カロス地方。主に3つの地区に分かれ、それぞれ固有のポケモンが存在する。長い歴史を持ち、独自の文化を持っているが、最大の特徴は『メガシンカ』だろう。
メガシンカは主にカロス地方とホウエン地方の2つで発生している現象である。今でこそ時代の流れによって交易が盛んとなり、他の地方でもメガシンカを扱うトレーナーは増加している。しかし何故これまでメガシンカが距離的に遠く離れている2つの地方でのみ扱われていたのかは、未だに謎に包まれている。
そんなカロス地方にある道路。そこにタキの姿は有った。
「あれがヌメラ……」
視線の先にいるポケモンを観察しながら、誰に言うわけでも無く呟く。
何故彼女がここにいるのか、それは朝の出来事から話は始まる。
彼女は2日後に控えたカロス・オーヴ交流大会というイベントで行われるジムリーダー交流戦に参加するべく、他の2人のジムリーダーと共にカロス地方のミアレシティを訪れていた。数日前から続いていた入念な打ち合わせもやっと終え、本番まで休みを得たのだが、その顔は曇っていた。その理由はただ一つ。本来はこの地方でポケモンを研究しているプラターヌ博士に会おうと思っていたのだが、当の博士が今回の大会の準備に忙しく、予定が合わなかったのだ。折角、この間アカマツ博士から渡されたメガストーンについても相談しようと思っていたのだが、それが出来ないということで、予定がすっかり空いてしまった。
「よし、それなら……」
それならオーヴ地方にはいないポケモンでも見つけよう。そう考えてホテルから出ようとした時、
「おい待て」
「ぐえっ」
首元を掴まれガマガルのような声が出る。首を抑えながら振り向くと、そこにいたのは同じオーヴ地方のジムリーダーであるヨルガが居た。
「お前、何を勝手に出ていこうとしてんだ?」
そう言って顔を近づける。目つきが悪いことも有って威圧感が強いが、タキは一切怯むことが無い。
「別に、ただポケモンの観察に行くだけだけど……」
「俺様はハルユキから頼まれてるんだよ。お前を一人にするなってな」
その言葉に目を逸らす。いつも研究や観察で会議に遅刻したり約束をすっぽかす手前、そのようなことを言われても仕方ないが、まさか監視付きとは……。
「分かるか? 今回はこっちの人たちも楽しみにしてるイベントなんだ。それを失敗させないためにも、俺様達には重い責任を持たなくちゃならねんだよ」
タキは真面目な表情を見せる彼の顔をじっと見つめると、一言
「ねえ、わざわざキャラ作らずに素でしゃべれば」
「……」
その言葉にヨルガは思わず耳が赤くなる。このどこか粗暴な話し方は、彼がジムリーダーになってからのキャラ付けである。本人曰く「あくタイプ使いなんだからこっちの方が良いだろ」とのことだが、元々の気質はどちらかというと真面目な方であり、会議などでは30分前に集合することは当たり前、地元でもごみ拾いのボランティアに積極的に参加するなど、どこから見ても良い人である。
「……いや、話を変えるんじゃねえよ。とにかく、お前が何か勝手なことするのは困るんだよ。せめて目が届く範囲内に居ろ」
「私は子供じゃないんですが」
「聞き分けのある子どもの方がよっぽど良かったよ!」
今は時間の余裕が有るが、何かのトラブルで呼ばれるかも分からない。その時、連絡が取れないなんてことになったら困るのだ。
ただでさえマイペースな彼女のことだ。調査の名目でどこに行くか分かったものではない。
「ねえ、それなら一緒にクノエシティに行きませんか?」
「?」
そこにもう一人姿を現す。
「マキノ、起きてたんだ」
「ええ、おはよう」
お淑やかな雰囲気を持つ彼女の名はマキノ。2人と同じオーヴ地方のジムリーダーである。
「近くにクノエシティっていう街が有るんですけど、その街のジムリーダーが有数のデザイナーなんです。色んな服をデザインしてるから一度見てみたくて」
「ふーん……」
タキは生返事を返す。彼女にとって服にはそこまでこだわりは無く、基本的に安くてシンプルな服装しか着ない。ジムリーダーとしての衣装も、「あまり派手じゃないもので」の一言だけ伝え、後はデザイナーに全て放り投げたほどだ。
マキノもそこまで服装にお金は使わないが、それはそれとしてジムリーダーが作った服に興味が有るのだろう。折角カロスに来たのだからと観光目的で行きたいらしい。
タキもスマホロトムを取り出して、何かを調べだす。
「……近くに固有のポケモンもいるみたい。それなら私は街の近くで調査することにする」
「じゃあ、俺はこいつに付いて行くから、11時になったら一旦クノエシティのポケモンセンターに集合で良いか?」
「分かりました。それじゃあ途中まで一緒に行きましょう」
今日の予定を決め、3人は共にホテルを出た。
そしてタキはこの地域でしか見れないポケモンの観察と捕獲を行っていた。
「よし、ゲット。これで一通り揃ったかな」
ヌメラを捕らえたボールを持ちながら満足げな笑みを浮かべる。
ここに来てから捕まえたのは、ヌメラとカブルモ、チョボマキの3種類。これらはいずれもオーヴ地方には生息していないため、タキの好奇心は強く刺激される。この3種類のポケモンはそれぞれ進化の方法が特殊であるとも聞いているため、その瞬間も見てみたい。
「おい、そろそろ時間だぞ」
にやけ顔を隠し切れないタキにヨルガが声を掛ける。
「え、もうそんな時間?」
「ああ。さっさとポケモンセンターに行くぞ」
「出来ればもう1匹ヌメラを捕まえたかったんだけど、まあ良いよ」
仕方なくといった様子で了承する。
「何でもう1匹捕まえたいんだよ?」
「いやさ、ユコウさんにプレゼントしようかなって」
オーヴ地方には居ないドラゴンタイプだ。お土産としては十分だろう。
「まあ、それなら昼食を食べてからで良いだろ。今のところ特に呼び出しも無いしな」
「まあ、そうだね」
そんな他愛の無い話をしながら、2人はそろってクノエシティへと入る。
だがその時、
「誰か、そいつを捕まえてっ!!」
突如として響き渡る女性の叫び声。何事かと2人が振り向くと、黒い影が脇を走り去っていく。
「あれは確か……」
「一体何が有ったんだっ!?」
見覚えがあるポケモンの後ろ姿にタキが気を取られている間に、ヨルガが女性に近寄り、事情を聞く。
「突然、あのグラエナが私の荷物を奪っていったのっ!!」
「何だと!」
野生のポケモンが人を襲うことは決して珍しいことではないが、まさか街に入り込んでまでそのような行動をするとは……。
「あのグラエナ、最近有名になった奴じゃないか?」
「ああ。ここ数日、人の物を奪ってやがる泥棒だ」
「今まで街中に入り込むことなんて無かったのに……」
「こういう時、マーシュさんが居てくれたら……」
さらに近くにいた住民達が集まり、口々に話し出す。
「なあタキ、野生のポケモンがいきなりこんなことをしだすものなのか?」
ヨルガの疑問に対し、首を横に振って答える。通常、ポケモンにはそれぞれ縄張りが有り、それを侵さない限り人間に攻撃するということは無い。だからこそ野生のポケモンと戦う意思のないトレーナーは草むらや洞窟を避けるのだ。
だが、今回はグラエナの方から人間が大勢いるところに侵入している。これは通常有り得ない。
「2人とも、どうしたんですか?」
騒ぎを聞きつけたのか、マキノも姿を見せる。ヨルガが彼女に事情を説明している間、タキは考え込んでいた。
(そもそもグラエナは普通群れで暮らすポケモンのはず。それが1頭だけで街中に現れるなんて……もしかしたら……)
「とりあえず、あいつを追うぞ! さすがにあれを見過ごすわけにはいかねえ!」
異なる地方とはいえ、自分達はジムリーダー。ポケモンによる事件への対処も仕事の内だ。そんな意気込みからヨルガはグラエナを追うことを決める。そんな彼に2人も同意する。
「そうだね」
「それなら私は上空から追います」
マキノは3つのボールを取り出して投げる。そこから繰り出されたのは3種類の鳥ポケモン。ヨルノズク、ウォーグル、ネイティオだ。
「皆、お願いね」
大切な仲間に声を掛け、マキノはウォーグルの背に乗る。ウォーグルは元々自動車を掴んで飛ぶことが可能なほどの力を持っている。女性一人を乗せて空を飛ぶことなど造作もない。
「フワライド、貴方もお願い」
タキも同様にポケモンを繰り出す。まるで気球のような姿をしたフワライドも、見た目以上にスピードはあるポケモンだ。
「それじゃあ、行くぞ!」
ヨルガの掛け声と同時に3人はそれぞれ動く。だがその間にもタキは思考し続けていた。
(グラエナが単独行動する理由……。幾つか思いつくけど恐らく……)
予想が当たっていれば、急がなければならない。
まっすぐ前を見つめながら、タキは走り出した。
【キャラ紹介】
ヨルガ
●男性/20代前半/イナワシティジムリーダー
●「ブラックワイルド」
●イナワシティのジムリーダーであり、あくタイプを専門とする。
●ラフな格好を好んでおり、誰にでもぶっきらぼうな態度を取るなど不良っぽい雰囲気が特徴。ただしこれはキャラ付けであり、本人曰く「あくタイプ使いらしくした」ものである。実際は真面目で優しく、趣味はボランティアなど、とことん良い人である。
●一人称は「俺様」。
●名前の由来はヒルガオ科の植物「ヨルガオ」。
マキノ
●女性/20代後半/ケイジョウシティジムリーダー
●「大空に夢見る淑女」
●お淑やかな性格のケイジョウシティジムリーダー。ひこうタイプを操る。
●メガネを掛けており、誰にでも敬語で接する。
●幼いころに足を怪我しており、今も走ると痛む。普通に歩く分には問題ない。
●一人称は「私」。
●名前の由来はムラサキ科の植物「ミヤマムラサキ」の学名から。
【メガシンカ紹介】
マンタイン
●みず・ひこう ●かそく
●種族値:85(0)-40(0)-80(10)-135(55)-150(10)-95(25)-585(100)
●特攻と素早さが大きく上昇しており、特に特攻はメガカメックスと同数値となっている。また特防もドヒドイデを超え、伝説・幻を除いたみずタイプの中ではトップの数値となっている。
●攻撃の値は据え置き。また特防は高くても、4倍弱点のでんき技を食らえば、普通に飛ぶ。
●特性はかそくに変化し、特殊アタッカーとしての運用が可能に。
●見た目のイメージは、ヒレが鋭角になり、ステルス機のような形状に変化した感じ。