光が晴れると、ネンドールとフライゴンはそれぞれより力を増大させた姿へと変貌していた。
ネンドールは頭部が肥大し、周囲には念動力によって操られた土塊があたかも自らを守る盾のように浮遊する。
対するフライゴンは翼が透き通り、一対から二対へと増えた。また触角や尻尾も伸び、神秘的な雰囲気を醸し出す。
「「だいちのちから!」」
そんな二体が最初に繰り出したのは、奇しくも同じ技だった。ネンドールは強力なサイコパワーで、フライゴンは長い尻尾で地面に刺激を与え、強力なエネルギーを放つ。威力はほぼ互角、しかし若干ながらフライゴンが放った技の方が有利に見える。相手のだいちのちからを押し込みつつも、ネンドール本体には届かない。
「やっぱり、強いな!」
「まだまだ、私達のステージはここからだよ!」
だいちのちからが相殺しあったのを見届けると、続いてバニラは新たな技の指示を下す。その動きを見ていたレイジは、過去の対戦でも使われた技であることを見抜き、すぐさま妨害しようと目論む。
「フライゴン、むしのさざめき!」
透明な二対の翼を震わせ、強力な音波をネンドールへと放つ。その音量の前には高い耐久力を持つネンドールでさえも大きなダメージを受けた。だが、技の発動を封じるまでにはいかない。
「トリックルーム!」
ネンドールを中心にバトルフィールドが特殊な空間によって包まれる。その光景を見ていたレイジは歯噛みする。このフィールドこそ、かつてレイジを追いつめたバニラの得意戦術だ。
「それじゃあ行くよ。れいとうビーム!」
ネンドールの目から強力な冷気が放たれる。フライゴンは持ち前のスピードで躱そうとするが、特殊なフィールドによってその動きが阻害される。まるで水中の中に居るかのような抵抗を受け、うまく体を動かすことが出来ず、れいとうビームが尻尾に掠る。
「大丈夫か、フライゴン?」
「フラッ!」
ダメージは大したことが無かったようで、力強く応える。だがフィールドはトリックルームで包まれている。普段通りのパフォーマンスをすることはほぼ不可能だ。
「フライゴン、だいちのちから!」
再度フライゴンが地面を振動させ、強力なエネルギーを放つ。だがネンドールはまるでテレポートをしたかのようにその場から一瞬にして消えることによって、攻撃を躱して見せた。
一体どこに消えたのかと、レイジとフライゴンは周囲に気を配る。
「れいとうビーム!」
バニラが指示を出した瞬間、フライゴンの背後にネンドールが姿を現し、冷気を無防備な背中に向かって放つ。並みのトレーナーやポケモンであれば、為す術も無く攻撃を受けてしまうだろう。しかも放たれたのはこおりタイプの技。フライゴンにとって最大の弱点でもあるその攻撃をまともに受ければ、ただでは済まない。
「フライゴン、だいもんじを身に纏え!」
だがここに居るのはオーヴ地方最強のトレーナとそのパートナーだ。
フライゴンは口から「大」の字を模した火炎を吹き出して、自身の周囲を包み込んだ。
「なっ!?」
強力な炎はフライゴン自身にもダメージを与えるが、それは軽微なものである。れいとうビームを熱気によって防ぎきって見せると、フライゴンは羽ばたき一つで炎を振り払った。
普通なら思いつかないだろう防御方法に、バニラを含めた面々は唖然とする。
「よくもそんな無茶をするね……」
バニラは溜息交じりに言うが、あんな戦術を思いつく思考とそれを実行して見せたフライゴンとの絆には素直に感嘆する。
「でも、まだ私のステージは終わらないよ。サイコキネシス!」
「ネンドッ!!」
ネンドールが集中すると、フライゴンの体の自由が奪われる。強力な念動力によって動きを封じられたフライゴンは、そのままネンドールの意のままに操られ、宙へと舞い上げられたり、地面に叩きつけられたりする。
「フライゴン、耐えろ!」
サイコキネシスへの対策は、強引に力で支配から逃れるか、技の影響が消えるまでひたすら耐え続けるしかない。そしてメガシンカしたネンドールのサイコパワーの力を考えると、取れる戦術は後者に限られる。だが、振り回され続けるフライゴンの体力は徐々に削られていく。
「フィナーレっ!!」
バニラの言葉と共にフライゴンはより高く宙へと持ち上げられると、勢いよく地面へと落とされた。発生する轟音はバトルフィールドだけでなくリーグ全体に響きそうなほどである。
だが、反動で舞い上がった土煙の中、立ち上がる影が一つ。
「まだいけるか、フライゴン?」
「フラッ!!」
体力を大きく奪われたにも関わらず、その瞳からは闘志が消えていない。
「行くぜ、むしのさざめき!」
「躱して、ネンドール!」
しかし、未だにトリックルームによってフィールドは支配されている。どんなにフライゴンの闘志が強くても、ネンドールは悠々とその技を躱してしまう……はずだった。
「えっ?」
バニラの気の抜けた声。彼女が見たのは、フィールドを覆う空間が消えていく光景。それが意味するのは、トリックルームの時間切れである。
「ネンドッ!?」
その瞬間、ネンドールの動きが急に鈍くなる。否、元に戻ったと言うべきだろう。メガシンカしたネンドールの素早さはメガシンカ前と比べ極端に落ちる。だからこそトリックルームとの相性が良い。しかしそれ無しで有れば、まさに的である。
強力な音波をその身に受け、大きく体勢を崩す。
「ネンドール、もう一度、トリックルームだよ!」
再びフィールドを支配すべくネンドールはゆっくりと宙に浮かぶ。だが、それをレイジがただ見ているわけが無い。
「フライゴン、だいちのちからでネンドールのバランスを崩すんだ!」
ネンドールの足元に向かって、フライゴンは渾身のエネルギーを放つ。それ自体が与えるダメージはたかが知れている。しかしそれは攻撃するための一撃では無く、次に繋げるためのもの。ネンドールはメガシンカした影響で頭部が巨大化し、体幹のバランスが悪い。それを念動力によってサポートしているわけだが、今はトリックルーム展開のために集中している。必然的に体を支えている力も低下しているのである。
「ネンッ!?」
右足を掬い上げるかのように放たれたエネルギーによって、ネンドールはバランスを崩し、後ろへと倒れこむかのような体勢となる。
そして生まれた隙を狙って、レイジは最大の一撃を指示した。
「りゅうせいぐんっ!!」
「フライッ!!」
フライゴンが溜め込んだエネルギーを頭上に向かって放出すると、それは幾重にも別れまるで夜空の流れ星のようにフィールドに降り注ぐ。
「れいとうビームでガード!」
ネンドールも降り注ぐエネルギー弾に対し、冷気の光線で対抗するが、身動きが上手く取れない中で数えきれないほどの量を打ち落とすのは無理が有る。
「ネン―ッ!?」
一つ、また一つと光弾をその身に受け、ネンドールは大きなダメージを受けながら、巻き上げられた砂煙にその姿が消えていく。
「ネンドールっ!?」
そして砂煙が晴れた後に残っていたのは、もはや動く気力も無く、メガシンカも解けて倒れ伏したネンドールだった。
「……私の負けか~」
ぽつりとバニラが呟く。その言葉には強い悔しさが感じられた。
「二人とも、お疲れ様。良い勝負だったな」
ユコウが手を叩きながら観客席からフィールドに降りる。
「本っ当に楽しかった。多分、あの場でトリックルームが解けなかったら負けてたかもしれないな」
レイジの言葉通り、トリックルームの解除時間がもう少し遅かったら、バトルの結果はまた違ったものになったかもしれない。
「大体、五分程度かな。もう少しデータが有ればちゃんとした効果時間がはっきりすると思う」
懐中時計を手にしながらタキが言う。トリックルームの持続時間が明確になれば、もしもの時に慌てずに済むだろう。
「うん、それじゃあ後でバトルしながら計測してくれる?」
バニラの言葉にタキは頷いて答えた。データが取れればそれだけバニラにとってもタキにとっても有益だ。
「それじゃあ、次は私とユコウさんだね」
「二人とも、今のうちに回復させて来い。戻ってきてからバトル始めるからな」
ユコウの言葉に従って、レイジとバニラはポケモン回復装置へと向かう。
それからポケモンリーグでは夕方までバトルの音が響き渡るのであった。
【キャラ紹介】
レイジ
●オーヴ地方チャンピオン
●男性/20代前半
●オーヴ地方でで唯一全てのジムリーダーとバトルをして勝利した青年。
●若いながらもチャンピオンとして、オーヴ地方でポケモンバトルを教える役割などを担っている。
●茶髪でツリ目。
●一人称は「俺」。
●名前の由来はキンポウゲ科の植物「オオレイジンソウ」。
【メガシンカ紹介】
フライゴン
●じめん・ドラゴン ●てきおうりょく
●種族値:80(0)-100(0)-85(5)-135(55)-85(5)-135(35)-620(100)
●特攻が大きく上昇し、さらに特性がてきおうりょくとなったことで高い打点を獲得した。素早さはメガゲンガーを超えた数値となっている。
●反面、防御と特防は僅かしか上がっていないため、耐久面には不安がある。
●特殊型にしたのは、ガブリアスとの明確な差別化のため。