「……あの」
「うん? なんだい?」
「猛烈に説明を求めます。何で私こんな手術台みたいな場所に縛られてんですか?」
「そりゃあ君がいきなり現れた未登録ナンバーの人形だからさ、鉄血の送り込んだ斥候かもしれないからね」
「……私生きて帰れそうですか?」
「うーん、君の中身を調べて出て来たデータによるかな」
「お助けーっ!!」
はい。
あの後どこぞの基地まで連行されたわけですが、そこで私はあれよあれよと謎の研究所っぽい場所に連れ込まれ、またなんか厳重に拘束されて現在に至ります。状況の変化が急激すぎる。
案の定というかなんというか、私……というより戦術人形『M27IAR』のデータは戦術人形の生みの親(らしい)IOP社には伝わっておらず、私という存在は寝耳に水だったそうで。
ダメ押しにそれが例のワケアリ人形416の系統機だったという状況もあり、緊急の身元調査およびシステムチェックに乗り出したということらしいです。マジで何物なんだ我が同系機。対人類用スパイかもしれないから調査する必要があるってのは分かるけど、何をどうしたらここまで厳重に拘束されてなおかつ周囲に配置された人員が完全装備って状況になるんだ。死ぬほど会いたくないけどもし出くわしたら根掘り葉掘り問い詰めてやる。
「くそぅ、そもそもこんな世紀末世界に転移さえしなけりゃこんな目には遭ってないのに……北斗の拳(工業mod味)かよ……」
「うん? 何か言ったかい?」
「いえ気にしないで結構です、ただ世の理不尽を嘆いているだけなので」
「おかしなことを言うね、世の中が理不尽じゃなかったときなんて一度もないさ」
「確かに」
ははははは、と私研究職ですと言わんばかりの白衣の女性と一緒に笑いあう。
っていうかこの人もこの人ですげぇ服装だな……うわぁ、裸白衣でケモミミ生えてるとか攻めすぎでは? 属性の過積載っていうか先鋭蛇手っていうか。この時代はこんなのが流行ってるのか……。
……いやこんなのが流行りってのはさすがにないよね。もしそうなったら世も末だわ。
現実逃避気味にあれこれと思考を回す私だったが、どうやら予想に反して片っ端からパーツをばらしていくような調査はしないらしい。なんかプロジェクターみたいなので全身をスキャンされたかと思ったら、今度は何かと接続したという通知が頭に飛んできた。どれどれ、
【Installing IOP.exe...】
「これ大丈夫な奴ですよね!? なんかexeファイル導入してるって通知来たんですが! え、窓!? 言うに事欠いて窓OSなの戦術人形!?」
「ただのウイルスチェックソフトだよ……そんな騒がなくても変なことはしないさ。あと窓じゃないから、一応独自規格だから」
「ならいいんですがね……」
やがて、ダウンロードが終わると何とも言えない感覚を覚えた。こう、こそばゆいというかもどかしいというか、なんだろうか。
研究者の方を見ると、何やらブツブツ呟きながらとんでもないスピードでキーボードを叩いていた。ツーとトンだけで会話が成立するモールス信号ならまだしも、何をどうしたら通常のキーボードであんな打鍵速度が出せるのやら……。
「ほうほう……なるほど、変わったシステム構築をしていると思ったら彼の遺産か……M4の基幹システムを踏襲しつつも、よりコードを最適化して違和感をなくしている……ほほう、『中身』の精神構造は男性のそれか……よくもまあここまで馴染ませた」
「……本当に大丈夫なんですよね? 信用していいんですよね!?」
「大丈夫大丈夫……完全にこっちの体と同期して元の体には戻れなくなるだけで」
「サラッととんでもないこと言わなかったかおい!? こちとらいい加減元の体に戻りたいわけだが!?」
「うーん、申し訳ないけどそれは難しいかな」
「はぁ!?」
彼女に曰く、どうやら私のもともとの体がこの場にあったとしても、一度移植して日が経った精神をもう一回移植するというのは限りなく不可能に近いらしい。なんでも、深層心理が度重なる肉体感覚の変化に耐えられないのだとか。
その他にもなんか難しい言葉を並べていたが、要約すると以下のようになる。
・その体はもともと人間の意識をそっくりそのまま移植するためのもの
・で、何かの拍子に空っぽだったそのスペースに君が入り込んだ
・そのまますっかり定着しちゃったから、元の体に戻すのは多分無理
・っていうか見た感じ君って過去から転移して来たっぽいけど、元の体って本当に現存してるの??
「…………おうふ」
目の前が真っ暗になったような感覚を覚え、私は辛うじて動く両手で顔を覆ってさめざめと泣く。頑張ってここまでやってきたってのにこんな終わり方あんまりだ。
なんかしれっと転移憑依者なの見破られてるけど、ソフトウェアのチェックしたってことは当然記憶とかその辺りもばっちり見られてるわけだもんね……そりゃバレるわ。むしろアレで気付かなかったら大いに問題ありだ。
「あー、それでだけどね。とりあえず君が鉄血の送り込んだ斥候ではないことが判明したから、君にはある程度選択肢が与えられるんだけど」
「選択肢ってったってどうせ選択の余地なんてほとんどないんでしょう、私知ってる……夢も希望もありゃしない、神は果たして死んだのか……」
「一気にダウナーになったね……まあ聞くだけ聞いてみなって。君の選択次第によっては多少状況が良くなる……かもしれない」
「かもしれないってなんですか」
で、再びリスニングタイム。
聞いたところによると、私が無理やり道連れにしたM249……彼女が所属していた司令部は人員不足でそこそこ困っているんだとか。
もしよければそこで働いてみないか、ということらしい。あと、そこの指揮官がだいぶ不思議ちゃんだからもしかしたら馬が合うかもしれないとも。
ちなみに他の選択肢も聞いてみたところ、『同じくワケアリの人形と一緒にチーム組んで特殊部隊でGO』と『戦術演算コアを除去して民生人形として再出発、まあ身もふたもないことを言えば放逐』という選択肢が提示された。
前者は元とはいえパンピーが特殊部隊の真似事なんぞできるとは思えないし、その上416なる不審者に出会う可能性が出てくる。で、後者も最初は良さげだと思ったけどなんか持ち主によっては(民生人形は基本的に所有者ありきなんだってさ)ろくな目に遭わないらしい。場合によってはR-18√直行だとか。
結局、司令部に派遣されるというの一番安全っぽいということで、私はそれを選択した。っていうかやっぱり選択の余地ないじゃねぇかよふざけんな。ちくせう。
「オーケーオーケー。じゃあ手っ取り早くハードの方のメンテナンスとシステムの更新も済ませておくからね」
「Windows Updateですか」
「だから窓じゃないっての。エッチングの権限承認とかデータベース登録とかいろいろあるのさ」
「はあ、そうですか……」
「じゃ、こっちだからついて来て」
「いやあの、一応腕が多少動くとは言え普通に拘束中なんですが」
「ああ、その台AI搭載だから自律稼働できるんだよ」
「なんという技術力の無駄遣い!? ってうわぁ本当に動いた気持ち悪い!」
すくっ、と何食わぬ顔で(いやまあただの台だから顔はないんだけどもね)台が4本足で立ち上がり、研究者のあとを追従するように歩き始めた。この台頭側が前なのか……いやまあそんな事どうでもいいんだけども。
……そういえばまだ名前聞いてなかったな。
「……冥途の土産にお名前だけお尋ねしてもいいですかね?」
「消さないってだから……まあ、ペルシカって呼んで。基本的にはそれで通るから」
「基本的にってなんですか」
「気にしないのが吉だよ……」
怖いわ。なんでこの人こう言葉の端々に不穏な空気を漂わせるんですかね……。
で、研究者改めペルシカさんに曰く、戦術人形にはエッチングと言うまあ銃の認証システム的な技術があるらしく、私の場合はそれが不完全な状態らしい。というか、正規の登録はされてるけどそれをするはずのサーバーと同期がされていないという不思議な状態なんだとか。
他にもあーだこーだ運搬中にまくしたてられたが、理解できたのは多分1割もない。ただ嫌でもよく利器できたのは、戦術人形はメンタルのバックアップがとれるから基本は大元が叩かれない限り何度でも死に戻りできるけど私はメンタルモデルの問題でそれが出来ないから残機1で頑張ってくれと言われたこと。
おいおい私だけクソゲーかよ……え? ほかにも似たような縛りでプレイしてる……もとい活動してる人形がいる? 端的に言って馬鹿じゃねぇの??
そんな訳で、手早く各種処理を済ませまして。
私は今、車両の荷台に積まれてどこかへと運送されていた。
なんかもうこの手の雑な扱いにすっかり慣れてしまったことに言いようのない悲しみを覚えつつ、荷台の幌にセットされた窓代わりの金網から外の景色を眺める。
「可愛い仔牛が売られて行くよ、悲しい瞳で見ているよ……ドナドナドーナ、ド~ナ~……」
死んだ目でドナドナを歌うスタイル抜群の女の子の姿がそこにはあった。ええ、悲しいことにそれは私です。
ちらりと横目で運転席の方を見ると、運転手のあんちゃんが何とも言えない表情を浮かべながら言う。
「……お嬢ちゃん、頼むからその見た目でその歌はやめてくれないか。ちょっとこう、心に来るものがある」
「別にいいだろ、これでも精神年齢20歳オーバーだぞ。あと中身男だぞ」
「聞けば聞くほど不思議な子だな……」
「いいんか? いいんかお前? 我たぶん転生者ぞ??」
「申し訳ないが事前設定を速攻でかなぐりすてた猿女の話はNG。というかまた懐かしいネタを……」
とかそんなたわいもない事を話すことしばし。っていうかあのネタ通じるんだ……。
さて、そうして辿り着いたのは、一つの司令部。最近新設された場所なのか、わりと真新しい感じのする建物だ。門のところには『G&K E10地区統括司令部』と書かれていた。
駐車場っぽい場所に停車した車から降り、荷台に積まれる時に押し付けられた地図を頼りに建物の中へと入っていく。
歩いた先で辿り着いたのは『指令室』と書かれたネームプレートが貼られた部屋だった。っていうか本当に人いないな。広さと人員が明らかに一致してないだろ。
コンコン、と扉をノックする。中から『入ってくれ』という声が聞こえたので、私はドアを開けて室内へと入っていった。
「失礼します。戦術人形M27IAR、本日付でこちらの基地へと着に、んん……??」
いない。声がしたはずなのに室内はもぬけの殻であり、開いた窓から吹き込んだ風がカーテンを揺らしていた。そして、風に吹かれているからか嫌々スカートを履いている下半身に妙に涼しい感触が……うん?
恐る恐る足元を見る。自己主張の激しい胸に隠れて見えにくいが、確かに何かが見えた。
「やあ、待っていたよ! ははあ、黒下着とは攻めてるねぇこのムッツリめ!」
そこにいたのは、訳知り顔で私のスカートを片手で弄りながらパンツをガン見する変態だった。
……私はしばし硬直したのち、無言で片足をあげて、変態の顔面へと全力で靴裏を叩きつける。
とんでもない轟音と共に変態は両手で顔を抑えて明後日の方向へと転がっていき、私は顔を赤くしながら自分の体を抱いた。無理やり押し付けられたとはいえこんなスケベボディを他人に好き勝手させるとか恐怖しかない。
「ごっふ!? 過激すぎる挨拶をありがとう、お陰様でその胸が揺れて自己主張する所も見られて大満足だ!」
「あ゛ぁ!? テメェやんのかコラァ!?」
しかし次の瞬間にはその恐怖もきれいさっぱり頭から抜け落ち、自身をM4A1と名乗る副官らしい人形が来るまでこの邪痴暴虐のド変態をどつき回すことに執心するのだった。っていうか君この前会ったよね。あのモンハン人形とやりあったときはお世話になりました。あとヘリに詰め込むとき真っ先に私の事縛り上げたの忘れてないからな。
もうやだ、愛しのマイホームに帰りたい。
……いや、今日からここがマイホームやん……。泣きそう。
ここで『放浪孤独のIARさん「もっど!」』はいったん完結となります。が、まあ割とすぐ続編書くことになると思うのでご心配なさらず。
IARさんシリーズの次回作にご期待ください。
ではでは。