これも登場人物が多い回ですね。
そして、ホップとのイベントも少し改変を入れつつ、彼視点の話も入れました。
8番道路をこえて、大きなダグトリオのモニュメントを目の当たりにしつつアスベルは、次の目的地であったラテラルタウンにたどりついた。 ラテラルタウンは、やや古風な雰囲気を残す町であり、不思議な柱や遺跡が存在しているという。
「ここが、ラテラルタウンか……」
「やぁ、アスベル!」
その時だった、アスベルの姿を見たマリオンが彼に声をかけてきたのは。 彼女の隣にはもう一人、褐色の少女の姿がある。
「マリオン……と、あなたはジムリーダーですよね?」
「はい、私の名前はサイトウ。 このラテラルタウンで現在、ジムリーダーをつとめさせてもらっています」
「こちらこそ、アスベルです」
そうサイトウとアスベルは挨拶を交わすと、サイトウはマリオンに確認をとる。
「マリオン、彼がそうなんですね?」
「うん」
「そういえば……2人は知り合い? あ……もしかしてマリオンに推薦状を出した、いとこのジムリーダーって………」
「そうだよ、ボクはサイトウちゃんからもらったんだ」
サイトウこそがマリオンのいとこであり、またマリオンを推薦したトレーナーでもあるのだ。
「彼女もチャンピオンに挑戦したいって言っていたので、ここは思い切って挑戦した方がいいと思い、推薦することにしたのです。 結果…並のトレーナーであればカブさんで躓くところを、乗り越えてきました」
「ふっふーん、ボクがくじけるわけないじゃん!」
サイトウの言葉に対しマリオンは自分の強さに対する自信を見せた後、自分のこの後の予定を語る。
「ボクはもう少しトレーニングしてから、スタジアムに行くつもりだけど…アスベルはどうするの?」
「オレはまず、少し町をみてみようかなと思ってる………特に、壁画が気になるんだ」
「壁画……。 もしやこの先にある、芸術的な絵が描かれているという遺跡の壁画のことですか?」
「はい」
ラテラルタウンに住むものは皆知っている遺跡の壁画だが、話を聞いたときからアスベルはそれが気になっていたのだ。 それを気にするとは変わっているな……とマリオンは内心思いつつ、彼の行動を阻む理由もないのでいかせることにする。
「そっか、じゃあまた後でね」
「失礼します」
「ではまた」
そう言葉を交わし、アスベルは2人と別れて遺跡へ向かった。 そんなアスベルの後ろ姿を見送ったマリオンとサイトウは、アスベルについての話をしていた。
「……彼には、遺跡探索の趣味でもあるのですか?」
「うーん……どうなんだろ? 今までそんな様子はなかったんだけどなぁ………。 たぶん、ブラッシータウンやハロンタウンには、そういうのがなかったから……ボクも気付かなかったのかも」
「そうなのですか」
「そうなのかも。 ……なんか、旅に出てから、あいつの意外な一面とか知らないところがバンバンでてきたなぁ……」
マリオンとサイトウとわかれたアスベルは、そのまま階段を上っていき、噂の壁画を見に行った。
「………これが、壁画………」
だがその壁画をみたとき、アスベルは微妙な面持ちになってしまった。 それもそのはず、壁画の話を聞いたときは例の、ブラックナイト伝説に関係するものだと思いこんでいたからだ。 理由はわからないものの、自分は、その伝説に強く惹かれているから、またなにかを感じるのではないかと。
「なんだろう……この奇妙な感じ………違和感? ただの下手くそな落書きにしか、見えない………」
だが、その結果はあまりにも拍子抜けなものだった。 壁画のクオリティをみたときのガッカリ感も強いのだろうが、それをみてもアスベルはなにも感じることができず、脱力していた。 ここにこのままいて、壁画をみてもなにも得られないと、アスベルは考えることを諦めて立ち去ることにする。
「………これ以上考えていても、仕方がないか………今はジムチャレンジだな……」
そう頭をかきながらアスベルは階段を降りていったが、そこでアスベルは、ホップの姿を発見した。
「ホップ!」
「…………アスベル……」
アスベルの声に気付いたホップは振り返り、彼の顔を見つつ話しかけてくる。
「……あのさ………」
「うん」
「この前の………おれが弱いとアニキがバカにされるって話……どうしたらいいのかわかんないぞ………」
「それは………気にしなくてもいいんじゃないか? その辺は彼も人のことを言えたものではない。 オレも、特別気にしたりとかしない」
「…………」
「第一、誰がなんといおうと……ダンデさんは強い人だ。 その強さは誰にも揺るがすことはできない。 だから………」
「………それ、お前があいつを負かせたから……余裕で言えることだろ………」
「えっ………」
自分はホップを励まそうとして言葉を選びつつ、思いを告げていたのだが、それをきいたホップは眉をつり上げながらアスベルに向かって言う。
「お前はジムチャレンジを余裕で勝ち進んで、苦戦とか負けとか経験してないからそうやって余裕でいられるんだろ! だから……おれみたいな弱い奴の、負けた奴の気持ちなんて、わっかんないんだろ!!」
「ッ」
「………おれは………おれは、お前やアニキみたいになれないし……届かないって、お前もそう思ってんだろ!」
ホップはアスベルに向かって怒鳴り続け、アスベルは戸惑いながらもホップに歩み寄り彼に冷静になるように促そうとする。
「落ち着け、ホップッ……」
「うるせぇ!!」
「うわっ!」
だがホップは、アスベルの言葉をそれ以上聞きたくなくなり、そのまま彼を突き飛ばしてしまった。 それにより、アスベルはそのまま後方にある崖に突き落とされそうになった。
「ーッ」
直後にホップは、自分がとんでもないことをしてしまったと気付き言葉を失うが、ボールからアーマーガアが自分の意志で出てきてその窮地を脱した。
「ありがとう、アーマーガア」
「グァウ!」
無事に体勢を立て直したアスベルは、アーマーガアを撫でて、微笑みかけながら礼を言う。
「………あ……あ………」
だがその一方でホップは、顔色を恐怖一色で染め上げていた。 もしアーマーガアがアスベルを助けるためにでていなかったら、もしアスベルがアーマーガアを持っていなかったら、彼はそのまま谷底に落ちて大けがを……否、もっと取り返しのつかないことになっていたかもしれない。 そして、そうなってしまった場合…その原因は自分にある。
「ホップ……」
「…………ッ!」
「ホップ!」
たとえ未遂であっても、罪だと感じたホップは、アスベルの方をみることなく走り去っていってしまった。
「あ、ホップ!」
「わっ!」
そのとき、サイトウとマリオンがホップとすれ違ったが、ホップはそれに気付くことなく走り去っていった。
「なんなんだろ、あいつ……?」
「彼もジムチャレンジャー、ですよね?」
「うん……って、アスベル! また会ったね!」
「………」
ホップとは逆の方向にアスベルがいたので、マリオンは彼に声をかける。 だが、アスベルはマリオンの声に気づきそちらをちらりと見たものの、黙っていた。 そんなアスベルの異変に気付いた2人はかけより、顔色をうかがいつつなにがあったのかをたずねる。
「………アスベル………?」
「……どうなさったのですか?」
「……マリオン、サイトウさん……」
そこで、アスベルは2人が近くにいたことに気が付いたのであった。
アスベルは、サイトウとマリオンにホップの身になにがあったのかを説明した。 ホップはビートに打ち負かされ、その上で罵声を浴びせられたのだと知ったマリオンは、怒りの感情が内にわき上がってくるのを感じていた。
「そうか、あいつなんだね………ホップを貶めたのは………」
「知ってたのか」
「知ってたというかなんというか、ワイルドエリアで会ったの……。 たぶん、その直後だったんだろうね」
マリオンはバトルに負けてしまった直後のホップを見ている。 あんなに落ち込んでショックを受けて、後ろ向きになっているホップを、マリオンは見たことがない。
「勝負の世界は厳しいもの………勝敗により強弱が決まってしまうのが常……ですが………決められた側はたまったものではありませんね」
「しかもそいつ、なんなの!? アスベルには一回も勝ててないクセに……。 バトルで負けたくらいで推薦してくれた人の顔に泥ぬってんだったら、あいつも委員長の顔に泥をぬってることになるんじゃないの!?」
「……………」
マリオンの怒りにまかせた言葉を、アスベルは黙って聞いていた。 マリオンは、さらに言葉を続ける。
「にしても……悔しいなぁ……! 誰の仕業か知ってたら、ホップが教えてくれてたら……ボクが懲らしめたのに!」
「マリオン、それはダメだとおもう」
「なんでっ!」
そこでアスベルは、マリオンに制止をかけ、自分もビートに仕返しをすることを考えていたこと…そして、それをダンデに釘を刺されて止められたことを、彼女に打ち明ける。
「オレも、マリオンと同じことを考えた………。 ホップを侮辱したあいつを許せない……だから、オレがあいつに力を示してつぶそう…………と」
「…………!」
「だが………ダンデさんに言われた。 これはホップ自身の問題だって。 オレがあいつにかわってビートに仕返しをしたところで、誰のためにもならないって………」
「…………なるほど……チャンピオンらしい言葉です」
「マリオン。 ダンデさんも言っていたことだけど……今オレたちにできるのは、あいつを見捨てないで……味方でいることだ」
ホップ自身も、マリオンが自分のために他者にケンカを売ることを望んでいないから、誰に打ち負かされたのかを言わなかったのだろう。 彼女が自分のために復讐の道に走るのを、彼は望んでいないから。
「今のあの子は、どれだけ苦痛を味わいながらも……それでも、立ち向かうべきだね……」
「!?」
そんなとき、また声がした。 声のした方向を見てみるとそこにはまた、あの老婆の姿があった。
「あなたは……!」
「ポプラさん!」
その老婆の名前を、サイトウは口にした。
「あなたがポプラさん? アラベスクのジムリーダーの?」
マリオンがそう問いかけると、ポプラは頷いた。
「あの子、ブツブツ呟いているのが聞こえたよ…………自分と兄であるチャンピオンの関係とか……自分の強さや弱さを……どうすれば克服できるか……悩んでいたね」
「…………」
「だけどねぇ……今更そんな悩みは、意味はないのさ」
ポプラは遠目でホップをみて、彼のつぶやきに耳を傾けていた時のことを語りながら、自分の意見を口にする。
「ジムチャレンジャーはポケモンのため、自分のために強くなるべき。 今更チャンピオンの強さを証明したって……意味なんてない。 例えそれが身内であっても……ね。 あの子は、それに気付く必要があるのさ……」
「………………」
「あんたが、その子に味方して、信じることは……それはあんたの自由だよ。 そうしたいと望むなら、そうしたっていい」
アスベルに向かってそう語ったポプラは、早々に立ち去ろうとする。
「じゃあアタシはいくよ。 そろそろ……スタジアムに戻らなきゃいけないからねぇ」
「おひとりで大丈夫ですか?」
「なに、そらとぶタクシーでも使うさ」
帰ろうとするポプラを気遣うサイトウにたいし、彼女は気にすることはないと答え、立ち去っていった。 その姿を見送った後、アスベルはこれからホップとどうつき合い、強くなっていくべきかを語る。
「もしまた、ホップをバカにしたり傷つけたりするヤツがいたら……そのときはオレが蹴散らすつもりでいる。 だが、それは相手への憎しみじゃなく……あいつを守るために戦うようにしたい。 その気持ちを忘れたくない」
もし次、ビートと会い戦うことになったとしても、それはあくまで自分と彼の戦いだ。 そこに私情ははさんだりしない。
「だから、マリオンも……ホップのことは責めたりしないで、またビートにむやみ突っかかることもしないでくれ。 オレも、そうするから……」
「………うん……」
ぎゅ、とアスベルは眼帯を直し手袋をただしつつ、これからホップのために自分ができることを口にした。
「…………オレは直接……あいつを助けてやることは出来ない」
「アスベル………」
「だが……オレが先に進めば、あいつにも活路が開かれるだろう………そう信じて、突き進みたい………! あいつが頼ってきたらそのときは、力になれるように……!」
アスベルは自分がやるべきことをそう語った後、サイトウの方を向き彼女にお願いをした。
「なので……サイトウさん、今から挑戦できますか?」
「……わかりました……!」
そんなアスベルの言葉と、眼差しを受けたサイトウはうなずくと、彼の言葉に応じる。
「このサイトウ、いついかなるときでも! チャレンジャーの挑戦を受けて立つ所存です! 準備ができたらスタジアムにきてください!」
「はい!」
そうサイトウはアスベルに告げると、スタジアムの方へ向かった。 マリオンはその姿を見送りつつ、アスベルにも声をかける。
「まぁ、サイトウちゃんは強いけど……アスベルならいい勝負できそうだねっ! ボク、2人の試合をしっかりとみるよ!」
「ああ」
ここでアスベルは、戦いつづけ先へ進むことを決めたのであった。 そんなアスベルの姿を見て、マリオンはつぶやく。
「アスベル………ボクも、キミみたいな強さを手に入れられたらいいな。 大事な人のためにがんばって、強くなろうとすることができる……そんなキミのように、なりたい………」
一方、アスベルから逃げるようにして立ち去っていってしまったホップは、一人8番道路で俯いていた。
「………………」
ホップは今、自己嫌悪に陥っている。 自分が、アスベルにしてしまったことに対して。 彼の脳内は今、ビートに敗戦した際に言われた言葉と、アスベルの顔が交互に映し出されている。 それはまるで、ビートの言葉をアスベルが言っているかのように。
「………違う……違う……アスベルは、違う………あんなことを言うヤツじゃない………!」
だがすぐに、それは否定した。 それは、他者を傷つけることを好まないアスベルの性格を知っているからこそだ。 先程アスベルが自分にかけてくれた言葉も、彼が自分を気にかけて、励まそうと必死になっているからだ。 それはホップ自身も遅れながらも気付いている。 だが、彼の性格を知っていながら、自分が彼にしてしまった仕打ちが許せなかった。 理解者であるはずの彼を……自分の勝手な思いこみで、敵だと思いこんでしまったことが。
「あのアーマーガア………たぶん、あいつの、ココガラだよな………」
アスベルが突き落とされそうになったとき、自らボールから出てアスベル助けたあのアーマーガアが、彼の幼なじみポケモンであるココガラである。 そのことにホップは気付いていた。
「ぐもぉ……」
「………ウールー……」
アスベルは自分のココガラを、アーマーガアまで育てていた。 それほどまでに強くなっていたのに、自分はどうなのだろうかとホップは、ウールーをみて思う。
「………今のままじゃ、ダメ……だ………もっと、強い……色んなポケモンを探して、戦わなきゃ! 強くならないと、アニキみたいに……ならないと……」
ホップはそういって、ウールーをボールに戻すと預かりシステムを利用してボックスに預ける形で手放した。 かわりに、道中でゲットした別のポケモンを受け取って。
「もっと………もっともっともっと………色んな可能性を探して、おれが強くなるために……探して、試す………! そのために必要なポケモンは…………」
そういってホップは預かりシステムを操作しながら、道中で地道にゲットしていたポケモンと自分の手持ちを見比べて、手持ちの編成を考えていた。
「めれぇ」
「ジメレオン、手伝ってくれよ………。 これからのジムチャレンジや、トレーナー戦………おれを勝たせてくれよ。 今おれが欲しいのは……バトルの勝利、なんだからな………」
「………」
今彼は、自分自身をみているようでみていない。 ジメレオンはそう感じ取った。 そこには、旅に出たばかり……自分がメッソンだったときの姿がないことに、ジメレオンは気付いている。
「……めーれぇ……」
必死にボックスを操作して手持ちをくもうとするホップの後ろ姿をみて、ジメレオンは呆れたようにため息をついた。 こうなれば、ホップと長い時間ともにいたはずのウールーのかわりに、自分だけでもホップの側にいて、彼を強くさせるしかない……とでも思いこんだかのように。
「………待っててくれ、アスベル………必ずお前に追いついて、追い越して………アニキに届くトレーナーになるから………! そのときに、お前に、謝るから…………」
その心根には、好敵手であり義理の兄弟でもある少年へのおもいが、チラついていた。
次回は、ラテラルのジム戦。
サイトウを相手にバトルを繰り広げます。