オーヴ地方のジムリーダー   作:雪見柚餅子

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2話

 かつてオーヴ地方にはジムはおろかポケモンリーグも存在しなかった。そのためポケモントレーナーの最高峰であるチャンピオンを目指す者は、他の地方へと渡らなくてはならなかった。しかし、全てのトレーナーにそれが出来るわけでは無い。大半のトレーナーはその夢を見ながら、他の地方へと渡るための資金を集めるか、あるいは夢のまま終わらせるかの2択しか無かった。

 そのような現状に不満が出ることは自然だったのだろう。しかしポケモンリーグ創設のためにはリーグ本部の承認が求められ、設置を主導するもの自身が高い実力を持ってなければならない。不満は持っていても、それを行うだけの能力、立場を持つ者は限られている。それ故にオーヴ地方にポケモンリーグが出来ることはないと考えられていた。

 だが5年前、この地方にとあるポケモン研究者が訪れたことで事態は一変する。元々この自然溢れる場所に生息する多種多様なポケモンを研究するべくカントー地方から訪れたその研究者は、その過程で関わった人々と共に生活する中で、一つの違和感に気付いた。多くの地方では、街を歩くだけでもトレーナー同士でポケモンバトルを行う姿が有ったが、ここではその数が少ないと感じたのだ。ポケモンバトルを行っているのは、比較的若い子供だけ。大人達が率先してバトルを行うこと自体がほとんどない。そのことを住民に問うと、帰ってきたのは

 

『バトルしたところで、それを見せる場が無い』

『わざわざ他の街へ行くのもちょっと……』

『強くなったところで、何の意味が有るんだ?』

 

といった答えだった。ポケモンリーグが無いことで、一部の夢を見続けている者以外は、ポケモンバトルをすること自体に興味を失うという事態となっていたのだ。このことを知った研究者は、このままではオーヴ地方全体の衰退に繋がるのでは無いかと考えた。

 そこで研究者は、この事実をリーグ本部へと伝え、自らポケモンリーグの招致を行うことを決めた。無論、ポケモンリーグはそう簡単に設置できるものではない。様々な困難が降りかかり、設置を認めてもらうまでに1年も掛かってしまった。

 だが最大の問題はその後だ。ポケモンリーグには誰もが挑戦できるというわけでは無い。挑戦者にも一定の実力が求められ、それを推し量るための存在であるジムリーダー若しくはそれに準ずる役割が必要となる。基本的には一つの地方につき8つのジムが求められるが、オーヴ地方は他の地方と比べ広い面積が有る。そのため、8つのジムを各地に分散させると、全てを巡ることが難しい。かといって特定の地域に集中させれば、それ以外の地域から不満が出る。このことを踏まえ議論を重ねた結果、以下の事が決定された。

 

1:ジムはポケモンのタイプに合わせ、全体で18ヶ所設置する。

2:挑戦者は任意のジムに挑戦し、ジムバッジを8種類集めた者がポケモンリーグへの挑戦権を有する。

3:全てのジムの中から最も高い実力を持つ四名を四天王として設定し、ポケモンリーグに関わる業務を遂行する。また四天王に選出されたジムリーダーは、代理のジムリーダーを選任し、ジムリーダーとしての業務を委任する。

 

 そして各ジムを任せるべきジムリーダーを決める必要が出てきた。それも一度に18人もだ。実力、知識、人格。それぞれがボーダーラインを満たす各タイプのエキスパート見つけなくてはならない。そのためオーヴ地方全体でジムリーダーのオーディションが行われることとなった。当初の予想では難航すると考えられていたが、実際に開催してみると、多くの人がオーディションに参加した。それは人々が心の奥底でポケモンリーグの設置を、満足できるポケモンバトルが行えることを強く望んでいたことを表していた。

 だが問題が無かったわけでは無い。ジムリーダーはそれぞれのタイプのエキスパートが求められる。だが参加した人々が望むポケモンのタイプには大きな偏りがあった。それもそのはずだ。日ごろから慣れ親しんでるポケモンを手持ちとしているトレーナーの絶対数は多いが、逆にあまり触れあうことのないポケモンは捕獲どころか見たことある者すら少ない。そのため「くさタイプ」や「ひこうタイプ」のジムリーダーを志望した者は多いが、「ほのおタイプ」や「ドラゴンタイプ」などを志望する者は少ない。何よりも絶望的だったのは「ゴーストタイプ」だ。ゴーストタイプはその性質から一般の人からは恐れられることも多い。好んで使う者はごく少数だ。それゆえにゴーストタイプのジムリーダーを志望する者は少なく、その僅かな志望者もジムリーダーとして認められるほどの実力が無いと判断され不合格になっていった。

 このままではポケモンリーグを開くことすら困難かもしれない。最悪、一部のジムリーダーを空席にすることも止む無し。そのような考えが実行委員の中から上がり始めたとき、二人の少女がジムリーダー試験の申込に来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、やっと全員集まったようだし、会議を始めようか」

 

 予定の時間から約10分遅れで始まった会議。そこにはオーヴ地方のジムリーダー、総勢18人と現リーグチャンピオンである一人の男が席に着いていた。

 

「それで今日の議題は何だってんだ? いつも通り周りのことでも話せば良いのか?」

 

 青いバンダナを頭に巻いた荒っぽい口調の男―『オールス』が、司会を務めている老年の男性に質問する。

 

「その前に、一体どうして遅刻したのか聞きたいんですけどね」

 

 そんなオールスに対し、テーブルを挟んで向かい側に座っていた男性―『ハルユキ』が逆に質問する。

 

「いや、ちょっとジムで特訓しててな……思わず熱が入っちまって」

 

 どこか言いづらそうに話す彼の態度に溜息を吐く。そして席に着いている全員に視線を回し、改めて口を開く。

 

「他にも遅刻した人がいますが、私たちはこのオーヴ地方の最初のジムリーダーなんです。その自覚が薄れているんではないですか?」

 

 その言葉に数名のジムリーダーが視線を逸らした。その中にはタキもいる。

 ハルユキの言葉により場が静まり返るが、そんな中一人の老年の男性が笑い声を上げた。

 

「はっはっはっ! 別に良いじゃないか。少しぐらい余裕が無いと息が詰まるぞ?」

「っ、ユコウさん……」

 

 彼の名はユコウ。この会議の司会を務めており、同時にジムリーダー最強の座を関する男でもある。

 

「ハルユキ君。ジムリーダーとしての責任感は大事だ。だがそれに縛られていては、いずれその重圧で潰れてしまうぞ?」

「……そうですね、すみません」

「まあ、だからといって遅刻するのはいかんがな」

 

 高らかに笑いながらこの場を収める。長い人生で培われた器の大きさは、並みの人間では真似できない。だからこそ彼はオーヴ地方のジムリーダーの頂点に立ち、同時にこの場にいる全ての者から慕われているのだ。

 そしてユコウは腕を組み、全員に目配せする。

 

「では、話を戻そう。まずはそれぞれのジム及びリーグの運営状況について……」

 

 会議はいつも通りの流れで進む。ジムの挑戦者の人数や実力、付近の治安、野生のポケモンの動向など各自発表をしていく。

 そして特に問題も無く、普段通りに会議が終わるはずだったが、今回はさらにもう一つ議題が有った。

 

「では最後に皆に聞いてもらいたい話が有る」

 

 腕を組みながら、にやりと笑みを浮かべる。

 

「つい先日、リーグ委員会から発表されたんだが、来月カロス地方との親善試合としてジムリーダー同士のポケモンバトルが行われることになった」

 

 それはこの場に居る全てのジムリーダーの興味を引かれる。

 

「さて参加したいという者は手を挙げてくれ」

 

 その言葉に、タキは真っ先に手を挙げたのだった。




【キャラ紹介】
ハルユキ
●男性/30代前半/カタクラシティジムリーダー
●「唸る雷鳴」
●カタクラシティのジムリーダー。専門はでんきタイプ
●元警察官であり真面目な性格。責任感も強いが、逆に力を抜くというのが苦手。
●一人称は「僕」。
●高いスピードとエレキフィールドを活かした戦術を得意とする。
●名前の由来はユキノシタ科の植物「ハルユキノシタ」。



オールス
●男性/30代後半/リアスシティジムリーダー
●「バトルパイレーツ」
●リアスシティのジムリーダーを務める男性。みずタイプを専門とする。
●頭にバンダナを巻き、まるで海賊のような出で立ちをしている。言葉も荒っぽいが、優しい性格。
●一人称は「オレ」。
●名前の由来はフトモモ科の植物「オールスパイス」。



ユコウ
●男性/60代後半/バンジョウシティジムリーダー
●「ジムリーダーを統べる覇者」
●バンジョウシティのジムリーダーであり、全ジムリーダーの中でもトップの実力を持つ男。扱うのはドラゴンタイプ。
●豪快かつ明るい性格で細かいことはあまり気にしない。
●一人称は「ワシ」。
●ドラゴンタイプが持つ強大な力を十二分に発揮させることが可能。
●名前の由来はミカン科の植物「ユコウ」。
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