オーヴ地方のジムリーダー   作:雪見柚餅子

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5話

「待ちやがれっ!」

 

 ヨルガの叫びが響く。

 あれから30分。森へと逃げ込んだグラエナを3人は追い続けていた。地上からはタキとヨルガが、空からはマキノが走るグラエナを捉え続けている。

 

「グル……」

 

 グラエナは走りながらも、時折後ろを確認する。それはまるで付いて来いとでも言うように。

 その態度からタキの考えは確信に近づいていく。

 

『これは……』

 

 スマホロトムを使って連絡を取っていたマキノの声が上擦る。

 

「おい、どうしたんだ?」

『多分、そろそろそちらからも見えるはずです……』

「何?」

 

 ヨルガはその言葉に訝しむ。だがすぐに彼も目を疑う光景に絶句する。

 

「おい……まじかよ……」

 

 辿り着いたのは、木々が開けた空間。その中央には焦げた巨木が根元から折れ倒れていた。

 

「多分、落雷によるものだろうね……でもこれほどの大木が折れるとは……」

「……っておい、それよりグラエナはっ!?」

 

 あまりの光景に目を奪われていたものの、すぐにヨルガは周囲を見渡しその姿を追う。

 幸い、グラエナは離れておらず、ちょうど折れた木の根元でこちらをじっと見つめている。そして咥えていた荷物を地面に落とす。

 

「やっと観念したってことか?」

「いや、多分違うよ」

 

 よく見ると、倒れた木の陰にもう2頭のグラエナの姿が有る。警戒を崩さない態度を取り続けているが、タキ達を襲うことはせず、荷物を盗んだ個体とアイコンタクトを交わしている。

 

「やっぱり、予想が当たったかもしれない」

「おい、どういうことだよ」

「2人とも、何かありました?」

 

 マキノが空からポケモンを引き連れて降りて来たところを確認して、説明を始める。

 

「あのグラエナは物を盗みたかったんじゃない。人を呼ぶ為に荷物を盗んだんだよ」

「は? そりゃ何のために?」

「分からない。ただ、実際に感じた方が早いと思う」

 

 そう言ってタキは腰につけていたボールを取り出し、自身の相棒を解き放つ。

 

「マージィ?」

「ムウマージ。彼らのイメージを見せて」

 

 ボールから姿を見せたムウマージはその指示に頷くと、瞳を閉じて集中する。すると、タキ達の頭に直接何かのイメージが映る。それはグラエナの記憶だった。

 

 

 

 とある大雨の日。グラエナの群れは巨木の近くにある洞穴に潜り、雨を凌いでいた。この地域は雨が降りやすく、それゆえこのような強い雨の日には洞窟で止むのを待つのが群れの習慣のようになっていた。

 だが、その日は違った。何かが叫ぶような声。何事かと1頭のグラエナが洞窟から顔を出すと、黒い雲の中に大きな鳥のような影が見えた。

 

『――――――――――ッ!!!!!!』

 

 その瞬間、目の前にあった巨木に大きな雷が落ちる。その一撃は一瞬にして木の幹を裂き、内部を走った電流によって燃え始める。そしてそのダメージに巨木は耐えることが出来ず、根本からメリメリと倒れ始めた。

 不運だったのは、それがグラエナ達が潜んでいた洞窟に向かって倒れたということだろう。

 入り口で見ていた個体が、中に居た仲間へ叫ぶ。それを聞いた仲間が一斉に出口へと走るが、それよりも木が倒れる方が早かった。そのあまりにも大きな衝撃は、洞窟の壁を崩し、多くの仲間をそのまま生き埋めにしてしまった。何とか逃れることが出来たのは警戒の叫びを上げた個体をはじめとする3頭のみ。それ以外は皆、洞窟の中へと取り残されてしまったのだ。

 

「グルッ!!」

 

 グラエナ達はすぐさま洞窟が有った方向に視線を向ける。そこには僅かながら小さな穴が有る。その穴を掘り起こして助けられないかと試してみるものの、地面は異様に硬く、いくら試してもその穴は大きくならない。

 

「クゥーン……」

 

 中にいる仲間が小さな声を挙げる。穴から僅かな食糧は送れるかもしれないが、ずっとそれを続けていくわけにもいかない。このままでは仲間の命が危ない。そう考えたとき、1頭のグラエナがある案を思いつく。もしかしたら、自分が危険に晒されるかもしれない。しかし、仲間の助けるためであれば、躊躇は無かった。

 そしてグラエナは近くにある人間が多く存在する場所、クノエシティへと向かったのだ。

 

 

 

「なるほど……取り残された仲間を助けるために、わざと荷物を盗んで人を呼んだってこと……」

「いやおい、今の何だよ?」

 

 頭に流れ込んだビジョンにヨルガとマキノの2人は狼狽える。

 

「今のはムウマージが持つ能力を利用したものだよ」

 

 ゴーストタイプのポケモンの中には、幻覚を見せることが出来るものがいる。これについてタキが調べたところ、ポケモンは特殊なエネルギーを発し、直接人やポケモンの脳へ干渉することによって幻覚を見せるという能力が有ったことが確認された。この能力を発見したタキは、それをテレパシーのように思考を他者に伝達することに使えるのではないかと考え、ムウマージと共に特訓した。その成果として、ムウマージを中継点として、特定の人やポケモンが持つ記憶やイメージを、別の対象へと送信するという技術の開発に成功したのだ。

 

「とりあえず、やることは決まったね」

 

 タキはゆっくりとグラエナ達に視線を向ける。

 

「貴方達の仲間を助ければ、もう泥棒はしないね?」

 

 その質問に荷物を盗んでいた個体がゆっくりと頷く。それを確認して、タキは洞窟が有ったと思われる場所へと近づく。その行為に木の陰に居た2頭が小さな唸り声を上げるが、タキの質問に答えた個体が一鳴きすると警戒を解く。

 

「……私たちも行きましょう」

「ああ」

 

 ヨルガとマキノもタキに付いて行く。そしてグラエナのイメージから伝えれられた場所へ行くと、そこには小さな穴が有り、中から微かな声が聞こえる。

 

「……もしかしたら中に居る子は衰弱してるかもしれない。ちょっとポケモンセンターに連絡してもらえる?」

「あ、はい。分かりました」

 

 マキノは手に持っていたスマホロトムで電話を掛ける。

 

「ゲンガー、オーロット、出てきて」

 

 さらにタキはもう2つのボールを取り出して、手持ちを呼び出す。

 

「ゲンガーはこの穴から向こう側に行ってくれる? もし崩れそうになったら、サイコキネシスで押さえてほしい。オーロットはやどりぎのタネで補強して」

「ゲンガッ!」

「オーロッ!」

 

 2匹はその指示に敬礼で返す。そしてゲンガーは僅か十数センチほどの穴からするすると液体のように入り込んでいった。

 

「後はこの土砂をどかすだけだね……」

「それなら俺に任せろ。頼んだぞお前ら!」

 

 そう言ってヨルガがボールを投げる。出てきたのは3匹のポケモン。全身に刃を付けた人型のキリキザン、四足歩行の漆黒の体が特徴のブラッキー、赤い甲殻と怪力を持つシザリガーだ。

 

「出来る限り慎重に退かさないとな」

「あ、ポケモンセンターと連絡が取れました。ただ、森の中なので来るのに時間が掛かるそうですので、案内としてヨルノズクを向かわせてます」

「分かった。それじゃあ、急ぐよ」

 

 タキの言葉で3人とポケモン達が動き出す。

 タキ達トレーナーと強いパワーを持つヨルガのポケモン達が主体となって少しずつ土砂を崩していき、マキノのポケモンとムウマージ、フワライドが土砂を遠くへと運ぶ。崩れそうなときにはゲンガーとオーロットがそれぞれ食い止める。グラエナも協力して作業に取り掛かった。

 そんな作業をおよそ20分ほど続けると、徐々に穴が大きくなり、洞窟の中に光が差し込んでいく。

 

「中の様子はどうだ?」

「ちょっと暗いけど、なんとか……」

 

 タキが覗き込むと、そこには倒れたグラエナと心配そうな表情を浮かべるポチエナの姿が有る。巨木が倒れたとき逃げられなかった原因の一つに、このポチエナを心配して留まったものが居たのかもしれない。だが、それは今考えることではない。

 

「マキノ! そっちネイティオってねがいごと覚えてる?」

「え、はい!」

「このグラエナ達を少しでも回復してあげて」

「分かりました。ネイティオお願いします」

 

 マキノが指示を出すと、ネイティオは全身から淡い光を発し、それがゆっくりと空へ昇っていく。ねがいごとによる回復には若干の時間が掛かる。それ間にもタキ達は作業を黙々と続けていった。

 

 

 

 

 

「お待たせしました! 救助対象のポケモンは……っ!」

 

 さらにそれから10分後。ヨルノズクに連れられて来たポケモンセンターの職員達。その目には掘り起こされた洞窟と、倒れているグラエナ達。そして彼らを介抱するタキ達の姿が有った。

 

「あ、こっちのグラエナ達をお願いします!」

 

 心配そうにグラエナに寄り添うポチエナを撫でながら、マキノは優しく微笑みかける。

 

「大丈夫。すぐに良くなりますからね」

 

 ポケモンセンターの職員によってその場で手当てされていく。衰弱が激しい個体は一時的に捕獲され、しばらくセンター内で預けられるだろう。

 

「今回は通報及び野生ポケモンの救助にご協力いただきありがとうございます!」

 

 一通り手当てを終えると、職員の一人がタキ達にお礼の言葉を述べる。

 

「いえ、別にお礼を言われるようなことはしてませんよ」

「そうだな。ただ放っておけないから手を出しただけだし」

「……と言うか、お腹減ったし食事に行かない?」

 

 照れくさそうに答えるマキノとヨルガを尻目に、マイペースに空腹を告げるタキ。その言葉に思わず2人も笑みを浮かべ応じる。

 

「そうだな。昼食もまだだったし、これからどこかで食いに行くか」

「それじゃあ、何を食べに行きましょう?」

「別にどこでも……軽く食べられるのが良いかな」

 

 そんなことを言い合いながらも、ちらりと森に残るグラエナの群れを見ると、彼らは静かにこちらを見つめる。その顔にはどことなく感謝しているかのような雰囲気を感じる。

 

「そういえば、盗まれた荷物も返してあげないと」

「それなら、ポケモンセンターの方で回収して、後日持ち主に返却するそうですよ」

「大丈夫か? 今日盗まれたやつはともかく……」

 

 グラエナが盗んだ荷物はほとんどが泥で汚れてしまっている。盗まれた人には災難だったとしか言いようがない。

 

「それじゃあ行こうぜ」

「うん」

「はい」

 

 後のことはポケモンセンターの職員に任せ、3人はミアレシティに戻ることとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、一体どうしたん?」

「あ、ジムリーダー! 実は―――」

「へえ。そんなことが……その3人、中々良いトレーナーみたいやね。一度会ってみたいわあ」




京言葉苦手です。正直知らないので、ほぼ雰囲気でしか書いてません。
間違ってたら指摘ください。

【メガシンカ紹介】
ラフレシア
●くさ・どく ●グラスメイカ―
●種族値:75(0)-80(0)-110(25)-145(35)-115(25)-65(15)-590(100)
●とくこうが大きく上昇し、メガジュカインと同数値に変化。また耐久面も上昇している。
●素早さも上昇しているが早いわけでは無い。
●特性はグラスメイカ―となった。これはラフレシアが寄生植物→周囲の草木から養分を吸い取るというイメージから。
●見た目のイメージは「スマトラオオコンニャク」
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