ここで私は相手にたいする情などなく、当然の結果だという感想いがいの言葉を述べるようなやる気は一切なかったです。
彼の態度やら言動に比べれば、あの処罰はまだやさしいものでしょうし。
締めるところは締めていかないと、なんのとりえもないような人間に育ちますからね。
ラテラルスタジアムにてジムリーダー・サイトウと勝負をし勝利を収めたアスベル。 今日は町の中にある小さなホテルで休んでから、次の町を目指すために歩き出そうと決め、スタジアムをでた。
「イヌヌワン!」
そんなとき、聞き覚えのあるポケモンの鳴き声がしたのでそちらを見てみると、そこには一匹のワンパチがアスベルめがけて走ってきていた。
「ワンパチ!」
「やっぱりあたしのワンパチ、あんたが気に入ってるのかもね」
「ソニアさん」
そのワンパチは、ソニアのワンパチだった。 すぐに姿を現したソニアをみたアスベルは彼女の目的に気付く。
「もしや、あの壁画のある遺跡を調べにきたんですか?」
「うん、ちょうどいいタイミングで会えたことだし……せっかくだしまた、あんたの意見を聞かせてくれない?」
「……え……」
「どうしたの?」
「………いや、意見を口にするのは……構わないんですが…………」
あの壁画についてはあまりオススメできない、とアスベルが言葉を続けようとした、そのときだった。 遺跡のある方からズォォンという、重々しい音が町全体へと響きわたった。 その音に町中の人々が驚きどよめく。
「なんの音!?」
「遺跡のほうから聞こえてきた気がする……! いってみよう……おいで、ワンパチ!」
「オレもいきます!」
ソニアは音の正体を探るために、ワンパチとともに遺跡へと向かう。 アスベルもそれに続いて遺跡へ向かっていく。
「さぁ、もっと壊しなさい! もっとねがいぼしを掘り出すのです!」
その先にいたのは、鋼鉄のような堅い体と長い鼻を持つ巨大なポケモン・ダイオウドウを連れた少年…ビートだった。 彼はダイオウドウに指示を出して、遺跡にある壁画を破壊しようとしていたのだ。
「ダイオウドウ……あなたも委員長のポケモンなら、委員長の役に立てることを喜ぶべきなのです!」
そう言ってダイオウドウを鼓舞させようとしていたそのとき、ビートの目の前を炎が通り過ぎていった。
「なにっ!?」
「ちょっと、なにしてんのさあんた!」
炎の正体はバニっちのかえんほうしゃであり、すぐにマリオンが姿を現してビートに怒鳴る。 それによりビートは、マリオンとバニっちの存在に気が付いた。
「なんなんですか、あなたは?」
「ボクはマリオン、ジムチャレンジャーだ! あんたの破壊行動を止めにきた!」
姿を現し注意をしてきたマリオンを、ビートは鬱陶しげににらみつける。
「邪魔をしてくるとは……なんて罪深いことを」
「うっさい! やっていいこととダメなことの区分もできないような、底辺ノーミソにあれやこれやを言われる筋合いはないっつーの!」
「………僕の邪魔をする上に……冒涜するとは、許されない行為ですよ」
「許してもらわなくてケッコー! あんたはここで……ボクが止めてやる!」
そういってマリオンはバニっちを前に出し、ビートに勝負を挑もうとした。
「ユニラン、サイケこうせん!」
「きゃあ!」
だがそれより早く、ビートはユニランに指示を出してマリオンを妨害する。 サイケこうせんを受けて吹っ飛んだバニっちをマリオンは片手で受け止めるが、バランスを崩して転びかける。 自分の抱えているバニっちが混乱状態になっているのに気付いたマリオンは、混乱をとくためにバニっちをボールに戻す。
「うぅっ……今度はコロっち……!」
「ねんりき!」
「きゃっ……」
そして次にココロモリを出そうとしたものの、今度はねんりきで動きを封じられてしまう。 マリオンがねんりきにより動けなくなったところでビートは、彼女を鼻で笑いながらみていた。
「フン! 僕に逆らうから、そのような目にあうんですよ!」
「なにをっ……!」
「このまま……僕の生きる道を、妨げさせはしない! ダイオウドウよ、続けなさい!」
「やめっ……」
なんとか別のポケモンを出して対抗しようとするが、ねんりきにより動きを封じられてできない。 このままでは、ビートが壁を壊してしまうとマリオンが察したそのときだった。
「やめろっ!!」
「うわっ!」
アスベルはビートの肩をつかむと、そのまま地面にたたきつけた。 その直後にユニランにバチンキーが攻撃を仕掛けたことで、マリオンの体を縛っていたねんりきが解除される。
「アスベルッ」
「大丈夫か、マリオン!」
そのマリオンをアスベルは受け止め、無事を確認する。 一見外傷もなければ異常もないようだ。 マリオンは、アスベルに抱えられながらビートを止められなかったことを謝罪する。
「ご、ごめん……ボク、ビートを止めようと……したのに……」
「気にするな、こいつの相手は……オレがやる!」
アスベルは、目の前で立ち上がってきたビートをにらみつけた。
「ぐっ……また、あなたですか………!」
ビートは立ち上がりつつ、そこにいたアスベルをにらみ返す。 そして、アスベルがここに現れたのをみて、ビートは彼の目的をこう推理した。
「今からでも願い星を集めて、委員長に気に入られようとしている……そういうことでしょう!?」
「何言ってんの……こいつ……?」
「よく考えたものですが……そんなものは認めません! 誰にも……誰にもジャマはさせないのです!!」
なにか勘違いを起こしていると、その言葉から感じたマリオンは眉間にしわを寄せてつぶやく。 一方のアスベルは蒼い瞳を鋭く光らせながら、ビートに向かって言う。
「そんなことよりも………貴様、今自分がなにをしているのか……自分でわかってるのか?」
「………ッ」
「……アス、ベル……!?」
その声や、彼をまとっているオーラは重々しく、相手を威圧するものだった。 まるで、圧だけで相手を捻りつぶそうとしているかのように。 それにビートは怯みマリオンも戸惑っていたが、ビートはそれを振り払うかのようにポケモンを繰り出した。
「テブリム、ポニータ! ゆきなさい! そして僕の力を思い知らせるのです!」
「頼むぞヤクデ! バチンキー! ヤツを止めるぞ!」
ビートはテブリムとポニータを同時に繰り出し、アスベルもヤクデとバチンキーを繰り出す。 まず動き出したのはバチンキーであり、テブリムにえだづきをくりだそうとしていたが、テブリムはバチンキーの攻撃を受け止めぶんまわす攻撃を繰り出してきた。
「ポニータ、そこでサイケこうせん!」
「ほのおのうず!」
「テブリム、ひかりのかべ!」
サイケこうせんによるダメージを受けたヤクデは反撃でほのおのうずを繰り出すが、それをテブリムはひかりのかべで防ぐ。
「今のであなたの力……ほぼほぼわかりましたよ! テブリム、ポニータ! ともにサイコショック!」
「ヤクデ、バチンキー!」
サイコショックの同時攻撃を受けたヤクデとバチンキーだが、すぐに体制を立て直し、ヤクデはむしくいでテブリムを、バチンキーはダブルアタックでポニータを攻撃する。 すぐに反撃にでようとしたテブリムやポニータだったが、それを2匹はくい止める。 ヤクデとバチンキーにさらに指示を出していき、勝負は完全にアスベルのペースである。
「いいぞ、このまま勝利をもぎ取るぞ!」
「エリートたる僕があなたごときに、後れをとるものか! このまま……!」
そんな中、アスベルが自分の妨害にでようとしていた理由にたいしある心当たりがあり、そのことを突きつける。
「まさか、義兄弟のカタキ討ちのために、僕を打ち倒そうとしているのか……」
「…………カタキ討ち……だと……?」
それをきき、アスベルは少し表情を険しくさせつつも、首を横に振る。
「………確かに、ホップの心を傷つけた貴様を………ダンデさんを利用してあいつを冒涜した貴様を……オレは簡単に許すつもりはない。 だが!」
アスベルは、蒼い瞳を大きく開かせ、ビートに向かって怒号をとばす。
「この戦いに、そんなものは……オレにはどうでもいい!」
「なっ……!」
「オレはあくまで、今! 貴様を止めるだけだ! さぁ……ゆくぞ! ここで負けるわけにはいかない!」
アスベルのその声に呼応するかのように、ヤクデの体は炎に包まれながら全身から赤い光を放った。 業火にその身を落としたヤクデはその体を徐々に大きく長く伸ばしていき、炎の中から新しい姿を得て現れる。
「進化、した!」
「いいぞ………マルヤクデ!」
ヤクデは、マルヤクデに進化した。 アスベルは静かに笑みを浮かべ、その大きな体に対しビートは目を見開かせていたが、すぐに歯を食いしばる。
「………進化したところでなんだ! 委員長のためにも………負けるわけにはいかない! ボクの生きる道を妨げさせはしない!」
「……であれば、なおさら……オレが貴様を止める!」
ビートのローズにたいする強い思いをその一言で感じたアスベルは、この勝負に勝ち彼に不正を認めさせる必要があると、瞬時に判断した。
「マルヤクデ、ねっぷう!」
そしてマルヤクデはねっぷうをテブリムとポニータに、同時に浴びせる。 最初はひかりのかべでしのごうとしていた2匹だったが、そこで時間制限がきていたようだ、ひかりのかべが砕け散る。
「ひかりのかべが……!」
「砕け散った……!」
「そこだバチンキー、とどめの……はっぱカッター!」
アスベルの声にあわせて、バチンキーははっぱカッターを繰り出し、相手のテブリムとポニータを戦闘不能にした。
「これはなにかのミスだ……! やり直しを………」
「すぎた時間は戻らない……ミスもやり直しも効かない! 今起きた結果は変えられない! ………これが現実だ……」
「………クッ………」
自分のポケモンが戦闘不能になって勝敗が決まってしまった。 ビートは悔しげに顔をゆがめつつポケモン達をボールに戻す。
「なぜ……ボクが邪魔をされるんです? いずれはチャンピオンを越えて、ガラルを背負ってたつ……エリートのボクなのに………!」
「……キミは永遠に……ダンデさんには勝てないよ。 キミは、弱いから」
「なにをっ……」
「ビート選手!」
ハッキリと言い切っているアスベルの言葉にビートが反発をしようとした、そのとき、鋭い女性の声がした。
「ローズ委員長に……オリーブさん!?」
「どうして、あなた達が!?」
そこにローズやオリーヴ、そして数名のリーグスタッフが駆けつけた。 何故そこに彼らの姿があるんだ、と驚いていると、同時にサイトウが姿を現した。
「私が通報しました」
「サイトウさん」
「失礼……偶然とはいえ、騒ぎを聞いたので。 遺跡への攻撃、どんな理由があろうとも見逃すわけにはいきませんので………あなたに推薦状を出したという、委員長に直に伝えました」
そうサイトウはビートを責めるように言うと、オリーヴが彼の前に出た。
「突如、委員長のポケモンを借りたい……と言い出したから、なにをするかとおもえば……まさか遺跡を壊すだなんて!」
「1000年先の問題に比べれば、たかだか遺跡がなんだというのです!? そんな甘い蜜より甘ったれた考えで、委員長のサポートをしようだなんて……何故あなたは秘書をしているんです?」
オリーヴの言葉に対しいっさい悪びれることなくそう開き直るビート。
「………あんた……それ、本気で言ってるの………!?」
ビートのその言葉を聞いたマリオンは、別の意味で恐怖を覚えた。 アスベルはマリオンを守るようにしてビートをにらんでいる。
「ビートくん」
そんなときだった。 ローズは落胆の色をその目に宿しながら、ため息混じりにビートに告げる。
「………声を絞り出すけれど、本当に残念ですよ………」
「委員長……?」
「確かに孤独だった君の才能を見いだし、昔の自分と重ね合わせ……ポケモンも与えた。 その才能を伸ばすために……スクールにも通わせ、チャンスを与えましたよね………」
そして、失望を込めて、少し強めの声でビートに向かって告げる。
「だが、遺跡を破壊するような……そんなガラルを愛していない君は、ジムチャレンジに相応しくない! 追って君に……失格を言い渡すという処分を決めるから、ナックルシティまできなさい」
「処分……!?」
そう語るローズは冷徹で、ビートに向ける視線も先ほどの声と同じ、失望の色が宿っていた。 一方のビートも、ローズが下した決断に対し呆然としている。
「ウソ………ですよね………? 僕を失格にすることは、その選択をした貴方のミスですよ? 100ある選択肢の中で……もっとも、最悪のチョイスです………!」
「往生際が悪いよ、アンタ」
必死になって反発をするビートにたいし、マリオンは怒りをこめてそう冷酷に告げた。 隣にいたオリーヴもローズの決断に従い、ビートに言う。
「貴方の集めたねがいぼしはすべて、こちらに回収しておきます!」
そうオリーヴが口にすると、ローズ達と共にいたリーグスタッフが一斉にビートをとりかこい、連行しようと彼の腕をつかんだ。 ビートは必死に抵抗するが、かなうはずもなかった。
「そんな、そんな……!」
「……………」
そうして連れて行かれるビートを、アスベルはいっさいみようとしなかった。
「ローズ委員長の顔に、見事に泥を塗ったね………惨めだよ」
そんなビートに、マリオンは追い打ちをかける。 ビートがホップに言ったようなことと、同じことを言って。
ビートは権利を剥奪されるために連れて行かれ、その場にはソニアやアスベル、マリオンが残されていた。
「みなさん、とんだトラブルでしたね」
「……いえ……」
「こういう形でジムチャレンジャーが消えていくのは、私も悲しいですが……試合はフェアーでいかないとね!」
そう語り、アスベルやマリオンには引き続きジムチャレンジに挑んでいくよう激励を送った。 確かに不正を犯した以上は冷徹な判断が必要とされることも必要かもしれないが、あまりにもあっさりしているローズに、アスベルとマリオンは戸惑いの気持ちを抱いた。
「サイトウくん、今回の顛末についてのまとめをしたいのだが……キミも協力してくれるかい」
「はい」
そうローズに返事をしたサイトウは、アスベル達に失礼しますとだけ告げて、彼らとともにその場を離れていった。 残されたマリオンは、ここで先ほどまで起きていた一連の流れについて、ポツリとつぶやいた。
「さっきのは………とんだ茶番、だったのかも」
「………」
「どうしたんですか、ソニアさん?」
先ほどの事件にたいしそう感想を口にするマリオン、その横でソニアはなにか考え込んでいるかのような表情をしており、それに気付いたアスベルが声をかける。
「ビート選手の試合で、実況が言ってたんだけどね」
「えっ?」
「彼、元々身寄りがなかったみたいで……自分を引き取って、ポケモンをくれたローズ委員長のために戦うんだって…………」
「!」
そのソニアの話を聞いたアスベルは、目を丸くさせた。 それで、アスベルは自分はどこかビートと似ているかもしれないと感じていた理由に気付く。
「そうか………オレが感じていた………オレと彼との共通点は…………」
「………アスベル…………」
自分を推薦したローズにより孤独から解放され、トレーナーとしての才能を開花させ、彼のために、彼の名に恥をかかせぬようつとめたビート。
自分を推薦したダンデにより命を救われ、いつしか彼のようになりたいとあこがれを抱きながら、その方に強く努力していたアスベル。
いったいどこで食い違ってしまったのだろうか、いったいどこで考えや態度などが変わっていってしまったのだろうか、いったいどこで大事な人の思いに答えたい形が変化してしまったのだろうか。
今後の己の身の振り方に、アスベルは考える。 自分も、いまのままでいいのかと。
「………オレ………オレは………」
「アスベル」
そんなアスベルに対しマリオンは何か言いたげな顔をしていたが、先にソニアが口を開く。
「………アスベル、あんたもまた……迷いこんだところをダンデくんとその家族に拾われて、助けられた。 あんたはあんたで、そんなダンデくん達の力になろうとしている」
「……そうだよ、アスベルはアスベルだよ! あいつとは違う! きみのスゴいところ、そしてまっすぐで正義感も強くて………優しくて……いつもみんなのことを考えてる! そんながんばっているきみだから、ボク……一緒にジムチャレンジで突き進みたいんだよ!」
「………そうか………そうだな」
必死に励ましてくるマリオンに対し、アスベルは笑みを浮かべる。
「オレは、決して手を抜かないし足を止めない。 そして……自分の正義を貫く。 それで、ダンデさんの思いに答えて強くなる」
「そうそう! あれはあくまでアクシデント、あんたを止めるものはもういないっ! だから……どんどん進んじゃいな!」
「はい!」
そう言葉を交わし、アスベルはジムチャレンジを続ける意志を固めた。 マリオンもそれにたいし笑顔を浮かべており、ソニアも安心したところで、例の壁画に目を向ける。
「さて、遺跡は無事かなぁ……」
ソニアがそうつぶやいた、次の瞬間。 壁画にはヒビが入っていき、やがてヒビが大きくなり激しい音を立てながら崩壊した。
「うわぁぁ!?」
「きゃぁぁ!?」
例の壁画は、ただのがれきの山となってしまったのだ。 そのことにたいしマリオンとソニアは慌てる。
「あわわっ……へ、壁画が壊れちゃったよぉー!?」
「うっそぉぉ!? まだちゃんと調べていないのに……!」
「クッ……あのダイオウドウのたいあたりが、効いていたのか……!」
そういって3人が顔を上げると、壁画の奥にさらに遺跡が存在していることに気付いた。 それは洞窟のようにぽっかりとあいていて、中になにかが存在している穴だった。
「なっ………」
「これって、壁画じゃなくてマジモノの遺跡……!?」
穴の中に存在していた、なにかの正体。 それは王冠をかぶった2人の人間の石像。
そして、それぞれ盾と剣を持った、獣のようなポケモンのような何か。
「………!」
その石像をみた瞬間。
ドクン、と自分の心臓がはねるのを、アスベルは感じた。
まぁ前書きでボロクソ言いましたが、話はまだまだ続きます。
いろんなおもいが、交わっていますね。
ちょっとアスベルの様子がおかしくなったりもしたし。
次回は壁画の奥の真相を明かしつつ、森へ行きます。