ここは本編でも精神がつらいところでしたね。
ナックルシティでダンデやキバナに出会ったアスベルは、ここからのジムチャレンジで勝ち進むため、早々にナックルシティを旅立っていった。 新たな仲間である、ドラメシヤとともに。
「次のジムバトルが行われるのは、ラテラルタウンのラテラルスタジアムだ。 新しい仲間もいることだし……みんな、気を引き締めていくぞ」
そういってアスベルは自分のポケモンが入ったボールを、専用のポケットに入れて歩き出す。 この橋を渡った先の峠を乗り越えていけば、次に挑むべきスタジアムのある、ラテラルタウンにいけるはずだと思ったから。 だがそのとき、アスベルの視界にある存在が入ってくる。
「あれは……エール団」
それは、各地でジムチャレンジャーの妨害をしている集団、エール団だった。 そのそばには、スナヘビというポケモンが眠っている。
「なんとかわいいスナヘビ」
「かわいすぎる瞳」
「なにやってんだ、ホントに………?」
スナヘビをみてそう語る、エール団をみてアスベルは呆れた。 そんなアスベルに気付いたエール団は、彼に向かって言った。
「我々エール団は、スナヘビが安心して眠れるように応援していーる!」
「……じゃあおとなしく寝かせてやればいいだけだろ……」
エール団に対しアスベルはあきれた様子でツッコミを入れていると、通りがかりの女性がその道を通ろうとしていた。 女性がスナヘビを起こさないから通してくれというと、エール団はどうぞどうぞといってすんなり女性を通した。
「あ、ホップ」
「……エール団の人たち、そこ通ってもいい……?」
そこにホップが合流してきて、エール団にそう問いかけると、エール団は態度を一変させた。
「子どもはウルサイから、ダメ!」
「特にチャレンジバンドをつけているジムチャレンジャーはキライなので、足止めしますっ!」
エール団のその反応を見て、予想通りだとアスベルは思う。 その横ではホップがわかったよとだけ言って、アスベルに告げる。
「アスベル、こいつらがいると先へ進めないから……ここは任せたぞ」
「……ホップ……?」
さっきから元気のないホップが気がかりだったが、今は目の前のエール団をなんとかしなければ。 エール団がフォクスライとバルチャイを出すと、アスベルも2個のボールを構える。
「………わかった、ここはオレが戦う。 頼むぞ! アオガラス、ヤクデ!」
アスベルがこの勝負に出したのは、アオガラスとヤクデの2匹だった。
「フォクスライ、でんこうせっか!」
「バルチャイ、つつく!」
「アオガラスはたいあたり、ヤクデはひのこ!」
フォクスライのでんこうせっかにはアオガラスのたいあたりでむかえうち、バルチャイのつつくを回避したヤクデはひのこで攻撃をする。
「バルチャイ、ヤクデについばむ攻撃!」
「アオガラス、ヤクデを守れ! ドリルくちばしだ!」
バルチャイの攻撃をアオガラスで受け止め、フォクスライをヤクデが攻撃することで足止めをする。 ときにはアオガラスがその背にヤクデを乗せて高く飛び、ヤクデが真上から2匹を攻撃するスタイルもとった。
「………アスベル………」
その勝負を、ホップは黙ってみていた。 以前に第2鉱山で2人のエール団を相手に戦ったことがある。 そのときはアスベルを助けなければと思い、彼と組んだことでエール団を蹴散らすことができたのだが、今はアスベルが1人で2人を相手に戦っている。
「バルチャイ! そこでもう1回、つつく攻撃!」
「かわせっ!」
だがバルチャイは、ポケモン達が攻撃を回避したことで、そのままアスベルの背後にいたホップにつっこんでいった。
「ホップ!!」
「……!」
攻撃があたりそうになったところで、アスベルはホップの前にたつ。
「クッ!」
「アスベルッ……!」
ホップをかばったアスベルは、手の甲から血を流しながらも目の前のエール団をにらみつけながら、アオガラスに指示を出す。
「アオガラス、ドリルくちばし!」
アオガラスはアスベルの指示にあわせて、エール団のフォクスライにドリルくちばしを食らわせ戦闘不能にする。 それにたいしもう1人のエール団がバルチャイに指示を出してヤクデを倒そうと試みてくる。
「無駄だ」
だが、それよりもはやく、ヤクデがひのこをはなちバルチャイを足止めする。 それでバルチャイがやけどをおい怯んだところで、アオガラスがつばめがえしを放ち、相手のバルチャイを倒した。
「うぅ………なんて、強さ………!」
「これ以上騒ぐと、スナヘビが目覚めてしまうので……エール団はそっと立ち去ーるのです!」
自分達の手元には戦えるポケモンがいなくなったことで、エール団はさっさと立ち去っていった。
「………やれやれ………だったら戦ったり妨害することをしなければよかったものを………」
「ガァ」
「クデッ」
そんなエール団に対し、ポケモンたちとともに呆れた態度をとるアスベル。
「とはいえ、なんとか立ち去ったな……。 これで無事に、ラテラルタウンを目指して進めるぞ」
「…………………」
「スナヘビも、大丈夫みたいだ……よかった」
スナヘビは、自分の近くでポケモンバトルが起こっていたことなど知らず、ぐっすりと熟睡していた。 あれはエール団の鳥越し苦労だったんだなと苦笑しつつ、アスベルはホップの安否を確認する。
「……そうだ。 大丈夫か、ホップ?」
「アスベルこそ、大丈夫なのか…!? ケガしちゃったじゃねーか……!」
「なに、これくらいなら……ツバでもつけとけばなおる……。 グローブも、この程度ならすぐに直せる」
「でも、おれをかばったせいで……!」
「だから、このくらいのことは気にするなって」
そう言ってアスベルはグローブをはずし、血が出たところに舌をはわせてなめとった。 今やちょっとやそっとのケガでは動じないアスベルをみて、ホップは思ったことをそのまま口に出した。
「やっぱ、アスベルは強いぞ……!」
「……ホップ……?」
さっきから元気のないホップをみて、アスベルは心配になり彼の顔をのぞき込む。 そんなアスベルの行動で自分のことを気にしているのだと悟ったホップは、自分になにがあったのかを語り出した。
「あのさ………おれ、ビートに……ぼろ負けして………」
「ああ」
「………いや………負けたことはいいんだ………勝負ってそういうものだからな………」
彼は勝負の結果に対する厳しさを理解し、受け止めている。 だからそのことについては深くは求めず、追求もしない。 それに、今はそんなことよりも重要なことがホップにはあった。
「ただ………あいつ……に……アニキの顔に泥を塗っていますねって………いわれて………。 そう言わせた自分が……悔しくて、イヤなんだ……!」
「…………ッ!」
それをきいて、アスベルは静かに眉をつり上げた。 その一方でホップは、語る。
「…………おれ……どうすればいいかはわかんない……けど………でも、ジムチャレンジを途中でやめるのは………イヤだ。 だって、諦めたらそれこそ、アニキを裏切ることになるし、泥を塗ることになるから………だから………」
ぐっ、とホップは自分の拳を握る手に力を込めた。 その力があまりにも強くて、彼の手のひらには爪が食い込んでいる。 それに気付いたアスベルはホップに手をのばそうとしたが、それより早くホップが口を開いた。
「このままでいいのか………ちょっと考えてみる………またなっ」
そう言ってホップは、アスベルの手を受け取ることなく、彼の前から立ち去っていった。 その後ろ姿に向かって、アスベルは必死に声を上げて呼びかける。
「ホップ! オレもダンデさんも、お前を決して見捨てたりはしない!」
「…………」
ホップはそれを聞いて立ち止まったが、すぐに走り去っていってしまった。 そんなホップの後ろ姿をみて、アスベルはただひとつだけ願った。
「オレの言葉、ホップに聞こえているといいな……」
あのあと、昼寝をしているスナヘビが目を覚ましてどこかに去っていく様子を見たアスベルは、7番道路に足を踏み入れていた。
「アオガラス、そこでつばめがえし!」
その道中でもアスベルは、出会うトレーナーや襲いかかる野生ポケモンを相手に戦っていた。 今も、道中で出会った同じジムチャレンジャーに勝負を仕掛けられたため、相手をしていたところである。
「よしっ」
この勝負、勝ったのはアスベルだった。 相手のジムチャレンジャーは悔しげな顔をしつつ、アスベルを睨みつけた。
「くそ、お前……なんだよ!? 片目しか見えてない……って聞いたから勝てると思ったのに! なんなんだよ……!!」
「……………」
「お前なんか、途中で……両目ともに見えなくなっちまえ! それで、ジムチャレンジをリタイアしてしまえばいいんだっ!」
そう吐き捨てた直後、アオガラスが甲高い鳴き声をあげながら睨みつけてきたので、怯えた声を上げながらジムチャレンジャーはアスベルの前から立ち去っていった。
「アオガラス、やめるんだ」
「グァゥ」
「平気だよ……この旅のさなかであんなことを言われるくらい、想定のうちだ。 今までだってそうだったことも、キミも知っているだろう?」
ポケモントレーナーとして旅にでてからと言うものの、アスベルが隻眼であることを狙い、自分より下だと思いこんで勝負を仕掛けてくるジムチャレンジャーや一般トレーナーは多くいた。 隻眼のくせに強いとか、生意気呼ばわりするものもいれば、同情して手加減をしたのだといいわけをするものもいる。 決して気にせず対等に見て勝負もしてくれるのは、ジムリーダーやダンデやホップ、マリオンにマリィなどの親しい関係かつ、実力のある者ばかりだ。
「それに、あんな言葉に耳を傾けるだけ、時間の無駄だ。 あのように他人を悪くみているだけのヤツは、決して強くなんかなれない……」
「…………」
「彼らがオレの悪口を言っている間、オレは前に進む。 彼らを置き去りにしてでも……な。 ただ自分を強くするために、キミ達といく。 それが、キミ達を強くするためのカギでもある……」
ナックルシティで、ダンデはアスベルに言った。 ポケモン達は喧嘩や復讐の道具にするな、と。 今アスベルにできるのは、大切な人を見捨てず、味方であり続けることだと。
「ダンデさんの言葉を忘れないためには、こうするほかない……。 オレは、負けられないんだ………!」
そこでアスベルは、思い出していた。 なにもできず、小さくて弱い自分を助けたのは、誰よりも強い人と、誰よりも優しい心を持った2人の少年だったことを。
「………オレは、助けられた身だ……救ってもらったんだ………強い人に………! だから………だから………」
そして、もっとも今、自分が味方であるべき相手である少年が苦しんでいる姿も思い出していた。 あのときの彼の顔をみたとき、アスベルは彼を今すぐに救ってやれない、守るだけのこともできないそんな、無力さを思い知らされた。 同時に、その無力さを感じたからこそ自分はこれからどうするべきかを、考えて。
「オレも、強くなりたい………。 誰かの悲しむ顔もみたくない、誰かがそんな顔をしないように………救えるように………強く………強くなりたいんだっ!」
「………グゥァ」
「アオガラス?」
アスベルの言葉を聞いたアオガラスは、突然アスベルから離れて高く飛び上がった。 すると、彼の真上で自分の体を強い風で包み込む。 周囲の砂鉄を、吸収しながら。
「!?」
その風と砂鉄に包まれたアオガラスは、光を放ってそのシルエットを大きくする。 そして、光と風と砂鉄がやんだとき、そこにはそらとぶタクシーで利用されることの多い、あのポケモンの姿があった。
「アオガラス………いや、アーマーガア!」
鋼の装甲をつけた黒い翼に、鋭いくちばしと爪、深紅の瞳を持つポケモン・アーマーガアだ。 幼い頃から一緒にいたポケモンの進化を目の当たりにしたアスベルは、舞い降りてきたアーマーガアに微笑みかける。
「そうか、進化できたんだな……よかった」
「おやおや、見事な進化を遂げたようだね。 おめでとう」
「ありがとうございます………って、へ!?」
突然背後から聞こえてきた言葉に対しふつうに返事をしたが、直後に自分が返事をした相手は誰なんだろうとなり、振り返る。
「うわぁぁ!?」
するとそこには、パラソルを持った老婆がたっていた。 いつの間にそこにいたんだとアスベルは大声を上げて驚いたが、その老婆には見覚えがあるため、瞬時に冷静さを取り戻す。
「って、あなたは確か……」
「アタシはポプラ、さ。 あんた、ジムチャレンジャーだろう? 開会式でアタシをみたことがあるだろう?」
「は、はい。 たしか、ジムリーダーの一人……でしたよね?」
アスベルがそう問いかけると、その通りだとポプラはうなずいた。 そして、アスベルのそばにいるアーマーガアを見つめ、彼に告げる。
「その進化した姿を目に焼き付けていくのも大事だけど、進化する前の姿を忘れちゃいかんよ」
「は、はぁ……」
「というわけで、アタシは先を急ぐから……失礼するよ」
それだけを言い残し、ポプラはアスベルの前から立ち去っていってしまった。
「いっちゃったな……」
「ガァ」
そんなポプラの後ろ姿を見送った後、アーマーガアはアスベルの方を見て鳴き声をあげた。 そんなアーマーガアにたいし、アスベルはうなずく。
「……そうだな、オレ達もいこう!」
自分は強くなっていかねばならない、大事なもののために。 アスベルは自分がジムチャレンジに挑んでいる理由をかみしめながら、荒野を進んでいったのであった。 成長を続ける、ポケモンとともに。
今回はアスベルの強さを、感じ取ってもらえればいいなと思ってました。
結局そういうことなんだよ、という意味も込めて。
次回はラテラルタウン到着編です。