そこも書きたかったけど、いくら事実とは言え顰蹙をかいそうだったので書かないことにしました。
「強くなってかえってきたぞ、ワイルドエリアーッ!!」
エンジンシティでカブとヤロー、ルリナに見送られながらホップとアスベルは次の町を目指して進むために、ワイルドエリアに繰り出していた。
ワイルドエリアにでて早々、ホップは高らかに叫ぶ。
「前にきたのは、まだジムチャレンジ前だったか」
「そうだな!」
一方のアスベルは、はじめてワイルドエリアに足を踏み入れたときのことを思い出していた。 そして、これからもう一度その場所を進むのだと知ったアスベルは、自分の思いを口に出す。
「ホップ、オレ……」
「ん?」
「お前と一緒に……旅にでられてよかった。 お前とこうして競い合い、高めあえることを嬉しく思う。 だから………カブさん達にお前が言ったように、決勝戦はオレとお前でやりたい……お前と同じ気持ちだ。 そのキッカケは………ダンデさんがくれた推薦状と、お前の存在そのものだよ………」
そう、少し思い出につかり切なげな表情で語っていると、ホップは少しだけ照れたように笑いながら、彼にいう。
「なんだよ、そのマンガの最終回みたいな語り! おれ達はまだやるべきことがいーっぱいあるんだぞ! だから、そういう語りはまだ早いぞ!」
「ふっ……そうだな」
「旅の全部を伝説の1ページにするためにも……いっぱい仲間を引き入れて、最強のチームを目指すぞ! アスベルも、おくれをとるなよ!」
「ああ、もちろんだ」
2人でそう言葉を交わし、ジムチャレンジの旅への思いを新たにした。 そのときだった。
「無駄なことはやめておきなさい…どうせジムチャレンジも突破できないのですから」
「ビート」
そこにどこからともなくビートが現れて、2人に声をかけてきた。
「あなた達を推薦するだなんて、チャンピオンもどうかしていますね」
「……なに……?」
遠回しにダンデを侮辱された気がして、アスベルはピクリと眉を動かした。
「アスベル選手、あなたは試合において………片目のみという、大きなハンディキャップを背負っている。 いくら実力があれど、片目だけではいずれ限界がくるでしょう……よくそんな状態でここまでこられた……もとい、ジムチャレンジなどしようと思えましたね」
「………!」
「そちらのホップくんに至っては、ボールもまともに投げられないし……」
目のことに触れられたアスベルは眼帯にふれつつビートを睨みつけていると、ホップはふんぞりかえってビートに向かって言う。
「わかってないな。 おれの投げ方は最強だし、アニキは世界一のチャンピオン! バカにすんじゃねーぞ!」
「やれやれ……これなら、あなたがどれほど弱いのか、ハッキリ教える必要があるね」
どうやら、ビートはホップに勝負を申し込んでいるようだ。 そんな自信満々なビートの態度に、ホップは思ったことをそのまま口に出した。
「よく言えるぜ、お前何度もアスベルに負けてるくせに……」
「ホップ、そんな本当のことをいったら失礼だぞ?」
「つまりだぞ、アスベルのライバルであるおれにも勝てないぞ!」
「それはどうなんだ……」
ホップの言葉に対し、ビートは彼を鼻で笑ってかえす。
「そんなに他人の名前を出している余裕があるなら………こちらにきて、君自身の力を見せてくださいよ」
そういって歩き出したビートを追いかけるようにして、ホップは走り出した。
「だから、これから勝負で教えてやるんだぞ!」
「ああ、ホップ!」
「じゃあなアスベル! ナックルシティであおうぜ!!」
そう言い残して、ホップは走り去っていってしまった。 ああなってしまっては2人とも制御がきかないだろうな…と思ったアスベルは、彼のいうとおりにナックルシティへ先に向かい、彼を待つことにした。
「大丈夫か………あいつ………」
「ガァッ」
「………そうだな、あいつは約束を破らない」
ホップの身を心配をするアスベルを励ますかのように、アオガラスが出てきてアスベルにたいし鳴き声をあげる。 それに励まされたアスベルは、アオガラスにたいし笑いかけつつ、ホップの走り去っていった方に向かって呟く。
「……絶対に、オレのところにこいよ。 ライバルとして……!」
「バチンキー、はっぱカッター!」
ワイルドエリアをすすむ途中、アスベルは野生のとても強いイワークに遭遇し、おそわれていた。 初めてきたときにも、アスベルはイワークにおそわれたが、あの時とは違う。
「ふぅ……そこそこのポケモンは、なんとか相手に出来るようになったな……」
ある程度のレベルの野生ポケモンを相手になら、アスベルは対等に戦うことが出来るようになった。 あのころのサルノリだったら逃げていただろうが、今のバチンキーなら勝てる。
「これも、キミが強くなってくれたからだ……ありがとう、バチンキー」
「キッキャ!」
「………さて、少し霧が濃くなってきたな。 視界が悪くならないうちに、走り去るぞ」
「キー!」
ワイルドエリアの気候は変わりやすい。 何故このような奇妙な現象が起こるのかは、今のところ誰にもわからない。 だが今はそれよりも、先へ進むことの方が大事だ。
「ビィィー……」
「……ん?」
そのとき、遠くから泣き声がしたのでそちらを向くと、そこには岩の間で泣いているポケモンがいた。 必死にもがいているのをみるに、この岩にはさまって動きが制限されてしまっているようだった。
「挟まったのか、大変だ!」
アスベルはすぐにそのポケモンに駆け寄ると、岩を動かしてそのポケモンをそこから解放しようとする。 だが、アスベル一人では岩は簡単に動かない。
「バチンキー、手伝ってくれ!」
「キキッ」
アスベルの声に答えるようにして、バチンキーは頷くと岩に手をかけて動かす。 バチンキーの力がサルノリの頃よりあがっているのもあって、岩は動きその中からポケモンを救出することができた。 急いでアスベルはそのポケモンを抱き上げる。
「大丈夫か!」
「………ドァ………」
「うわ、腫れてるな……。 よし、少しまってくれ」
ポケモンは岩に挟まれていたダメージで体の一部は腫れ上がり、弱っていた。 アスベルはリュックをあけるといいきずぐすりやガーゼ、テープなどを取り出し手慣れた仕草でポケモンを手当する。
「ドラメシヤっていうんだな、この子……」
ついでにスマホロトムでそのポケモンのことを調べてみると、そのポケモンはドラゴンとゴーストという二つのタイプを併せ持つ、ドラメシヤという名前であることが判明した。 このワイルドエリアでも、野生の個体が稀に発見されることもあるらしい。 そんなドラメシヤを手当したアスベルは仕上げとして、ドラメシヤにオボンの実を与える。
「きのみも食べたし………ここなら、野生のポケモンにも気付かれないだろう………」
「ドァ」
「ケガが直るまで、ここでじっとしておくんだよ」
そしてアスベルは安全であろう木陰にドラメシヤをおろすと、そのドラメシヤにそう告げる。
「じゃあな」
アスベルはそう言ってドラメシヤに笑いかけると、きのみだけを残して立ち去っていった。 その後ろ姿を、ドラメシヤはじっと見ていた。
「……………………………」
そして、ワイルドエリアを越えるために進むトレーナーは、アスベルだけではない。
「ふふふーん!」
のんきに鼻歌を歌いながらワイルドエリアの美しい草原を歩いていたのは、アスベルの幼なじみである少女・マリオンだった。 彼女もまた、エンジンスタジアムでジムリーダーのカブに勝利し、ジムチャレンジを続行することができた。
「さて…ボクも無事にほのおバッジをゲットして、カブさんにも激励をもらったわけだし! このまま快調にジムチャレンジを勝ち抜くぞーっ!
ね、バニっち!」
そのマリオンの隣には、かつてダンデからもらったポケモンであるヒバニーが進化したポケモン、バニフットがいた。 バニフットとなったバニっちは、任せろといわんばかりに自分の胸をはってそこをたたいた。 そんなバニっちをみたマリオンは、満面の笑顔を浮かべて歩みを進める。
「あれ?」
そこにいたのは、アスベルとはまた別の、幼なじみの少年だった。 彼はその場に座り込んでおり、遠くを見ているようだった。
「ホップ、ここでなにしてんの?」
「………マリオン………」
マリオンが声をかけると、相手が誰なのかがすぐにわかったらしい、ホップは振り返る。 そのテンションの低さは自分の知るホップではない、と感じ取ったマリオンは、彼の異変について問いかける。
「な、なにがあったの………?」
「………お前には関係ないだろ……」
「関係なくないでしょ、幼なじみなんだから! それに、あんたが元気ないと、ボクだけじゃない………ダンデさんも、アスベルも、悲しいよ………」
「………………」
そう真剣な顔で問われて、ホップは少し迷った後、自分の身になにがあったのかを打ち明ける。
「おれ、あるトレーナーと戦ったんだけど…………それで、ポケモンバトルで負けて…………」
「えっ………まさか………」
「違うよ、バトルの結果が問題じゃないんだ………ただ、おれは今まで、考えナシで突っ込んでいただけだって………思い知っただけ…………それだけ、だぞ……………」
それを思い知っただけでは、ここまでへこんだりはしないだろう。 彼が自分の実力を知ったことをいやな予感としてとらえたマリオンは、ホップに問いかける。
「きみ…………まさか、ジムチャレンジ、やめちゃうの?」
「……………ッ」
マリオンの言葉を聞いたホップは、首を必死に横に振った。
「いやだ! ここで諦めたら、それこそアニキを裏切る………せっかくおれを認めて、おれの頼みを聞いて………おれと、アスベルに……推薦状を出してくれたのに………」
「……………」
「それに、ナックルシティにはいかなきゃ………アスベルを、待たせてるから。 …………あいつとの約束だけは、絶対に破りたくないから…………」
そういうと、ホップは無理矢理にでも立ち上がり、歩き出した。 その後ろ姿は不安定だったが、マリオンは彼の背を押そうとする気にはなれなかった。
「…………ホップ………」
誰がホップを負かせそして精神的に追いつめたのか。 マリオンはその人物に対する怒りや憎しみが心の内からわき上がってくるのを感じていた。
「ねぇ、バニっち」
「?」
マリオンは、光のない目でバニっちに問いかける。
「ホップをあんな目にあわせたヤツ……次に会うことがあったら、ボクが懲らしめたほうがいいかな……物理的に」
「!?」
その顔を見たバニっちは、震え上がったそうな。
「………今日はここでキャンプだな、これ以上進むのはキケンだ……」
さすがにエンジンシティとナックルシティの間の距離のことを考えれば、一日で越えるのは無理があったようだ。 アスベルは日が暮れたのをみてテントをはり、キャンプを行うことを決めた。 ポケモン達に手伝ってもらいながらカレーを作り、それを食してさっさと眠りについた。
「……………」
テントの中ではポケモンを全員出して、身を寄せ合いながら眠っていたので、暖かく寝心地がいい。 だが、アスベルは途中で目を覚ました。
「…………こいつは、まずいか…………」
このままでは眠れない。 そう思ったアスベルは起き上がり、テントの外にでようとしていた。 それに気付いたのは、彼にもっとも近いところで眠っていたアオガラスだった。 アオガラスが目を覚ましたことに気付いたアスベルは、ふっと笑いかけながら大丈夫だと告げた。
「なに、ただ…少し…眠れないだけだ」
「ガァ」
「そんな声を出さなくても大丈夫だよ、アオガラス……」
そう言ってアオガラスをなでたアスベルは、テントを出て行った。 そして、霧に包まれた空間の中にぽつんと存在する、湖を見つめる。
「………………」
だれもいないのを確認して眼帯をはずし、湖を見つめる。
「ふぅ………もう痛まないと………そうおもっていたはずなのに……………」
アスベルがこの時間に目を覚ましたのは、幼い頃から何度も見ている謎の夢だった。 今日の夢の内容は、今までとはまた違う内容ながらも、同じ夢だと思いこんでしまうもの。
ただ、今日彼が見た夢は壮絶なものだった。 自分が別の誰かになっていて、目の前には知らない人間がいて、相手は自分を知っているかのように語りかけてくる。 なにを言っていたかまではわからないが、まるで罵声のようであり、自分に刃を向けていた。 自分は逃げることが出来ずにその刃を身に受ける。 その瞬間に、アスベルは目を覚ました。
「……………あの刃…………ときにオレの、目を狙ってた………まさか………」
あの刃はときおり、自分の左目を刺していた。 その瞬間にアスベルは自分の左目に痛みが走ったように感じたのだ。 夢であるにも関わらず、である。 あの夢は自分の目の失明に大きく関係しているのだろうか、アスベルはそう錯覚したが、すぐに現実に引き戻されて首を横に振る。
「…………て、んなワケがないか………」
いくらあの夢が妙に現実的で、自分の失明しているほうの目を傷つけられる内容だったとしても、偶然が重なるわけがない。 それに、あの夢の内容の記憶などアスベルにはない。 だから、双方はまったくの無関係である。
「………今更、もう直らないものを気にしても…………仕方ないのに、な…………」
水面に映った、2度と光の宿らない左目をみて、アスベルはポツリとつぶやいた。 人に見せるにはあまりに残酷かつ悲惨な傷跡の残る、光のない左目を。
次回でナックルシティ到着。
あの人気キャラの登場とともに、アスベルの今後の決意も出てくるかもしれません。