ターフタウンをあとにしたアスベルは、次のジムリーダーが待ち受けている町・バウタウンを目指す。
道中でマリオンやホップという幼馴染と再会しともに切磋琢磨をする中、アスベルは不思議な夢を見たのだった。
不思議な夢を見ることがありながらも、マリオンやホップとキャンプの一夜を過ごしたアスベル。 朝起きて彼らと別々の道を歩くことになりながらも、アスベルはまっすぐにバウタウンを目指し、たった今到着したところである。
「ここがバウタウンか」
バウタウンは、常ににぎわっている市場と美しい海が望める港町だ。 潮風を浴びながらアスベルは、遠目に見える海を見つめて呟いた。
「海がきれいだなぁ……ん?」
だがその時、遠目に人だかりが出来ていることに気付いた。 そしてその人だかりの中心には、サングラスをかけた男と長身の女性の姿があった。
「みなさん、ローズ委員長は多忙の身なので、ここまでにさせていただきます!」
「はーい!」
「ローズ委員長、またね~!」
「あ、みなさん……! サインもするしリーグカードもプレゼントしますよ!?」
ローズ、という名前を聞いてアスベルは戸惑う。 あそこにいるサングラスの男の正体が、ローズ委員長であると気付いたからだ。
「え、あれ………ローズさんなのか?」
少しだけ、私服がダサイと思いながら、ローズを遠目から見ていた。 そのとき、同時に彼のそばにある少年が立っていることにも気付いたが、なにもいわずにアスベルはじっくりと、目の前でローズのまわりからファンであろう女性達が立ち去っていく様子を見つめていた。
「………オリーヴくん、君は少し厳しすぎるよ、そういうのよくないよ? 私達が頑張ることができるのはファンが支えていてくれるおかげなんだから、大事にしないと」
「もちろんファンも大事ですが、委員長には仕事をしてもらわないと困りますので………それこそ、ファンのためにするべきことです」
そうローズに忠告をしたのは、長い髪に高いヒールを履いた、オリーヴと呼ばれる長身の女性だった。 二人がそう対話をしていると、近くにいた少年…ビートが彼に声をかけてきた。
「僕も………ローズ委員長のために頑張って見せますから!」
「ええっと、君はたしか………」
「ビートです」
「そうそう、ビートくんだ! 昔ポケモンをあげたときに比べると、立派になりましたね」
名前を忘れてたよな、と近くで話を聞いていたアスベルはそうつっこみたかったが、空気をよんで黙っていた。 そんな彼の心情及び存在など気付いていないようであり、ローズとビートは会話を続ける。
「この様子だと、ジムチャレンジに勝ち残るのは…君か、チャンピオンが推薦したトレーナーだろうね」
ローズのその言葉をきき、ビートは眉をピクリと動かした。 どうやら、自分以外の存在が彼の口から出てくることが気にくわなかったようだ。 それが、ローズは自分以外の者にも期待や注目をしているように感じて。
「………委員長に選ばれた僕は、誰にも負けません! それでは失礼いたします」
そう彼にハッキリと告げたビートは立ち去っていった。 その直後、ローズはアスベルの存在に気付き、声をかけてきた。
「おや? 君は……アスベルくん!」
「……えと、ご無沙汰しています」
アスベルは彼に見つかったことに対し気まずそうにしつつ、そう挨拶をした。
「そうですか。 貴方が、チャンピオンの推薦したトレーナーの一人………アスベル選手ですね」
「あの、失礼ですが……貴女は?」
「ああ……こちらこそ失礼しました。 私はオリーヴ。 ローズ委員長の秘書をつとめています」
オリーヴはそう自己紹介をした。 それに続いてローズがアスベルの顔を見ながら話を続けてきた。
「実はダンデくんが何故、君を推薦したのか……私も気になっているんだよね。 それまで誰も推薦したこともなかったのに」
「…………そうでしょうね。 彼は最近まで、オレとホップをまだ未熟だと思ってましたから………」
「ほう……?」
アスベルがそう語ると、ローズはこの後のアスベルの予定を訪ねる。 それにたいしアスベルは正直に、この後はバウスタジアムにいきそこのジムリーダーと勝負をするつもりだと告げる。 それをきいたローズは、あることをひらめいた。
「うん、さすがは私だ! いいことを思いついたよ!」
「え?」
「君への激励として、勝負の前に食事に誘ってあげよう! 君のことを色々知りたいからね! この町で一番のシーフードレストランに、一緒にいこう!」
「え、あの………」
どうしてそうなったのか、アスベルは問いかけたかったがそれよりも早くローズはそのレストランに向かって歩き出していた。 隣にいたオリーヴは、現状についていけていないアスベルに、オリーヴは告げる。
「委員長は決めたことをすぐに実行なさらないと、気が済まないお方です。 そのため、ご同行してもらいます」
「大丈夫なんでしょうか?」
「………危害はいっさい加えたりしないので、ご安心を」
そう言ってオリーヴも歩き出した。 アスベルはこの現状からどこか逃げ出したい気持ちになったものの、それを実行したら失礼ではないかという気持ちにもおそわれた。
「………まぁ、腹拵えならいいか………」
そういってアスベルはローズやオリーヴとともに、レストラン防波堤に向かうのであった。
「ソニアさん!」
「あれ、アスベル」
そうしてレストラン・防波堤に入ったアスベルは、そこでソニアと再会したので驚いた。 ソニアもまた、アスベルがここにいることを予想していなかったため彼の姿を見て驚いているようだ。
「あなたも、ローズ委員長に呼ばれてきたの?」
「ええ……貴女もここにいるなんて、思ってませんでしたが………」
「まぁそうだよね……実はお婆様の代理、のようなものなんだけどね」
「ああ、そうなんですか」
そう言葉を交わしていると、ローズが2人にも席に着くように促してきた。
「さぁさぁ、二人ともおかけになってくださいよ!」
「は、はい」
彼に言われるがまま席に着き、運ばれてきた料理を口にする。 ここの料理はバウタウンの中だけでなくガラルでも知られているだけあって、どの料理も美味だった。
「ごちそうさまでした」
「うぅん! バウタウンは水産の町……やはり食べるなら現地でとれたものだね! すべてのメニューがゴージャスです!」
「………ハァ………」
「ところで、マグノリア博士はお元気になされていますかな?」
そこでローズは、マグノリア博士の名前を出してきた。 彼女がその博士の孫であることを知っているのだろうか。 アスベルは、ローズと博士が顔見知りであるかを確認するために問いかける。
「委員長は、博士とお知り合いなんですか?」
「ええ、博士にはお世話になりましたよ。 ねがいぼしの秘めたパワーで、ポケモンを巨大化させるダイマックスバンドを作れたのも、彼女の研究のおかげですしね」
「そうなんですか」
ソニアは、戸惑いながらもマグノリア博士がダイマックスにたいしてどう思っていたかを、彼女が口にしていた通りのままに伝えた。
「はぁ………ダイマックスについてはまだ不明なことが多く、不安もあると申していました。 私が旅立つときも、パワースポット探しマシーンまで持たせたぐらいですし………」
「パワースポット探しマシーン!」
その装置の名前にすぐに反応したローズは、さらに話を続ける。
「それのおかげでパワースポット……ガラル粒子が発生しダイマックスを使える場所も判明したのですよ! そこに作られたのが、ジムチャレンジで試合を行う、スタジアムなんですからね!」
ローズはそう意気揚々と語ってはいたが、ふいに顔色を変えて言った。
「だけど、マグノリア博士が不安がっているのは、よくないねぇ……」
「………?」
ダイマックスに不安を抱くこと、それの何がよくないのか。 ローズにとってダイマックスの有無は、それほどに重要なことなのだろうか。 アスベルは様々な考察を浮かべていたが、この場でその答えを出すことは出来なかった。
「私に何かできること………そうだ、ソニアくん! ナックルシティにある宝物庫に足を運ぶといいよ」
「宝物庫、ですか……」
「私は歴史の中に、ダイマックスの秘密をひもとく鍵を考えています」
それにたいしても、アスベルは表情に微妙な変化を浮かべた。 ほぼ、自分に自覚はないが。 ローズの提案に対しオリーヴは告げる。
「かしこまりました、宝物庫の見学手続きを行っておきます………ですが委員長、そろそろお時間です」
「えー? まだアスベルくんの話を聞いていないのに……仕方ないな………」
「あ、オレのことは気になさらないでください」
「そうかい?」
アスベルはローズに気を使ってそういうと、ローズはまだ少し残念そうにしながらも立ち上がる。
「名残惜しいですが……仕方ないですね、やるべきことはすぐにやらないと!」
「そんな急がなくてもいいと思いますが……」
「うーん、私が納得できないのだよ」
「………そ、そうですか………」
せっかち、という言葉が正しいのかどうかはわからない。 だがローズの行動力は少し、普通ではない……普通の人間より先走りすぎているように思えてならなかった。
「君も、ガラルの未来のために尽力してくださいね!」
「え………あ、はい………」
「では、ごきげんよう!」
最後にローズはアスベルにそう言って、オリーヴとともにそのレストランを出て行った。 彼の帰り際、女性の黄色い声が聞こえてきた。 そして残されたアスベルの横で同じく残されたソニアは、髪をいじりながらため息をつく。
「はぁ……親切のつもりなのかなぁ? 確かに伝説を調べるには、宝物庫はもってこいだけどさ…………」
「苦労しますね………」
「うん、前も言ったけど……気にしなくていいからね?」
ソニアはそういうと、アスベルの目的についての話に向かって言った。
「ところでアスベル。 ここまできたということは、このあとルリナに挑戦するんだよね?」
「はい」
「やっぱり! せっかくだし試合を見ていこうかな、と思ってたんだ。 あたしね、ルリナとは親友同士なんだ」
「へぇ、そうだったんですか」
「うん、じゃあ試合を楽しみにしてるね」
そう言ってソニアはレストランを出て行き、それに続くようにしてアスベルもレストランをでる。
アスベルは自分のポケモンをポケモンセンターで回復させたあとで、バウスタジアムへ向かおうとしていた。
「あれ………あの人………」
その途中、スタジアムの近くにある、2匹のポケモンの石像が立っていることが目印になっている灯台で、ある人物を見かける。 その後ろ姿にアスベルは見覚えがあり、近づいて声をかける。
「あの……もしかして、ルリナさんですか?」
その女性にアスベルは問いかける。 その声に気付いた女性は振り返り、彼の顔を見た。
「ジムチャレンジャーさん、ですね」
「えっ………あ、はい」
水色のメッシュが入った、黒く長い髪。 健康的な褐色肌に、スマートで長身なその女性は、アスベルを見て彼が何者かも言い当てる。
「しかも、チャンピオンの推薦したトレーナーでしょう?」
「……よく……わかりましたね」
「あなた、ジムリーダー達の間でちょっとした有名人なのよ」
「………有名人………」
アスベルは自分の眼帯にふれながら、ルリナに問いかける。 自分の顔は、この眼帯が理由で目立ちやすいのかと感じたからだ。
「………やっぱ目立ちますか、これ?」
「どこを気にしているのよ」
そりゃ眼帯をつけている人は滅多に見ないけど…とルリナは言葉を続けつつ、アスベルに対してジムチャレンジャー、として接する。
「あなたの言うとおり、私がバウスタジアムを預かるジムリーダー・ルリナです。 あなたが私に声をかけてきたということは、これから私に挑戦するつもりね」
「ええ、もちろんです」
「それなら私もすぐにスタジアムに帰ります。 まずは受付をしてジムミッションをクリアしなさい。 それができたら、戦ってあげるわ」
そうルリナが告げると、アスベルはしっかりと頷いた。
「はい、では後ほど……お会いしましょう。 あなたのこともオレは越えて見せます」
「……それくらい強気な方が、手応えがありそうだわ」
これは試合が楽しみだと、ルリナは笑って答えてスタジアムに向かった。 思い出すのは、ジムリーダー内でダンデが推薦状を出したトレーナーがいるという話になったとき、ダンデが口にしていたこと。
「………彼が言うには、実弟であるホップと比べてみてもあまり自己主張をしないおとなしい男の子、らしいけど………。 あの目…バトルに対する情熱は強そうね。 おまけに、ハンディを抱えている………それをどう、覆してくるのか………」
先日、ダンデの実弟であるホップの相手をした。 彼も彼でルリナには勝利し、また特別な才能を持っているとルリナは気付いている。 それでホップの実力はいかほどのものかを知った。
「考えただけで、楽しみだわ」
では、アスベルはどんな素質を秘めているのか……。 ルリナはそれを見極めるのが楽しみになっていた。
ルリナとわかれた後、アスベルは彼女の後を追いかけるようにしてバウスタジアムに向かい、受付をすませた。
「キャッ!」
「サルノリ!」
ユニフォームに着替えるため更衣室に入り、着替えていたそのとき、サルノリがアスベルに飛びついてきた。 どうやら今回こそは自分の出番だと言いたいかのように。
「……わかっている、今回はみずタイプのポケモンが多くでる。 ここはキミの出番だ」
アスベルがそういうと、サルノリはキキッと嬉しそうな声を上げていた。 気合いが十分だな、とアスベルが笑いかけているとスマホロトムがメールが入ったことを知らせてくる。
「あれ、メール?」
メールの送り主を確認してみると、そこにはダンデの名前があった。
「ダンデさんからだ………何々………」
ダンデからのメールには、以下のように書かれていた。
「アスベルへ。
そろそろ、ジムチャレンジの冒険も快調に進んでいる頃だろう。
ポケモン達は大事にできているから問題はないが、強くなっているか?
今回メールを送ったのは、委員長から話を聞いて……それで少し、気になることがあったからなんだ。
ここでこんなことをきくのも変な話かもしれんが……左目の調子はどうだ?
今はすっかり痛まなくなったとお前は語っていたが、ジムチャレンジはなにが起こるかわからない。
傷口が露見されないように、また開かないように用心をしておけよ。
じゃあな、自分のことも大事にしつつ、ホップのこともよろしく頼むぞ。
ダンデ」
ダンデからのメールは以上だ。
彼は今もなお、アスベルの傷……特に左目のことを気にしているのだ。
「………心配かけすぎかな、オレ………。 しかも、今になってオレの目を気にしてくるなんて………」
ダンデのメールが届く直前、ローズが自分に興味を示していたこと。 それを思い出したアスベルはある予感がして焦る。
「…………委員長、まさか………話を聞きたいって言ってたのは………オレの目のことだった、のか………?」
あまり触れないでほしい、とアスベルはローズに以前そう言った。 それは、この傷に他者が振れることを好ましく思わないアスベルの性格故のことだった。 だが、もし他人がこの傷に興味を持ったら………そう考えたらアスベルは背筋が凍る思いになった。
「キキッ」
「………サルノリ………そうだな、今はそんなことはどうでもいいな。 目先の目標は、ルリナさんに勝つことだ」
そんなアスベルを現実に引き戻したのは、サルノリだった。 彼の呼びかけによりアスベルは我に返り、自分の今の目標を思い出した。
「とはいえ、次はみずタイプだろ……耐水性のある予備の方に変えておこうかな」
そういってアスベルは、バッグから予備の眼帯を取り出し、周囲を警戒しながらつけかえる体制に入る。
「………誰にもみられてないよな………」
アスベルは眼帯の下をみられることを極端に嫌う。 それは彼のコンプレックスであり、決してあかしたくない絶対の秘密があるから。 だから、誰にもみられないところでそれを手早く付け替える。
「よし、いこう」
「キッ……!?」
「サルノリ?」
そこでサルノリに異変が起こる。 サルノリの体は光を放ち徐々にその姿を変えていった。 サルノリの時より背が高くなり、両腕に棒を持ち、目つきも少し鋭くなった、新しいポケモンに……。
「サルノリ……いや、バチンキー!」
サルノリはたった今、バチンキーに進化を遂げたのである。
どうやらちょうど、進化のタイミングが訪れていたようだ。 思えば道中でも道でであうトレーナーとポケモンバトルを何度もしていた。 それにより経験値もいい具合にたまっていたのだろう。
「ふふ、バチンキーに進化したということは……すごく張り切っているんだな」
「キキッ!」
「よし、いこう」
新しい姿になり力もましたパートナーにそう告げると、アスベルはバウスタジアムのジムミッションに挑むのであった。
次回予告。
いよいよ次のジムリーダー・ルリナとポケモンバトルをすることになったアスベル。
水タイプのポケモンを巧みに操るルリナを相手に、アスベルは相性で攻めるが、そう簡単にはいかないのがジムリーダーというところである。
果たして、このジム戦の行方は?