ここにもいろんなキャラの色んな思いがあります。
「緊急速報です。 マクロコスモス創始者にして社長、及びポケモンリーグのガラル支部委員長である、ローズ氏が昨晩の件について自首をしました」
「ローズ氏は昨晩、ブラックナイトと称してムゲンダイナを呼び出し、ナックルスタジアムを中心にポケモンが一方的にダイマックスをおこし、暴走させた疑いがあります」
「また、事態が起こる前にローズ委員長は全国のスタジアムをジャックし、ブラックナイト開始を宣言していました。 それにより、特にエネルギーが強かったとされるシュートスタジアムのバトルフィールドも崩壊しました」
今朝のニュースには、ローズ委員長が自首したことが大きく報道されており、例のムゲンダイナ騒動の内容についてキャスターがコメントを残していた。 そこには、ローズ委員長の人柄や彼が社長についてからの功績をたたえながらも、この凶行や自首にたいする疑問の声があった。
「つまらない」
ニュースキャスターのコメントに対し、ネズはそれだけを言ってテレビの電源を落とした。 彼がその行動にでた理由は彼の感想のとおり、つまらないからである。
「アニキ」
「マリィ」
そんなネズの元に妹のマリィが歩み寄ってきた。 彼女はネズと同じホテルの同じ部屋に泊まり、事態の終息とアスベル達の回復を待っていたのだ。 そんな彼女も今、ローズ委員長が自首をしたというニュースをきいたところである。
「これからはローズ委員長は、表舞台にはもういないということになりそうだね」
「ええ、正直この世からもいなくなればいいところなんですけどね」
「それを願っちゃダメ。 あんな人でも……愛する人がいるんだから……」
マリィも心の内ではローズにたいして、憎しみに近い感情を抱いている。 ある意味では彼は自分の故郷を滅ぼしている存在なのだから。 だが、憎しみを抱いたところでなにもならないことも、なにもならないこともマリィは理解しているので、決して表に出すことはしなかったのだ。 とはいえ、例外もあるのだが。
「もっとも、アタシの大事な友達がとんでもないことになったら、アタシもアニキと同じ気持ちになるけん。 今回はそれがなかったから、大目にみることにしとるばい」
そうハッキリと言って、マリィはスマホの画面を見た。 そこには、自分にとって大事な友達がみんな無事だと伝えられているメールがうつっていた。 写真付きで知らされたとき、マリィはすっと不安が消えていくのを覚えたのだ。 もしこれがなかったらと思うとゾッとするし、そうなった場合は原因となった人物の存在を抹消したいと思ってしまうほどの復讐心を抱いてしまうだろう。 それが現実にならなかったことにたいし、マリィは安心したのである。
「ねぇ、アニキ」
「なんですか?」
そして、今回の出来事や友達の行動などをとおして、マリィの中にある決意が生まれた。 自分も生半可な気持ちでいるわけにはいかないし、いたくないという負けん気。 友達を思う気持ちと彼らの強さを知るからこそ高ぶる闘争心。 それらをすべて、マリィは自分自身だと受け止め、自分のこれからの生き方に対しある覚悟を抱いたのである。
「あたし達の強さも弱さも多くの人にわかってもらって、スパイクタウンを盛り上げたい……守りたい。 そのためにもあたし、自分の将来をひとつ……決めたから。 アニキに協力をお願いしたいんだ」
そうネズと向かいあうマリィの表情は、真剣そのものだった。
ニュースが流れ始めたそのころ、ローズ委員長は、自首を宣言し謝罪のためにジムリーダー達の前に現れ、彼らに頭をさげた。 ジムリーダー達は戸惑いの色を浮かべ、唯一この中でもっとも傷を負ったキバナは彼をにらみつけていた。
「ッ」
ずかずかと、マリオンはジムリーダー達をわっていき彼の前に立つと、彼の頬を強くひっぱたいた。
「ま、マリオン!」
マリオンの行動に対しては、彼女のいとこであるサイトウも驚愕した。 そして彼女に駆け寄りそばにたつと、マリオンはローズをにらみつけながら怒鳴る。
「ホントは、あんたの顔がめちゃくちゃになるほどにブン殴りまくりたいけど……この一発で勘弁してやるよ」
「……きみは……」
「ああ、念のために言っておくけど、あの時のポケモンバトルの結果はその一撃に含んでないからね。 バトルにやられたらバトルでやり返す主義だし、それがトレーナーのルールってもんでしょ」
ローズを殴ったのは、決してポケモンバトルで打ち負かされた腹いせではないことを、マリオンは正直に伝える。 ローズの方も、それを理解しているようであり、確認をするようにマリオンに問いかける。
「私に対する憎悪は、彼らを巻き込んだことに対して、ですね?」
「はぁ? 当然だろ」
マリオンはぎっ、とローズをにらみつけながらため込んでいた怒りを言葉として、次々に彼にたたきつけていく。
「あんたのせいで、ボクは大事な人を失いかけたんだから! ……結果全員無事だったしいいじゃんって、軽い問題で片づけていいコトじゃねーんだよ! そこんとこ、失墜した自分の立場とともに、刑務所の中でじっくりと痛感しろ!!」
「……」
「この際だからハッキリいうけど! あんたはガラルのためじゃなくて、自分のために行動していたにすぎねぇんだよ! このド・エゴイスト!!!」
そうトドメをさすように怒号を飛ばしたマリオンは、ふんと踵を返して立ち去っていった。 サイトウは少しあわてながらも、ローズと向かい合ってマリオンには悪気がないとフォローをしようとしていた。
「委員長、彼女は」
「かまわないですよ。 あの子は……ただただ、大事な人を大事にしたいだけなのだから」
ローズは彼女を責めることなく、そのすべてを自分に対する正論だと受け止めた。 そして、その言葉を受けて当然として受け止めるのが、彼女にたいする贖罪であると思っているのだろう。 これも独善でしかないと自嘲気味に笑いながら、ローズは彼らの前から姿を消した。
「……」
「マリオン……ありがとうね、私たちのために怒鳴ってくれて。 みんなの気持ちを、あなたは代弁してくれたわ。 本当にあなたは、強いわね」
「……いや、ボクは本当の気持ちを打ち明けただけです」
そう、ルリナに礼を言われるマリオンには、さきほどまでの気迫はなかった。 あの瞬間にすべてを出し切ってしまったのだろうか。 心配になったカブが声をかけてくる。
「大丈夫かい?」
「平気です、少し声をあらげたせいで……喉がちょっとイカれてるだけなんで……」
「無理に聞き出さないけど、なにかあればぼく達に相談してください。 力になりますので」
「はい、ありがとうございます」
そう淡々と返すマリオンをみて、ジムリーダー一同は疲れているのだと察した。 そこでサイトウが動きだし、ほかのジムリーダーに告げる。
「みなさん、彼女のことは私に任せてくださいませんか」
「……そうですね、ここは従姉である貴女が適任でしょう」
「無理したりするなよ」
そう話し合い、ここは2人にきりにさせようと判断したほかのジムリーダー達は解散した。 そうしてその場にはマリオンとサイトウの2人だけになり、サイトウはマリオンに声をかける。
「今は私がいるのでもう大丈夫ですよ、マリオン」
「うん……サイトウちゃん」
「なんですか?」
「ねぇ……今のボク、間違ってなかったよね? 殴ったけど、ボク悪くないよね?」
それをきき、サイトウは気づいた。 マリオンは先ほどの行動に後悔はしていないが罪悪感のようなものを抱いているのだと。 自分の行動が正しいのか否かがわからなくなり混乱しているのだと。 マリオンは感情的になりやすく、それ故に相手に攻撃的になってしまうのだ。 だが、サイトウは今の彼女の行動を否定し責め立てようとは思えなかった。 だから、こう声をかける。
「マリオンが抱いていた不安と怒りは、誰もが抱えていたもの……。 そして、いつか誰かが言わなきゃいけないことだったと、私は思います。 しかし、今回の自首で失速したとはいえ、相手は大きすぎる……それでも、貴女はひるまず立ち向かった。 私はあの時の貴女を……勇敢な人だと讃えますよ」
「……うん、うんっ………ありがと、サイトウちゃん……」
そうマリオンは、サイトウに抱きついたのだった。 昔から彼女に頼るときはいつも、そうしていたから。
「………ローズ、委員長………」
一方、ローズ委員長が自首をして現場に連行されていく現場を目撃したビートは、一人でいすに座り込んでいた。 自分はただ、彼が連行されていくところを見ているしか出来なかった。 声をかけようとも、彼の前にでようともしなかった。 自分はあれほどにローズを信仰し尊敬し、彼のためにがんばっていたはずなのに、向こうから縁を一度斬られただけでそこまで感情を断ってしまうとは。 もう自分にとって彼は、必要のない存在なのかもしれない。 それは、彼にとっても同じなのかもしれない。
「よう、ビート」
「あなたですか」
「ああ、おれだぞ」
闇の感情に飲まれそうになったとき、彼に一人の少年が声をかけてきた。 かつてジムチャレンジで競い合い、一度打ち負かした相手…ホップだった。 彼は、何故か笑っていた。
「何のようですか」
「お前がおれをコテンパンにした後、どうなったのか……全部聞いたぞ。 お前、やっちまったな!」
「………すべてを、知ったと」
「ああ」
ホップは何故、ビートがセミファイナルトーナメントまでこなかったか、何故ファイナルトーナメントでフェアリーのユニフォームを着て乱入してきたのか。 そのすべての事情をアスベルやマリオンから聞いた。 話を聞いたときホップは驚いたが、自分とビートの因縁は本人と直接話して決着をつけたいと思ったので、こうして彼の前に現れたのだ。
「そう考えたらおれ、弱くて情けない姿を見せて迷走してでも……間違ったことはしないで正々堂々と進んでいっただけマシだと思ったよ。 そのおかげで途中でリタイアとか失格になったりはしなかったし、最後のトーナメントまで勝ち進めたからな。 お前と違って」
「嫌味ですか」
「まぁ、やられたからやり返しているだけだけどな。 それにこれくらいの嫌味だったら、お前もさんざんやってきただろ? お前がほかのトレーナーやおれ達にやってきたことに比べれば、一言ですますおれの方がマシだろ!」
ホップの言葉に対しぐうの音もでなかったビートは、黙っていた。 そして、ひとしきりビートに向かって吐き捨てたホップはスッキリしたーと明るく背伸びをした。
「ま、過去のことは今おれがやり返したことでおしまい! 色々おれとお前はおあいこだし、もう蒸し返したりズルズル引きずるのはナシ! 今後は、これからのことだけを考えていこうぜ!」
「……これから、ですか……」
まさかその話題を出されるとは思っていなかったビートは、少し考えてから口を開く。
「ボクに、チャンピオン以外に相応しいものがあるとでも?」
「え、お前はポプラさんの跡を継ぐんだろ?」
「何故そうなるんですか」
「他に、お前ってなにかあったっけ?」
「……………」
「だったら今度は、ポプラさんの名前に傷を付けないようにしなきゃな!」
今ビートを支える大人はローズではなく、ポプラである。 ホップはそう伝えたいのだろうか。 そうビートにはやるべきことがあるのだと伝えた後、ホップは自分のことを口にした。
「おれも、チャンピオン以外の道も探さないとな! ここで延々と詰まったら、アスベルのライバル失格だからさ!」
「君の方こそ、それを決めているのかい?」
「さぁ?」
「さぁ……って……」
呆れるビートに対し、ホップは笑いながら空を見上げた。
「おれは生きてる。 大事な人も生きてる。 今はそれで満足していたいんだ」
そして、その日はあっという間に夜になった。 アスベルは自分のポケモン達とともに夜風に当たり、物思いにふけっていた。
「不思議と穏やかな夜だ……」
そういいながら、アスベルはそばにいたアーマーガアをそっと撫でる。 夜空は星が輝いており、風は冷たいが心地よい。 あの戦慄の夜は悪夢だったのかもしれない。 だが、アスベルの記憶と体の傷、そしてあのときの感覚が体に残っていることで、あの夜は現実に起きたことだと伝えている。
「あの瞬間……オレは確かに、別の何かになっていた……」
ブラックナイトが起きてムゲンダイナとむかい合い、伝説のポケモンを呼び出しともに戦うことになったとき。 アスベルは姿が大きく変わった。 あのときの自分は、不思議な力に満ちていた。 何故あのような変化が起きたのか、何故自分のすべきことがわかったのか…その答えや真実には未だにたどりつけていない。
「アスベル」
「マリオン、ホップ」
そう物思いに耽っていたとき、アスベルの元にマリオンとホップが駆けつけた。 2人の存在に気づいたアスベルは、2人の方を向く。
「ポケモン達が騒がないと思ったが、相手がキミ達なら納得がいく」
「そうか。 お前のポケモン達は、おれ達が味方だって認識してくれてたんだな」
「なにげにうれしいよね」
そう会話をしつつ、アスベルは今自分達が静かであることにたいしある話を聞いていたので、マリオンに礼を言う。
「マリオン、ありがとう」
「え、どうしたの急に? なんでボクがお礼を言われてるの?」
「キミがマスコミをしかりつけてくれたおかげで、オレやホップは安心して治療に専念できたんだ。 あいつらがいたら、オレ達も落ち着いて元の体力を取り戻せないからな。 あんな騒動があったのに静かなのは、キミが前にでてくれたからだ。 だから、オレ達を守ってくれてありがとう、と言ったんだ」
「……」
アスベルに言われ、マリオンは少しだけ照れる。 あの事件のことを考えれば、礼を言わねばならないのはこちらの方なのに。 そう考えていたら、なにかに気づいたホップが口を開いた。
「……思えば、この3人でアニキからポケモンをもらったんだよな」
「あ……そうだったね」
「そうだな。 あれからみんなバラバラにすすんだとはいえ、キッカケはあそこなんだ」
いつも3人で遊んでいた幼なじみから、大きな変化を受けた。 あの日、ダンデから3匹のポケモンをもらいそれぞれで一匹ずつ分け合って、それからジムチャレンジの推薦状をもらってジムチャレンジに挑んだ。 そのなかでアスベルとホップはねがいぼしを手にした。
「あのとき、おれは最強のトレーナーになるってこのねがいぼしに願ったけど……。 あの夜にお前に言われるがまま願ったときの方が、おれは力をいれていた気がするぞ」
「ウソはないだろ」
「うん」
「否定しないんかい」
その願い星は今も、ダイマックスバンドの中にある。 そうして思い出話を弾ませていく中、アスベルはあの夜で強く感じたことを口にする。
「今回の出来事で、オレは大きく変わった気がする」
「それって、あの時……お前の姿のことか?」
「そんなにすごかったんだ」
「ああ、まるで別人だったぞ」
あのときのアスベルの姿を思い出し、ホップはそう感想を口にした。 その感想に対し否定が出来ないアスベルは苦笑しつつ、話を続ける。
「姿が変わったこともあるし、オレも謎の……自信のような力に満ちあふれた。 あの瞬間、この戦いには勝てると確実に思えたし……成功した」
そう口にしつつ、アスベルは首を横に振る。
「だけど、それと強さはまったく関係がないんじゃないか……そう思えてならないんだ」
「どういうこと?」
「オレの考える、求める強さはもっと別のほうにある気がしてならない。
だから……あらためて、オレはなんのために強くなろうとしていたのか、その理由を考えてみたいと思っていたんだ」
「……それで……どう、見つかった?」
「いや……まだ、見つけられていない。 オレの、正体を含めて……な……」
そう答えつつ、アスベルは少し強気に言い放つ。
「だけど、ダンデさんに勝利し……そこからさらに強くなった暁には……ハッキリとした答えを見つける。 強さの意味も、オレの正体も」
「おお、でっかくでたなお前」
「そのためにもオレ……ちゃんとダンデさんと、勝負がしたいな。 ……チャンピオンの座とか関係なく、トレーナーとして、全力でぶつかりたい」
それが、今のアスベルの願いなのだろう。 ダンデに勝利することはアスベルにとって、自分の出自や強さの答えを出すために絶対に通らねばならない、ある種の登竜門のようなものだろう。 彼を越えられないものに、運命のすべてを知り受け止める資格はないと、彼自身は考えているようだ。
そんなアスベルの思いに対し、ホップとマリオンは彼に同調して笑いながら言った。 激励を交えながら。
「おれもみたいぞ、アニキとお前のバトル!」
「ボクもみてみたい! 絶対に最高のバトルになること間違いないもん!」
「だから……そのときがきたら全力で頑張れよ!」
「ボクたち、全力で応援するからね!」
「ああ!」
ホップとマリオンの言葉に対し、アスベルはほほえんだ。
ホップだったらビートが謝る前に、こうやって許しちゃうんだろうな。
そう考えながら二人の会話を描きました。
流石に彼も、あとからとはいえ自分の行いを反省する知能がこのときには芽生えているでしょうし。
あと、ローズをぶん殴るマリオンも、彼に対してハッキリ言い切るのを含めてかきたかった。