●オーヴ地方に生息するポケモンは、伝説と幻のポケモンを含めて341種類。
四天王。それはポケモンリーグ公認の4人のトレーナーを指す存在。チャンピオンに挑むための最後の試練とも言えるだろう。総じて彼らは高い実力を有しているが、その選定基準は各地方によって様々だ。厳しい試験をクリアする必要がある地方も有れば、実行委員からの推薦という形で任命される地方も有る。そもそも四天王を置いていない地方すら存在する。
そしてオーヴ地方では、全ジムリーダーの中で実力が高い四名を四天王として認定するという形態を取っている。そこで全てのジムリーダーが揃った際に最初に行われた業務が、各ジムリーダー同士のバトルだった。実力を確かめるのであれば、それが最も手っ取り早い。そして勝ち残った四名が四天王として認められた。
一人はでんきタイプの使い手である元警察官。誰よりも真面目で、この地方が少しでも活気づけばという強い思いを持っていた。
一人はオーヴ地方では知らない者はいない歌手としての一面を持つ、エスパータイプをこよなく愛する女性。独特な戦術は、彼女の歌と同様に、誰もが引き込まれる不思議な魅力を持っている。
一人はジムリーダーの中で最も強い、ドラゴンタイプのエキスパート。年齢に見合った経験の濃さから引き出される無数の戦術が、高い能力を持つドラゴンポケモンの実力を完璧なまでに引き出していた。
そして最後の一人。それは誰よりも知的好奇心に満ちた、ゴーストタイプを扱う少女。年若いが、ポケモンに対する知識と愛情は誰にも負けていなかった。
『なんと、これは驚きましたっ! まさかのメガシンカです。ムウマージがメガシンカしたーっ!!』
あまりのことに司会の声も熱を帯びる。その場に居た観客は勿論の事、チャンピオンのカルネすらも、この状況に目を見開く。
メガシンカとは一部のポケモンにのみ確認された、特殊な形態変化の通称である。いずれも姿が大きく変わると共に、能力が格段に跳ね上がり、タイプや特性も変化する場合が有る。だがこれを行うには、キーストーンと各ポケモンに適合したメガストーンと呼ばれる二つの石が必要であり、互いに信頼しあったポケモンとトレーナーでなければ引き起こすことが不可能な現象である。
『ムウマージのメガシンカ……初めて見ました』
『あのメガストーンが発見されたのはつい最近のことだ。実際、使いこなせているのも現段階では彼女だけだろう』
ムウマージの姿は先程と比べ一回り大きくなり、腕だった部位はより長く、まるでリボンのような形状へ変化した。下半身もドレスのように伸びたほか、胸元に有った宝珠は頭部へと移動し、まるで帽子を彩っているかのようにも見える。
「ほう……まさかメガシンカとは。あれだな、本当に驚かせてくれる」
ウルップも驚きが表情に表れるが、それ以上に満足げな笑みが深まる。
「それがあれか、お前さんの本気ってやつか」
「はい。それじゃあ、楽しいバトルの続きをしましょうか」
「ああっ!」
そしてバトルが再開する。
「クレベース、ゆきなだれ、そしてジャイロボールだ!」
先程見せたのと同様に、クレベースは自身の頭上に大量の雪の塊を作り、落下させる。そして高速回転することにより周囲に猛スピードで飛び散らせる。
「ムウマージ、マジカルフレイムでガード!」
それに対してムウマージは口から火炎を吐き出し、真正面から対抗して見せる。それまでとは段違いの威力の火炎が飛んでくる全ての雪の塊を溶かしつくし、果てにはクレベースに届いて見せる。だがクレベースのパワーも負けてはいない。放たれる火炎を、高速回転によって弾き返している。
『おっと、先程とは異なりパワーとパワーの対決の様相を呈しているっ! メガシンカによって高まった力がをクレベースは受けきれるのかっ!?』
『これは……』
タキの戦術にアカマツ博士が気付く。
フィールドは雪が溶けることによって発生した水蒸気に覆われる。その中、やっと火炎が止み、クレベースも回転を止める。今の攻防によって大きく体力を削られてこそいるが、このクレベースの特性はアイスボディ。初手で降らせたあられが、クレベースの体を少しずつ癒していく。相手はメガシンカによって能力が上昇しているものの、今優勢なのは間違いなくクレベースだ。このままリードを保つべく、追撃を行おうとするが、いつの間にかムウマージの姿がウルップとクレベースの視界から消えていた。
「クレベ……?」
周囲を見回すクレベース。周囲に気配すら感じられない。
「ムウマージ、でんじは」
「っクレベース、気をつけろ!」
ウルップが警戒の指示を出すが、その時には既にムウマージがクレベースの顔の前に姿を現していた。突如として目の前に現れた敵の姿に一瞬驚くクレベース。その一瞬の隙を狙い、ムウマージが電撃をクレベースへと放つ。
「クレベッ!?」
それはダメージを与えるほど威力が有るものではない。だがその技の真価はそこではない。
『なんと、クレベースが麻痺してしまった! これは一転ピンチかーっ!?』
『さっきのマジカルフレイムは水蒸気を作ることによって、自分の姿を隠すための布石だったみたいですね。それに加え、クレベースの大きなシルエットや弾いていた火炎によってウルップさんの視界からも消えることで、このような奇襲が成功したのでしょう』
『しかも今のでんじはには、通常の時以上の意味が有るな』
『それはどういうことでしょう?』
司会の問い掛けにアカマツ博士が解説する。
『麻痺になったポケモンは一瞬動きが止まることが有る。もしそのタイミングが、先程のゆきなだれとジャイロボールのコンボの時だったらどうなる?』
『あっ!』
その言葉に誰もがイメージする。落下した雪の塊を弾こうとした瞬間に動きが止まれば、クレベースの自滅は必至だろう。
『だが同時に今回の場合はデメリットもある』
アカマツ博士が先述したが、ジャイロボールはすばやさが低いほど威力が上がる技。それは麻痺の影響によっても同様である。
『相手のコンボを封じるメリットと、ジャイロボールの威力が上がるデメリット。この二つを天秤に掛けた結果として、でんじはを使うという選択肢を取ったのだろう』
『なるほど……』
フィールドでは未だにバトルが続いている。だが麻痺の影響も有り、クレベースの技のキレは格段に落ちていた。
そして今までクレベースを支えていたあられもついに降りやむ。
「くっ。クレベース、あられ!」
少しでも戦況を有利に変えるべく、再度あられを降らせようとする。だが、それを見逃すようなタキではない。
「ムウマージ、マジカルシャイン!」
「マージィッ!」
ムウマージから放たれる閃光が、冷気を溜め込んだクレベースの顔に直撃する。突如として目の前に強力な光を受けた影響で、技が不発となりさらにムウマージの姿を見失う。
「マジカルフレイム!」
そこを狙って火炎が襲い掛かる。だが、ウルップも歴戦のジムリーダーである。
「9時の方向にストーンエッジだ!」
的確な指示によって、火炎を防ぐ。たとえどれだけ不利な状況でも、決して諦めることは無い。
「やっぱり楽しいですね」
「ああ、あれだな。最高のバトルだ!」
観客も皆、このバトルに目を奪われていた。出来ることなら、ずっとこのバトルを見ていたいと思うほどに。だが、終わりは必ず訪れる。
「クレベース、ジャイロボール!」
技の応酬で態勢を崩したムウマージが、高速回転したクレベースによる突撃で大きく弾かれる。
「よし、もう一度だ!」
このチャンスを逃すまいと、ウルップはさらに畳みかけようとした。だが、
「クッ、クレベッ!?」
このタイミングになってクレベースの体が痺れ、動きが止まる。その瞬間を待っていたかのように、タキがムウマージに指示を出す。
「たたりめっ!」
ムウマージの眼から放たれる薄暗い波動。それがクレベースの体を包み込むと、クレベースは大きく苦しみだす。
「クレベースっ!!」
ウルップの声を聞き、クレベースは最後の意地と言わんばかりに、再度ジャイロボールを行い、波動を弾き飛ばす。だが、その頭上にはいつの間にかムウマージが陣取っていた。
「これで決める。マジカルフレイム!」
「マージィッ!!」
強力な火炎がクレベースを包み込む。たたりめを弾くのに全力を使ったためか、もはや抗う気力すら尽き、ただ叫び声だけを挙げる。
「クレベ―ッ!?」
そして火が止むと、倒れ伏すクレベースの姿が現れた。
「……っそこまで!」
審判すら一瞬言葉すら失ったが、すぐに我に返り、宣言する。
「クレベース戦闘不能。よってムウマージの勝ちっ!」
その言葉を聞くと同時に、スタジアム全体から歓声と拍手が惜しみなくタキとウルップに送られる。
「お疲れ、ムウマージ」
タキはいつの間にやら元の姿に戻っていたムウマージに対して、手のひらを挙げる。
「マージィ」
ムウマージも同じように手を挙げる。そして互いに静かに笑みを浮かべながら、ハイタッチを交わした。
【メガシンカ紹介】
ムウマージ
●ゴースト ●マジックミラー
●種族値:60(0)-60(0)-70(10)-155(50)-130(25)-120(15)-595(100)
●とくこうが大きく上昇しギルガルドと同じ数値となった。またとくぼうも上がっている。
●特性はマジックミラーとなった。これは「マジカルポケモン」の別名のイメージから。タイプと特性がヤミラミと被るが、種族値と技範囲から差別化は可能。