エンジンシティを旅立ち、ワイルドエリアを進んでいたアスベルは、次の目的地であるナックルシティにたどりついた。
「ここだな、ナックルシティ……」
大きな建物と強固な壁に覆われた町、ナックルシティ。 その門の前には守衛をつとめるリーグスタッフと、一人の少年の姿があった。
「あなたは、ジムチャレンジャーの方ですよね? それも、3つのバッジを集めた……」
「はい、当然ですよ。 どうぞご覧ください」
その少年はビートであり、彼がここにいることにアスベルは目を丸くさせる。 そんなリアクションを取ってしまったのは、彼が望む人物ではなかったせいだろうか。
「キミは……!」
「おや」
ビートはアスベルの存在に気付くと、彼のことを鼻で笑い見下し、告げる。
「ホップくんは、来ませんよ」
「なに?」
「だってそうですよね? あんな惨めな負け方をしたのであれば、推薦してくれた人に申し訳なくなって、辞退しますよ」
ビートの言葉を聞いて、彼らの勝敗の行方を知ったアスベルは目つきをきつくさせ、ビートを睨む。 そんなアスベルにたいしビートは再び鼻で笑ってみせると、そのまま町の中に入っていった。
「………オレが本気で競い合いたい相手は、ホップだ! キミじゃない!」
「………」
そのアスベルの言葉に対しビートはなにを思ったかはわからないが、一度立ち止まった後、そのままナックルシティに入っていった。
「………ホップ………」
「キキッ」
「わかってるよ、バチンキー。 今は町の中に入れってことだろう?」
ホップは遅くなってでも、絶対にくると今は信じるしかない。 だから、今は町の中にいくしかない。
「ジムチャレンジャーの方ですね、バッジを確認させていただきます」
「どうぞ」
しっかりとリーグスタッフには、自分が獲得した3つのバッジを見せて。 そうしてアスベルはナックルシティの中に入ったのだが、そこですぐにビートの姿を発見する。
「あれは……」
遠目であり、会話の内容まではわからなかったが、ビートは目の前にいるローズに対し必死に何かを訴えているかのようだった。 その後、ビートはオリーヴとともに一度その場を離れ、ローズだけがそこにのこっていた。
「………?」
「おや、そこにいるのは……アスベルくんだね」
「あ、えっと……ご無沙汰しています」
「そうだね……それよりも、もしや、私達の話を聞いていたのかね?」
ローズはアスベルの存在に気が付くと、声をかけてきた。 そして、アスベルはローズのその問いに対しては首を横に振る。
「いいえ。 貴方達が話をしているのは、遠目に見てわかったのですが………お話の内容までは、聞こえませんでした」
「おや、そうですか」
「ちなみにアスベルくん、君のねがいぼしは………突然、空から降ってきたものらしいね?」
「は、はい」
突然ねがいぼしの話になり戸惑いつつも、事実だったのでローズの言葉には肯定する。
「君も知っているように、ねがいぼしはダイマックスバンドにもつけられている不思議な石……。 ねがいぼしには、ポケモンを巨大化させるだけではない……エネルギーを秘めているんだよ」
「……………」
「私はねがいぼしのエネルギーを、ガラルのエネルギーに変えているのだが……そうだな、詳しいことはナックルスタジアムではなそう!」
「えっ」
そう言われ、アスベルは半ば強引にローズに誘われる形でナックルスタジアムの内部にはいった。 内部は、ジムバトルの受付や電子掲示板のほか、エレベーターのようなものまで配属されている。
「ここがナックルスタジアム………」
「君がここのジムリーダーにいどめるのは、ジムチャレンジの最後だよ」
そういいつつ、ローズはナックルスタジアムが他のスタジアムと違うところを語る。
「ナックルシティのスタジアムは、エネルギープラントとしての役割を兼ねているんだよね」
そう言ってローズは自分のタブレットを操作して、アスベルにさらにわかりやすく説明をする。
「ナックルスタジアムの塔からねがいぼしのエネルギーを吸収して、地下のプラントで電気に変えて、ガラルのみんなに届けているよ!」
「そんな大事な機関を、常に激しいバトルを繰り広げるような……このスタジアムに………? 危険性はないんですか?」
「問題はないよ、このスタジアムは強固なつくりになっているからね!」
「そ、そうですか………」
そういう問題ではない気がしたが、それを言うと話が長引きそうなのでそれ以上はなにも言わず、ローズの話に耳を傾ける。
「私達の暮らしや社会は電気やガス、水道といったエネルギーがないと成り立ちません。 私の関連グループ・マクロコスモスは、ねがいぼしのエネルギーによって、みんなの生活を支えることを目標としているのです!」
「………はぁ……」
アスベルはただ淡々と、ローズの話に耳を傾けてはいるのだが、理解をするには至らない。 そんなとき、オリーヴは時計をみてなにかを思い出したようで、彼に耳打ちをした。 どうやら、スケジュール上はここまでしかローズは自由な時間がないようだ。
「……おっと、もう仕事の時間だ。 オリーヴくんに怒られる前に、移動しようじゃないか」
「えっと、でしたらオレは、ここで失礼しますので……」
「いいね! 色んな人と競い合って、ジムチャレンジを盛り上げてくださいよ!」
そう言われてアスベルはスタジアムをでて、ナックルシティの町を一人歩いていた。
「唐突にあんな話をされるから、驚いたな……オレにあんな話をしても、メリットなんてないのに…………」
「アスベル!」
「………あっ、ダンデさん!」
そこにいたのはダンデだったので、アスベルは迷いなく彼に駆け寄る。 さらに彼の隣には、褐色に長身の男性がいて、アスベルの存在に気づく。
「へぇ、こいつがお前の推薦したトレーナーだな?」
「ああ、俺のもう一人の弟……アスベルだ」
「だ、ダンデさん……!」
ダンデが堂々と弟と紹介してきたので、アスベルは戸惑う。 そんなアスベルのことなどお構いなしといった調子で、ダンデは隣にいた男性を紹介する。
「アスベル、彼は知ってるだろ? 彼がこのナックルスタジアムのジムリーダーで、俺がライバルと認める男……キバナだ」
「よぅ! よろしくな!」
「は、はぁ……はじめまして……」
キバナは人懐っこい笑顔を浮かべながら、手を振り挨拶をしてきた。 アスベルも少し戸惑いながらも、同じように挨拶をする。
「そうだ、アスベル」
「はい?」
「さっきホップに久しぶりに会ったら、いきなり謝られたんだが………お前、なにか知らないか?」
「…………実は……」
アスベルはホップと、ビートというトレーナーが勝負をしたとことをダンデに話した。 隣にいたキバナも、冷静にその話に耳を傾ける。
「……そんなことがあったのか、お前の弟には相当な試練だな」
「だな」
話を聞いた2人は納得したようだったが、そこでダンデがアスベルの顔から何かを察し、少し訝しげに、問いかける。
「まさかアスベル………お前、その相手に自分が、ホップにかわって……仕返しをしようとしているんじゃないだろうな?」
「………ッ!」
ダンデの言葉に対し、アスベルは息を詰まらせ視線を逸らした。 そんな彼のリアクションで、図星だったと悟ったダンデはため息をつき、少し眉をつり上げてアスベルに告げる。
「ダメだぜ、アスベル!」
「ッ……」
「そんなことをしたら、ポケモンはお前にとって……ケンカの道具になってしまう。 どれほど辛くても悔しい思いをしても、どんな相手であろうと……個人的な恨みや憎しみで戦ったら、それは一緒にいるポケモンに対する……裏切りもいいところだ」
「………」
「特にお前のポケモンは、お前を優しいトレーナーだと、心の底から思っているに違いないから……尚更だ」
ダンデの言葉を聞き、アスベルは自分の中の憎悪を自覚する。 そして、モンスターボールを入れている上着のポケットに触れ、眉を下げる。
「…………すみ、ません……」
「負けて悩んで、どうすればいいかを考えろ! あいつ、案外いいトレーナーになれると思うぜ」
「お前らしいな、そういう考え方」
「今回の負けも、ホップの自身の問題だ。 お前はホップを見捨てず、真剣に向かい合ってやれ。 そして、あいつが頼ってきたら力になってやってくれ。 それが、お前があいつのためにしてやれることだ……いいな?」
「………はい」
アスベルの返事を聞き、ダンデはにっこりと笑った。
「じゃあ俺は、ローズ委員長と打ち合わせがあるから、行ってくるぜ」
「場所……わかるか? 一応、お前がわかりやすいように、オレ様のバクガメスを置いておくけどよ……」
「おう、目印サンキューな! お前も、アスベルを案内してやってくれ! じゃあな!」
そうキバナにつげ、ダンデはそのまま走り去っていった。
「やれやれ……出来れば目印なしで、目的地へ行けるようになってほしいぜ……」
立ち去っていくダンデの後ろ姿をみながら、キバナはそう小さくグチをこぼしたそうな。
「じゃ、ダンデに言われちまったのもあるし……お前はこれからどうするつもりでいるんだ? なんならオレ様が案内してやるぜ」
「そうですね……あっ」
キバナに言われ、アスベルはふとある場所のことを思い出しその話題を出す。
「それでは、宝物庫にご案内願えますか? 確かあなたが、そこの番人の役目を持っていたんですよね」
「おお、宝物庫か。 歴史からポケモンを学ぶのも、強くなる秘訣の一つだな………よし気に入った! オレ様についてきな!」
そう言ってキバナはアスベルを、城のような外観を持つある建物に連れて行ってくれた。 その中の受付にはナックルスタジアムのジムトレーナーが立っており、キバナは彼にアスベルを宝物庫に通すと伝えた。
「さて……この上が宝物庫だぜ、いってこい」
「はい」
まずは荷物預かり場でリュックを預け、アスベルは階段を上っていく。 階段を上ったら扉があり、そこをあけると一度屋外にでるかたちになる。 そして、その先にはまた別の塔が存在しており、その塔こそが宝物庫だろうと思ったアスベルは、その扉を開ける。
「ソニアさん!」
「あ、アスベルじゃない」
そこには、ソニアの存在があった。 彼女はガラル神話を調べるために旅をしているところなのだが、この宝物庫にも、彼女の求めるものがあったということだろう。 そう考えつつ顔を上げるとそこには、4枚のタペストリーが天井からつり下がっていた。
「………これは………」
「すごいよ、この宝物庫! ガラルの歴史を伝えるタペストリーが残されているの」
そう語り、ソニアはタペストリーをたどりながらアスベルに一枚一枚の内容を伝える。
「ねがいぼしを見る若者2人。 災厄の訪れに困惑する若者。 災厄を追い払う剣と盾を見る若者。 王冠をかぶる若者………。 これは、ガラルに王国ができたときの物語を伝える、タペストリーなの」
「…………不思議と惹かれるな………」
そのタペストリーに自然とひかれたアスベルは、思ったことをそのまま口に出した。 そんなアスベルに対しソニアは、問いかけをする。
「ねぇ、気になるところはないかしら?」
「そうですね……英雄が2人いるところでしょうか。 エンジンシティのホテルにあった英雄の像は…………1人だったのに…………」
「そう。 でもここのタペストリーでは、若者2人と記されている。 果たしてどちらが正解なのか……ブラックナイトは結局なんなのか……。 ここから、考えを整理してまとめるべきね……」
アスベルの意見を聞いたソニアは、思考を巡らせる。 そんなとき、アスベルはなにか、声のようなものをきいた。
「あの、何か仰いましたか?」
「え、なにも知らないけど?」
「………そう……ですか…………」
まただ、とアスベルはソニアがなにかを口に出したわけではないことを知り感じる。 旅にでてからと言うものの、こういうことが頻繁に起きる。 ガラルの伝説に関わると、それを強く感じるようになる。
「じゃあ、オレはまだ旅の途中ですし………失礼します」
「そうね、参考になる意見をありがとう! また協力をお願いするかもしれないけど、そのときはよろしくね!」
「はい!」
「ジムチャレンジをがんばりな、若者よ!」
そうソニアから激励を受けたアスベルは、宝物庫を出て行った。 直前に、4枚のタペストリーを見たあとで。
「…………」
そこでソニアはふと、アスベルがターフタウンの地上絵に注目していたことを思い出した。
「そういえばアスベル………地上絵も見入るかのように見ていたな………」
「もういいのか?」
「ええ、ソニアさんはもう少しみておく……って言ってましたけど」
アスベルの言葉を聞き、キバナはそうかと返しつつあのタペストリーについて話を続ける。
「タペストリーに描かれているのは、2人の英雄。 今のガラルでいえば、チャンピオンのダンデが英雄……といったところだな。 アスベル。 お前の挑戦の最終目的は、そのダンデに打ち勝つことだぜ」
「………あの人に………」
キバナの話を聞いて、アスベルはダンデの姿を思い出し語る。
「…………あの人は、オレにはまぶしくて……あの人をこえること……そして、あの人のいる場に自分が立つなんて、想像はできません」
「……………」
「…………けど………自分の道を、中途半端に終わらせる真似はしたくない………。 それこそが、オレの挑戦を認めてくれた、あの人を裏切らないたった一つの道……。 だから……オレは、ひたすらに戦うだけです」
「……まぁ、今はそれでいいだろ」
そう言葉を交わしたあと、アスベルはロビーに預けていたリュックを受け取る。 するとそのとき、違和感を抱いた。
「ん?」
「どうした?」
「なんか………リュックが少し、重いような………」
「重いって、なんかヘンなもの入れてるのか?」
「まさか」
アスベルは確認のためにリュックを開けると、そこから一匹のポケモンが飛び出した。
「ドァーッ!」
「うわぁーっ!?」
「おっとと」
飛び出したものにたいし驚き、転びかけたアスベルをキバナが支え、目の前に現れたポケモンを確認する。 リュックから飛び出したポケモンの正体それは、ドラメシヤだった。
「こいつ、ドラメシヤじゃねーか。 お前こんなポケモンも持ってたのかよ?」
「え、いや……オレの手持ちにそんなポケモンは……」
自分の手持ちにはドラメシヤはいないはず、アスベルは顔を上げて確認をする。 そしてそのドラメシヤをみて、あることに気付く。
「あれ、キミは………」
「心当たりがあるのか?」
「はい……ワイルドエリアで傷ついたのを助けて、野に返したんですが……どうして」
「ドア~~~」
「……えーと……」
どうしてドラメシヤがここにいるのか、そう問いかけたかったが、当のドラメシヤは無邪気な表情で鳴き声をあげるだけだ。 そんなドラメシヤの様子を見たキバナは、ドラメシヤの気持ちに気づきアスベルに言う。
「そいつ、お前のことを気に入ったみたいだぜ?」
「えっ?」
「いいじゃねーか、連れてってやりなよ。 そいつが望んでるのだからよ」
キバナにいわれ、アスベルはそのドラメシヤをみつめ、そして問いかける。
「じゃあ、ドラメシヤ。 オレと…くるかい?」
「ドァッ!」
ドラメシヤは、アスベルとともにいくことを選んだ。 そのことにたいしアスベルは笑みを浮かべ、キバナも微笑みながら話を続けてくる。
「そいつは育てりゃ、誰もがビックリするくらい強くなる。 けど、それを実現させるのは、まさしく茨の道だぜ」
「………それくらいのこと乗り越えないのに、トレーナーを語る気はありません。 この子は、オレが絶対に強く育てます………仲間になったからには、手放したりしません」
「いい度胸だな」
そうでなくては、と言わんばかりにキバナは口元に笑みを浮かべた。
「お前が挑戦しにくるのを、オレ様は待ってる。 だから、強くなってこいよ」
「はい」
そうキバナと言葉を交わし、アスベルは次の町を目指すために、足を動かした。 ただずっと前へ。
ハッキリ言いますと、アスベルはビートのことはもう眼中にないです。
マリオンやマリィには普通に女の子として優しく接してますが。
彼が一番視野に入れている人物は、ホップだけなのでしょう。