マーシュの口調について、間違っている点などが有ればご指摘ください。
「なるほどね……」
呟くタキの視線の先では、テレビがヨルノズクとニンフィアのバトルを映し出している。互いに技を繰り出しているが、ヨルノズクの方が僅かながらスピードでは勝っており、さらに鳥ポケモン故に常にニンフィアの頭上を取っているため、一見ヨルノズクの方が有利に見えるかもしれない。
だが実際は真逆だとタキは感じ取った。その証拠として、マーシュの顔からは焦りは感じられず、むしろ楽しんでいるかのような表情が見て取れる。
『ニンフィア、でんこうせっか!』
マーシュの言葉に従い、ニンフィアは一瞬にしてヨルノズクとの距離を縮める。それを見てマキノもヨルノズクに上昇の指示を出すが、その前にニンフィアは猛スピードのまま跳躍し、ヨルノズクの真正面へと並ぶ。
『今や』
その瞬間、ニンフィアの触角がヨルノズクを包み込むかのように広がり、そのまま絡め捕ってしまう。
『ヨルノズク!?』
さほど強く縛られてるわけでは無いが、自由な動きは出来ず、勝っていたスピードも封じられる。
「……なるほど、あんな戦術があるんだ」
静かに眺め続けるタキ。
マーシュは若くしてカロスのジムリーダーを務めあげる実力を持っている。そんな人物を頭上を取られた程度で攻略できるのであれば、誰も彼女をジムリーダーとは認めないだろう。その肩書は決して飾りでは無いのだ。
『ムーンフォース!』
まさに的と化したヨルノズクに、至近距離からニンフィアの容赦のない攻撃が襲い掛かろうとする。並みのトレーナーであれば、何もできずにそのままダメージを受けてしまうだろう。
だが、マキノは違った。
『ヨルノズク、さわぐ!』
指示を受け取ったヨルノズクが嘴を大きく開き、大音量の叫びを上げた。
『フィアッ!?』
「ハネッ!?」
会場内一杯に響き渡るその叫びは、画面越しでもハネッコが驚いてしまうほどの威力だ。至近距離にいたニンフィアが受けるダメージは、それこそ想像を超えるだろう。
ニンフィアはあまりのことに、攻撃態勢を解きその場に踏ん張り続けることしか出来ない。
『ニンフィア、一旦離れるんや!』
その様子を見て、マーシュは一度体制を整えるべく撤退の指示を下す。しかし、ニンフィアにその指示は届かない。
『おーっと、マーシュが何かを指示しているが、ニンフィアに変化は全く見られません!! これは一体どういうことでしょうっ!?』
『あれほどの叫びを間近で聞いているんだ。今のニンフィアには、文字通り彼女の指示が耳に入っていないのだろう』
『動きを封じられたという状況を逆に利用し、技が避けられない状態に変える。まさに逆転の発想ですね』
ヨルノズクの音波によって、ニンフィアの体には少しずつダメージが蓄積し、そのまま耐え切れずに吹き飛ばされていく。それと同時にヨルノズクも嘴を閉じ、フィールドを圧倒する鳴き声も止んだ。
『なかなかやりおすな。久しぶりに楽しめそうやわ』
『お褒め頂き光栄ですね。でも、まだまだここからです!』
互いにまだ体力は残っている。互いににらみ合いながら、次の指示を待つ。
そして最初に動いたのはマキノだった。
『かげぶんしん!』
『ヨノッ!』
ヨルノズクの姿が一瞬にして、ニンフィアを囲むように増えていく。それはまるで檻のようだ。
『まさかあれほどの数の分身を一瞬で作り出すとはっ!』
司会も驚きの声を挙げる。普通のトレーナーでは真似できないその技の速度に誰もが目を奪われる。
しかしマーシュはいたって冷静に目を光らせる。
『それなら、こうしましょか。じこあんじ』
『フィア!』
ニンフィアも指示に応えるように一鳴きすると、全身に力を溜める。するとその体から、先程のヨルノズク同様に分身が生まれ始めるでは無いか。
『じこあんじは相手の能力の変化をコピーする技。見事にかげぶんしんをコピーして見せたな』
技をコピーされたマキノは歯噛みするが、それを利用される前に攻撃の指示を下す。
『もう一度、さわぐ!』
先程同様、空気を目一杯取り込み、叫ぶ準備を整える。だが、それを許すマーシュでは無かった。
『させまへん。でんこうせっか!』
ニンフィアは多数の分身と共に身構えたヨルノズクに対して猛スピードで向かっていく。互いの姿がぶつかり合い、一つまた一つと分身が消えていく。そして最後に本体が残るのは自明の理だ。
『ヨノーッ!?』
ヨルノズクの技が発動するその直前にニンフィアの一撃が決まり、大きく後ろへと吹き飛ばされていく。
『今や、ムーンフォース!』
そしてその隙を狙って放たれたエネルギー弾を躱すことも出来ず、ヨルノズクはまともにダメージを受けてしまう。
『大丈夫!?』
『……ヨノッ』
マキノが声を掛けると、ヨルノズクは立ち上がり真っすぐ前を見つめる。その目には未だに闘志が残っている。
『ヨルノズク、まだ健在です。勝負はまだ分からないぞ!!』
ヨルノズクはゆっくりと翼をはためかせ浮上する。
『それではお返しさせてもらいます』
その言葉にマーシュは疑問を浮かべる。だがその意味をすぐに理解する。
『ムーンフォース!』
このバトルにおいて何度も聞き見ることとなった技。だがそれを指示したのはマーシュでは無くマキノであった。
『ヨノッ!』
まさか全く同じ技を返されるとは予想しておらず、ニンフィアは一瞬動きが止まる。
『ニンフィア、躱すんや!』
しかしマーシュの声を聞いて我に返ったニンフィアはすぐにその場から飛び去り、紙一重でムーンフォースを躱すことに成功する。
『エアスラッシュ!』
さらにヨルノズクが追撃を行うが、今度はニンフィアが放つムーンフォースで迎撃される。
再び膠着状態になるかと思われたが、マーシュがそれを否定した。
『随分、面白いバトルやね……本当ならもっと楽しみたいところやけど、そろそろ決着つけましょか』
何か来る。そう感じ取ってマキノとヨルノズクは身構える。
『では、いきましょか。とっておき!』
その言葉と共にニンフィアの全身が金色に光り輝く。そして全速力でヨルノズクの下へ駆け出した。
『ヨルノズク、避けて!』
指示に従って上空へと飛び立とうとするが、目にも止まらぬスピードへと一瞬で加速したニンフィアから逃れることは出来ない。
『フィア―ッ!!』
その突撃を胴体へともろに受けたヨルノズクは、その勢いのままスタジアムの壁へと叩きつけられる。
『ヨ、ノ……』
倒れ伏すヨルノズク。誰がどう見ても、これ以上の戦闘続行は不可能だろう。
『そこまで、ヨルノズク戦闘不能。よってニンフィアの勝ち!』
審判の宣言の後、スタジアム全体が一瞬静まり返るがすぐに歓声が沸き立つ。それだけハイレベルなバトルだったということでもある。
『いやー、一試合目から目が離せない素晴らしいバトルでしたね』
『ああ。どちらが勝ってもおかしくは無かっただろう』
司会とアカマツ博士の会話をスピーカー越しに聞きながら、タキはこの試合について考えていた。
確かにマキノとヨルノズクも十分な実力は有った。勝敗の結果を分けるものが有るとするなら、純粋な経験の差だと考えられる。マーシュもまだジムリーダーとしての経験は浅い部類だ。しかしまだ出来たばかりのオーヴリーグと比べると、カロスリーグの方が挑戦者は多い。それにオーヴリーグでは攻略するジムの種類を挑戦者自身が選ぶことが出来るという特性上、一つ一つのジムで行われるバトルは比較的少ない。元々、ジムリーダーの負担軽減のためのシステムだがその弊害でもある。同じ時間で行われるバトルの回数ではマーシュの方が多い。つまり、それだけ経験の密度が大きいということでもある。だからこそマーシュはほとんどの場面で冷静に対応してい見せていた。それこそが、僅かな差で今回の勝負を決定づけたのかもしれない。
「さて……」
確か次の試合はヨルガ。そしてその次が自分だ。もうそろそろ戻らなくてはならないのだが……。
膝に乗るハネッコに視線を移す。いつになったら、この子のトレーナーは来るのだろうか。そう思っていると、
「あ、ハネッコ!」
「ハネ?」
どこからか聞こえる声にハネッコが反応する。振り向くと、迷子センターの扉に幼い少女と父親らしき男性が居るでは無いか。
「ハネッ」
ハネッコはタキの膝から飛び降りると、少女の胸元へと飛び込んだ。
「ハネッコ、どこ行ってたの? 心配したんだから!」
「ハネ~」
少女もハネッコも涙ぐみながら抱きしめあう。
タキはそんな彼女らに近づき、ゆっくりと頭を撫でる。
「見つかって良かったね。もう目を離しちゃ駄目だよ」
「うん!」
大きく頷く少女に微笑み、タキはその場から離れようとした。だが、そこで少女の父親が声を掛ける。
「すみません、先程職員の方から話を聞きました。あなたがハネッコを見つけてくださったんですよね?」
「まあ、はい」
「本当にありがとうございます! あのハネッコは、娘にとって初めてのポケモンで……」
父親の声色からも、あのハネッコがどれだけ大事にされているかが分かる。
「本当に見つかって良かったですね。それでは私はそろそろこの辺で……」
「そうですか……では改めてお礼を。本当にありがとうございました」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「ハネ―ッ!」
頭を下げる彼らに少しだけ手を振ると、急いで控室へと向かうこととした。
【メガシンカ紹介】
ネンドール
●じめん・エスパー ●ハードロック
●種族値:60(0)-70(0)-145(40)-130(60)-160(40)-35(-40)-600(100)
●ふゆうが無くなったことで、じめん技が等倍となったが、特性のハードロックによって全体的な耐性は上がっている。
●すばやさが大きく低下している反面、ぼうぎょ・とくこう・とくぼうが大きく上昇。とくぼうに関しては、メガラティアスを超えている。
●見た目のイメージとしては頭部の直径が伸び、周囲に土塊が浮遊している。