学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆 作:夕凪の桜
綾斗とユリスの二人の訓練をし始めてから数日が過ぎた。
綺凛から昨日の夜にメールが届いた。なんでも、自分で一歩を踏み出すために綾斗ともう一度決闘するらしい。師匠として弟子が成長するのはこの上なく嬉しい。しかし、今回の件については家の問題があり、刀藤家と縁戚関係にある鳴神家である灰は迂闊に手が出せなかった。そのため、少し悔しさもあった。
決闘の時間は午後三時半、場所は星導館内のスタジアムで開催するらしい。できれば見に来て欲しいと言っていたので、特に予定のない灰は見に行こうと思う。
綺凛が成長したという喜ばしい事により、灰の気分は朝から少しよかった。もともと朝はそこまで得意ではない灰にしては珍しい事である。
「早く綾斗と綺凛の試合を見たいなー………はあー、気分が台無しだ」
灰の気分の良さは一気に沈む事となった。
学園に向かって歩いている途中、いつも人通りが多いはずの道が誰もおらず、異様な雰囲気を醸し出していた。
(忌避の能力者か?これほど大規模な物を作り出すにはどれほどの星辰量を消費しているんだ……)
灰は自分の頭の中に忌避系統の能力者をリストアップするが、そもそもそのような力を持つ魔術師か魔女の存在を灰は知らない。
(外部勢力か、それとも純星煌式武装の力か、とりあえず目的は僕みたいだな)
誰もいないはずなのに感じる視線、それはつまり、目的が灰である事を告げていた。
「そろそろ出てきてくれないか、今は少し穏やかに対応できる気分じゃないんでね」
軽く殺気を周囲にばらまいて未知の敵を牽制する。
「そう早まるな、我はお前に話をしに来ただけだ」
路地裏からフードを被っている者が出てくる。
声からして女性という事だけが分かる。だが、より一層灰は警戒を強めた。
(この足運びに気配の消し方、ただ者じゃない……)
忌避の能力か何かによって、近くは誰もいないがその場合、そこに存在する事で気配はより分かりやすくなる。しかし、この女は出てくるまでは完全に灰の気配探知から逃れていた。
「今日の放課後、再開発エリアのここに来い。そこでお前と話したいという者がいる」
女から地図が送られてくる。そこはかつてサイラスがユリスを襲撃した場所であった。
「わざわざ来る必要もないと思うが?」
そう、これは一方的な要求、灰は無視する事もできる。
「対価を欲するか。やはり人間は強欲だな」
この女は驚くべき事を言った。まるで自分が人間ではないかの様に悪態をついたのだ。
「彼奴から、もしお前が対価を求めた時のことも事前に聞いている。彼奴はお前の要求を一つ聞くと、そう言っていた」
相手方はかなり大胆な事をする様だ。灰は星猟警備隊の幹部であり、このアスタリスクの暗部の情報もかなり知っている。つまり、どんな事を要求するかはわからないのだ。相手はバックにどんな人間がいるかわからない状況、灰がどれほどまで思考を巡らせるかなど想像できるわけがない。
「いいだろう。ただし、その条件が破られた場合、命はないと思え。僕は他の学生とは違う」
灰はこの言葉にかなりの殺気を込めて相手を威嚇する。アスタリスクの学生は人の命を奪った事などない者がほとんどであり、普通はハッタリに聞こえるだろう。しかし、灰はアスタリスク最強の人間、そして、その身から発せられる殺気は人を殺した事があるという事を物語っていた。
「我は知らん。我はただの伝達役、深く介入するつもりなどない」
それだけ言うと女は再び気配を消して姿をくらませた。
(この時期に接触するとしたら『ノアの箱船』か、もしくはオーフェリアが関わっていた、'あの計画'の関係者か?)
先ほどの女が力を解除したのかわからないが、遠くの方から人が数人やってくるのが見えるので、灰は星導館に向かって小走りで向かった。
(とりあえず行くだけ行くか……)
そして、時間は止まる事なく過ぎていきすぐに放課後になった。
「灰、綾斗と刀藤の試合見に行くだろ?」
後ろの席のユリスがそう聞いてくる。綾斗、綺凛の両名と交流関係がある灰ならば必ず見に行くと思ったから。
「すまんユリス。行きたいのは山々なんだけど、同室も外せない用事があるあら。二人によろしく言っといて。それじゃ!!」
「お、おい!待て!」
これ以上ユリスに捕まると根掘り葉掘り聞かれるかもしれないので、素早く退散した。
生徒会、星猟警備隊と二つの組織に所属している灰は、色々と忙しいという認識はユリスもしている。
さすがに今回の事はみんなに教えるわけにもいかない。
学校にいる間、星猟警備隊の管理している情報を再確認していたが、今朝の件で推測出る事などほとんどなかったが、一つだけ気がかりになっている事が発生した。
三ヶ月前にユリスがサイラスに襲われた廃墟に灰は到着する。
建物の入り口あたりから中に侵入すると、急に空気が変わる。
(なるほど、前回は広範囲で忌避の能力を使っていたから感じなかったが今回は範囲を狭めたからより濃密になってるって訳か)
入り口のあたりに結界のようなものがある事を灰は認識していた。
(取り敢えずユリス達が襲われた階層まで登るか…………)
確信はなかったが、相手がここを指定してきた以上、ある程度灰に推測できる場所にするだろう。そんなところ、ここでは一つしかない。10階、ユリス達が襲われたところだ。
案の定ともいうべきか、10階に到達すると朝に遭遇したフードを被った女と、奇妙な仮面を着けた男がいた。
「来てくれてよかったよ。鳴神灰くん」
奇妙な仮面を着けた男、顔が思い出せそうなのだが、思い出す事ができないでいた。
(認識阻害の結界も張っているということか。いよいよ面倒くさくなっていた)
忌避に認識阻害、その二つを操れるのは純星煌式武装である、あいつしかあり得ないからだ。
「やめておいたほうがいいよ。ここは彼女の結界の中だ。私の事は認識できない。まあ、この仮面はスタイルの問題だとしてくれ」
「なるほど、元の人間が誰だか知りませんが、『処刑刀』という事ですか」
この奇妙な仮面を着けた男、『蝕武祭』の専任闘技者として名の知れた男であった。
「君とは随分前から話し合いたいと思っててね、付き合ってもらえるかな?」
その言葉を灰は拒否する事ができそうになかった。
学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださり有難うございます。
小指をぶつけて悶絶している夕凪です。
お気に入り登録100件突破!!!!!!有難うございます!!!!
昨日寝る前に見てみたら100という数字に自分でも驚いております!!
皆様本当にありがとうございます。
それではまた次回。