ポケモンSWSH 黎明の瞳   作:彩波風衣

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これで、この黎明の瞳は完結しました。
アスベルとマリオン、そしてホップやみんながこれからどうなるのか、見届けてください。


52~強さの意味を胸に抱いて、未来へ歩み続ける~

 

 ずっと行われなかった決勝戦が行われた。 その決勝戦はガラルを襲った様々な困難の果て、かつジムチャレンジの最後を飾るに相応しい、熱く激しく、人々の心を大きく揺さぶるものだった。

 この試合にチャンピオン・ダンデは敗北、チャレンジャーであるアスベルが勝利を飾った。 これによりアスベルは、新チャンピオンとなる。

 

「新チャンピオンはどこにいったんだ!?」

「取材をしなくちゃいけないのに、なんで肝心の張本人がいないのよ!! 私達の食い扶持をつぶさないでほしいわ!」

 

 その翌日のこと。 様々な雑誌社やテレビ局の記者達は、昨晩から一切姿を見せないアスベルを血眼になって探した。 彼を発見した折には、マイクやカメラを一方的に突きつけ、報道の自由を利用して威しかけつつ、取材という名の尋問を行うつもりなのだろう。 自分が先にスクープをとり記事の価値をあげるのだ、と言わんばかりにアスベルを探す。

 

「おい、あそこ!」

「間違いないわ、セミファイナリストのホップさんよ!」

「そうだ、彼ならなにか知ってるかもしれないな!」

 

 その矢先、彼らはホップの姿を発見し声をかける。 アスベルと競い合い二つの事件を共に戦った彼なら、アスベルの行方を知っているのではないかと思ったのだ。 早速記者達は一斉にホップにつっこんでいき、逃げ場を奪うようにとりかこい、話を聞く。

 

「あなたは、ホップさんですよね!? 新チャンピオン・アスベルさんはどちらにいらっしゃいますか!?」

 

 そんな記者達の態度に臆することなく、ホップはあっさりとアスベルはここにいないということを彼らに告げた。

 

「アスベルだったら、もう旅に出たぞ」

「えぇぇ!?」

「それと、チャンピオンも辞退するっていっていたぞ。 事情は言わないけどな」

 

 なんと、彼らの探し求めていた人物は既にこの場にいないというのだ。 場合によってはこの町はおろか、ガラル地方にいない可能性も浮上してくる。 おまけに、せっかく手にしたチャンピオンの称号も手放したと言うではないか。

 

「なんて、勿体ないことを……!」

 

 自分達の名前を挙げるチャンスを潰され、記者達は一斉に絶望した。 その中で一人のインタビュアーが、ホップにおそるおそるといった調子でアスベルの居場所を聞き出そうとしてくる。

 

「ち……ちなみに……アスベル選手がどちらへ旅だったのか……あなた、知りませんか?」

「知らないぞ」

「ウソをつけ! お前ライバルだからってチャンピオンを庇いたてる気だろ!! そんなことをいってないでとっとと吐け!!」

 

 急に横暴な態度をとった記者にたいしても、ホップは一切臆することなく堂々と答えた。

 

「こんなところでウソついても得なんてないだろ、おれは正直なことしか言いたくないから言わないぞ。 特にそこのおっさんはただの脅しじゃん。 態度が悪くて聞き分けの悪い大人はださいぞ、おっさん」

 

 横暴な態度の記者に対しホップはそう言いきったあとで、あることを断言した。

 

「もっとも……知ってたとしても、おまえ達なんかにいわないけどな。 あいつのためにも、さ」

 

 と、ホップはいたずらっこみたいに笑ってみてた後で走り去っていった。 ホップの言葉に対し、記者達は悔しそうにその場に立ち尽くしていた。

 

「あーあ……あーんなあしらいかたしちゃっていいのかな?」

「しかたなか。 あんたらの話によるとアスベルってメディアの取材が大嫌いってハナシでしょ。 迂闊にはなしてアスベルに取材が殺到したら、アスベルにとってストレス以外のなんにもならん」

 

 そんな記者とホップのやりとりを聞いていたマリオンとマリィは、ホップの態度に対し苦笑していた。 その一方でマリィは、アスベルの決断について語る。

 

「でも、あたしもビックリしちゃった。 アスベルがチャンピオンの権利を捨てて旅にでちゃうなんて……」

「……うん……」

 

 マリィからアスベルの決断についての話題を出され、マリオンは寂しげな目をしながら淡々と彼が旅にでてしまったことについてはなす。 彼と最後に会ったのが、マリオンとホップだからだ。

 

「ここ最近のこと、アスベルの正体のこと。 色々ありすぎたからだね……広い世界を旅して、ちゃんと自分のことを確かめたいって言ってたよ」

「出自を知っても、アスベルは納得できんかったんだね……」

 

 マリィはアスベルに対し、ある情をかすかに抱いていたようだ。 最後に会えなかったことが寂しいらしい。 マリオンもそれには薄々気付いていたが、マリィが自分から言い出すまでなにも言わないでおくことを決めていた。 そんな中でマリィは、自分のこれからについての話をした。

 

「まぁ、あたしはやるべきことができたけん、それを果たすことに集中しながら再会を楽しみにするしかなか」

「そっか、マリィはこれからネズさんのあとをついでジムリーダーになるんだよね」

「うん。 スパイクタウンのことも、アニキのことも……ほうっておけん。 あたしもあの町と、そこにすむ人やポケモンが大好きだから……ジムリーダーになって、盛り上げを狙うったい!」

 

 マリィはブラックナイト事件の後、兄であるネズに自分がジムリーダーを継ぐと伝えたのだ。 そのことにたいしネズは驚きながらも喜び、彼女をこれから後継者として育成していき、近々申請も行うつもりらしい。

 

「もっとも、ジムリーダーを続けながらもチャンピオンを狙う気ではいるけどね」

「うっは、強気」

「それくらいでないと、ポケモントレーナーをやっていけんからね!」

「ふふ、そうかもね」

 

 マリィの将来の話を聞いたマリオンは、自分のことをぽつりとつぶやいた。

 

「ボクも、将来を決めなくちゃなぁ……」

 

 

 

 一方、ローズタワーの一室を借りてジムリーダー達は緊急会議を行っていた。 ジムリーダーたちは、アスベルから直にチャンピオンの辞退や旅立ちを伝えられていないからだ。 彼の旅立ちは、マリオンとホップの伝言と彼の直筆の置き手紙を通して知らされたのだ。

 

「チャンピオンの座を僅かな時間で辞退して、姿をくらました……か……」

「少なくとも、私達がジムリーダーについてからは初めてね……」

「あの子なら、ダンデよりしっかり者だから、ちゃんとしたチャンピオンになれそうだったのにね」

「なんかそれ、ダンデさんがしっかりはしていないみたいに聞こえます」

「その通りだろ」

 

 そう、アスベルが姿を消したことに対し各々がコメントをしていく。 話の流れは、彼が旅立つ動機となった部分。 彼からの手紙によれば、チャンピオンとして皆の上に立つよりも英雄としての自分の運命を追いかけてみたいとのことだった。

 

「英雄王、か……」

「伝説のポケモンに選ばれた人間を英雄と呼ぶ。 そのなかでも特に強い力を持っているのが……英雄王と呼ばれている……それが、アスベルの前世である、ガラル神話の英雄王……」

 

 そう、ソニアが発見したという伝承に関する資料に書かれた文章を読み、一同はアスベルが背負うことになった運命について考える。 ガラルのポケモントレーナー達の見本かつ頂点、多くのスポンサーを抱えることなど、チャンピオンの背負うものは多くあるだろう。 そこに、多くの伝説のポケモンに関わることになる運命を背負うのは、アスベルにとっては苦痛かつ重責なのであろう。 もっとも、アスベルはそういうのを逐一気にしたりしないし、抱えている自覚はあっても表にださないだろう。

 

「確かに彼なら、チャンピオンとしても英雄としても、自分の立場と真剣に向かい合えるだろう」

「……カブさん……」

「ただ、アスベルくんは……改めて自分のことを見つめ直したいのだろう。 元々、チャンピオンの地位や名声にも興味がないとも書いてあったし、一人で色々考えたいんだろうな。 彼のすることは彼の決めることだ。 そこにぼく達が介入するべきではない。 新しい世代の者に前の世代の者が道をふさぐことは、御法度だ」

 

 そうカブは語り、ジムリーダー達と向かい合いこれからについての案を出す。

 

「自分のすべきことへの答えを見つけるか、ガラルに危機が訪れた時に必ず帰ってくる。 彼の手紙にそう書いてあっただろう。 だから今は、いつか彼が帰ってくることを信じて、ぼく達はぼく達で、彼が再びチャンピオンの地位に立っても問題がないようにつとめていくべきだろう」

「……そうね……アスベルは、一見物静かでおとなしげで、クールな雰囲気こそあるけれど……その実は優しさとそれを力にかえる強さを持っている。 ソニアがそう言っていたし、私も同じことを思ったわ」

「マリオンも、彼のことをそう言っていました。 彼には、こころを自然と許してしまう……そんな、不思議なものがありますね」

「ダンデさんとは、また違う特別な強さを持っていますね。 彼であれば、安心してチャンピオンの後継者になれていました」

「ぼくも、力強く支えようと思っておりました。 そして、またアスベルくんが帰ってきて、改めてチャンピオンの地位に立つことになったときも……ぼくは、支えになろうと思います」

 

 ジムリーダー達は、アスベルがどんな人物だったかを思い返しつつ、アスベルの判断と行動に対し誰も異を唱えることはせず、今彼のために自分達にできることとして、引き続きジムリーダーとしての勤めに専念することを決めた。

 

「よし、話が決まったんならそれでいい。 ダンデとは改めて話をして、まずはポプラさんとネズの話を聞こうぜ」

「そうか、確か2人とも今回を最後に引退をするって言ってましたね。 2人とも、後継者を見つけたと」

「ネズは妹の今後の安否を気にしていて、ポプラさんは愛のムチをたたきこめって言ってたな。 まぁ、オレ達でしゃっきりと引っ張っていくとするか……それも、新チャンピオンに恥をかかせないために!」

 

 キバナの言葉に対し、全員がうなずいた。

 一方そのころ、シュートシティの町中でホップは、自分の手のひらを見つめていた。

 

「……」

「ホップ、ここにいたんだ」

「あっ」

 

 そこに、マリオンとビートとマリィが現れて、ホップに声をかけてきた。 3人の存在に気付いたホップは手のひらから目をそらして3人をみると、違和感に気付いた。

 

「マリオンとマリィはわかるけど、なんでビートもいるんだ?」

「なんですかその、僕がいることが信じられないみたいな言い方は」

「お前が普通に人に声をかけるヤツと思えないから。 まぁ多分、マリオンとマリィに声をかけられたからだろうけど」

「………」

「うん、あたしが声をかけた。 ちょっと挑発したらあっさりついてきた」

「やっぱか、ビートってチョロいな」

「なっ……」

 

 そういってちゃかしつつ、ホップは自分の手のひらに刻まれているあるものを、3人に見せながら話を続けた。

 

「それって……」

「ああ。 ザマゼンタにもらった英雄の証だ。 この証があればおれも、いつだってザマゼンタを呼べる。 ……もっとも、呼ぶタイミングや状況は自分で決めているけどな」

「そんなもの、大きく見せたらダメばい。 きをつけんと」

「わかってるよ。 ただちょっと、考えたいことがあったからみていただけだ」

 

 そして、ホップは自分の間近にいた少年が実はとんでもない事実を抱えていたことについての話をしたくて、口を開く。

 

「アスベルが伝説の英雄王だというのなら……意外とおれも、スゲーヤツの生まれ変わりだったりして」

「ないですね」

「わかってるから言わないでくれよ」

 

 バッサリとホップの説を否定したビートに対しホップは苦笑しつつそう返事をすると、話を続けてきた。

 

「それに」

「それに?」

「たとえどんなにスゴかったとしても、悪いことをしたヤツだったらイヤだし……。 それが神話のもう一人の英雄王だったら、なおさら嫌だな。 だってそれじゃ、おれがアスベルを殺したようなものだし。 そんなヤツが前世とか、すっげぇ虫酸が走る。 だから、そいつの生まれ変わりじゃなくてよかった……て、安心しているぞ」

「そっか、それもいいかもね」

 

 ホップの話を一通り聞いた一同は、それぞれでやることがあるから帰るといいだした。 ビートはアラベスクタウンに、マリィはスパイクタウンに、マリオンは不ラッシータウンに。 それぞれの帰る場所を聞いたホップはそうか、とだけ返事をした。

 

「ホップは帰らないの?」

「ああ。 色々ちょっと考えてみたいから、おれは帰るのが遅れる」

「……ホップ……?」

「おれに、できること……チャンピオン以外にもうひとつ、なにかできそうな気がする……その答えが、もうちょっとで見えそうなんだ。 だから、ゆっくり考えながら帰るよ」

「大丈夫?」

 

 自分を心配するマリィやマリオンにうなずき返しつつ、紋章の刻まれた手を強く握って、彼女達に告げる。

 

「自分で思いついて抱えた問題だ、だから答えも自分で見つける」

 

 

 そして、実はアスベルが自分の旅立ちを伝えた相手がもう2人いた。 その相手こそ、チャンピオンだったダンデと、エージェントのジンキである。 アスベルは彼らにこそこのことを伝えるべきだと判断し、事前に伝えていたのである。

 

「チャンピオンが不在となるのか」

「ああ」

 

 なんとか制止をしようとしたダンデだったが、アスベルの意志はダンデのおもいより強かった。 だから彼を止められず、姿を眩ますことを許してしまった。 一方、隣にいたジンキは、彼の旅立ちを許した。

 

「彼はお前とは違うからな、必ず同じことを考えているとは限らない。 彼にとって、このままお前の跡を継ぐのは自分で納得が出来なかったんだろう」

「……確かに思い返してみれば、アスベルは俺とは戦いたいし勝ちたいとは言っていたが……チャンピオンになりたいとは言っていなかったな」

「だろう?」

「だが……結果がでてしまった以上、チャンピオンがこのまま不在のままにしておくわけにはいかないな。 リーグ協会のガラル支部委員長だったローズさんも、服役中でいますぐの復帰は不可能……オリーヴさんも炭坑での仕事やマクロコスモスの経営補助で忙しいし……」

 

 そう話を進めていくと、ジンキはダンデを指さして彼に告げた。

 

「よし、おまえもう一年頑張れ!」

「え……しかし……」

「心配するな、ポケモンリーグガラル支部の委員長の代役はたててある。 ガラルのチャンピオン事情に関しても、俺から話をしておく。 それに、お前が納得できなくても、彼が帰ってくるまでの代役としてたてばいい」

「………」

「それともなんだ? あれが公式戦だったとはいえ、無敵のダンデは一度の敗北であっさりと交代してしまうほど、ヤワイ男なのか? このガラルにいるお前のファンは、たった一度の敗北で興味をそらすほど、ちゃっちい連中なのか?」

 

 ジンキがそう挑発をすると、ダンデが声を大きくしてあらげ、反発をしてきた。

 

「そんなはずがない! 俺が無敵なのは、ポケモンバトルの腕前だけではないからな! それに、俺を応援し慕ってくれる人たちのことも……俺は、信じている!」

「おう、それでいいんだよ。 お前等はチャンピオンの名前を大きくみすぎだ。 下手に大きく掲げすぎてんだよバーカ」

 

 そうジンキは、ガラルのポケモンリーグの姿勢に一矢報いるかのように告げると、ジンキはこれからダンデにどうすればいいのかのアドバイスも送る。

 

「まぁ、アスベル君が帰ってきてからもう一度試合を行えばいいじゃんか。 それで改めて、彼と自分のどちらがチャンピオンの座に相応しいかを本気で決めればいい。 アスベル君が、称号を望めば……だがな。 もっともそのためには、お前が」

「守ってみせるさ。 そして今度は俺がアスベルを下し、引き続きチャンピオンとして君臨し続ける」

「おう、それがいいとおもうぜ」

 

 そう話をした後、ジンキはすぐに向かわねばならない場所があるのを思い出し、席を立つ。

 

「じゃ、オレは事件の後始末というか整理があるから失礼するぜ」

「ああ……次は是非とも、君とも勝負をしてみたいな」

「……いいぜ、かかってきな」

 

 そうジンキとはいつか、正面からポケモンバトルをすると言う約束をした。 彼が部屋からでていった後、入れ替わるようにしてソニアが入ってくる。

 

「ダンデくん」

「ソニア」

 

 ソニアは、アスベルの話を聞いてダンデのことが気になったので、彼の元に駆けつけたのだ。 ソニアは部屋に入りダンデの存在を確認してから話を続ける。

 

「大変なことになっちゃったわね、アスベルが権利を放棄して旅立っちゃうなんて……あたしもちょっと想定外だったかも」

「そうだな」

「ちょっと話を聞いちゃったんだけど、リーグ委員長は代理を立てて、ダンデくんもアスベルのかわりにチャンピオンを続けるんでしょ? また、忙しくなるわね」

「ソニアも、マグノリア博士をついで博士になったから、これから忙しくなるんだろう?」

「……まぁこの間のシーソーコンビの事件の後始末、あたしもやんなきゃいけないからね。 少なくともあたしが調べたガラル伝説の真相の本は、原稿を死守できたし、残ったねがいぼいもこっちで管理をすることにもなったから……本を出版したら研究詰めだよ。 それでもあたしが研究者出来るのはアスベル達のおかげだからね、忙しいのもある意味では本望ってところかな! うん、そうだ! 今が平和ならそれでいいねっ! あのコンビが罰せられるならなおよし!」

 

 シーソーコンビの事件、ときいてダンデは胸の内が痛んだ。 あの事件にはガラルの多くの人やポケモンが関係者となり、中には被害者もいて、その中の一人がここにいる、ソニアなのだ。 ダンデは自分がなにも出来なかったという悔しさと、早口で事情を説明するソニアの胸中を悟り、悲しげな顔をした。

 

「どうしたの、ダンデくん?」

 

 ソニアは今は、自分を裏切った人物を許していて、シーソーコンビに研究所の修復のための賠償金を多めに払ってもらったのだという。 あのような目にあってもなお前向きである彼女に対し、ダンデは告げる。

 

「……あのとき」

「ん?」

「君には苦労をかけさせたな、なのに俺はなにもしてやれなかった……。 ごめん」

 

 そう謝られたソニアは最初目を丸くしていたが、次第に目を潤ませていき、彼に一言をかえした。

 

「ばか」

 

 

 

 一方そのころ、ジンキは引き続きローズタワーの中で、ある人物と電話をしていた。

 

「もしもし」

「もしもし、リクガか? ああそうだ、俺だよ」

「兄さん、どうしたの?」

 

 ジンキの電話の相手、それは彼の弟であるリクガだった。 頭が良くポケモンバトルの腕も一級品とされる少年だ。 今は父であるオダマキ博士の助手として各地を巡りながらポケモンの生態研究を行っているというリクガに、ジンキはあるものを送っていた。

 

「どうだ、俺が送った情報の整理は出来ているのか?」

「……唐突に資料を送ってきたかと思えば、また唐突に結果をきいてくるんだね……。 まったく変わらないな」

「いいじゃねぇかよ、お前の頭の良さを俺はかってるんだ。 それに、これから俺がやるべき仕事には、その資料の答えが必要なんだ。 そして、もっとも早くかつ、適切な調査の結果を出してくれそうなのは……お前ぐらいなものなんだぜ、俺にとってはさ」

「はいはい、結果はでているよ。 エージェント様期待は裏切れないからね」

「キツイなぁ」

「自業自得だろ」

 

 ジンキの言葉にたいしリクガは冷たい言葉で切り捨てて告げつつ、自分のまとめた答えとなる調査結果を彼に伝える。

 

「まぁボクも、この件には目をそらせないから……集中して資料からある説をまとめ出すことができたよ。 そして、それは言うべきだとも思ってる」

「ほう、じゃあ解説してもらっていいか?」

「うん。 まず単刀直入に言うと……ムゲンダイナの資料から推測するに、彼……ローズ委員長はガラルの未来を守るどころか、滅ぼすに等しいことをしている可能性が見えたよ」

「どういうことか、説明できるか?」

「うん……」

 

 兄に言われ、リクガはパソコンのモニターを見つめつつ自分のたてた仮説を兄に語る。

 

「ムゲンダイナは多くのダイマックスエネルギーを自らの生命力に変換することができる。 だがそこには、ポケモンの生命エネルギーも含まれる。 ムゲンダイナは、ダイマックスしたポケモンの生命エネルギーを吸収していたんだ、地道にね」

「パワースポットは、特にそれが集まっていたんだな。 特にシュートシティは、強いポケモンが集まりそれがダイマックスする。 だから、あそこは力の暴走がひどく、バトルフィールドが崩壊してしまったんだ」

「幸いにもポケモンに弊害がでないレベルに、制御はできていたみたいだけどね……だが、ねがいぼしに元々宿っていた膨大なエネルギーが、ムゲンダイナに力を与えていった。 それが制御しきれずに暴走し……ムゲンダイナは封印の力が破れてそこに復活した。 同時に自分の周りにいるポケモンを無差別にダイマックスさせ、そこから力を奪っていってしまったんだ……無意識にね」

「それが、ブラックナイトの真相、か……」

「資料をみるだけで推測できるボクの見解では、ね……」

 

 そう語るリクガの目は鋭かった。

 

「今回は間に合ったようで安心したけれど、手遅れになっていたら……ダイマックスさせられたポケモンはムゲンダイナに生命エネルギーを吸収され……命を奪われていただろう」

「……」

「それだけじゃない。 場合によっては強制的なダイマックスにより我を忘れ、暴走したポケモン達が……人やポケモンの命を奪う可能性があった。 いや、こちらのほうが確率が高いだろう」

 

 問題は、ローズがこれを知っているかどうかであろう。 いずれにせよ彼の罪が消えることはないが、知っているか知っていないかで、話は大きく変わってくるのだから。

 

「人やポケモンは関係なく、命が尽きることはひとつの未来が消えることだ。 数や規模の問題じゃない……犠牲を当たり前というヤツに、ひとつの未来を託されるほどの器はないといっていいだろう」

「ガラルを救いたいといっているのに、結果としてガラルを滅ぼすことになりかねなかったなんて……なんて、皮肉だろうね」

「なに、獄中でそれを思い知っているだろうさ。 心配はいらないだろうよ」

 

 ローズの罪を裁くのは自分達ではなく、あくまで事件の資料を参考に調査し、その結果を警察や特務機関に伝えるだけだ。 リクガがまとめてくれたこの説だけでも、この地を守るためには有力な情報なのだろう。

 

「にしてもお前、送られた資料だけでよくそこまで推測が出来たな。 勉強は伊達じゃないみたいだな?」

「ちゃかさないでくれ。 それに、確信を得たわけではないんだ。 今までの話はすべて……ただの仮説でしかない。 これからさらに資料を集めて、真実をさらに突き止めて行かなきゃいけないんだから……ボクの研究は終わってないんだよ」

「そうか」

「ガラルに、この事件の調査に興味がある若いトレーナーがいれば、ボクも安心できるんだけどね」

「ま、その辺のスカウトも検討させてみるよ。 主にダンデあたりに」

「仕事しろよ」

「しているって」

「まったく……じゃあまた、なにかわかったらつなぐからね」

「ああ」

 

 そこでジンキはリクガとの通信を切り、ローズタワーの大きな窓から見える景色を眺めていた。

 

「まぁ俺も、それが出来そうな目を持った人間に心当たりはあるけど……な……」

 

 そこから見えるのは、シュートシティの町並み。 ただそれだけだった。

 

「アスベル君……君は、自分の未来を守れよ……」

 

 

 それぞれが、チャンピオン不在となったガラルでできることを考えはじめていた中。

 

 ことは、今朝にさかのぼる。

 誰よりも早く目を覚ましたアスベルは、人気のない場所に一人でいた。

 彼のそばには、彼が今まで仲間にしてきたポケモン達の姿があった。

 

「みんな、これからもオレについてきてくれ」

 

 昨晩の決勝戦の前からアスベルは、自分である決意を胸に秘めていた。 それを実行するために、今朝この場所に立ったのである。 そばにいたブラッキー、マルヤクデ、ドラパルト、マンタイン、ゴリランダー、アーマーガア…アスベルは自分のポケモン達に、どこまでも自分についてきてほしいと願い、その願いをポケモン達が受け入れたことを確認する。 ポケモン達にありがとう、と告げたアスベルはポケモン達をふたたびボールに戻し、ボールポケットに彼らを収納する。

 

「「アスベル!!」」

「マリオン、ホップ」

 

 そんな彼に2人の男女が声をかけてきた。 アスベルの幼なじみである、マリオンとホップだ。 彼は、自分のこれからの行動を2人に教えていたのだ。

 

「電話で聞いたときはビックリしちゃったよ! チャンピオンを辞退する上また旅にでちゃうなんて、なにがったの!?」

「ほかのジムリーダー達には言ってないのか!?」

「ああ……必要だと判断し、ダンデさんとジンキさんには、伝えたが……ここに呼んだのはお前達だけだ」

「どうして」

 

 なぜここに呼んだのは自分達なのだ、とマリオンが問いかけると、アスベルは少し寂しげに笑いつつも理由を語る。

 

「2人には見送ってほしかったんだ。 オレはずっと2人と一緒にいたから……オレの新たな旅立ちを、見てほしかった」

「……ボクは英雄じゃないけど、含めてくれるの?」

「もちろんだ」

 

 マリオンが自分達の違いを気にしながらそう問いかけてきたのに対し、アスベルは当たり前だというかのようにうなずき、決勝戦の時のことを思い出しつつ語る。

 

「オレがダンデさんと勝負をしたのは、一つのけじめをつけたかったからだ。 あの人は本当にあこがれだった……戦ってみたかったし、かなうなら越えてみたかった。 だから、オレはあの人と勝負をしたんだ」

 

 そうはなすアスベルの横顔は、年相応の少年らしい明るさを宿していた。 そこには、決勝戦の時に抱いていた感情がすべてでている。

 

「あの瞬間、オレはただただ、ポケモンバトルが楽しかったよ。 一生の思い出だし、できるならもう一度やりたい……!」

「だったら、なんで……いくらお前がチャンピオンの立場とか、評判に興味がないとはいえ……。 まさか、チャンピオンの仕事とかいろいろが、イヤだったのか?」

 

 ホップの問いに対し、アスベルは首を横に振りながら語る。

 

「そうともいいきれん。 オレはチャンピオンの責務から逃げたりはしない……支えになる人が多くいるという話も信じられる。 面倒くさそう、という気持ちは多少はあるが……」

「あるんかい」

「だが、オレは……まだその器には足らない。 なにより、その責務と真剣に向かい合うのに、オレにはまだ余裕がない。 こんなオレを、ガラルの民はきっと認めないだろう」

 

 アスベルがそういうと、ホップはそんなことはないと思うと言った。 ウソのない言葉にたいしアスベルは笑いかけると、自分のことを語り出した。

 

「オレが英雄の生まれ変わりだとしても……それがわかっても……それでも、オレのすべてがわかったわけじゃない」

「アスベル……」

「だから、ダンデさんには勝利したが……オレはチャンピオンにはならない。 チャンピオンになってしまったら、自由が利かないからな。 だからオレは、オレのルーツを見つけそこから、チャンピオンとしての器を見つけだしたい。 今は、それに集中したいんだ」

 

 そういいながら、アスベルはあらかじめ用意していたらしいフード付マントを身につける。 これならフードを深く被れば、顔はわからないだろう。

 

「だから、顔があまり知られていないうちに……オレはいくよ」

「……」

「ガラルに危機が再び訪れたら、オレはガラルを救うために駆けつける。 そして、その災厄と闘おう……ホップや、マリオンとともにな」

「……わかった! おれもお前に恥じないすげーやつになる! また新しい夢を見つけるなりなんなりして、この紋章に恥じない男になるからな! お前と一緒にガラルを守るため、おれもおれのやりかたでガラルを支えるぞ!」

「ああ! ホップなら必ず出来る! オレはそう信じているぞ!」

 

 そう言葉を交わし、アスベルとホップは紋章の刻まれた手同士でかたい握手を交わした。 好敵手で親友、義兄弟であり英雄、幼なじみ。 ホップとは一言だけで言い表せないほどの固い絆で結ばれている。

 

「おれ、今ならわかるんだ……英雄が何で2人なのか!」

「ん?」

「それは……2人で助け合って信じ合って、認め合って! それでみんなを守るためなんだよ! 2人で力を合わせれば、どんな災厄からだってみんなを守ることができるんだ! それをザシアンとザマゼンタが教えてくれた……最強のカタチなんだよ!」

「……ふふ、いいな、それ」

「だろ!」

 

 ホップの言葉を信じよう、と決めるアスベル。 その顔には清々しさが宿っていた。

 

「マリオン……」

 

 そしてアスベルは、マリオンが自分に何かを言いたそうにしていたことに気づき彼女の方を向く。 するとマリオンはアスベルの手を取り、彼の手首になにかをつけて彼に告げる。

 

「キミの旅立ち……許す代わりに約束して! いつか必ず、このガラル地方に帰ってくるって……! 危機とか関係なく、帰ってきて!」

「ああ、もちろんだ。 ここが、オレの故郷なのだから……必ず、帰ってくる。 それは、絶対に約束するよ」

 

 アスベルはマリオンに着けてもらった、ミサンガを見つめてから彼女に微笑みかける。 よくみるとホップとマリオンも手首にミサンガをつけており、それがすべてマリオンの手作りであると知る。

 そうしてマリオンとホップの思いを受け取ったアスベルは、2人に笑いかけながら、彼らに告げる。

 

「行ってきます」

「「いってらっしゃい!!」」

 

 そうして、アスベルは旅だった。 誰にその姿を見られることなく。

 

 

 気付けば時は既に夜遅く。 空には満天の星が輝いており、それこそがその地の美しさを示すものだと、眼帯の少年は気付く。

 

「星、キレイだな」

 

 夜、キャンプを張って自分のポケモン達と野宿の体制に入った少年。 その空を一筋の光が流れていくことに気付いた。

 

「流れ星か」

 

 その流れ星はいくつも夜空をかけていく。 あの日のことを思い出した少年は、その星に願いを託す。

 

「また、このガラル地方に帰ってきて……みんなとまた、平和で穏やかな時を過ごせますように……」

 

 自分もそれを果たせるように頑張るから、その願いを叶えさせてくれ。

 少年は静かに、静かに、そう願った。

 

 

 

 

 

「強さ」は誰一人のものではない、多くの形がある。

 

「強さ」は誰にでもある。

 

だが、その「強さ」は英雄にも災厄にも転換する…そのものが強さをどのように使うかで、運命の形も大きく変化をしてしまうのだ。

 

形や言葉だけの脆さをもつ「強さ」というもの。

 

 

それをみつめ、そして「弱さ」を知り向かい合い、まずは己で認める。

それではじめて「強さ」をしれるのかもしれない。

 

「弱さ」から目を背けることをしているものは、強者ではなく弱者である。

自分から力あるものや強者を語ろうとも、それは所詮は概念や思いこみ。

あやまった方向に力を向けようとも、それは己を偽るための虚栄心でしかない。

 

 

 

己をいかに動かし、そして多くの者を動かせるのか。

 

己より優れた正しき他者を認められるのか。

 

意志をどのようにもてるのか。

 

共に必要としあえるものはいるのか。

 

そして、その意志の力でよりよい道へ明るく照らせるか。

 

未来を己の手でひらけるのか。

 

己の力をなんのために使うのか。

 

それらを問われたときに迷わず答えられるもの。

 

試されたときに発揮できるもの。

 

 

それこそが「強さ」であろう。

 

 

 




というわけで、アスベルが旅に出る形でこの物語は終わります。
アスベルがいつ、ガラルに帰ってきてチャンピオンになるのかはわかりませんが、彼のあらたな旅立ちを応援してくれると嬉しいです。
ここまでお読みくださった方々、ありがとうございました!
また別の作品でお会いしましょう!
では!
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