学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆 作:夕凪の桜
それでは、本編をどうぞ!!!!
二人がたどり着いたのは再開発エリアの外縁の大通り全く車通りもなく、異様な静けさが辺りに充満していた。
その中で一際目立つのは通りの真ん中に血を流して倒れているオーフェリアだ。
「………!オーフェリア!!」
まさかいきなりこのような仕打ちをしてくるとは思いもよろず、灰は冷静さを失いかけた。
慌てて二人は駆け寄り、オーフェリアの容態をみる。
「ひどいね、星脈世代じゃなかったら即死だろうに………」
「右手と左足に剣による刺し傷、左腹部に穴が空いてるから内臓に傷がついてるかもしれない。それに無数の切り傷と擦り傷。早急に医者に診てもらわないと……」
オーフェリアの容態は予想以上にひどく、病的なまでに白かった肌もさらに血の気が悪く、青白くなっていた。
これはオーフェリアの命が後少しで尽きる可能性が高いということをしめしていた。
「灰君どうしよう、私の能力でも怪我は治せないよ………」
灰は立ち上がり自分のコートを脱ぎ、オーフェリアに優しくかけてあげる。
そして、自分のパーカーも脱ぎシルヴィアに渡す。
その姿が死ぬことすら厭わない姿に見えてシルヴィアは泣きそうになる。
「シルヴィ、これをちぎって右手と左足の傷を縛って止血してあげて。あと、水を作って小さな傷のところを綺麗にしてあげて。少しは楽になると思うから」
「灰君は!灰君はどうするの!!」
シルヴィアも灰と同じく自分たちの事を見ている二十人ほどの気配に気付いており、一人一人が自分を超える実力者である事がわかり、灰のことを心配する。たとえアスタリスク最強の星脈世代だとしてもだ。
「オーフェリアをこんな姿にした奴らをお出迎えしなくちゃいけないらしいからね」
「でも!!そんなこと、そんなことしたら………」
顔を伏せ、灰の顔を見ることができない。
「泣くな、シルヴィ。僕のことを''信じてくれる''なら、僕は必ず帰ってくるよ」
自分でも似合わないセリフを言ったものだと心の中で苦笑している。
「信じしてる。前からずっと君のことは信じてるよ」
「なら…………これにその気持ちを込めてくれれば僕は必ず帰ってこれるよ」
灰は懐から2つのネックレスを取り出しシルヴィアに手渡す。1つは青い宝石がもう1つは黄色の宝石が埋め込まれている。
「オーフェリアが目を覚ましたら1つ渡してあげてほしい」
そして、灰はシルヴィアとオーフェリアに背を向け離れていく。彼女らを戦闘に巻き込まないために。
オーフェリアほどの星辰量保持者ならかなりの自己再生能力があるはず。といっても大怪我がすぐ治るわけではなく、小さい傷なら少し経てば治ることや、意識が回復するまでの時間が早くなることぐらいだが。
それでも、意識が回復することは大切である。
「今回も頼むぞ、『雲雫』」
腰から刀を抜き放ち、中段に構える。『雲雫』の刀身は普通の刀と違い青みががった刀身で、今のアスタリスクでこの刀は抜き放たれれば相手に必ず勝利すると言われる生ける伝説だ。
「貴方ならここに来てくれると信じてましたよ。鳴神灰君」
突然、辺りに男か女か性別がわからない声がした。
暗闇から声が反響してきてどこから喋りかけているのかをわからなくしているようだ。
「ソルネージュのお偉いさんの特殊部隊さんたちは僕たちに何の用でしょうか?」
ソルネージュ、レヴォルフの運営母体たる統合企業財体。今回のことは全部ソルネージュの企てと見ていいだろう。
「さすがの観察力です。上からもおそらくばれているだろうと言われましたが、予想通りですね」
「僕たちのことを狙うとしたらレヴォルフかその上のソルネージュしか無いですからね」
灰は自分たちの周りにいる正確な人数を掴みどう対処するか考えていた。ただ戦っても被害が後ろの二人に及ぶ可能性があるからだ。
「ですが、こちらの正体がばれているのであればなおさら生かしてはおけません。安心してください、彼女たちは貴方を殺したあとに殺して差し上げますので、安心して本気を出してくださいね?」
暗闇から響くこの声の主は灰の考えていたことを読み取ったらしい。
「それを守ってくれるという保証はどこにあるんですかね?命のやり取りをするような相手の言葉、簡単に信じるとは思っていないでしょうね」
シルヴィアとオーフェリアを狙わないと言われて、はい、そうですかと言って納得するほど灰は間抜けでは無い。
「それは十分承知ですよ。ただ我々もこの手のプロを自称してましてね、こういう事をしてますと契約は絶対でして、一度言ったことは絶対に曲げないのが我々のプロとしてのプライドです。そこはそうとして信じてもらうしかありませんね」
悩ましげに説明をする声の主。これ以上刺激しすぎるとせっかくシルヴィアとオーフェリアを狙わないと言っているのに、二人を狙いかねない。
「わかった。いいでしょう。貴方の言葉信じてあげます」
灰もこの声の主を信じることにして覚悟を決め、死闘の開始を今か今かと待つ。
「シルヴィ、一度抜き放たれた剣は血を吸わないと鞘に収まることは無いから。ここからは血が絶対に流れる。見たくも無い光景かもしれない。でも、どうか見届けてほしい」
そう言うと灰は前方に現れ始めた黒づくめの集団に斬り込んでいく。
〜〜〜シルヴィア side〜〜〜
わたしは、ここに来て無力感を感じていた。灰君は今目の前で死闘を繰り広げていた。灰君から渡されたネックレスの青い方はオーフェリアさんに握らせてあり、わたしのはオーフェリアさんを手当てしている右手の手首に巻きつけた。なんとなく、灰君の力を借りられるような気がしたのだ。
灰君は今ちょうど三人目を切り捨てたところで、同時にすでに10を超える傷を負っていた。何個かは軽視できないような傷から血が流れ出ている。
一人の攻撃をはじき返したところでまた別のところから攻撃が来てまともに反撃すら出来ないような状況で、少しでも甘い攻撃が来た時に無理矢理攻撃をねじ込み、確実に致命傷を与えていく。肉を切らせて骨を断つ。まさにこのことだが、灰君は長くは保たないとわたしは思った。すでに灰君の灰色の髪の毛は返り血と自分の血で半分以上が赤く染まっていた。
自分が行っても足手まといにしかなれない、そんな自分が嫌いになりそうだった。
「………う、………あ……シル、ヴィア……?」
「オーフェリアさん!よかった目を覚ましたんだね。…………良かった…………」
目が覚めたばかりで手足に上手く力が入らないのかゆっくりと体を起こすオーフェリアさん。
「早く逃げて、…………あいつらは灰でも敵う相手じゃ無い………」
「えっ…………でも、今は灰君が……………」
戦っていると言おうとしたとき、甲高い音が辺りに鳴り響いた…………。
〜〜〜シルヴィアside out〜〜〜
すでに八人まで斬り伏せた灰だが、それと同時に『雲雫』が甲高い音を出して刀身の真ん中から先が粉々に砕け散り、それらはさらに細かくなって地面に落ち、消えてしまった。そして、奇妙なことに黒づくめの集団は一歩後ろに下がり体制を整えた。
後ろをチラ見するとオーフェリアがシルヴィアの手を掴むことを確認する。ここでシルヴィアが来てしまったら今の状況が崩壊してしまう。
「なるほど、ただ『マナダイト』を使っていると思ったら刀身の約半分を『ウルム・マナダイト』で構成することで通常のものより高い耐久力と切れ味を誇っていたということですか。面白い考えですね」
ただ見ただけで『雲雫』の隠された秘密について簡単に暴いてしまうこの声の主に灰は目線を向ける。
一番後ろに立っており、腕組みをして戦いに参加しようとしない謎の人物。それにより一層警戒の目を向ける灰。だが、灰に焦りは全くない。どこかまだ余裕があるように思えた。
「そろそろ諦めたらどうですか?刀は砕け、貴方の星辰量もほぼ底をついてるのでしょう?」
丁寧な口調を全く崩さないあたりからこの人にとってまだ焦るような事態では無いのだろう。まるで想定内とでも言いたげな、そんな雰囲気がある。
「はははは、面白いことを言ってくれるのですね」
普通な人間ならまず笑わないような状況なのに、突然笑い出す灰。後ろでずっと見守っていた二人も何事かと驚く。
そして、同時に灰と話していた黒服がフードを脱ぎ、睨め付けるかのような表情で凝視していた。
「やっと、わかりましたよ。この不快感が!貴方はずっとギリギリの状況でもどこか余裕があった。それが私をこの上なくイライラさせるのです!!」
声の主は白髪の男で、さっきとは比べ物にならないほど冷静さを失っていた。
「そう、まるで自分はまだ全力を出していないかのように……………この私を見下して愚弄するつもりか!!!」
もはや最初とは違い、理性的ではなくなり、ただ感情に左右されているこの男に灰はこう告げる。
「惚れてる女を守っているっていう、男にとって一番かっこいい状況だから、必死な姿より余裕があった方が安心もできるだろう?」
そして、一息ついて灰はこう叫んだ。
「それに、僕は二人と約束したんだ!必ず帰ると!!必ず助けると!!だから、絶対に負けるわけにはいかないんだ!」
今までの灰とは違い、理性的な部分に感情的なものが姿を現し始めていた。
「貴方はもっと理性的な人物だと思っていましたよ。しかし、まさかここまで愚かだったとは………女のために捨てられるような軽い命ではないはず!あなたは自分より惚れた女を大事にするのか!」
もうこの男は止まらない。自分の思ったことをそのまま灰にぶつけているだけだ。
「命を賭けるといったが、死ぬつもりなど毛頭ないさ、死んでしまったらまだ伝えてない想いを伝えられないだろ?」
灰の言葉がよほど頭にきたのかさっきとは違い、殺気を隠すことなく灰にぶつけて来る。
この男が怒り心頭で言葉遣いがどんどん荒くなっていくと同時に灰はだんだんと冷静さを取り戻すことが出来ていた。
「愚か者は死になさい。目障りです!!!!!」
初めて怒声を放ち一斉に灰に襲いかかってくる。だが、それと同時に灰は二人に渡したネックレスを通じて入ってくるものを感じていた。
「ふっ、愚か者かどうか、証明してあげよう…………」
首からシルヴィアとオーフェリアに渡した同じ形のネックレスを取り出し、首にかけてある状態から一気に引きちぎった。
真ん中に埋め込まれた虹色の宝石が暗い周囲をほのかに照らした。
その瞬間、星辰量が底をつきかけていた灰から莫大な星辰量が解放され、一種の暴風となり周囲の人間を視界を塞ぐ。
〜〜〜オーフェリア side〜〜〜
わたしは、灰とシルヴィアを殺せとソルネージュに言われた。前のわたしだったらそれに何も言わずに従い、二人を殺そうとしたかもしれない。まあ、あの二人にわたし一人とソルネージュの暗殺者がいたところで相手にすらならないわ………
彼に初めて会った時、わたしは手も足も出なかったのを今でも思い出す。どんな魔法も彼の眼の前では斬り伏せられた。無味無臭の毒で周囲を覆ってしまったとしても、彼は息を止め切り抜けられた。信じられなかった。後から聞いた話によると彼は自分で肺の中の空気を循環させ心拍数を戦闘に必要なギリギリまで落とし、息を吸わなくても戦闘できる時間を十五分まで引き延ばしたらしい。
近距離の戦闘はからっきしだからそれがどれだけ凄いかはわからないけど、私では到底できないようなことを軽々とやってのけていることだけはわかった。
彼に倒された。いや、彼は決して本気を出していなかったから、ずっと遊ばれていただけかもしれないけどね。
でも、そうだとしても怒りなんてなかったわ。むしろ清々しかったわ。
魔女としての力を得てみんな私を恐れ、周りから去っていった。大人たちは私を最強の道具とし扱った。むしろそれでいいと思った。もう誰も人として私に接することは無いだろうと思った。
でも、あの時、彼は私を人として、一人の女として接してくれた。その時にずっと溜め込んでいた悔しさや悲しさが一気に溢れ出して彼に泣きついてしまい、慰めてもらった。凄い恥ずかしかった。でも、心の中に立ち込めていた黒い霧のようなものは全て彼によって全て取り除かれた。
その時気づいたの。私は彼に恋してしまっているということに。
彼の戦闘、いや死闘と言えるものは目を背けたくなるようなものだった。
彼は血を流し、どんどんボロボロになっていく。そんな姿見たくなかった…………
体が少しずつ動くようになっていくことを感じながら灰の戦闘からは目を離さないようにしていた。それがオーフェリアにできる唯一のことだから……
だがその時、灰の愛刀、『雲雫』が甲高い音を立てて砕けてしまったのだ。
そのことにシルヴィアは駆け出そうとするが、慌てて手を掴む。
「待って、シルヴィア。それだと彼の信頼を裏切ることになるわ」
なぜ止めるのか、そのことに対する焦りが珍しく露わになっている。
「なんで止めるの、このままじゃ、このままじゃ灰君が……………」
「灰は貴方になんて言ったの?」
今にも泣きそうなシルヴィアだが、灰のことを完璧に信じているオーフェリアは意識が薄れている中、灰が必ず帰ってくるといったことは聞こえておりその約束は絶対に破ることは無いとオーフェリアは思っていた。
「必ず、必ず帰ってくる。でも……『惚れてる女を守っているっていう、男にとって一番かっこいい状況だから、必死な姿より余裕があった方が安心もできるだろう?』」
灰の言った言葉によってシルヴィアは言葉を失う。おそらく、彼女も少なからず彼に恋しているとオーフェリアは思っていた。
「シルヴィア、貴方は彼が好き?」
『僕は二人と約束したんだ!必ず帰ると!!必ず助けると!!だから、絶対に負けるわけにはいかないんだ!』
オーフェリアと灰の言葉が重なり、シルヴィアは動揺する。自分の中に芽生えていた不確かな恋心をストレートに聞いてきたからだ。
「……………うん、好きなんだと思う。……………ううん、好き、私は灰君のことが好き!!!!!!」
「私もよ。私も灰のことが好き」
その時、シルヴィアはわかった。なぜ、オーフェリアがここまで落ち着いているのかを。
好きな人の言葉を信じられていなかったシルヴィアは自分を恥じた。自分の想いと向き合わなかった自分を。
そして、二人は理解する。自分たちの本当にするべきことを。
灰から渡されたネックレスを両手に持ち、灰を信じる心を。好きだという気持ちを乗せてネックレスに込めた。
「お願い灰君。帰ってきて……」
「灰、私との約束守ってくれるんでしょ………」
二人の想いに反応したかのように宝石が強く発光する。
〜〜〜オーフェリアside out〜〜〜
学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みいただき有難うございます!
若干寝る時間が遅くなりつつある夕凪の桜です。
本当は序章は二話で終わろうとしたんですが、書いているうちに楽しくなってどんどん楽しくなってしまい、書いているうちに6,000文字近くまで行ってしまい話を二つに切ることにしました。
本当に申し訳御座いません。
次で終わるはずです!多分……!
今回視点の切り替えが上手くいかないところがあり、皆様には読みにくい文章を読ませてしまい、申し訳ありません。自分なりに工夫はしたつもりなのですが、誤字チェックした時にも読みづらいと思ってしまいまして。どうしたらいいか困惑している最中です。
思いつき次第変えていきます。
ここからは読んで頂いている皆様への感謝の言葉です。
かなり早めのペースで二話目を上げられて自分としても凄い嬉しいです。
これには訳がありまして、予想以上に自分の作品のUAやお気に入り登録が伸びてまして、投稿した付近だと、UAは400を超えまして、お気に入り登録は14件となっておりました!
本当にモチベが凄い上がりました!
感想も二件いただき、評価もありがたいことにかなり高い評価を付けてもらい、この期待に応えなければ!と思っています。
最後に誤字や、ここはこう変えて欲しいなどありましたらお気軽にお願いします。
感想も匿名でも書けるようにしてあるので気楽に書いてもらえればと。
感想やご指摘は皆様が自分の作品をしっかりと読んでくれていると思えて励みになります。
もしよければ評価もしていってもらえたら幸いです。
それでは次の話で。