ダンデから紹介状をもらったアスベルとホップは、いよいよジムチャレンジのために旅に出た。
途中のアクシデントでワイルドエリアに降り立つことになり、そのワイルドエリアをこえ、彼らは開会式の行われるエンジンシティに到着した
これからいよいよ、待ち焦がれた開会式が、はじまろうとしていた。
エンジンシティのエンジンスタジアム。 そこでアスベルはホップと無事に合流し、そのときにダンデから貰った推薦状を提出し、ジムチャレンジの受付を終わらせた。 あとは明日のジムチャレンジ開会式に出席するだけだ。
「なんかヘンなヤツもいたしな」
「誰のことを言ってるかは察しはつく…しかし……それよりもだ。 あそこでダンデさんの名前を大きく出して………大丈夫だったのか?」
「いーっていーって!」
アスベルはホップが受付に向かって、自分と彼がダンデの弟だと言ったのだ。 受付をしていたリーグスタッフは、チャンピオンからの推薦状ははじめてだと言っていたから、それにたいしそう返したのである。 実弟であるホップはともかく、自分までそう呼ばれたことにたいしあきれていた。
「それに、オレのことまで弟と呼ばなくても………」
「いいじゃん、それくらい!」
明るくそう言うホップにたいし、アスベルは脱力して好きにしてくれと言った。 そう会話をしながら、ジムチャレンジの挑戦者用に部屋を用意してもらったというホテル、スボミーインへと向かったのであった。
「よっ、若者たち! 無事にエントリーできたみたいね!」
「あれ、ソニアじゃん」
そこにいたのは、ソニアだった。 彼女は目の前にある、鎧を身につけ剣や盾を身につけた、物語に出てくる勇者のような姿をした人物の像が立っていた。
「これは?」
「ガラル神話に出てくる、英雄の像だよ」
「…………英雄の……像……?」
「そう、今回の旅でガラル神話の詳細を調べるのが、あたしの使命みたいなものなんだ。 せっかくだし説明してあげるね」
ソニアは、英雄像をみながら、ガラル神話について語り聞かせる。
「大昔ガラル地方の空に黒い渦人呼んで、ブラックナイトが現れあちこちで巨大なポケモンが暴れ回ったが剣と盾を持った一人の若者によって鎮められた。 これは、その伝説の若者すなわち、英雄をモチーフにした像よ」
「そんな伝説が……あるんですね」
「もっとも、英雄がどんな剣や盾を持っていたのかわからないし……そもそも黒い渦とはなんだったのかも謎なんだ………。 ガラルの空を覆ったことから、ブラックナイトとも呼ばれているけど……」
「へぇー、英雄ってのはアニキみたいに強いんだな!」
「…………」
「アスベル?」
「あ、いや」
英雄像を、アスベルはじっと見ていた。 まるで、その英雄像におもうところがあったかのように。 ホップに声をかけられ、アスベルは我に返る。
「アスベルって、こういうのに興味があったっけ?」
「どうなのでしょう……読書は好きですが……」
「ふーん。 まぁとりあえず、明日は開会式だしこのままホテルに泊まろうぜ」
「ああ。 じゃあソニアさんも、この伝説で何かわかったらおしえますね」
「ええ」
「ん?」
早速ホテルにチェックインをしようとしていたアスベルだったが、そこには人だかりができていた。 全員ざわついており、困ったような顔を浮かべている。
「なにがあった、マリオン」
「あ、アスベル!」
そこにはよく知る少女、マリオンがいたので彼女に声をかけ、なにがあったのかを尋ねることにする。
「きいてよ! あの如何にもヤンチャそーな軍団がホテルの受付にたむろしてて、誰もチェックインできないんだよっ!」
「は?」
「そんなすっとうきょんな返事をしてないで、こっちきてみてごらんよっ!」
「う、うわ、わかったから………そんな強い力で腕を引くな……!」
マリオンは女の子だが、男顔負けのレベルですっごく力が強い。 その力強さは、男であるアスベルやホップを物理的な意味で振り回すほどである。 そんなマリオンに引っ張られつつ受付に顔を出すと、そこには黒とマゼンタを貴重としたフェイスペイントをした集団がいた。
「服装がいかにも、パンクロックって感じだな」
「うん………あの調子で占拠しちゃってるから、誰も受付できないんだよ!」
「…………このままだと、オレも彼らも泊まれないんだな」
「え、うん……そうなる、ね?」
アスベルはうなずくと、前に出ていった。
「え、アスベル?!」
「すみません、よろしいでしょうか」
「あ?」
「あなた達がそこに長いこと屯しているせいで、他のお客さんに迷惑だと思うことはできないんですか?」
「おお、アスベル率直!」
アスベルの言葉に対し、マリオンはそう感想を漏らす。 そして、アスベルの言葉を受けた集団は
「我々エール団は、あるジムチャレンジャーの応援のために遠路はるばる都会までやってきたのです! そんなエール団のじゃまをするなら、容赦しませんよ!」
「………ほぅ、どう容赦しないんですか?」
そうアスベルはエール団を挑発すると、エール団が2人前にでて、勝負だと言ってポケモンを繰り出してきた。 使用ポケモンはそれぞれ、ジグザグマとクスネである。
「複数でくるか」
「じゃあボクも追い返すの手伝うね! こいつらのせいでホテル泊まれないとボクも困るもん!」
「ふっ……じゃあ、頼むぞ!」
「まかせて!」
そういうとマリオンはボールを手に取り、それに合わせるかのようにアスベルもボールを手に取った。
「いっけ、ヒバっち!」
「頼む、サルノリ!」
マリオンはヒバニーのヒバっち、アスベルはサルノリを繰り出す。 まず攻撃にかかってきたのは相手のクスネであり、ヒバっちにでんこうせっかをしかけてきた。 ヒバッチはそれに耐えるとひのこを放ち、クスネを攻撃する。
「そこだサルノリ、えだづき!」
その隙にアスベルはサルノリに指示を出し、えだづきでジグザグマを攻撃する。 ジグザグマはそれに耐えると反撃でたいあたりを繰り出すが、サルノリはアスベルの声にあわせて回避し、再びえだづきを食らわせて倒す。
「よし!」
「どうだ!」
それと同時にマリオンも、ヒバっちにうまいこと技を指示し相手のクスネを倒したようだ。 これにより、少なくとも自分に勝負をふっかけてきた2人のエール団との勝負には勝った。
「やったね!」
「ああ」
「………つ、強すぎる……」
マリオンは普通にポケモンバトルに勝てたことに喜び、アスベルは安堵していた。 そんなとき、ホップが姿を見せた。
「おーい、アスベル! お前のチェックイン騒がしいぞ………ってなんだこれ!?」
「騒がしいのはあんたも同じでしょ」
「ってかお前もいたのか、マリオン」
「きづくのおっそ!」
マリオンがそうツッコミを入れると、ほかのエール団が騒ぎながらアスベルの前にでた。
「みえーる、おまえの敗北が! きこえーる! おまえの鳴き声が!」
「よし! おれがチャンピオンになるための、ジムチャレンジ前のトレーニングだぞ! アスベルも一緒に戦えよな!」
「ああ」
ここでマリオンと交代する形でホップが加わってきた。 エール団も2人前にでて、ジグザグマとクスネを出してきた。 その並びに対し、マリオンがさっきと同じじゃんと小声でツッコミを入れている。
「いっけ、ウールー!」
「頼む、ココガラ!」
その一方で、ホップはウールーを、アスベルはココガラを繰り出して、エール団のポケモンと向かい合う。
「「たいあたりっ!」」
まずは2人で同時に同じ技の指示を出し、同時にエール団のポケモンを攻撃する。 そして、相手の反撃など許さないといわんばかりに、ウールーはにどげり、ココガラはつつくを仕掛けて一瞬でエール団のポケモンを倒した。
「みえーる……おれたちの敗北が………きこえーる………おれたちの泣き声が………」
「あーあ……ジムチャレンジの開会式を観に来ただけなのに……」
ポケモンバトルに負けたエール団は、ショックを受けていた。 自業自得だとアスベルは、そんなエール団の姿を見ておもう。
「みんな、なにしてんの?」
そのとき、ホテルのロビーに少女の声がした。 声を聞いたエール団は驚きあわてながら声の主をみて名前を口にする。
「マリィ!」
「あ………えと、その……」
「……あんた達がほかのジムチャレンジャーを気にするのもわかるけど、ちょっとやりすぎだって…」
エール団の前に現れたのは、黒い髪を二つに結って、やや変わったそりこみをした少女だった。 マリィ、と呼ばれたその少女は呆れたように青みがかった緑色の目でエール団をにらむと、アスベル達の方をみて頭を下げる。
「ごめん! エール団はあたしの応援団なの。 みんなジムチャレンジがはじまったことで、なんだかテンションがあがってるみたい……」
そう彼らとバトルをしていたアスベル達に謝ると、マリィはエール団にたいしさっさと帰るよう言うと、エール団はそれを聞いて立ち去っていった。
「あたしの応援に必死になるあまり、ほかのジムチャレンジャーには刺々しい態度になってるの………。 不愉快な思いをさせたら…ゴメンね」
「お前もジムチャレンジャーなんだろ? いきなりファンがつくなんて、すげーじゃん!」
「…………」
そのホップの素直な言葉に励まされたのか、マリィはクスリと小さく笑った。 その表情をみてアスベルも安心したように、彼らに呼びかける。
「それじゃあ、みんなで明日の開会式のためにも、部屋を取って休むとしよう」
「だな!」
そのアスベルの案に同意したホップは、早速ホテルにチェックインをしにいった。 続けてマリィもホテルにチェックインをしていき、その後ろではマリオンがアスベルに話しかけている。
「ねぇ……あの子のことは、注意しなくていいの?」
「そこまですることはない。 少なくともあの子には一切の非はないからな。 それに……今後エール団がオレ達やみんなに迷惑をかけるようなことがあったら、倒せばいいかなって思ってる」
「そっか、そうだね」
アスベルの今後のエール団の対応を聞いたマリオンは、すんなり同意した。
「お前、納得はえぇよ……」
そんなマリオンの返事に対し、ホップはそうツッコミを入れたのであった。
「万が一のことがあればボクが直に」
「「それは絶対にダメだろ」」
そして、翌日。 エンジンシティのエンジンスタジアムで、ジムチャレンジの開会式が行われた。 スタジアムの中心にたったスーツの男性は、観客に向かって呼びかける。
「レディース・アンド・ジェントルマーン!」
そう呼びかけると、観客達は一斉に歓声をあげた。
「わたくし、リーグ委員長のローズともうします。 お集まりのみなさまも、テレビでご覧のみなさまも、本当にお待たせしましたね! いよいよ! ガラル地方の祭典……ジムチャレンジのはじまりです!!」
「ウォォォォオッ!」
「8人のジムリーダーに勝ち、8個のジムバッジを集めたすごいポケモントレーナーだけが! 最強のチャンピオンが待つ、チャンピオンカップに進めます!」
ローズはそう説明をすると、ジムリーダーにたいし入場を告げる。
「それでは、ジムリーダーのみなさん! 姿をおみせください!」
そのローズの声に答えるようにして、奥の方からジムリーダーが姿を現した。
「ファイティング・ファーマー! くさタイプ使いのヤロー!」
明るい赤毛に童顔、だが非常に体格のいい男性。
「レイジングウェイブ! みずポケモンの使い手・ルリナ!」
青いメッシュの入った長い黒髪に、スリムで長身の女性。
「いつまでも燃える男! ほのおのベテランファイター・カブ!」
少し白髪のはいった髪に引き締まった顔立ちの初老の男性。
「ガラル空手の申し子! かくとうエキスパート・サイトウ!」
褐色肌で体格のいい、灰色がかった金髪の少女。
「ファンタスティック・シアター! フェアリー使いのポプラ!」
ユニフォームではあるがやや特徴的な衣服をに見つけた老婆。
「ハードロック・クラッシャー! いわタイプマスター・マクワ!」
サングラスにアクセサリーをつけた、ふくよかな男性。
「ドラゴンストーム! トップジムリーダー・キバナ!」
ひときわ目立つ長身に青い瞳の、整った顔立ちの男性。
「一人来ておりませんが………ガラル地方が誇る、ジムリーダーです!」
そういってその場に7人のジムリーダーが集結し、続けて今回のジムチャレンジに挑んでいくトレーナー達が入場していく。 その中にはホップやマリオン、マリィ、そしてアスベルの姿もあった。
「ここから、なんだ………!」
アスベルは自然と胸が高鳴り、その顔に笑みを浮かべていたのだった。 そして、ジムチャレンジャーが整列すると、ローズはある場所に手を伸ばす。
「そして、皆が最終的に挑戦する相手………それこそが、無敵の男! チャンピオン・ダンデです!!」
そういって、ある場所で花火が打ちあがり、その硝煙の中からダンデが姿を現した。 ダンデはリザードンとともに強気な笑みを浮かべると、リザードンポーズを決めてその場を一気に盛り上げたのであった。
そうしてあっという間に開会式が終わり、全員それぞれでジムチャレンジに対してウォーミングアップを開始していた。
「ポケモンスタジアムの……コートに立ったぞ……!」
「まずは、ここから……」
「うん、ここからボク達の挑戦、はじまるんだよね!」
その中でアスベルとマリオンとホップは3人で談笑をしていた。
「実はあのジムリーダーの中に、ボクに推薦状をくれたいとこがいたんだー! いつかはボク達も、その子と戦うんだなぁっ!」
「そうか」
「それも、楽しみだな!」
マリオンのいとこも、あの中にいたのだ。 アスベルもホップも話を聞いたことはあっても実際にあうのは初めてである。 そう話をしていたマリオンは、そのいとこと会う約束をしていたことを思い出し、そこへ向かおうとしていた。
「そうだ! このあと、そのいとこと会うことになってたんだ! じゃあねー!」
「ああ、また」
「じゃあな!」
そうマリオンと別れた後、ホップはアスベルの方を向いて再び話を盛り上げる。
「うまく言えないけど、ワクワクとドキドキでふるえてる……お前も同じだよな!」
「ああ」
アスベルもあまり大きく表には出していないものの、この開会式による胸の高鳴りが押さえられないようだ。 ホップの言葉を否定せず、笑顔で答えている。
「いよいよだな、ホップにアスベル!」
そんな彼らに、ダンデが声をかけてきた。 そのそばには、開会式に見かけたリーグ委員長の、ローズの姿もあった。
「やぁ。 君達が、ダンデくんから推薦状をもらったトレーナーですね! どうも初めまして、私はローズともうします」
「はぁ……」
「特に………君は、なるほど………」
そのローズの目が自分の眼帯に……さらにはそれに隠された自分の左目に向けられていると感じたアスベルは、その目を手で覆い隠しつつ、ローズに問いかける。
「…………なにか?」
「おやおや、心配せずとも………ハンディキャップを背負っていても、ポケモンバトルに支障がなければ、問題なくジムチャレンジに参加できるよ」
アスベルは彼に悪気はないと承知しながらも、自分の左目についてこれ以上触れられないようにとそのことを注意する。
「………あまり……左目のことは言わないでください………古傷に響きます故」
「アスベル……」
「おっと、失礼なことをしました」
それをきいて、あまり傷にふれることはよくないことであると改めて感じたローズは謝罪をしつつ、アスベルやホップが身につけているダイマックスバンドに目を付け、そっちに話を動かす。
「お、既にダイマックスバンドをお持ちなんだ! いいねぇ……あなた達は願い星に導かれたのですね!」
「彼らに推薦状を出した直後、落ちてきたのが二つに割れて、二人はそれを手にしたんです」
「そうだったんですねぇ」
ダンデから二人が願い星を手に入れ、ダイマックスバンドを手に入れた経緯を聞いたローズはうなずきつつ、ダイマックスバンドについて語る。
「ちなみに、ダイマックスバンドを開発したのは、私のすばらしい会社なのですよ!」
「……はぁ……」
「今年のジムチャレンジは、特に楽しくなりそうですね! いい……実にすばらしい! ガラル地方が盛り上がりますね! ジムチャレンジは、ダイマックスを披露するのにもいいチャンスなのです!」
ローズはそう大きく語るが、話を聞いていたアスベルとホップはきょとんとしていた。 その2人の表情をみたダンデは内心、2人ともこういう話には興味がないなと察したのであった。
「さて、申し訳ないのだが、私には急ぎの用事がありますのでね……みなさん、ごきげんよう!」
「………委員長も、ご機嫌だな」
そう立ち去っていくローズを見送ったあと、ダンデはこっそりアスベルに先程のローズの発言について、代わりに謝罪をしていた。
「………お前の目を気にしていたが、委員長には悪気はないんだ。 許してくれ……アスベル」
「了承しています」
「……というわけで、お前達はまだスタートしたばかりだ! この先はポケモンのみならず己も鍛えろ!」
そう、いつもの明るい調子で2人に告げるとダンデは、ある人物と会う約束があるからといって立ち去っていった。 その後でホップはアスベルに次の目的地を教える。
「よしアスベル、まずはターフタウンを目指すぞ!」
「ターフタウン?」
「ジムチャレンジは、挑める順番が決まっているんだ! まず最初に目指すのは、ターフタウンにあるターフスタジアムなんだぞ!」
そうアスベルに教えると、ホップはうっしゃーと叫んだ。
「最初の目標に向かって、突き進むぞー!」
彼にそう告げて、ホップはそのまま走り去っていった。 その場にはポツンと、アスベルが残されていた。
「…………やれやれ………だな。 オレ達も負けてられないし………出発しなくては……な」
そう言ってアスベルは、あきれたような笑みを浮かべつつも歩き出した。
「………」
そんな彼を、少し遠めにみている存在には、気づかないまま。
次回予告
ついに本格的に始まった、ジムチャレンジの旅。
アスベルは仲間を増やし、ライバルと出会いバトルをする。
鉱山にさしかかった彼は、そのライバルの一人…委員長に推薦されたという少年・ビートに会い、ポケモンバトルをすることに。
この勝負にかつのは、果たしてどちらなのか。