学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆 作:夕凪の桜
綾斗があまりに叫ぶものだから耳がキンキンする。音で聞いたのだが、防音設備が整っているトレーニングルームの外にまで響き渡っていたらしい。
「さっきユリスが言った通り、僕はこの学園の序列1位、二つ名は『刀雷の魔術王』かな」
「一応言っとくが灰は中学一年生の時からずっと序列1位の座を守り続けているのだぞ」
鳳凰星武祭後に序列1位となった灰は約三年間その座を守り続けた。
「こいつは本領は魔術師なのだが、ほぼ刀一本だけで星武祭を制したことから規格外すぎるということで、二つ名も魔術師から魔術王と変わったのだ。訓練の相手としては十分だろ?」
そう、本来の目的は綾斗の応急処置などではなく、訓練である。鳳凰星武祭三ヶ月前なので、そろそろちゃんとした対人戦の訓練をしなければいけない。
もっとも、今日は出来そうにない。綾斗の星辰量がほとんど回復してないからだ。
「まあ、今日はいろいろあったしとりあえず軽くやろうか」
「え、でも二対一はいくらなんでも……」
一対一なら個人の実力が圧倒的に勝っている灰が勝つだろうが、二対一はそれほど単純ではないからだ。
「安心しろ綾斗。私達2人が逆立ちしても絶対に勝てないような相手だからな」
確かに灰はユリスと綾斗2人の相手でも絶対に負けないが、綾斗はまだ灰の実力を知らないので半信半疑といったところだ。
「まあ、とりあえずやって見ようよ。綾斗も取り敢えず僕の実力が分かった方がいいでしょ?」
灰は笑ってそういった。だが、この笑みは綾斗とユリスに二つの違うイメージを与えた。
綾斗には灰が明るくて快活という人柄というイメージを与えたが、ユリスはこの灰の笑みが悪巧みをしているように思えた。
それから、三人は初期位置へと移動する。綾斗は前衛、ユリスは後衛としてペアとしての構成は悪くはない。灰は綾斗から10メートルほど離れて構える。星武祭でも初期位置の距離はおよそ10メートルなので練習にはその方がいいだろう。
綾斗は下段に。相手の実力が自分よりも上のため、まあ良い選択だろう。
灰はいつも通り右手で刀を持ち、脱力する。これが灰の基本的な構えだ。それを見た素人はやる気のないように思えるかもしれないが、綾斗は灰の構えを見てより警戒した。
(なるほど、特待転入生として来ただけはあるね。僕のこの構えを初見で見て侮らないってことは相当の訓練を積んでるね。面白い)
灰のこの構え、自然体が完全に隙のないものだと分かるにはかなりの訓練を積まない限り不可能だ。
そして、灰は綺凛がまだ反応できない速度で綾斗に迫る。もちろん、七天大聖の体術は使わない。まあ、使ったとしても綾斗が使われたことを認識できればの話だが。
灰の全力は音速を超える。10メートルという距離なら一瞬で詰めることができる。
「どうしたの綾斗?僕は見ての通り隙だらけだよ?」
もちろん、これは嘘だ。綾斗がこの構えに隙がないことを知ってることを理解した上で言っている。
「何言ってるんだか。隙なんてどこにもないじゃないか。こんなの迂闊に攻められないよ」
綾斗の判断は正しい。相手の実力がどれほど上かわからない上に、この隙だらけに見える構えを取られているため、綾斗は攻めることが出来ないのだ。
「来ないんだったら、こっちから行くよ?」
綾斗は頷く。この時綾斗は慢心はしていなかったが、こう思っていた。
『いくらアスタリスク最強と言われていても防御に徹したらどうにかなると』
そう、これは慢心などではない。灰の実力がどれだけ馬鹿げているか知らない人間にとって分かるはずもないのだから。
綾斗はこの後すぐに『刀雷の魔術王』と言われている灰の実力の一端を理解する。一端だとしても、それは綾斗を遥かに凌ぐ。
「そんじゃあ行くよ、頑張ってね」
その瞬間灰は綾斗の目の前から消え、綾斗は防御姿勢をとるがそれよりも先に灰は綾斗の間合いに侵入していた。
なんとか煌式武装で迎撃しようとするも早すぎて間に合わなかった。
灰は綾斗の煌式武装に攻撃する。速さ、重さ、その二つが規格外の灰の剣に対して、綾斗にはどうすることも出来ず、ボールのように吹き飛び、ユリスの後ろのトレーニングルームの壁に激突した。しかし、ここは『冒頭の十二人』のしかも序列1位のトレーニングルームだ。そう簡単には壊れはしない。
ユリスはもともと灰が綾斗に自分の実力を分かってもらうために、'ある程度'本気を出すと思っていたが、まさか本気の速度を出すとは思ってもいなかった。
「分かってもらえたかな、僕の実力の'一端'を」
その声が聞こえた2人は戦慄する。反応すらできなかった今の斬撃がまだ強くなるということに。綾斗の場合、禁獄の封印を解除すれば渡り合えるかもしれないが。
「今のが僕が素で出せる最高速度」
「素でだと?どういう事だ」
灰のその言葉に反応したのはユリス。遠距離主体である彼女は近距離のことについても多少は知っている。
近距離戦において、剣を振るという行為はただ振るだけではなく、体術というものを同時に用いる事でさらなる高みへ行く事が可能になる。
しかし、今の灰の言葉、『素で出せる最高速度』。つまり、体術を用いないで今の速度を出したという事。それが何を意味するかはユリスよりも唖然としている綾斗の方がより理解しているだろう。
「さ、僕の実力も大体わかったかな?綾斗。これぐらいなら2人の相手を務められるかな」
それから三人は時間になるまで訓練を続けた。
2人の連携は三ヶ月にしては上出来で、手加減しているとはいえ、かなりいい勝負が続いた。それでもなお灰が勝ち続けたのは経験の差であろう。
灰は二人に教える側なので、違和感やアドバイスなどを二人に教える事にした。
「まあ三ヶ月にしては上出来かな。ただね、二人は完璧を目指しすぎかな。何も言わないでも完璧に連携が取れるペアもいるよ。でも、それが必須という訳じゃない。もう少し掛け声をかけな、連携が上手くいかない事があるのはそのせいだよ。それに、その所為で綾斗がユリスに遠慮しちゃっている感じがするし…………」
とまあ、途中から説教じみた事になっていたが、小一時間ほどそれは続いた。ユリスが完璧を求めすぎている所為であるのは明白だったため、それを止めるのに苦労した。
ここはアスタリスクの再開発エリア、そこに二人の人影があった。
「そろそろかな、オーフェリア嬢を我々から奪い去った彼に報復するのは」
一人は特徴的な仮面を被りながら話をしている。
「我は反対だ。彼奴からは嫌な感じがする。認識阻害の結界が通用しない事すらありえる」
もう一人はフードを深くかぶっているため、声から女性という事しかわからない。
「その時はどうにかするさ。我々の計画を邪魔してくれた以上、放置するわけにもいかないからね」
「好きにしろ」
そう言うと二人はそれぞれ闇の中に消えていった。
学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。
寝坊した夕凪です。
そろそろ星武祭に突入できそうでとりあえず一安心です!!!
お気に入りとUAが伸びているのが個人的にすごい嬉しいです。
皆さまありがとうございます。
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それではまた明日。