読者はキバナがいっぱい見られることに喜ぶだろうか。
わかりませんけど。
敗北と頭痛による気絶というハプニングをかいくぐったアスベルは、一日をまるまると使い、ポケモンをレベルアップさせた。
「今度こそ、キバナさんに勝つぞ!」
そして、今日。 アスベルはナックルスタジアムにリベンジのため訪れた。 ジムミッションはすでにクリアしておりそれが取り消しになることはなかったので、彼は直接ジムリーダーに挑戦することができた。 リベンジを受け入れられたアスベルはユニフォームに着替え、そこで待っているジムリーダーと対峙する。
「……きたか……」
「はい」
ジムリーダー・キバナは、アスベルの顔を見てにやっと口角をあげた。 それほどまでに、アスベルのリベンジを心待ちにしていたのだろう。 その顔色や姿勢などから、彼はもう心配は無用であることが伺えるが、一応確認はとっておく。
「全体的なコンディションは万全のようだな?」
「抜かりはありません」
そう自信満々に答えるアスベルの目は、真剣そのものだった。 それを見たキバナは彼にたいし強気な笑みを見せつつ、勝負にたいし宣言をする。
「お前の復活は、保護したオレ様も嬉しいところだ……だが! この試合はいっさい手をぬかねぇ! 本気でお前を、再び敗北させてみせよう!」
「この戦いで勝つのは……オレです!」
アスベルも負けじとキバナにそういいかえし、2人は指定の位置に着く。 ルールは、このスタジアムにならい今回もポケモン2体を使う、ダブルバトル方式だ。
「荒れ狂え! フライゴン、ジュラルドン!」
「オレが出すのはこの2匹です! ゴリランダー、ドラパルト!」
キバナは再び、フライゴンとジュラルドンをその場に出した。 アスベルもまた、彼らにリベンジを果たさせたい一心で、同じポケモンを繰り出す。 ただひとつ違うところがあるとすれば、ドロンチがドラパルトになったところであろう。
「あのドロンチを、進化させてきたのか……」
自分の最大のライバルも使用しているポケモンを出してきたことで、キバナはさらに闘争心をかき立てられたのだった。
「さぁ今回もはじまりました、ナックルスタジアムのジムバトル! 今回の挑戦者は、ジムチャレンジャー・アスベル! 前回敗北してしまったアスベル選手、今回はそのリベンジマッチです!!」
「おぉぉぉぉっ!!!」
「アスベル選手がリベンジを果たすのか、はたまたキバナ選手が再び勝利するのか! 観客のみなさま、刮目ください!!」
その場に実況が流れ、観客が盛り上がりを見せた。
戦いが始まった瞬間、キバナは一気に顔つきを変えた。
「呼べよ風! 荒れ狂え……すなあらし!」
まず動き出したのは、キバナのフライゴンだった。 フライゴンはキバナの指示をきき、翼を大きく羽ばたかせてその場にすなあらしを呼び起こした。
「ゴリランダー、フライゴンにドラムアタック! ドラパルトはジュラルドンに、ドラゴンダイブ!」
アスベルは冷静に、2匹に攻撃の技を指示して相手に確実にダメージを与えていく。 その技を相手の2匹は受けるが、それで倒れはせずフライゴンはドラパルトにドラゴンクロー、ジュラルドンはゴリランダーにラスターカノンを放つ。
「ひるむな、ゴリランダー! ジュラルドンにドレインパンチ!」
「ジュラルドン、寄せ付けるな! 再びラスターカノンを放て!」
ジュラルドンはゴリランダーにもう一度ラスターカノンを放ちむかえうち、ゴリランダーはそれを突き破ってドレインパンチを決める。 効果抜群のそれにジュラルドンは大ダメージを受けるが、倒れたりはせずゴリランダーにメタルクローを決めて反撃をする。
「そこだドラパルト、フライゴンにでんこうせっか!」
「りゅうのはどう!」
でんこうせっかで向かってくるドラパルトを、フライゴンはりゅうのはどうで迎え撃つ。 ドラパルトはでんこうせっかのスピードを利用してそれを回避し、フライゴンにでんこうせっかを決める。 続けてゴリランダーがフライゴンに突っ込み、ドレインパンチを食らわせてきた。
「ドラパルト、シャドーボール!」
「でんこうせっか!」
攻撃の手を休めることなく、ドラパルトはシャドーボールを放つがフライゴンはでんこうせっかを繰り出してそのスピードを利用して回避する。 元々攻撃用ではなかったので、ドラパルトに攻撃が通じなくとも関係ない。
「フライゴン、ゴリランダーにだいもんじ!」
「かわせ!」
「おせぇよっ!」
フライゴンのねらいは、ゴリランダーだったのだ。 急いでアスベルはゴリランダーに回避の指示を出そうとしたが、わずかに遅れてしまった。 フライゴンのだいもんじは至近距離で決まり、ゴリランダーの体力は大幅に削られる。
「ゴリランダー!」
「決めろ、ドラゴンクローッ!」
それでもキバナは攻撃の手をゆるめようとはしない。 フライゴンに技を繰り出させ、ゴリランダーにダメージを与えさせる。 その一撃がきいたらしい、ゴリランダーはその場に崩れ落ちた。
「これで、ゴリランダーは戦闘不能になったな」
「構わない……! 確実に勝利をするためならば……!」
「!?」
最初はアスベルの言っている意味が理解できなかった、だが直後に理解した。 ゴリランダーにドラゴンクローを決めたフライゴンが、そのまま地面に落ちたことで。
「フライゴン!」
「なんと、ここでゴリランダーを倒したと思われたフライゴンも、倒れてしまったぁぁぁ!! いったい、なにが起きたというのだぁぁ!」
このダブル・ノックアウトにはキバナはすぐに、ゴリランダーとフライゴンをみて、何故ゴリランダーだけでなくフライゴンも戦闘不能になってしまったのか、その原因に気付く。
「ウッドハンマー……か……!」
「次の一撃で倒れるくらいならば、自らダメージを負ってでも立ち向かい、相打ちにおいこんでやるっ!」
「……やってくれるぜ……」
大胆な策にでたアスベルとゴリランダーにたいし、キバナはいっぱい食わされた、とつぶやいた。 アスベルは、ゴリランダーをボールに戻しつつ、さらに言葉を続ける。
「そして、オレは……こんな無茶な作戦にこたえてくれた、彼の思いに答えなければならない! だから、あなたに勝ってみせる!」
そう告げるアスベルの眼差しは、鋭い気迫に満ちていた。
「やってくれたな……修行したのは伊達じゃねぇ……ということか」
アスベルの目を見て、そして作戦を知ったキバナは、ボールにフライゴンを戻した。 そのタイミングでその場に吹き荒れていたすなあらしが止み、その場にドラパルトとジュラルドンが残った。
「ドラパルト、ドラゴンアローッ!」
まず動き出したのは、すばやさで勝るアスベルのドラパルトだった。 ドラゴンアローにより2匹のドラメシヤが矢のように放たれ、ジュラルドンを攻撃する。 その攻撃に耐えたジュラルドンは反撃であくのはどうを放ちドラパルトにダメージを与える。
「倒れないかっ」
「ドラパルトを……ドラメシヤやドロンチの頃と比べてもらっては困ります! 彼は……オレとともに強くなったのだから!」
「ほぅ、そこまでの自信をもって進化させてたか……だったら!」
キバナはその獰猛な顔つきをさらに鋭くさせた。 それがなにを示しているのか、アスベルもすぐに気付く。
「ここで、決めてやるぜ! 荒れ狂えよ、オレのパートナー! スタジアムごと、やつを吹っ飛ばす!」
「いくぞ……ここで、決める!」
「キョダイマックスだ、ジュラルドン!」
「ダイマックスしよう、ドラパルト!」
2人は同時にポケモンをいったん下げ、ボールを巨大化させ、それぞれでポケモンをダイマックスさせる。 そうしてその場にキョダイジュラルドンと、ダイマックスドラパルトが現れた。
「まずはこれでどうだ! ダイスチル!」
「ゆくぞ、ダイホロウッ!!」
まず二つのダイマックス技がスタジアムの中央で衝突し、破裂する。 直後にドラパルトはダイアークを放ちジュラルドンを攻撃すると、ジュラルドンはキョダイゲンスイで反撃する。
「受け止めろ!」
「なに!」
そのキョダイマックス技を、ドラパルトは正面から受け止める。 そして、それに耐え抜き反撃をする。
「決めろ、ドラパルト……! ダイドラグーン!」
「自分に近づけさせるなジュラルドン! キョダイゲンスイでむかえうて!」
「貫け!!」
ダイドラグーンとキョダイゲンスイが衝突をする。 技と技のせめぎあいが激しくなっていったが、やがてアスベルの声にあわせて、ダイドラグーンがキョダイゲンスイを打ち破り、その技の威力も交えて相手のジュラルドンに命中する。
「ジュラルドンッ!」
その一撃が決まり、ジュラルドンはキョダイマックスがとけ、そのまま戦闘不能となって倒れた。
「ジュラルドン戦闘不能! ドラパルトの勝ち!」
「おぉっとここで、ジムリーダーのポケモンがすべて戦闘不能になったぁぁぁ!! これにより、ジムチャレンジャー・アスベル選手の勝利が確定!! アスベル選手、リベンジ成功です!!!」
「おぉぉぉぉぉお!」
そこで審判が下り実況が流れ、アスベルは自分の勝利を実感して笑みを浮かべる。 そして元の状態に戻ったドラパルトをそっと抱き寄せ、ゴリランダーのボールも胸に抱き、声をかける。
「やったぞ……ドラパルト、ゴリランダー。 ありがとう」
そしてキバナもジュラルドンにおつかれさまと声をかけつつボールに戻すと、つぶやいた。
「オレ様、負けてもサマになるよな。 記念に自撮りしておくか……」
そう言った瞬間、宙に浮いていたスマホロトムが、キバナを撮ったのだった。
そしてアスベルも一旦、ドラパルトをボールに戻し、中央に歩み寄ってキバナとむかいあう。
「激しい戦いを終えて……今は晴れ渡った空のように、すみやかな気持ちなんだよな!」
「キバナさん……」
「なんていえるか!!」
「ええ!?」
最初はさわやかに語っていたのに、急に怒りを出したのでアスベルは戸惑う。
「ダンデのライバル? チャンピオンになっていないのに、オレとポケモン達は自惚れていたようだ!」
どうやら自分を負かしたアスベルよりも、自分自身に腹を立てたようだ。 勝敗の結果に対し誰かをせめず自分だけの責任とする姿勢が、その言葉からもうかがえる。
「さ、アスベル!」
「は、はい!」
だがすぐにキバナは彼に対し強く笑ってみせると、彼の成長をたたえた。 まるで、彼が自分にたいするリベンジを成功させたことが嬉しいことかのように。
「いざ立ち上がったら、前よりすっごい目をギラギラとさせてきやがって……! 勝ってしまうとは驚きだな! お前はホントにつえぇよ!」
「……キバナさん……!」
「さぁくれてやろう、ドラゴンバッジをな!」
そういって、キバナと握手をしながらドラゴンバッジを受け取るアスベル。 そんなアスベルに、キバナは告げる。
「お前はこれから、ダンデに挑んでいくんだ」
「そうなりますね」
「このまま勝ち進めよ……今度は、オレが! オレたちが! お前にリベンジをする番なんだからよ! そのためにも、今よりずっと強くなれ!」
「はい!」
そうして2人は試合会場を後にし、アスベルはユニフォームから私服に着替えて、そこを後にしようとしていた。
「アスベル」
「ん、キバナさん?」
そのとき、アスベルのところにキバナが駆けつけた。 どうしたんだろうとアスベルが首を傾げていると、キバナは気になっていたことを問いかける。
「足止めしてすまない、ちょいと気になってな……試合は終わったが、もう体調に問題はないか?」
「ええ、今は全く問題がありません。 むしろ気分がいいです」
そう口角を少しあげるアスベルを見て、キバナはとりあえず今の彼は機嫌がいいのだと悟りそうかとだけ返す。 どうやら、前回戦った後でアスベルが倒れたことを思い出し、心配していたのだろう。
「ということは、まさか前回は負けたショックでああなったとか……?」
「たかだか勝負の結果、いちいち引きずってられませんし気にしたって仕方ないでしょう。 それに、その程度のショックで頭痛を起こして倒れるなんて、そんなにオレは弱くありません。 逆恨みや言い訳なんて論外です」
「お、おお……そうかよ……」
ズバズバと言い切るアスベルに、キバナは苦笑した。 意外にも鋭いことをハッキリ口に出す男だと思った。 アスベルも、自分はまた得体の知らないものに苦しめられ混乱するのではないか、とキバナが自分の身を案じているのを感じ取っていた。
「もしかしたら、また……オレはオレ自身に締め付けられるかもしれない」
おそらく、自分の正体がわかるまで…この困難からは逃れられないと悟ったらしい、アスベルはそうつぶやく。 そして、それはいっさい解決していないことも。
「まだ、オレは何故旅のなかでおかしくなるのか……何故、あのとき苦しみ倒れてしまったのか………その謎は、未だにわかりません」
「……アスベル……」
「………ですが、これで足を止めたら、永遠に謎はわからないままだと……オレは思います。 いくらこの謎が恐ろしかろうと……苦しめられようと……オレがとまればすべてがそれまで、でしょう」
そしてアスベルは、その蒼い瞳でキバナを見て彼に言う。 自分のするべきことを。
「……だから今は、前に進む………それだけです!」
「……そうか、まぁ今だけだとしても……それがベストだろうな」
そんなアスベルの瞳を見て、キバナもまた笑みを浮かべたのだった。
そして、ポケモンセンターでポケモンを休ませたアスベルは、ホテルへ向かおうとしていた。 今日はもう遅く、最後の勝負が行われる場所へ向かうことはできそうにないからだ。 明日の朝の電車に乗って向かえば、大丈夫だとおもった彼は、ナックルシティのホテルで英気を養うことにした。
「さてと……いくか」
「アスベル!」
「ソニアさん、マグノリア博士!」
そんなとき、アスベルの存在に気付いたソニアとマグノリア博士が声をかけてきたので、アスベルもそれに応じる。
「まずは、キバナさんに見事勝利! ジムチャレンジ突破、心からおめでとうだよ!」
「ありがとうございます」
「キチンとお祝いしたいところだけど、あなたも話をきいてよ」
「話……」
まさか、ガラル神話のことだろうか。 もしくは世界に現れる謎の赤い光のことだろうか。 いずれにせよアスベルは、この話に耳を傾けなければならないと本能で悟り、2人と話をすることにした。
「ナックルシティの光……大昔、巨大なポケモンが暴れ回り、ガラル地方を滅ぼしかけたとされるブラックナイトと同じとみて、いいですよね?」
「そのようです。 地上に落ちたねがいぼしから溢れ出るエネルギーを使って、ポケモンをダイマックスさせています」
そう語りつつ、マグノリア博士は首を横に振った。
「ですが、私達はエネルギーを制御する方法は知りません。 それこそ2人の英雄がなんなのか、わかっていないからです」
「以前、マグノリア博士はダイマックスにたいし不安もあるとおっしゃっていたと……こちらのソニアさんから伺いました。 その不安が、エネルギー制御と関係があるのですね」
「そう……ねがいぼしを手にし、それでDバンドを作り出した。 それによりポケモンを巨大化させ、戦わせることができる……。 安全を考慮しているとはいえ、それで完全に制御できているとは言い難いのです」
マグノリア博士がダイマックス研究の中で不安を覚えていた理由を語ると、話は伝説の英雄についてにもどっていく。
「伝説の剣と盾……そして従わせるポケモン……今はどこにあるのか、もっと調べないと……。 もしあれが、ブラックナイトというなら、それがないと立ち向かって打ち勝つのはまず……できない! 目覚める前にみつけるべきだとおもう!」
そう真剣な表情で語るソニアを見て、博士は何かを決めたかのようにうなずき、彼女に告げる。
「愛しいソニア……」
「はい?」
「あなたに、白衣を渡しておきます」
白衣を渡す、それがなにを示しているのかを悟ったソニアは驚く。
「え、いいのお婆さま!? 宿題はまだ終わってないけど……」
「むしろ、終わらせるためです」
そう言われ、ソニアはマグノリア博士から受け取った白衣をその場できてみせる。 その姿を見たアスベルは、素直に感想を告げる。
「ソニアさん……いいえ、ソニア博士と呼ぶべきですね」
「お、おう!」
「……さぁ、ソニア。 その白衣をまとい、ブラックナイトからガラル地方を守った、2人の英雄。 今あなたが口にした伝説の剣と盾についての真実を、解き明かしてくださいね」
「……はい!」
マグノリア博士の言葉に対し、ソニアは力強く頷いて見せた。 そして、アスベルに激励を送るために笑いかける。
「アスベル。 あたしは、あなたやホップがダンデくんと戦うところをみたい……だから、あとのことはお姉さん達にまかせて、あなたはシュートシティにいきなよっ!」
「はい!」
そして、ソニアに続いてマグノリア博士もアスベルに言葉を贈る。
「アスベル」
「はい」
「あなたとホップが、あのときねがいぼしを手にしたこと……そして、まどろみの森に足を踏み入れたこと。 それらは決して、偶然ではない……。 私はそう思うのです」
「……マグノリア博士………」
「だから、偶然に終わらせないためにも……あなたは、自分のできるすべてを尽くしなさい。 あなたにできるすべて……それは、チャンピオンにポケモン達とともに挑むことです。 今は、ゆきなさい」
マグノリア博士のその言葉を受けて、アスベルはもう一度、力強く頷いて見せた。
「はい!」
リベンジ成功したアスベルは、さらに先へ。
そして、ソニアも新しいステップへ。
色んな「先」が見える展開ですね。