い丘のような滑らかな音の連なりとチンピラの見た目はそぐわない。誰だって自分の目を、あるいは耳を疑うだろう。

 

 時間にして十秒か二十秒のあいだ、絹恵はそこに立ち尽くしていた。精神的な整理がつかなかったのもあるが、想像の埒外と言ってもいい穏やかなストリングスとそれに乗せられた気のいい声を楽しんでいたのもまた事実であった。そうして気を取り直した瞬間に、誰もいない廊下を脱兎のごとく駆け出した。もうクラスの出し物のための探し物のことなど頭から吹き飛んでいる。とりあえず拳児が弾き語りしていたのを聞いてしまったことを本人に知られないように、一目散に階段を目指した。音を立てないようにしてゆっくり立ち去るなんて選択肢は頭に入っていなかった。早くこの場から去らなければならないとの思いが先行しきっていた。ただどうして逃げる選択肢をノータイムで選んでしまったのかは絹恵自身にもわからなかった。それこそギターなんて弾くんですね、なんて普段のように話しかけてもよさそうなものだというのに。

 

 それは言わば、播磨拳児が播磨拳児でなくなったからだった。

 

 もう少しやわらかい言い方にするならば、拳児の新たな一面が見えて途端に人間としての輪郭がはっきりしたからだ。過去は謎に満ち、趣味も好物も何もかもがわからない存在を関わり合っていくなかで人間と呼ぶのなら話は別だが、そうではない絹恵にとってこのときはじめて拳児は人間になった。勝手なイメージを抱いていた霧の中から突然に親しみやすいものが現れたとき、戸惑ってしまうのはよくある反応のひとつと言えるだろう。

 

 

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 部室棟の廊下を駆け抜けて階段を下りる途中でそのまま自分のクラスに戻るわけにもいかないと不安定な頭で考えた絹恵は、一階まで下りて呼吸を整えることにした。心臓が体全体に酸素を送るために、いつもより早く強く脈を打つ。周囲の姫松生たちも全力で駆け下りてきた絹恵に対して何事かと視線を送りはしたが、それほど大事ではなさそうなことを確認すると元の位置に目を戻した。

 

 呼吸は落ち着いたが頭の混乱のほうはそうもいかず、奇妙な気怠さも手伝って絹恵はその場から動く気になれなかった。階段の目の前はちょうど下駄箱になっており、買い出しに行くのだろう学生たちが上履きを履き替えている姿がよく見える。買い出し、と頭の中で繰り返して、絹恵は “物置” に行った理由を思い出した。結局のところ目的のものは見つけられなかったのだからクラスメイトに電話をしなければならない。アドレス帳から番号を呼び出してコールをする。簡単すぎるあいさつと目的のものが見つけられなかったことを伝えて早々に電話を切った。この時期は文化祭の準備が何よりも優先される。長電話に興じている場合ではないのだ。

 

 ふう、とひとつ息をついて落ち着こうとしていると、突然背中を叩かれた。ひっ、と悲鳴になる直前の声を上げて振り向くと、そこには絹恵の人生でいちばんよく見知った顔があった。

 

 「きーぬ。なんやこんなトコでぼけーっとして。サボリはあかんで?」

 

 「なんやお姉ちゃんやないの、びっくりさせんといてよもう」

 

 「そらもう可愛い妹が不良の道を突き進むのを止めるんは姉の役目やからな!」

 

 まったく悪びれもせずに、それどころかよくわからない決めポーズまでとって話を進める自分の姉に呆れながらも、ずるいなあ、と絹恵は思う。高校に入ったばかりくらいの頃は単純でただ強い存在だと思っていたが、それはどうやら見方として間違っていたらしい。たしかに開けっぴろげで単純な性格をしていることに間違いはないのだが、思考の奥となるとどうしても見通せないということに気付いたのは一年生の冬になってからだった。悪いことは考えられないタイプの思考回路を持っていることもそうだが、その思考の奥を見せてくれなくても構わないと思わせる愛くるしさに対して、ずるいなあ、と思う。

 

 「言うてお姉ちゃんもどうしてこんなトコおんのん? 買い出し?」

 

 「ん? なんや準備のほう手伝っとったら播磨がおらんー、いうことになってな」

 

 姉の発言を途中まで聞いて、絹恵は一瞬だけ身を震わせた。重なるときは本当に重なるもので、その名前は完全には整理のついていない彼女の頭をもう一度かき回すだけの効果を持ち合わせていた。あるいはダッシュで逃げてきたことで脳内でその存在が妙な膨らみ方をしているのかもしれないが、絹恵本人はそれに気付けない。

 

 ちなみに実際は洋榎が準備を手伝っていたら見事に不幸が重なって、ある程度順調に進んでいたこしらえ物を半壊させたため教室から理由をつけて放逐を食らったのだが、さすがにそこに自分から触れていくほど彼女も恥知らずではない。雀牌ならばおそろしく器用に扱えるわりには手先は絵に描いたような不器用で、トンカチを持たせれば指を打たない日はないという噂さえ立っている。

 

 「……あー、播磨さん」

 

 「お、なんや絹。その反応はどこにあのアホがおんのか知っとるな?」

 

 「うーん、さっき見かけたいうかなんというか……」

 

 「ん? 居場所を秘密にしてくれとか頼みよったんちゃうやろな」

 

 「あー、いや、そういうんやなくて、お姉ちゃん信じてくれるかな……」

 

 絹恵が言いよどむ理由が洋榎にはわからない。“伝わるかな” ではなく “信じてくれるかな” という言葉を選択しているのにもちょっとした違和感が残る。しかしどのみちこうやって迷っているときには動くほうに決断するということを洋榎は知っているため、それほど焦ることなくのんびりと続きを待つことにした。

 

 「えっとな、播磨さんな、ギター弾いててん。四階の “物置” で」

 

 「えー……、嘘やろそれ……。絹の言うことやから信じたろ思とったけどそれはなぁ……」

 

 「ホンマなんやって! めっちゃ気分よさそにして鼻歌まじりに弾いてたんやって!」

 

 「どんどんあり得へんやん。播磨にそんなテクニック的なアレがあるわけないやろ」

 

 傲岸不遜で唯我独尊かつ硬派な不良のイメージを持つ播磨拳児がギターを弾けると思いますか、とアンケートを取ったとすればおそらく弾けないを選択する人が圧倒的に多いだろう。その意味で洋榎は何も間違ってはいない。いま拳児は情報として明らかになっている部分が少なすぎるためにイメージ先行で語られることが半常態化しているのである。もちろん本人はそんなことなど露とも知らない。そのイメージというのも見た目のものと、インターハイでのインタビューで噂が立った悲恋の経験者であるというものと、大星淡による暴露によってなかなかに複雑なパーソナリティが形成されつつある。だいたいにおいてそれらは拳児の実像と一致していないのだが、そんなことはお互いに知らないのだからなかなかうまくいかないものである。

 

 半信半疑の目こそ向けてはいるものの、いま洋榎にとって重要なのは拳児がどこにいるかであって本当にギターが弾けるかどうかではない。したがってこれはただのコミュニケーションのひとつだった。それに拳児を見つけた際の話題もひとつ手に入れたことだし、彼女にとって上々の時間であったのは間違いのないところである。

 

 「おっと、播磨を捜しにいく途中やったん忘れてた。場所教えてくれてありがとな、絹」

 

 そう言って洋榎は階段をテンポよく駆け上がっていった。

 

 

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 洋榎が部室棟の四階までたどり着いても別にストリングスの音が聞こえてくるわけではなかった。残念と言えば残念だったし、当然と言えば当然だなとも思った。そもそもが期待をしていたというわけでもなく、どちらかと言えば脱走に対してお冠の恭子への捧げものを捜しに来た側面のほうが強い。だからいまの洋榎にとって大事なのは “物置” に拳児がいることであって、それ以外はあまり気にすることではなかった。

 

 “物置” までの廊下を半ばくらいまで行ったところで、目的の教室から大きな男が、ぬ、と顔を出した。なんでそんなところにいたのかはよくわからないが、自分の妹が言っていたことはすくなくとも半分は本当だったらしい。とりあえず探し物は完了だということで、洋榎は拳児のもとへと駆け寄って行った。

 

 「なんやけったいなトコから出てくるもんやな。何しとってん、こんなところで」

 

 「あ? あー、準備だなんだでやかましいからよ」

 

 「サボっとったんか」

 

 「察しろ」

 

 あくまで自分からはサボったと言わない小さな抵抗に洋榎はちょっぴり笑んだ。さて標的を捕まえたら、残ったするべきことは連行だけだ。くい、と手でサインを送って洋榎は歩き出した。

 

 「そーいえば風の噂に聞いたんやけど」

 

 「ンだよ」

 

 「ギター弾けるってホンマ?」

 

 「あー、まあ、できなくはねえな」

 

 「……お前意外とええヤツやよなあ」

 

 よくわからない話の流れは拳児の首を傾げさせるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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