オーヴ地方のジムリーダー   作:雪見柚餅子

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17話

「この映像を検証した結果、このポケモンは物理防御能力に非常に優れていることが分かります。現在確認されている技は、アイアンヘッド、ロックブラスト、てっぺきの三種類。このことからタイプはいわかはがね、及びその複合と考えられます。ただしサマヨールのシャドーパンチがあまり効いてなかったことから、エスパーとゴーストタイプは持ち合わせていないことが予測されます」

 

 ポケモンリーグの中にある会議室。そこにはタキに呼ばれたジムリーダー達が集まっていた。議題は『オーヴ地方に出現した謎のポケモンについての調査報告』。彼らを呼んだ張本人であるタキが、スマホロトムによって撮影された動画を用いて、説明を行っている真っ最中だ。

 

「またこのポケモンに関係することとして、『ネオギンガ団』を名乗る組織が存在しています。目的は不明ですが、何らかの計画のためにこのポケモンを捕まえようとし、さらに他のトレーナーに対する暴行行為が確認されており、現在ミヤザワ警察署で身柄を拘束して、聞き取りが行われています」

「これについてはアタシから説明をするわ」

 

 説明を代わるように、眼鏡を掛けた女性―リンドウが椅子から立ち上がった。

 

「ギンガ団というのは、シンオウ地方で活動していた組織よ。表向きは新エネルギーの開発を行っていたとされているんだけど、裏では当時のリーダーと一部のメンバーによって、様々な事件を起こしていたことが確認されてるわ」

「さすが新聞社の編集長。そういう情報には詳しいな」

 

 対面に座っていたヨルガが感心する。

 

「詳細な目的は不明だけど、噂では伝説のポケモンを利用して、新しい世界を創造しようとしていた、なんて言われてるわ」

「新しい世界ねえ……」

 

 噂という眉唾物の情報ではあるが途方もないその目的に、赤髪の青年―ザンカが呆れたように溜息を吐いた。

 

「ただ、その事件については、シンオウリーグのチャンピオンであるシロナ氏と一部のトレーナー達の手によって阻止され、中心人物達は行方不明。現在は残ったメンバーによって組織の改革が行われ、信頼も回復しているようね」

「じゃあ、その行方不明になった人たちがー、関係してるのかなー?」

「それはまだ、なんとも言えないわね」

 

 間延びした口調の女性ジムリーダー―キリの質問に対し、リンドウは静かに首を振る。

 

「実際、この事件はシンオウ地方に限らず他の地方でも知っている人が居るくらい、大きな事件だったわ。だから、この『ネオギンガ団』を名乗る奴らがギンガ団の残党ではなく、名前を借りただけのものとも考えられるのよ」

「ふむ……」

 

 ユコウが考え込む素振りを見せる。例えそのネオギンガ団がかつてのギンガ団との関係が有ろうが無かろうが、このオーヴ地方の平和を脅かす存在には変わりないだろう。

 

「リンドウとハルユキ。そのネオギンガ団についての調査を二人に頼みたいが、良いかな?」

「はい」

「ええ」

 

 ユコウの言葉に二人が頷く。

 

「こちらのポケモンについては、私の方で調査を進めます。一応、カコウさん、オールスさん、タリスさんも、街でこの事実を広めてください」

 

 タキも発見場所近くのジムリーダーへ依頼をする。

 

「今回の事件はオーヴ地方全体に関わるかもしれない。全ジムリーダー一丸となって解決に動くぞ!」

『はい!!』

 

 そしてユコウが放った団結を促す言葉に、全てのジムリーダーが力強く返事をした。

 

 

 

 

 

 その会議から一週間。各地のジムリーダーからの注意喚起によって、謎のポケモンを探そうとするものは、目立って少なくなった。無論、自らの力を過信し、注意を無視して探そうとするものも居たが、そんな彼らの熱意に反して、謎のポケモンの目撃情報は無く、肩を落として大人しく街に帰るほかなかった。

 

「マグマラシ、かえんぐるまだ!」

 

 そんな中、謎のポケモンが発見された場所からほど近い街であるミヤザワシティの東にある道路。そこでは一人の少年が、野生のアーボを相手にバトルをしていた。

 

「マグーッ!!」

 

 炎を纏いながら回転するマグマラシの攻撃を受け、アーボは倒れ伏す。

 

「よし、早くあいつに追いつかないとな!」

「マグッ!」

 

 意気込む少年の傍らで、マグマラシが同意するように鳴く。

 つい先日、二つ目のジムバッジを手に入れた少年。そんな彼が急ぐのには訳が有った。それは、同じ日に旅に出た幼馴染の一人。事ある毎に張り合って来たライバルの存在だ。彼がジムに挑むためにミヤザワシティに訪れたとき、既にそのライバルはバッジを手に入れており、次の街へ進むための準備をしていた最中だった。

 そんな彼の姿に、対抗心を燃やした少年は、三つ目のバッジを手に入れるべく、次の街へと向かっていた。当初は一番近いコジカタシティへと行こうと考えていたが、危険なポケモンが出没したということで、コジカタシティまでの道路が封鎖されており、仕方なく海辺のリアスシティを次の目的地に決めた。

 

「それにしても、野生のポケモンが多いよな……」

 

 少年の呟き通り、先程から頻繁に野生のポケモンが姿を現して来る。草むらを進めばポケモンが出現するのは当たり前だが、それにしては異常とも思えるほどだ。バトルが続き、手持ちのポケモンも何匹かは疲労している。

 

「気のせいか……?」

 

 単純にこの道路ではポケモンが多いというだけかもしれない。そう考えて少年が進むと、不意に草むらがざわざわと揺れだした。また野生のポケモンかと身構える。だが姿を現したのはポケモンでは無かった。

 

「何だ、こいつは!?」

 

 姿を現したのは、白い服に緑色の髪、真っ黒なゴーグルといかにも怪しげな風貌の男だった。

 

「全く、この近くのトレーナーは全員排除したと思ったんだがな……。まあいい。お前もポケモンセンター送りにしてやるよ!」

 

 そう言って男はボールを取り出して、ポケモンを繰り出す。

 

「ズバッ!」

 

 出て来たのはズバット。紫色の体と翼を持つ、こうもりポケモンだ。

 

「行け、ムクバード!」

 

 少年も対抗するようにポケモンを繰り出す。選んだのは、相手と同じく空中戦を得意とする鳥ポケモン。

 

「ズバット、かみつく!」

「ムクバード、でんこうせっか!」

 

 ズバットがムクバードの体に、その鋭い犬歯を突き立てようとするが、素早い動きで躱される。さらに隙だらけとなったズバットの背中にムクバードが回り込むと、勢いよくぶつかって地面に叩き落とす。

 

「追撃のつばさでうつ!」

「ムクバッ!」

 

 ムクバードがさらにその翼でズバットの体を打ち据えると、あっという間にズバットは倒れ伏した。

 

「ちっ、やっぱり弱いな。もっと強いポケモンを手に入れないと……」

 

 負け惜しみのように言う男。その言葉に少年は怒りを覚える。

 

「おい、あんたのポケモンだって必死に戦ってただろ。それなのに、そんな言い方するのか!」

 

 勢いよく捲し立てる少年。しかし男は鼻で笑う。

 

「はんっ。所詮ポケモンなんて、都合のいい道具なんだよ。弱い奴に弱いって言って何が悪い!」

 

 悪びれもしない態度に、少年は拳を握りしめる。

 

「あら、どうしたの?」

 

 だがそこに、バトルの音を聞きつけたのか、男の仲間と思われる似たような姿をした連中が姿を現す。その数は四人。全員が傍らにポケモンを置いている。

 

「ちょうどいい所に来た! お前ら、こいつを倒せ!」

「何、命令してんだよ。っていうか、お前が倒せばいいんじゃね?」

「お……俺は良いんだよ。さっさとしろ!」

「あれあれ~? まさか負けちゃったの?」

「う、うるさいっ! 俺が負けたんじゃない。このズバットが弱かっただけだ!」

 

 少年に負けた男を揶揄う仲間たち。その隙にこの場から逃げられないかと少年は辺りを伺うが、よく見ると目の前に居る連中は、皆こちらに視線を向けている。もし逃げ出そうとすれば、後ろから攻撃されるかもしれない。

 

「まあいい。さっさとこいつを倒すぞ。四人がかりならどうにでもなるだろ」

 

 最も背が高い男が歪んだ笑みを浮かべて言う。1VS4。普通のポケモンバトルならまずありえない状況。時に野生のポケモンの群れとバトルするトレーナーも居るが、今の少年にはそれだけの技量は無い。数の暴力で圧倒されることは簡単に予想できる。かといって、目の前の連中が大人しく逃がしてくれる訳も無いだろう。覚悟を決めてボールを握った。

 

「さあ、行くぜ!」

 

 そして目の前の不審者たちがボールを振りかぶった、その瞬間

 

「バアルクッ!!」

 

 突如として赤い巨体が、不審者たちの背後へと降り立った。




【キャラ紹介】
リンドウ
●女性/30代前半/チトセシティジムリーダー/新聞記者
●「パーフェクトリポーター」
●チトセシティジムのジムリーダーで、普段は新聞の編集長をしている人物。彼女が勤める会社の新聞はオーヴ地方全土で読まれている。
●世話好きでおせっかいを焼くことも多いが、他のジムリーダー達からも慕われている。
●一人称は「アタシ」。
●パートナーはエテボース。
●名前の由来は「リンドウ」。



ザンカ
●男性/20代前半アオバシティジムリーダー
●「燃え滾る熱い魂」
●アオバシティジムのジムリーダーでほのおタイプを扱う。
●ホウエン地方の出身。
●熱い心を持っており、全力の勝負を求めている。
●一人称は「俺」。
●パートナーはバシャーモ。ホウエン地方で手に入れた最初のポケモンである。
●名前の由来はツバキ科の植物「サザンカ」。



キリ
●女性/20代後半/ハグロシティジムリーダー/画家
●「ファンタジードリーマー」
●ハグロシティのジムリーダー。フェアリータイプを得意とする。
●画家でもあり、普段は様々な絵を書いている。
●間延びした口調が特徴。
●一人称は「わたし」。
●パートナーはクチート。
●名前の由来はシソ目の植物「キリ」。



タリス
●女性/30代前半/コジカタシティジムリーダー
●「デッドリーエレガント」
●ハッコウシティのジムリーダー。どくタイプを得意とする。
●富豪の家系でいつもドレスを身に纏っているが、本人曰くこれはキャラ付けのためである。一番好きな格好は、ジーパンにTシャツというラフなもの。
●一人称は「わたし」。
●パートナーはドクロッグ。
●名前の由来はオオバコ科の植物「ジギタリス」。
●今回は名前だけの登場。



カコウ
●女性/60代後半/ミヤザワシティジムリーダー/花屋
●「今なお美しく咲く花」
●ゴシキシティのジムリーダー。くさタイプを扱う。
●四天王のユコウとは幼馴染。他のジムリーダーからも慕われている。
●一人称は「わたし」。
●パートナーはラフレシア。
●名前の由来はリュウゼツラン亜科の植物「ゲッカコウ」。
●本話で少年が攻略したと言ったジムリーダーはこの方。

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