学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆 作:夕凪の桜
疾風刃雷
綺凛と師弟関係になってからおよそ三ヶ月が経った。
綺凛はその後灰に嫉妬している序列2位に決闘を挑まれてそれを返り討ちにして晴れて序列2位となった。二つ名は『疾風刃雷』彼女のこと鋭い刀のことをよく表しているいい名前だ。
序列2位だったものは、一年前繰り上げで序列3位から2位となった。その後の王竜星武祭でまさかの予選負けをしてしまい、逆に最強の魔女と言われたオーフェリアを打ち破った灰は優勝をして、灰に嫉妬することとなった。公式序列戦でも灰に二敗している以上挑むことはできず、その後の新入生歓迎の序列戦で灰と少しだがいい勝負をした綺凛に八つ当たりをするかのように決闘を挑み、敗れ、序列外となったのだ。
その後は不気味なほど音沙汰がないが聞いたところによると自信を失い、かつての覇気はなくなったとのこと。
綺凛との修練は週4回か5回ほど行っていた。平日は放課後しかできないため回数ほどの時間は修行できているわけではない。それでも週10時間以上はやっており十分ではある。
綺凛は最初は灰のスピードに慣れるので精一杯であったが、今では灰の最高速度の8割でちゃんと打ち合えている。灰の8割速度に対応できる学生はこのアスタリスクに10人ほどしかおらず、中学一年である綺凛はさすがと言えた。
さすがに力加減はしている。綺凛の力ではまだ灰の力を完全に受け流す事はできないからだ。
技量、経験とまだまだ灰には劣るものの、着実に綺凛も進歩しており、彼女の才能だけではなく、しっかりとした努力が伺える。綺凛もそのことを理解しており少しでも灰に追いつけるように、灰の技をどんどん吸収していった。
刀藤流と鳴神流の基本的な事は似ており、一対一に重きを置くのが刀藤流で、一対多に重きを置くのが鳴神流だ。
そのため、基本がしっかりできている綺凛は鳴神流の技も簡単に習得できた。
今日も綺凛と灰は模擬戦をしており、これで今日は3回目だ。今までにすでに200を超える模擬戦をしてきたが、灰は未だに負けた事はない。
一戦ごとにじっくりと反省会をしているため放課後の2時間だと三回が限界だ。灰が一つ一つ気になったことを綺凛に聞き、綺凛がなぜその行動をしたかを聞き、綺凛が説明し、そのことてについて灰と議論をする。完璧になることは幾ら才能があろうとも不可能だが、完璧に近づけることはできる。綺凛程ならより近づくことができると灰は思っている。
灰は綺凛に問いかける時にわざと正しい選択をした時のことも織り交ぜて質問することで、綺凛に戦いの中で常に考えることを習慣化させ、それを一人で出来るようにすることを最優先とした。徐々に綺凛は戦闘中でも自分の選択について考えることも慣れてきていた。
はじめは深く考えすぎて集中ができなかったり、逆に浅く考えすぎたり、また過去のことを引きずってしまったりなどがあったが、徐々に自分の最適解に近づくことができた。灰はわざとこれに関しては大幅に違わない限りアドバイスはしなかった。何もかも教えるのが弟子にいい影響をもたらさない事を知っていたからだ。
そして、本日3回目の模擬戦が始まる。反省会の時間も少しずつだが短くなっていき、綺凛の成長を灰も心の中で喜んでいた。
二人で刀を構え向き合う。綺凛は正眼に、灰は『雲雫』を片手でいつもとは違い下段に構える。
下段………つまり、防御主体ということだが、油断など出来るわけがない。
灰の速度は8割と抑えられているものの筋肉の使い方、体の動かし方などにより8割以上の速度で刀を振るうことができる。何より動体視力、反射神経が半ば人外の域に達している。また、それによるわずかな緩急が綺凛を騙す。
それに加え、灰は綺凛が後の先をとろうとしても、灰は後の先の先を取ることが可能なため迂闊にカウンターを狙えない。
つまり、綺凛に許されるのは灰を一方的に攻め立てるか、それともカウンター覚悟で後の先を狙いにいくか、手段は限られていた。
灰はわざといつもと違う構えを取り、綺凛を試した。三ヶ月、ちょうど綺凛に稽古をつけ始めてから経ち、テストの意味が込められていた。
(さあ、どうする綺凛?君がどれだけ成長したか、僕に見せてくれ)
綺凛は一気に駆け出して灰に急接近、灰の下段に構えている『雲雫』に刀を振り下ろし、『雲雫』をさらに下に追いやる。しかし、そのような単調な攻撃は灰には通じず、一歩下がると同時に刀を上手く使い攻撃をかわす。綺凛は気にせず何度も果敢に攻撃を続ける。
(………おかしいな。綺凛は我武者羅に攻め込むようことは絶対にしないはず、、何かをしようとしているのか……)
灰はこの我武者羅な攻撃を受け流しながら何回も反撃をする機会を窺うが、綺凛の策が見たくなり、わざとスルーしていた。
そして、28合目、綺凛の攻撃は灰に避けられてしまい、攻撃は空を切る。その絶対的な隙を灰は『雲雫』を振り上げ、綺凛を吹き飛ばす。
大きく開かれる間合い、綺凛は着地と同時に納刀しこう呟いた。
『刀藤流抜刀術・折り羽』
灰の目には綺凛が抜刀し灰に攻撃を放とうとしているように見え、反射的に防御しようとするが、その瞬間灰はあることに気づく。
(踏み込み足に体重が乗っていない………なるほど虚像の剣か。虚像には虚像でお返しを)
綺凛のこの抜刀術が虚像であることに気づき、自らも虚像を作り出す。
とは言っても魔法で作り出すわけではない。綺凛はおそらくこの虚像が見破られる可能性を考慮しているが、自分の目に映る灰が防御姿勢を取っていたら見破られていないと勘違いするだろう。
その思い込みの瞬間に灰は『折り羽』と同じ原理を使い、虚像を作り出す。完璧には作り出せないが、綺凛と剣を合わせているうちに刀藤流の大まかの根幹は理解しており、一瞬だけの再現ならなんとか出来る。
綺凛が灰の虚像に気付かぬまま喉元に刀を突きつけるがその瞬間、彼女にはまるで霧のように消えてしまう灰の姿が写るが、その1メートル程後ろに刀を納刀して構えている本当の灰が綺凛の策略に敬意を表して、自分なりの返礼をした。
『鳴神流抜刀術・犀撃』
刀を大きく前に突き出した状態の綺凛のほぼ真下から突然現れたかのように見えた灰の刀が、綺凛の顎下に突きつけられる。
『犀撃』は他の抜刀術とは大きく違う。この技はしゃがむように姿勢を低くして、相手に急速接近、体をのけぞらせるかの勢いで状態を大きくそらし、その勢いで刀を抜刀。肋骨の下から刀は体内に侵入、心臓を断ち、そのまま頭までを切り裂く。
この抜刀術が他と大きく異なるのが刀の抜き放つのが横ではなく縦ということである。
しかし、この技をそのまま持ちいれば綺凛は死んでしまうので一歩間合いを大きく取り、ちょうど振り抜いた時の切っ先が顎下になるように調節した。
トレーニングルームのシステムが模擬戦の終了を告げ、二人は刀を下す。
「今日も勝てませんでした。完敗です」
だが、綺凛の顔は落ち込んではいるもののその目は闘志に燃えていた。
次こそは、それを何回も繰り返しても折れない心を彼女は持っていた。アスタリスクに来てから、実家では味わえないような敗北の連続を綺凛は悔しいとは思うものの、勝ちたいと思う気持ちが強かったからだ。
「まさか折り羽を簡単に見破られて虚像を虚像で返されるとは思ってもいませんでした」
綺凛は苦笑しながらそう言った。奥の手を簡単に読まれ、その上そのまま返されたのだ。苦笑する他ない。
「刀藤流も鳴神流も根本は同じだから、見様見真似でやっただけだから、一回しか通用しないさ」
こんなものハッタリに過ぎず、綺凛には二度目は通用しない。
「それでも、一回通じるのであれば十分だと思います」
まあ、星武祭は一発勝負であり、二回目は無いためその心配はないが、灰は弟子に負けるのが嫌なだけだ。
「綺凛の成長がすごいからそろそろ慌ててるのさ」
少しおどけてみせる。
「灰さんがそう言ったとしても、そんなに説得力はないですよ?」
慌てるそぶりすら見せない灰の言葉を信頼性のかけらもなく、綺凛は信用していなかった。
(まだ慌ててはないけど、でも、すごい勢いで成長しているのは間違いないのに、綺凛は本当に謙虚だな……)
謙虚と言うより、師匠である灰は綺凛の目標であり、レベルが高すぎるので謙虚にならざるおえないのだ。
「あ!そうでした。叔父様が灰さんと一回話をしたいとおっしゃってて、その、明日の放課後とかどうでしょうか……」
綺凛が思い出したかのように言ったことは灰に少し難題が加えられることになった。
と言っても綺凛の叔父は灰の訓練に干渉はしてこないので、放置していたが話がしたいとなると面倒くささが増す。
「いいよ。明日の放課後にじゃあ、よろしくと伝えてもらえるかな?」
「はいです!!」
こうして灰は綺凛の叔父と話すという少し憂鬱なイベントが発生した。
学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださり有難うございます。夕凪です。
昨日はゆっくり休ませてもらいました!これでだいぶ2巻部分のイメージが固まりました。
今日から毎日投稿再開です!!
今作は綺凛の叔父様はそんなに悪いやつではないという設定で行かせてもらいます。
UAが7000を超えて、お気に入りも80を超えました。皆様本当にありがとうございます。
これからも学校が始まるまではとにかく続けていきたいと思っております。
最後に感想、評価、待ってます。お気軽にどうぞ!!
それではまた明日。